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医療機器: カテーテル

被告:輸入販売業者     原告:患者

事故概要
脳動静脈奇形の手術中の患者に使用されたカテーテルが脳血管内で破裂し,患者に脳梗塞による後遺障害が生じた。

原告側主張
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被告側抗弁
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判決の結論
カテーテルに強度不足の欠陥があったとして,カテーテルの輸入販売会社の製造物責任が肯定された。

裁判所
【裁判所】東京地方裁判所

その他
主 文  一 被告小林製薬株式会社は、原告に対し、一億一六九二万八八七三円及びこれに対する平成九年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。  二 原告の被告小林製薬株式会社に対するその余の請求及び被告学校法人聖マリアンナ医科大学に対する請求を棄却する。  三 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余は被告小林製薬株式会社の負担とする。  四 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 請求  被告らは、各自、原告に対し、一億五八三四万八六九三円及び内金一億四三九四万三三五八円に対する平成九年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 一 本件は、原告の脳動静脈奇形(欧文では「arteriovenous malformation」。以下「AVM」という。)について、被告学校法人聖マリアンナ医科大学(以下「被告大学」という。)所属の医師乙山梅夫(以下「乙山医師」という。)が、被告小林製薬株式会社(以下「被告会社」という。)の輸入及び販売に係るカテーテルを用いて塞栓手術をした際、同カテーテルが原告の脳血管内で破裂したため、原告に脳梗塞による後遺障害が生じたとして、原告が、被告会社に対しては製造物責任(製造物責任法三条)に基づき、被告大学に対しては使用者責任(民法七一五条)に基づき、それぞれ損害賠償を請求する事案である。 二 前提事実(争いのない事実並びに《証拠略》により容易に認定できる事実) (1) 当事者  原告は、昭和三六年一一月一一日生まれの男性である。  被告会社は、医薬品等の製造、販売、輸出入等を業とする会社である。  被告大学は、医師養成等のための教育事業を目的とする学校法人であり、その目的事業の一環として、《住所略》所在の聖マリアンナ医科大学東横病院(以下「被告病院」という。)を設置運営している。  なお、乙山医師は、原告に対する後記塞栓手術当時、被告大学に雇用され、被告病院において医療行為に従事していた医師である。 (2) 手術に至る診療の経過 ア 原告は、平成九年一〇月七日、出張勤務中に突然気を失ったことから、同月一八日から同月二九日までの間、被告大学の運営する聖マリアンナ医科大学病院に入院し、そこでの検査結果により、AVMであるとの確定診断を受けた。そして、平成九年一一月一二日には、被告病院にて、同AVMは長径三七ミリメートルであることが確認された。 イ 原告は、平成九年一二月一五日、被告病院に入院し、翌一六日、原告の治療を担当した乙山医師から、AVMの治療方法に関する説明を受け、カテーテルを用いた塞栓手術を受けることとなった(以下、原告が受けたこの手術を「本件手術」という。)。 (3) 本件手術の内容と使用カテーテル ア 本件手術は、大腿動脈から内頚動脈まで基幹となるカテーテル(親カテーテル)を挿入し、内頭動脈(首筋血管)から患部までは、この親カテーテル内を通った超極細の子カテーテル(マイクロカテーテル)のみを挿入した上、子カテーテルを通してAVMに塞栓物質を注入し、AVMを縮小させる脳血管内手術(塞栓手術)であった。 イ 本件手術において使用された子カテーテル(以下「本件カテーテル」という。)は、米国のメドトロニツクマイクロインターべンショナルシステムズ社(以下「MMIS社」という。)が製造し、被告会社が輸入して販売した「ウルトラライト」という商品名のカテーテル(以下「本件製品」という。)であった。 ウ 本件手術において使用された塞栓物質は、ポリビニールアセテート(欧文では「polyvinyl acetate」。)であった。 (4) 本件手術の経過 ア 乙山医師ら被告病院の担当医師は、平成九年一二月一八日、被告病院内において、本件手術を開始した。 イ 本件手術において、乙山医師が本件カテーテルを通して患部に塞栓物質を注入していた途中で、本件カテーテルが破裂し(以下、この破裂を「本件破裂事故」といい、本件破裂事故の際の、本件カテーテルの破裂部位を「本件破裂箇所」という。)、この破裂によって、塞栓物質であるポリビニールアセテートが、原告の脳内に流入した。 ウ 乙山医師らは、本件カテーテルの破裂に気付いた時点で塞栓物質の注入を中止し、その除去に努めたものの、完全に除去することはできなかった。  このため、原告の両前頑葉及び右側頭葉において、上記塞栓物質による脳梗塞が生じた。 (5) 術後の状況  原告は、本件破裂事故の結果、脳梗塞による左片麻痺という後遺症害を負い、平成一〇年四月一日、第一級身体障害者の認定を受けた。 三 争点 (1) 被告病院の過失の有無  (原告の主張) ア 異常屈曲を巡る過失  (ア) 乙山医師の過失  乙山医師には、塞栓物質注入術に際しては、カテーテル破裂等の原因となる異常屈曲の発生を防止する注意義務、異常屈曲の発生を監視する注意義務及び異常屈曲が発生した場合にはカテーテルの状態を修正するか注入術を中止して安全を図る注意義務があったにもかかわらず、これらを怠り、本件カテーテルに異常屈曲を発生させ、その異常屈曲の発生を看過し、カテーテルの状態の修正も、手術の中止もせずに、本件カテーテルに加圧をし続けてこれを破裂させた過失がある。  (イ) 丁原医師ほかモニター監視スタツフ(以下「丁原医師ら」という。)の過失  本件手術中、操作室の外部モニターを監視していた丁原医師らには、塞栓物質注入術に際しては、操作室の外部モニターを注視、観察して、カテーテル破裂等の事故原因となる異常屈曲の発生を監視する注意義務及び異常屈曲が発生した場合には直ちに術者の注意を促し術者にカテーテルの状態を修正又は注入術中止の機会を与えるべき注意義務があったにもかかわらず、これらを怠り、本件カテーテルの異常屈曲の発生を看過し、術者に漫然と本件カテーテルに加圧をさせ続けてこれを破裂させた過失がある。 イ 過剰加圧に関する過失  乙山医師には、本件製品の最大注入圧基準である一〇〇psi(なお、psiは、単位平方インチにかかる圧力を表す。)の範囲内で塞栓物質を注入すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、本件カテーテルに同基準を大幅に超える塞栓物質注入圧をかけ、本件カテーテルを破裂させた過失がある。 (被告大学の主張) ア 異常屈曲を巡る過失について  (ア) 乙山医師の過失について  まず、原告が主張するような、カテーテルの異常屈曲に関する医療水準が確立しているわけではないから、乙山医師はそのような注意義務を負っているとはいえない。  また、カテーテルの異常屈曲がカテーテルの破裂原因であるとの立証はないのであるから、カテーテルの異常屈曲を根拠に、被告大学の責任を問うことはできない。  さらに、そもそも、本件破裂事故の前に、本件カテーテルには異常であると判断すべきほどの屈曲の存在は、認められなかった。また、仮に、本件破裂事故の前に、異常屈曲が存在したとしても、塞栓物質の注入操作に集中している医師に、一瞬の異常屈曲を認識すべき義務を課すことはできない。  (イ) 丁原医師らの過失について  手術中に操作室の外部モニターを監視する医師に対し、カテーテルの異常屈曲という医学的にも知られていない事態に気付くべきであるとする医療水準が確立しているわけではないから、丁原医師らはそのような注意義務を負っているとはいえない。  そして、丁原医師らは、本件破裂事故の前に、本件カテーテルについて、異常であると判断すべきほどの屈曲の存在を認めていなかったのであるから、丁原医師らに異常屈曲を看過したとの注意義務違反を認めることはできない。 イ 過剰加圧に関する過失について  まず、カテーテルを用いて塞栓物質を注入するに際し、一〇〇psi以上の加圧を行ってはならないという、具体的かつ細かい数字を挙げての医療水準が確立しているわけではないから、乙山医師はそのような注意義務を負っているとはいえない。  加圧の際には、圧力を計測する方法はない。そのため、乙山医師は、もっぱら手指の感覚において過剰な圧力がかからないように注意していたものである。  このように、手指の感覚により使用される医療器具は、通常の使用形態によっては、破損しないように製作されるべきものである。  そして、乙山医師は、本件製品に先行して販売されていた商品名「マジックカテーテル」という子カテーテルの破裂実験を行い、カテーテルを破裂させるには、通常の臨床手技において経験するような圧力ではなく、かなり暴力的に圧力をかける必要があるとの認識を得ていたのであり、本件において、乙山医師が、過剰な圧力を感じつつ、あえて加圧したという事実は認められない。  したがって、上記事実が認められない本件においては、乙山医師の過剰加圧による注意義務違反を認めることはできない。 (2) 本件カテーテルの欠陥の有無 (原告の主張)  本件カテーテルは、(1)脳血管内への塞栓物質注入時のねじれを想定し、その際に生じ得る高度狭窄又は閉塞発生を回避するための柔軟性が不足していたか、(2)基準値以下の加圧によっても、容易に捻転し、カテーテル内の圧力を高め、かつ、内壁を伸展させ脆弱化して破裂するという、捻転加圧に対する強度が不足していたか、又は(3)本件破裂箇所に当初から小さな穴が開いていたことなどにより、規定加圧以下で破裂するものであった。  これらはいずれも、製造物責任法三条の「欠陥」に当たる。 (被告会社の主張)  本件破裂事故は、次の各事実が示すとおり、乙山医師が、塞栓物質を注入するに当たり、規定加圧である一〇〇psiを大幅に超過する過剰な圧力を加えたために発生したものであるといえるのであって、本件カテーテルに欠陥は存在しない。 (1) 本件手術における乙山医師の塞栓物質注入時間からその注入速度を計算すると、注入圧は平均して一四一・一psiないし一四九・一psiであったと考えられること (2) 乙山医師は、手指の感覚だけに頼り、手のひらでシリンジを押し込むことにより、塞栓物質の注入を行っていたため、相当強い力を加えることが可能であったこと (3) 本件破裂箇所の外観及び破裂箇所より近位部(手元側)のチューブのゆがみの存在は、MMIS社において実施した破裂強度実験によって破裂させられたカテーテルの外観と一致していること (4) 破裂強度実験において、カテーテル内部の圧力を高めていくと、カテーテルは捻転などの異常屈曲を起こし、破裂後に異常屈曲がなくなって平らな状態に戻ったが、本件カテーテルも本件破裂事故の直前に異常屈曲を起こし、さらに、本件破裂事故と同時に、本件カテーテルから塞栓物質が勢いよく噴出した後、同カテーテルの異常屈曲がなくなり、平らな状態に戻ったこと (5) 本件製品の破裂強度実験において、本件製品は、おおむね二〇〇psi以上の注入圧がかからないと破裂しなかったこと (6) 本件手術に用いられたポリビニールアセテートの粘度に近い粘度七五cpの液体で加圧実験を行ったところ、カテーテル内は容易に一〇〇psiの圧力に達することができたこと (7) 本件破裂事故前には、親カテーテルと子カテーテルが逆方向を向いていたため、異常屈曲を生じやすい状況にあったほか、カテーテル内に血液が逆流したことにより、カテーテル内で塞栓物質が析出した可能性もあり、患部が既に塞栓物質によって十分詰まっていた可能性もあることから、それらの事象が原因となって本件カテーテルが閉塞又は狭窄した可能性も十分あること (8) 本件破裂事故後、乙山医師など被告病院関係者は、自らの過失を認めていたこと (9) 本件以外に、現に過剰加圧による事故例が存在すること (3) 損害額 (原告の主張) ア 原告は、本件カテーテルの欠陥又は乙山医師らの過失によって、次の(ア)ないし(オ)の損害を被った。  (ア) 治療関係費 一一二万五二三二円  a 付添費        三六万円  b 入院雑費   五三万六九〇〇円  c 介助装具代自己負担分            四万三六五五円  d 交通費    一八万四六八〇円  e 診断書代    二万〇二〇〇円  (イ) 休業損害  一八四万七七七五円  本件破裂事故後の平成一〇年一月一日から、原告が症状固定の診断を受けた平成一一年二月三日までの休業損害額  (ウ) 逸失利益       一億〇七九七万一一二五円  原告は、大学卒業後直ちに丙川株式会社に入社し、本件破裂事故が起こるまで一四年間同社に勤務し、本件破裂事故当時、同社から年間五三〇万円二九四四円の給与等の支給を受けていた。もっとも、同社では、勤続年数が一四年ないし一五年ころより毎年給与支給額の上昇率が高くなり、その反面、それまでの給与額が低めに抑えられていた。  また、原告の後遺症の障害等級は、注意力及び知能低下については五級相当、左卜肢用廃については五級相当、左下肢の足首関節の用廃、同膝関節の可動領域限定については八級相当であり、これらの複合的後遺障害によって、原告の障害等級は二級相当であり、労働能力喪失は一〇〇パーセントとなる。  以上の事情を加味すると、原告の逸失利益は、平成九年賃金センサス大卒男子労働者三五歳ないし三九歳平均年収額七〇二万三七〇〇円に、症状固定時の原告の年齢である三七歳から六七歳までの三〇年に対応するライプニッツ係数である一五・三七二四を乗じた金額である、一億〇七九七万一一二五円となる。  (エ) 慰謝料  三三〇〇万八三三三円  a 入院慰謝料 三〇〇万八三三三円  b 後遺症害慰謝料  三〇〇〇万円  (オ) 弁護士費用         一四三九万五三三八円 イ よって、原告は、被告らに対し、各自、前記損害額合計一億五八三四万八六九三円及びこれより前記弁護士費用を控除した一億四三九五万三三五八円に対する、本件破裂事故に基づく損害発生により遅滞に陥った日である平成九年一二月一八日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告会社の主張)  原告は、丙川株式会社の給与体系の立証を何らしていない。その上、AVMを患っていた原告が、健康な社員と比較した場合の将来の活躍の見込みを勘案するならば、原告が現実収入額を超えて平均年収額を得た蓋然性は認められず、逸失利益の算定に当たっては、現実収入を基礎収入とすべきである。  また、本件では、自動車損害賠償責任の認定がされているわけではなく、原告の後遺障害の程度について、客観性の高い認定がなされたとはいえない。したがって、原告の後遺障害を二級と認定することはできず、二級を基準に、逸失利益や慰謝料額を算定すべきではない。 (被告大学の主張)  損害に関する主張は争う。  なお、原告は、本件手術翌日には麻痺は残るものの、指示動作を行うことができた上、平成一〇年二月二日ころには、ほぼ現在の状態にまで回復したものである。 第三 争点に対する判断 一 前記前提事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。 (1) 本件手術の経過 ア 乙山医師は、平成九年一二月一八日、本件手術において、手でシリンジを押す強さを調整しながら、次のとおり、塞栓物質を注入した。  (ア) 一回目 午後〇時二分ころ  ポリビニールアセテートC 〇・四ミリリットル注入  (イ) 二回目 午後〇時一〇分ころ  ポリビニールアセテートD 一・五ミリリットル注入  (ウ) 三回目  ポリビニールアセテートC 一・六ミリリットル注入  (エ) 四回目  ポリビニールアセテートD 一・〇ミリリットルを注入している際に、本件破裂事故が発生し、乙山医師は注入を中止した。 イ 本件手術中、手術室にて、戊田医師が乙山医師の補助操作を行い、見学室にて、丁原医師、技師一名及び被告会社以外の医療器具メーカーのMR(医薬品情報提供者)数名が、透視モニターを観察した。 (2) 乙山医師の経験  乙山医師の本件手術時までにおけるAVMの脳血管内手術の経験年数は約五年で、症例数は約五〇例であった。  また、乙山医師の本件手術時までにおける親カテーテルと子カテーテルを用いる血管内手術の手法の経験年数も約五年で、血管内手術の症例数は約二〇〇例であった。 (3) 本件製品の状況等  本件製品は、全長一六五センチメートルで、先端の四五センチメートルが柔軟部分となっており、最大推奨注入圧は一〇〇psiとされている。  被告会社の営業担当者である甲田松夫(以下「甲田」という。)は、平成九年一一月一九日、乙山医師の下に本件製品の現物とカタログを持参し、乙山医師に対し、本件製品に先行して販売され、乙山医師が当時既に使用していた子カテーテルであるマジックカテーテルと同様に、本件製品も耐圧値が一〇〇psiである旨説明した。そのため、乙山医師は、本件製品は一〇〇psi以下で使用することが想定されていることを認識していた。  乙山医師は、平成九年一二月五日又は六日ころ、初めて本件製品を使用し、本件手術の際は、本件製品を使用するのが二回目であった。 (4) 破裂後の本件カテーテルの状況  本件破裂箇所は、本件カテーテルの先端から約一二センチメートルに存在し、単一の縦の裂け目があり、裂けた裂端が外側へ変形していた。  また、本件カテーテルには、本件破裂箇所より近位部(手元側)にはゆがみがあったが、本件破裂箇所の外面には、他の物質による機械的な損傷はなかった。 (5) 被告会社による本件製品の輸入、販売等  被告会社は、平成八年一一月一一日付けで、厚生大臣より本件製品について医療用具の輸入承認を受け、平成九年一〇月一七日から平成一〇年三月三〇日までの間、MMIS社から本件製品四九〇本を輸入し、平成九年一一月二一日から平成一〇年五月八日までの間、本件製品三一二本を販売した。  その後、被告会社は、平成一〇年一一月一七日付けで、本件製品について医療用具承認整理扱いを受けている。  平成一〇年一月一四日の時点で、本件カテーテルと同一のロット番号(FD二八二〇五)の本件製品三〇本のうち一三本が破裂することなく、使用された。 (6) MMIS社による本件製品の販売状況及びMMIS社閉鎖の経緯  MMIS社は、平成九年四月三〇日に本件製品の発売を開始し、平成一〇年一月一九日時点において、本件製品二〇一〇本が出荷済みであった。  しかし、平成七年に、メドトロニツク社がMIS社を買収する以前、同杜が、製品薬事承認のため、FDA(米国の食品医薬安全局)に対し提出したデータには、生物学的安全性試験は、誤り又は別の製品によるものであったり、試験自体を完了していなかったり、原材料の規格が改ざんされたりするなど、虚偽のものが含まれていたことが判明した。  そのため、MMIS社は、平成一〇年四月一六日に、事業を閉鎖し、同年五月一三日に、FDAとMMIS社の共同決定に基づき、製品回収の連絡を全顧客に行った。 (7) 本件製品の別件事故  FDAに報告された、本件製品の別件事故は、次のとおりである。 ア 平成八年八月二三日報告の事例  カテーテルを抜去しようとしたところ、脳血管内に引っかかり抜去できなかったので、カテーテルを一晩血管内に留置した後、取り出した事例 イ 同年一〇月九日報告の事例  カテーテルを抜去しようとした際に、血管内に引っかかっていることが分かり、医師がカテーテルを強く引っ張ったため、カテーテルが切断された事例 ウ 平成九年三月六日報告の事例  カテーテルが少なくとも二回ねじれ、抜去しようとしたら、カテーテルが切断された事例 エ 同月八日報告の事例  遠位シャフトが血管内で動かなくなり、医師は遠位シャフトの延長を試みたが失敗し、カテーテルが切断された事例 オ 同年八月一九日報告の事例  カテーテルを抜去しようとした際に、先端を動かすことができず、さらに抜去しようとしたところ、切断された事例 カ 同年一〇月三日報告の事例  カテーテルを体内に挿入する際に、柔軟部が患者の体外で折れた事例 キ 同年一二月三日報告の事例(以下「イギリスの事故」という。)  カテーテルに構造上の著しいねじれを生じ、カテーテルシャフト内にへこみを形成し、塞栓物質注入の際に、このへこみのためにカテーテルシャフトがねじれ、内腔が詰まったが、医師が注入を続けたところ、圧力の高まりにより、遠位シャフトの弱い部分が断裂した事例  この事例における破裂の原因はねじれの形成とされており、医師の過剰加圧については言及されていない。なお、医師は、塞栓物質の注入中に、注射器内の抵抗を感じたが、その抵抗は突然消失したと述べている。 二 争点(1)ア(ア)及び(イ)(異常屈曲を巡る過失の有無)について (1) 本件製品のパンフレット及び医学文献には、何度も屈曲して患部に到達しているカテーテルの写真が掲載されている上、カテーテルがループ状になっている写真が掲載されているものもある。さらに同パンフレットは、製品の特徴として「柔軟なカテーテル遠位部は血流により屈曲の厳しい末梢遠位部に到達することができます。」と記載し、本件製品の説明書は、「マイクロカテーテルは細径で、屈曲した血管へ挿入するのに特に有用です。」と説明している。他方、同説明書には、本件カテーテルに屈曲が生じないように注意すべきであるなど、屈曲の厳しい部位への挿入がなされた場合の耐用度に関連する注意書きの存在は認められない。  このように、本件製品の目的は、まさに屈曲の激しい血管へ挿入することにあり、カテーテルを用いて、塞栓手術をする際には、カテーテルが屈曲して血管内に挿入されていくのが通常であると認められる。 (2) そして、本件手術の過程において、本件破裂事故の直前にも、本件カテーテルがS字形に屈曲し、その一部が上下に振動していたこと及び前記のとおり、その様子を、被告会社以外の医療器具メーカーのMRを含む複数の医療関係者が観察していたことが認められるにもかかわらず、そのうちの誰かが、本件カテーテルの動きが異常である旨の指摘をしたとの事実の主張もなされていなければ、証拠上も何らそのような事実の存在をうかがうことはできない。  ちなみに、乙一六(被告会社において行われた実験)によれば、カテーテルの内部の圧力を高めていくと破裂するまでの間に捻転を起こすことがうかがえるが、本件カテーテルが本件破裂事故の直前において見せた捻転の程度が、同実験において見られた捻転の程度にまで至っていたと認定し難い。 (3) 以上によれば、本件破裂事故の直前において、本件カテーテルが異常であると認識すべきほどに屈曲していた状態にあったとは認め難く、したがって、本件カテーテルに異常屈曲が発生したことを前提とする、乙山医師及び丁原医師らの注意義務違反の事実は、いずれも認めることができない。 三 争点(1)イ(過剰加圧に関する過失の有無)について (1) 原告は、乙山医師には、本件製品の最大注入圧基準である一〇〇psiの範囲内で塞栓物質を注入すべき注意義務があった旨主張する。  そこで検討するに、本件製品の使用に際して一〇〇psiを超える加圧をしてはならない趣旨の注意書きの類は存在しないことに加え、前記のとおり、乙山医師は、専ら手指の感覚により、加圧を調整していたことが認定できる。そして、被告会社が、乙山医師に対して、注入圧を測定しながら注入するように指示したような事情はうかがわれないことから、被告会社においても、乙山医師が上記のように圧力を管理することを容認していたと認められる。  そうすると、乙山医師に対して、一〇〇psiの範囲内というように、正確に数値を限定した加圧で塞栓物質を注入すべき注意義務が課されていたと判断するのは適当ではなく、むしろ、乙山医師には、特段の事情がないにもかかわらず、塞栓物質を注入する際に、本件製品につき経験上体得した通常予想される使用形態を越えて、あえて過剰な加圧してはならないという注意義務があったというべきである。 (2) 次に、乙山医師に前記の注意義務違反が認められるかを検討するに、(1)乙山医師は、本件手術中に、過剰な圧力をかけたことはなく、非常に微妙な塞栓物質の注入操作が要求される際に、過度な圧力をかけることは常識的に考えて不可能である旨証言する上、(2)意見書(乙二)には、カテーテルを破裂し得るほどの内圧がかかる場合は、注入時の注射器の抵抗などにより、ある程度は気付くと考えられる旨記載されており、乙山医師も、カテーテルが破裂すれば、手元の圧力が急に抜けることが手の感覚で分かるはずであるのに、本件手術において塞栓物質を注入する途中で、手にかかる圧力が高まったのを感じたことはなく、本件破裂事故が生じた際も、手元の圧力が急に抜けることはなかった旨証言していることから、このような乙山医師の証言(以下「本件乙山証言」という。)の信用性が問題となる。 (3) まず、本件乙山証言の信用性を裏付ける事情としては、以下の事情が認められる。 ア 前記認定のとおり、本件手術には、乙山医師のほか、医師二名、技師一名及び医療器具メーカーのMR数名という複数の医療関係者が立ち会っていたが、本件訴訟の各当事者から、本件手術中に、乙山医師に異常な行動があった旨の主張は何らなされていない。  その上、乙山医師は、手術中に本件破裂事故の発生に気付いた者はいない旨供述しており、その余の証拠を併せ考慮しても、乙山医師の手技に不自然な点があった旨指摘する者が存在したような事情は、何らうかがうことができない。 イ(ア) ところで、前記認定のとおり、乙山医師が、本件製品を使用したのは、本件手術が二回目であって、本件製品の使用経験回数だけみれば、決して多いとはいえない。  しかし、本件手術当時に存在していた他のメーカーの子カテーテルも、耐圧値は一○○psiであり、乙山医師は、本件手術前に、他のカテーテルメーカーであるボストン社が開催した、製品の使用を習熟するための研修会や動物実験研修プログラムに二回参加し、それらを通じて、どの程度の圧力をかければカテーテルが破裂するかを体得していた。  さらに、前記認定のとおり、乙山医師は、本件手術前である平成九年一一月一九日における甲田からの説明により、本件カテーテルも、他の子カテーテルと同様の加圧の範囲内で使用すべきであることを認識していた。  その上、前記認定のとおり、乙山医師は、本件手術までに、約五年間にわたるAVMの脳血管内塞栓術の経験を有していて、既に多くの血管内手術を行っており、本件手術を行った当時は、月二回程度の頻度で血管内手術を行っていた。 (イ) このように、経験豊富で、本件カテーテルの使用方法を認識していた乙山医師が、本件手術の際に、本件全証拠によっても何ら特段の事情がうかがわれないにもかかわらず、あえて過剰な圧力をかけたことは、通常考えにくいところである。 (4) 以上のように、本件乙山証言の信用性を裏付ける事情が認められるところ、次に、本件破裂事故を巡る各種報告書等が、同証言の信用性を減じる事情となるかを検討する。 ア(ア) まず、乙山医師は、三〇psiないし四〇psi位の圧力で注入をしていた旨証言するのに対し、被告会社が作成した報告書(乙一五。以下「被告会社報告書」という。)は、乙山医師が、本件手術の際に、一四一・一psiないし一四九・一psiの圧力をかけていたと算出している点について検討する。  (イ) 被告会社報告書は、被告会社が、乙山医師が使用していたポリビニールアセテートの粘度は七四cpであると推測し、その粘度の物質を本件製品に注入し、手で圧力を段階的にかけ、乙山医師が陳述書において、注入したと記載する量を注入するのに何秒かかるかを測定した上、各圧力に、注入に要した時間を乗じ、各注入量ごとにその平均値を算出し、その平均値を乙山医師が各注入量において注入に要したと記載する時間で割ることにより、乙山医師が本件手術の際にかけたであろう圧力を算出したものである。  (ウ) しかし、本件手術の実際においては、本件カテーテルは体内に挿入し、塞栓物質は血管内の流れに乗せて注入していくものであり、その際にかけた圧力と、空気中で行われた前記実験の際に測定された圧力との間に差異があることも想定されるところ、果たしてそのような差異があるのか、あるとすればそれはいかなる程度のものかは、不明であるといわざるを得ない。  その上、前記実験において、使用された物質の粘度は、乙山医師が本件手術の際に、使用した塞栓物質の粘度を、被告会社において推測した結果、仮定したものにすぎず、その数値が客観的に正確であるとの裏付けはない。  (エ) このように、被告会社報告書は、正確性に疑問を抱かざるを得ない部分が少なからず存するのであって、その記載内容のとおり、乙山医師が本件手術の際に、一四一・一psiないし一四九・一psiの圧力をかけたと認めることはできない。  したがって、被告会社報告書が、本件乙山証言の信用性を減じる事情とはならない。 イ(ア) 次に、MMIS社による本件カテーテルの破裂原因の調査分析報告書(甲三、乙三及び四の四にそれぞれ添付されたもの。以下「MMIS報告書」という。)は、二〇〇psiないし三〇〇psiという過剰な圧力を本件カテーテルの狭窄部にかけたことが、本件カテーテルの破裂の原因と推測されるとしている。  そして、MMIS報告書は、その根拠として、本件カテーテルの破裂の外観及び本件破裂箇所の近位部のゆがみは、破裂強度実験を行ったカテーテルの外観と一致しており、このタイブのゆがみは、二〇〇psiの圧力をかけられたときに典型的に見られるものであることを挙げた上で、かような圧力が発生した原因として、親カテーテルと子カテーテルの方向及びAVMにおける速い血流が重なることにより、本件カテーテルの先端部付近が閉塞した上、粘度の高いポリビニールアセテートが使用されたことを挙げている。  (イ) しかし、MMIS報告書は、調査をした日時、場所及び試験方法の詳細等も不明であること、本件カテーテルの顕微鏡写真はあるものの、破裂強度実験で使用されたものの写真等の資料はなく、外観が一致しているかどうかを検証することができないといった問題点があり、それらをひとまずおくとしても、本件カテーテルのゆがみが二〇〇psiの圧力をかけられたときに典型的に見られるものであると認定した根拠も、単に「典型的に見られる」ゆがみの形状であるというだけであって、なぜそれが「典型的に見られる」ゆがみであるかの理由も示されていない。  さらに、MMIS報告書が本件カテーテルの先端部が閉塞したと認定した点も結局は根拠を明示していない推測にすぎず、同報告書が、「このタイブの歪みは二〇〇psiの圧力が掛けられた時に典型的に見られる」としていながら、結論として、その数値を超えて二〇〇psiないし三〇〇psiという数値を出している根拠も示されていない。  (ウ) このように、MMIS報告書においては、本件カテーテルが破裂した原因が、二〇〇psiないし三〇〇psiという過剰な圧力をかけたことにあると推測した根拠が全く不明であることに加え、そもそも乙山医師が二〇〇psiもの加圧を行ったことを示す証拠ないし事情が見当たらないことからすれば、第三者ではなく本件製品の製造元による調査分析である同報告書が、本件乙山証言の信用性を減じる事情とはなり得ない。 ウ(ア) また、東京海上メディカルサービス株式会社作成の意見書(乙二)は、本件破裂事故は、総合的に見ると、子カテーテルの捻転による閉塞が大本の原因であった可能性が高いと考えられるので、テクニカルミスの可能性が高いとしている。  (イ) しかし、前記意見書は、「ビデオを見てテクニカルミスかどうか判明できるか否か。具体的にはカテーテルの入れ込みがよかったかどうか。」という医師の手技のミスの有無に焦点を絞った検討事項に対し、本件手術の状況を撮影したビデオを分析した結果、本件破裂箇所の位置からすると、親カテーテルと子カテーテルの位置関係によるキンキングが原因となって、子カテーテルの末梢に高度狭窄又は閉塞が生じ、塞栓物質注入の際に規定圧以上の内圧がかかったことが最も考えやすいとして、他の可能性を排除した上で、結論として、「カテーテルのキンキングくらいしか考えられる要因がありませんので、本件では「テクニカルミス」と判断せざるを得ないと思います。」とし、積極的な理由付けのないままいわゆる消去法によって結論を出しているにすぎないのであり、乙山医師のアクニカルミスの存在を裏付ける証拠としては、説得力に乏しい。  また、同意見書が指摘するような閉塞状況が、本件破裂事故の前に本件カテーテルに生じていたことを、認めるに足りる証拠はない。  さらに、同意見書を作成した東京海上メディカルサービス株式会社は、被告会社の製造物責任保険の保険者である東京海上火災保険株式会社の子会社である。 (ウ) したがって、前記意見書は、本件乙山証言の信用性を減じる事情とはならない。 エ 以上のとおり、上記各種報告書等は、いずれも本件乙山証言の信用性を減じる事情とはならないということになる。 (5) さらに、本件乙山証言の信用性を弾劾する被告会社による各指摘に理由があるかについて検討する。 ア まず、被告会社は、乙山医師が、塞栓物質が流出する前に、子カテーテルが跳ねたりするなどの異常な動きを見せることはなかったが、塞栓物質が流出してから約一一秒後にキンク(異常屈曲)が生じたと証言している点をとらえ、これは、明らかに事実に反しており、本件乙山証言は信用できない旨主張する。  しかしながら、確かに本件破裂事故の直前に本件カテーテルが屈曲しその一部が上下に振動していたものの、それが異常と認識すべきほどの屈曲であったと認められないことは、前記認定のとおりであり、したがって、乙山医師が、塞栓物質が流出する前に異常屈曲がなかった旨証言したのも、何ら不合理とはいえない。  さらに、乙山医師は、今までかかってきた圧力が急に抜けてしまい、子カテーテルの先端部分の数ミリメートル手前が鋭角に曲がったことを指して、「キンク」という言葉を使っているところ、塞栓物質が流出しない限り絶対に子カテーテルのキンクが生じることはあり得ないと断言できるわけではなく、流出後に子カテーテル内部の一定方向に不均等に圧力がかかることもないとはいえないのであるから、乙山医師が、塞栓物質が流出した後にキンクが生じたと証言したのも、あながち不合理とはいえない。  よって、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 イ 次に、被告会社は、平成九年一二月三〇日に、被告会社が乙山医師に対し、厚生大臣に報告するためにコメントを求めたところ、同医師は、患者が不穏状態となったために手術を中断したと述べていたのに、証人尋問においては、乙山医師がいうところの「キンク」に気付いたために中止したと証言し、その供述内容に変遷が見られることから、乙山医師の証言は信用性がない旨主張する。  しかし、乙山医師は、キンクに気付いたために塞栓物質の注入を中止し、状況を確認していたところ、患者が不穏状態になったので、手術を中止したと証言しているところ、そのような一連の事実経過が存在すること自体は必ずしも不合理とはいえないのであり、そのような事実経過があったことを前提とすると、手術を中止した理由について、これを「患者が不穏状態になったため」と説明しても、「キンクに気付いたため」と説明しても、そこには矛盾点を見いだせるわけではなく、乙山医師のかような証言内容もって、その信用性を否定する事情とはなり得ない。  よって、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 ウ さらに、原告の家族らにおいては、乙山医師から、本件破裂事故後約二分三〇秒間塞栓物質が流入したとの説明を受けたと認識しているのに、乙山医師は、原告の家族らに対し、乙山医師のいうところの「キンク」が生じてから、二分ないし二分三〇秒間塞栓物質を注入し続けた旨の説明をしたことはない旨証言し、自己の供述を都合よく変遷させており、その証言には信用性がない旨被告会社は主張する。  しかし、乙山医師が原告の家族らに説明した内容を記載したメモには、乙山医師が本件破裂事故後、二分三〇秒間塞栓物質を注入し続けた旨の記載はなく、その他、乙山医師が、当初、原告の家族らに対し、本件破裂事故後約二分三〇秒間塞栓物質が流入した旨の説明をしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。  したがって、乙山医師が、自己の供述を都合よく変遷させているとは認められず、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 エ 被告会社は、乙山医師は、MMIS社の調査分析結果を、そのまま原告の家族らに説明しておきながら、被告病院の関係者において、同調査分析結果を肯定するような発言をしたことはない旨の証言をしていることからも、乙山医師はその供述を都合よく変遷させている旨主張する。  確かに、乙山医師は、MMIS社の調査分析結果を、原告の家族らに説明しているが、調査分析結果を説明したことが即その調査分析結果を認めたことにつながるわけではなく、単に現時点で得られている調査の結果について関係者に伝達したにすぎないという可能性もあるところ、乙山医師は、原告の家族らへの説明の際に、同調査分析結果の結論部分である、過剰加圧により本件カテーテルが破裂したとの説明はしておらず、単に、子カテーテルに一時的な閉塞又は狭窄が生じたために、その部位の内圧が異常に上昇し、同部位が破裂したと説明したにすぎないのであって、乙山医師が、同調査分析結果の結論部分も真実であると認めた上で、原告の家族らに対し自らの過失を認める発言をしたとまでは認めることはできない。  したがって、乙山医師が供述を都合よく変遷させているとは認められず、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 オ 被告会社は、本件破裂事故の前に、本件カテーテルが、破裂強度実験のときと同様に、異常屈曲を起こしていることをもって、乙山医師が、本件カテーテルに過剰な圧力をかけたことの根拠の一つとして主張している。  確かに、カテーテルの破裂強度実験の際に、カテーテルは捻転してから破裂しており、本件カテーテルも、本件破裂事故の発生前には、S字形に屈曲しているが、前記認定のとおり、本件カテーテルの屈曲が異常であると認識すべきほどであったと認めるに足りる証拠はない。  したがって、本件カテーテルが、本件破裂事故の発生前に、屈曲していたことを理由に、乙山医師の証言の信用性を減じることはできず、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 カ 被告会社は、本件手術に見られるような親カテーテルと子カテーテルが逆方向を向いている状況下におけるカテーテル操作では子カテーテルのキンキング(捻転)が生じやすいこと、本件カテーテルに血液が逆流し、それにより本件カテーテル内で塞栓物質が析出した可能性があることの事情を挙げて、本件カテーテルが閉塞した可能性がある旨主張する。  確かに、仮に、本件手術中に、本件カテーテルが閉塞したならば、乙山医師が過剰な圧力をかける契機となり得るのであって、このことは、本件乙山証言の信用性を減じる根拠となり得る余地がある。  しかし、被告会社が主張する各事情は、いずれも一般的抽象的な可能性を挙げているにすぎず、本件手術においてそのような事態が発生したこと又はその発生の蓋然性を裏付け又は裏付け得るものとしての具体的立証はなされていないのであるから、本件カテーテルが閉塞したと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。  そうすると、このことが、乙山医師の証言の信用性を減じる根拠とはなりえず、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 キ 被告会社の主張には、現に過剰加圧による事故例が存在することを理由に、乙山医師が過剰加圧をした可能性があるとする趣旨の部分が見られるので、一応検討する。  前記認定のとおり、イギリスの事故は、内腔が詰まったが、医師が注入を続けたところ、圧力の高まりにより、遠位シャフトの弱い部分が断裂した事案について、原因はねじれであるとしている事例であるが、FDA自身はこの事案につき、医師の過剰加圧の有無に言及していないことに照らすと、イギリスの事故は、本件破裂事故の原因が乙山医師による過剰加圧であることを裏付けるものとはいえず、その他の事故例も、カテーテルを破裂させた原因が医師による過剰加圧であることを必ずしも示すものではない。  よって、これらの事故例も、乙山医師の証言の信用性を減じる根拠とはならず、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 ク 被告会社は、乙山医師が指ではなく手のひらでシリンジを押し込んでいたと主張し、そのことを根拠に、乙山医師は、塞栓物質を注入する際に相当強い力をかけることができたと主張するが、乙山医師が、本件手術中に、手のひらでシリンジを押して注入していたと認めるに足りる証拠はない上、シリンジを押し込んでいたのが指か手のひらかに関係なく、乙山医師が二〇〇psiに達する程度の加圧を行っていたことを裏付ける証拠がないことは前記のとおりである。  よって、この点に関する被告会社の主張は理由がない。 ケ 被告会社は、ポリビニールアセテートの粘度に近いと推測される七五cpの液で加圧実験をしたところ、水の場合に比べてカテーテル内は容易に一〇〇psiの圧力に達することが判明した旨主張し、このことを根拠に、乙山医師は、容易に強い力をかけることができたと主張する。  しかし、水を用いた加圧実験が本件破裂事故の原因の解明とどのようにかかわるかが不明であることに加えて、乙一五によれば、水の場合粘性がないためにシリンジを押す圧力が直接水に伝わる結果、注入にかかる時間が短時間で済むことが認められるので、水よりもむしろポリビニールアセデートの方が加圧により大きい力を必要とすることになり、必ずしも乙山医師が容易に強い力をかけることができたとはいえない。  よって、この点に関する被告会社の主張も理由がない。 コ なお、被告会社の破裂強度実験(乙一六)において、実験者の男性が片手の親指で注射器を押すことにより、三〇〇psiの圧力を出していると思われるが、その際にどの程度の抵抗を感じているかは明らかではなく、このことから、容易に三〇〇psiの圧力をかけられると認めることはできないばかりか、乙山医師がその程度の加圧をしたこともまた認められない。 サ 以上のとおり、被告会社が、本件乙山証言の信用性を減じる根拠として主張する事情を逐一検討したが、いずれも同証言の信用性を減じるものとはなり得ない。 (6) 以上を総合考慮すれば、本件乙山証言は、信用性があると認められる。  そうすると、本件において、乙山医師が、特段の事情がないにもかかわらず、経験上体得した通常予想される使用形態を越えて、あえて過剰な加圧をしてはならないという注意義務に違反したことを認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。 四 争点(2)(本件カテーテルの欠陥の有無)について (1)ア 本件製品は、脳内に挿入し、塞栓物質を注入するのに用いられるというその性質上高度の安全性を要求される医療器具であることから、専ら手指の感覚により加圧調整することを前提としていた本件製品は、術者が、注入の際に注射器に過剰な圧力を感じているのにあえて注入を続けるなど、術者が経験上体得した通常予想される使用形態を越えて過剰な加圧でもしない限り、破損しないような強度を備えていることが要求されているというべきである。  そして、当該製品がそのような強度を備えなかった場合は、当該製品は、本件製品が通常有すべき安全性を欠いており、欠陥が存在するというべきである。 イ なお、この点、原告は、本件カテーテルには、規定加圧以下の加圧によっても破裂する欠陥があったと主張する一方、本件製品は、脳血管内において使用される医療器具である以上、極めて高い安全性を当然に備えているべきものであり、通常の使用方法以外の使用がなされたと認められない限り、本件カテーテルが医療器具として当然備えるべき安全性を欠いていたことは明らかであるとも主張している。  そうすると、原告が主張する規定加圧以下の加圧というのは、要するに通常予想される医療行為という意味であると解することができ、乙山医師が本件手術の際に手指の感覚により注入圧を調整していたことに照らせば、本件カテーテルの欠陥を前記のように、経験上体得した通常予想される使用形態を越えて、あえて過剰な加圧をしない限り破損しないような強度を備えていなかったことと解したとしても、原告の主張にそったものということができる。 (2) そこで、本件カテーテルに前記のような欠陥が存在していたかを検討するに当たり、まず、前記欠陥の存在を肯定する事情について検討する。 ア まず、前記認定のとおり、本件手術において、乙山医師があえて過剰な加圧をしたと認めることができないことは、本件カテーテルに前記欠陥が存在していたことを推認させる重要な事情である。 イ(ア) 次に、MMIS社が、本件製品に粘度不明のポリビニールアセテートを注入して行った破裂強度実験においては、注入したポリビニールアセテートの粘度や実験状況の詳細は不明であるが、本件製品を破裂させるためには、一八四psiないし二一三psiを要している。  被告会社が、空気中において、本件製品の先端を鉗子で固定して、親指で本件製品に装着したシリンジを押し、被告会社において本件手術で用いられた粘度であると推測した七四cpsの粘度の物質を注入して行った破裂実験結果からも、本件製品が破裂したのは三〇〇psiを越えた場合であり、一回目に使用したものを再度使用して行った二回目の実験でも、本件製品が破裂したのは、二一〇psi程度の圧力をかけたときであった。  また、被告会社が、本件カテーテルと同一のロット番号の在庫品二本及び別のロッ卜番号の在庫品一〇本につき、水を注入して耐圧試験を行ったところ、測定限界である一六〇psiまではカテーテルに亀裂は生じなかった。  なお、東レ株式会社が、親カテーテルの中に本件製品を通して、本件製品の先端を鉗子で固定して水中に入れ、親カテーテルを振動するなどしながら、三一・九〇mPa・sの粘度の液体を注入して行った破裂強度実験においては、本件製品を破裂させるには一四〇psi以上の加圧が必要とされている。しかし、他社の子カテーテルの実験結果も、一つが「一三七」であるのを除き、「一四〇」又は「一四〇以上」とされていることからすれば、この実験においては、一四〇psiが測定限界であったと認められ、本件製品を破裂させるのに具体的にどの程度の圧力が必要かは、一四〇psi以上であると推測されること以外は不明である。  (イ) 本件破裂事故は、原告の体内で発生しているため、前記の実験結果が、本件破裂事故の際の本件カテーテルの耐性と、どの程度の関連性を有しているかは不明であるといわざるを得ない。  しかし、以上の実験結果によれば、少なくとも、本件カテーテル以外の本件製品は、破裂するまでに余裕をもって設定されているはずの最大推奨加圧である一〇〇psiを超えて、更にその一・五倍程度の加圧をしただけでは、破裂したものはないことが認められる。  そうすると、このことも、前記認定のとおり、本件手術において、乙山医師が、あえて過剰な加圧をしたと認めることはできないことも考慮に入れると、本件カテーテルは、術者が、前記(1)アで示した必要な強度を備えていなかったことを推認させる事情となる。 ウ さらに、被告会社による破裂強度実験(乙一六)、東レ株式会社による破裂強度実験によれば、本件製品が過剰な圧力をかけられると、まず、本件製品が捻転し、その結果隆起した突出部分が破裂することが認められる。  これに対し、本件カテーテルは、屈曲した部分そのものではなく、むしろその手前の部分から塞栓物質が飛散したことが認められることから、本件破裂箇所は、屈曲した部分とは一致しないことが認められる。  このように、本件製品の破裂強度実験において破裂した箇所と、本件カテーテルの本件破裂箇所が異なることも、本件カテーテルに前記欠陥が存在したことを推認させる事情となる。 エ なお、本件製品には、前記認定のとおり、七件の別件事故がFDAに報告されているが、そのうち五件は、本件製品を抜去しようとしたところ、本件製品が切断されたものであり、他は、本件製品を体内に挿入する際に柔軟部が患者の体外で折れたものであり、事案が異なる。イギリスの事故は、原因はねじれの形成としているが、そのように判断された根拠の詳細は不明である。  そうすると、前記別件事故は、本件カテーテルの前記欠陥の存在を直接裏付ける事情とはならないものの、本件カテーテルの強度に何らかの問題があり得たという限度では同欠陥の存在を推認させる事情となり得るというべきである。 (3) 次に、前記欠陥の存在を否定し得る事情の存否について検討する。 ア まず、被告会社は、被告病院の林龍男院長(以下「林院長」という。)が本件カテーテルの欠陥の存在を否定する発言をしたと主張し、本件カテーテルの欠陥の存在を否定する事情として挙げている。  しかし、そもそも上記発言が本件カテーテルの欠陥の存否につきどの程度の意味をもつのかはさておくとしても、被告会社が、林院長に対し、同社がMMIS社の調査分析結果を報告した際に、林院長が、製品には問題がなかったことを理解したと発言したことにつき書面をもって確認を求めたのに対し、林院長は、MMIS社の調査分析結果が専門家による調査報告であるはずなので報告内容は分かったと述べたにすぎないと返答しており、林院長自身は製品すなわち本件カテーテルに問題がなかったことを自ら認めたことを明確に否定しているのであって、その余の証拠を併せ考慮しても、林院長が、本件破裂事故後に、本件カテーテルの欠陥の存在を否定する発言をしたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 イ なお、前記認定事実のとおり平成一○年一月一四日の時点で本件カテーテルと同一のロット番号の本件製品三〇本のうち一三本が破裂することなく使用されたことに加え、乙三によれば、被告会社において、本件製品のうち、本件カテーテルと同一のロット番号のものを含め在庫の全ロッ卜番号各二本ずつについて耐圧試験を実施したところ、欠陥品は存在しなかったことが認められるが、同一のロット番号のものに欠陥品が存在しなかったとの一事をもって、本件カテーテルの欠陥の存在を否定することにはつながらないというべきである。 (4) 以上の事情を総合すれば、本件破裂箇所は、術者が、注入の際に注射器に経験上感知し得る過剰な圧力を感じているのにあえて注入を続けるなど、術者が経験上体得した通常予想される使用形態を越えて、あえて過剰な加圧でもしない限り 破損しないような強度を備えていなかったと推認される。  したがって、本件カテーテルには前記(1)アでいう欠陥が存在していた(以下「本件欠陥」という。)と認められる。 五 争点(3)(損害額)について (1)ア 前記前提事実、前記認定事実、《証拠略》によれば、本件手術後の経過は以下のとおりであった。  (ア) 本件破裂事故の結果、原告の両前頭葉、右側頭葉において、流入した塞栓物質による脳梗塞が発症し、原告は、平成一○年四月一日、脳梗塞による左片麻痺を理由に、第一級身体障害者の認定を受けた。  (イ) 原告は、平成一〇年八月においても、失禁が続き、更衣やトイレにも一部介助が必要な状態であったが、同年九月三日に被告病院を退院し、同日から平成一一年一一月三日まで、《住所略》所在の七沢リハビリテーション病院脳血管センター(以下「七沢病院」という。)に入院した。  (ウ) そして、原告は、左上下肢は、共同運動による筋収縮を認めるが、随意性に乏しく、特に、左上肢は自動運動がほとんど不可能で廃用手の状態であり、左下肢は、装具を用いなければ歩行が困難であって、内反尖足が著しい上、注意力障害、記銘力の低下及び反応の緩慢さなどが認められる等の障害を残して、平成一一年二月三日に症状が固定した。  (エ) その後、原告は、平成一一年五月六日から、神奈川リハビリテーション病院付属の身体障害者社会生活自律訓練施設である七沢更生ホームに入所し、同ホームにおける機能回復訓練により、左下肢に介助装具を装着しての歩行が可能となるまでに回復したが、同施設を退所する見込みはない。 イ 次に、損害額を認定する前提として、本件欠陥との間に因果関係を認め得る入院期間を検討する。  (ア) この点、乙山医師は、本件手術には、二回目の治療を平成一〇年一月上旬に行う予定で、平成九年一二月一五日から約三〇日問を入院期間と推定していた。  そして、本件手術の態様、原告のAVMの病状に照らし、このような推定が不合理であることをうかがわせる事情も存在しない。  そうすると、原告は、本件欠陥が存在しなくとも、本件手術の実施日である平成九年一二月一八日から少なくとも二七日間は、入院を余儀なくされたと認められる。  したがって、平成九年一二月一八日から二七日間の入院は、本件欠陥との間に因果関係が認められない。  (イ) また、原告の前記の病状に照らせば、原告には、平成一〇年九月三日以降、被告病院から転院して、七沢病院に入院することの必要性が認められる。  (ウ) そうすると、本件欠陥との間に因果関係があると認められる入院期間は、原告が被告病院に入院していた平成九年一二月一八日から平成一〇年九月三日までの二六〇日間から、当初の二七日分を差し引いた二三三日間、及び原告が七沢病院に入院していた平成一〇年九月三日から平成一一年二月三日までの一五四日間から、重複している転院日の一日分を差し引いた一五三日間の合計三八六日間となる。 (2) 治療関係費 ア 付添費  被告病院は完全看護であったものの、平成一〇年八月においても、原告は前記認定のとおりの状態であったことに照らせば、医師の明確な指示がなくとも、母親が原告に付き添った費用の少なくとも二か月分すなわち六〇日分は、本件欠陥と因果関係があると認められ、付添費は、一日につき六○○○円と認めるのが相当であるから、本件欠陥と因果関係ある付添費は、三六万円となる。 イ 入院雑費  前記認定のとおり、本件欠陥と因果関係ある入院期間は、三八六日問であり、入院雑費は、一日につき一三〇〇円を認めるのが相当であるから、本件欠陥と因果関係ある入院雑費は、五〇万一八〇〇円となる。 ウ 介助装具代自己負担分  前記認定のとおりの原告の状態に照らせば、原告は、歩行をするのに左下肢装具が必要であると認められる。  そして、そのために原告が負担した四万三六五二円が本件欠陥と因果関係ある損害であると認められる。 エ 交通費  原告は、原告の母親が、原告に付き添うために支出した病院までの交通費を損害としている。  (ア) 前記認定の原告の病状、《証拠略》によれば、(1)原告の母親は、原告が被告病院に入院中は毎日、原告が七沢病院に入院中は少なくとも三日に一度(少なくとも延べ五一日間)は、原告に付き添っていたこと、(2)平成一〇年九月三日には、原告の母は、救急車による原告の転院搬送に同乗したため、原告とその母が同居する自宅から被告病院までの交通費は、片道分のみを支出したこと、(3)同自宅から被告病院までの電車代は、片道一六〇円(往復三二〇円)であること、(4)同自宅から七沢病院までの電車代とバス代は、合わせて片道六六○円(往復一三二〇円)であることが認められる。  (イ) そして、本件欠陥と因果関係ある入院期間は前記認定のとおりであるから、本件欠陥と因果関係ある交通費は、次の算式のとおり、一四万一七二〇円であると認められる。 320円×232日+160円+1320円×51日=14万1720円 オ 診断書代  本件欠陥と因果関係ある診断書料は、一万四九五〇円であると認められる。 カ 以上によれば、本件欠陥と因果関係ある治療関係費は、合計一〇六万二一二二円であると認められる。  なお、原告が治療関係費として主張する各損害を合計すると、一一四万五四三五円となり、原告の計算による一一二万五二三二円を超過することとなるが、損害賠償請求権は損害の項目ごとに訴訟物が異なるわけではないから、裁判所は一つの訴訟物につき総額において原告の請求金額を上回る金額の支払を命じない限り、処分権主義に違背することにはならないから、原告の前記計算は、本訴の結論に影響を与えるものではない。 (3) 休業損害 ア 原告は、本件破裂事故前は、年間給与等として、年間五三〇万二九四四円の支給を受けていた。  ところが、原告は、本件破裂事故後、平成一〇年に三六二万六五七三円を、平成一一年に二〇万二〇〇〇円を支給されたにすぎない。 イ そうすると、原告が請求する後遺障害が固定した平成一一年二月三日までの休業損害のうち、本件欠陥と因果関係があるのは、本件欠陥と因果関係ある入院期間は前記認定のとおりであることも考慮に入れれば、次の算式のとおり、二〇九万一八二一円であると認められる。 (530万2944円-362万6573円)÷365×352+(530万2944円-20万2000円)÷365×34=209万1821円(1円未満切り捨て)  そして、原告が請求している一八四万七七七五円は、この金額の範囲内であるから、被告会社は原告に対し、一八四万七七七五円を支払う義務があると認められる。 (4) 逸失利益 ア 基礎収入  原告は、原告の実収入を上回る賃金センサスを基準に、逸失利益を算定しているので、原告が生涯を通じて、賃金センサス程度の賃金を得られる蓋然性が認められるかを検討する。  確かに、原告が勤務していた会社は、東証一部に上場している大手楽器メーカーではある。  しかし、(1)原告は、本件破裂事故当時三六歳で、原告が支給されていた給与等は、当時の大卒年齢別平均年収賃金の約七五%であったこと、(2)本件手術において、片麻痺等を生じる危険率は一〇パーセント以下であったものの、AVMが存在する場合、脳内出血率が年一%ないし三%存在する上(出血した場合の死亡率は一〇%ないし一五%、後遺障害発生率は二〇%ないし四〇%)、脳虚血の発生の可能性もあること、(3)原告は、原告が勤務していた会社においては、勤続一四年ないし一五年までは給与支給額が低めに抑えられており、その後、給与支給額の上昇率が高くなると主張するが、それを裏付ける証拠が何ら存在しないことを総合考慮すれば、原告が、実収入を上回る賃金センサス程度の賃金を得られた蓋然性は、これを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。  よって、原告の逸失利益を算定するに当たっては、実収入額である年間五三〇万一一九四四円を基礎収入とすべきである。 イ 労働能力喪失率  前記認定の原告の後遺障害の症状に照らせば、少なくとも、左上肢は五級相当、左下肢は八級相当、高次脳機能障害は、九級相当と認められ、これらを総合すると、三級相当に該当するというべきである。  そうすると、原告の労働能力喪失率は一○○%と認めるのが相当である。 ウ そして、症状固定時の原告の年齢である三七歳から六七歳までの三〇年に対応するライプニッツ係数が一五・三七二四であることから、本件欠陥と因果関係ある原告の逸失利益は、八一五一万八九七六円であると認められる(一円未満切り捨て)。 (5) 慰謝料  以上に認定したところによれば、本件欠陥と因果関係ある入院慰謝料は三〇〇万円、後遺障害慰謝料は一八五〇万円であると認めるのが相当である。 (6) 弁護士費用  本件欠陥との間に因果関係ある損害としての弁護士費用は、一一〇〇万円と認めるのが相当である。 (7) 以上によれば、本件欠陥と因果関係ある損害は、合計一億一六九二万八八七三円である。 (8) 付帯請求については、原告は、損害額全体から弁護士費用を控除した額である一億四三九四万三三五八円を元金としてこれに対する年五分の割合による遅延損害金を求めているが、損害賠償請求権の訴訟物と損害項目との関係については前記のとおりであることに加え、当裁判所が認定した損害額が原告の請求する付帯請求の元金額を下回っていることを考慮して、弁護士費用を含めた損害金総額である一億一六九二万八八七三円を元金としてこれに対する遅延損害金を認容することとする。 六 結論  以上によれば、原告の本訴請求は、原告が被告会社に対し、一億一六九二万八八七三円及びこれに対する本件破裂事故の日である平成九年一二月一八日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告の被告会社に対するその余の請求及び被告大学に対する請求は、いずれも理由がない。

判決年:2003     国:日本


掲載日

調査年 2007年


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