ニーズDB:医師インタビュー
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重森 稔 先生
久留米大学病院
脳神経外科 主任教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は脳神経外科全般である。臨床では特に脳腫瘍、脳血管障害の外科的治療を専門としている。

久留米大学病院では、年間450~500症例の脳外科手術を行っている。そのうち、脳腫瘍関連の手術件数は約100症例、脳血管障害関連の手術件数が約100症例となっている。主な脳血管障害は脳動脈瘤(約7割は血管内治療)、脳動静脈奇形、脳梗塞(頚動脈の狭窄など)などである。脳動脈瘤では直達手術とともに血管内治療を行っている。脳動静脈奇形については、手術ないしガンマナイフ治療を選択している。頚動脈の狭窄についてはステント留置術が多く、バイパス手術は以前に比べ減少している。
近年は脊髄疾患の手術が増加している。従来は整形外科医が行っていたが、欧米では脳神経外科医が行っており、日本でも脳神経外科による脊髄疾患の手術が増えている。MRIなどの画像診断により異常を早期に発見できるようになったこともあり、治療成績は良い。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
この10年で画像診断技術が著しく進歩したが、同時に色々な治療上のガイドラインの作成とその普及が脳神経外科診療全体に大きな影響を与えている。ガイドラインにより治療の適応基準や治療指針が示された結果、治療成績が向上した。ただしガイドラインで示された治療指針は厳密なエビデンスに基づくものは少ないため、必ずしも正しいとは限らない。つまり最適な治療は4~5年ごとに変化する可能性があり、ガイドラインは常に改定される必要がある。
この10年で画像診断装置の精度が極めて向上した。例えば、MRI、MEG(脳磁計測装置)などである。10年前のMRIの磁場強度は0.5T、1.5Tであったが、近年は解像度が向上し、3.0Tを主に使用している。さらに機能的MRIを使用することで、術前に神経線維の走行と病変との関係を明らかにし(トラクトグラフィーと呼ばれる描出法)、マッピングを行うことができるようになった。術中のマッピングも可能で、実際に繁用している。実際の手術では、機能的MRIの画像と照らし合わせながら医療用ナビゲーションシステムも併用して、手術中に病変の部位と手術器具のアプローチや方法を確認している。ナビゲーションシステムも日進月歩であり、その画面上で複数の画像を組み合わせることも可能になっている。
(2)治療
① 脳腫瘍関連
脳腫瘍関連では、手術とともに化学療法や放射線と組み合わせた治療法が広く行われているが、従来よりも新しい薬剤が出ている。また、現在は術中にナビゲーションのほかエコーによって腫瘍の範囲を同定し、患者QOLからみて安全な範囲のみの手術、残りはガンマナイフによる治療を行ったり、出血量を減らすため術前に血管を塞栓した後に低侵襲治療を行い残りは放射線治療を行うなど、様々な手法と組み合わせた治療を行っている。なお、手術には内視鏡も併用している。この10年で各種のモダリティの利点を組み合わせた治療が促進したといえる。
② 脳血管障害関連
脳血管障害関連では、従来は脳動脈瘤の直達手術を行っていたが血管内治療の導入により、手術に伴うリスクを軽減できるようになった。治療成績についても向上した。血管内治療の導入の背景には、この10年で高齢化が急速に進みハイリスクな患者(高齢者)に対しては難易度の高い治療法(脳動脈瘤の直達手術など)を極力避けようとする動きがあったことがあげられる。なお、脳動脈瘤についても脳腫瘍と同様に内視鏡を併用している。例えば、脳動脈瘤の裏側など一般的な手術用顕微鏡では見られない場所を見る場合や、瘤周辺の色々な神経を同定する場合などに使用している。内視鏡を使用する際には頭部に小さい穴を開ける。あるいはすでに開頭している場合にはその部分から内視鏡を入れる。脳神経外科領域の内視鏡手術は神経内視鏡手術と呼ばれており、その普及によって確実かつ安全な手術が可能となった。
③ てんかん関連
てんかん手術の際には術中脳波を用いて、てんかん病変部位を同定して手術範囲を決定する必要がある。あるいはMEG(脳磁図)により、脳の機能地図を作成してんかんの発生源を同定する。久留米大学病院はMEGを所有していないため、他施設に依頼している。MEGは必ずしも必要なものではないが、あれば便利である。
④ 術中モニタリング
この10年で、患者のモニタリングシステムが確立された。例えば、脳動脈瘤の手術においては術中に瘤が破裂し大量出血するリスクがある。その場合は血管を遮断(クリッピング)するが、誘発電位などの電気生理学的モニタリングを行うことにより術中の脳虚血のリスクをいち早く察知できるという利点がある。
⑤ 覚醒下手術
術中の脳機能のマッピングが可能となったことにより、覚醒下手術(アウェイクサージェリー)が進んだ。覚醒下手術は4~5年前から実施している。覚醒下手術時には、脳表を微小な電流で刺激し、神経症状を確認しながら手術を進めることが可能である。脳腫瘍やてんかんの手術で利用している。
(3)術後の患者モニタリング
術後の患者管理の進歩は、ガイドラインやモニタリング機器の発展、進歩によるところが大きい。通常、CT画像によるモニタリングが行われるが、異常を瞬時に把握するためには脳の血流や代謝の状態をリアルタイムでモニタリングしなければならない。モニタリングには、脳血流モニタリング、近赤外線モニター、ゼノンCT(局所脳循環測定検査)を用いている。近赤外線モニターは約10年前から使用しているが、近年改良が進んでいる。超音波についても同様である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)診断
画像診断技術は飛躍的に進歩したが、今後はより精度の高い形態的・機能的診断機器の開発が望まれる。疾患予防のためには検診の段階で脳機能障害を発見する必要がある。現状では経験を積んだ医師による診察を凌駕するような診断機器は開発されていない。脳機能の障害には個人差があり、診断機器のみにたよることには問題がある。例えば機能的MRIにより異常を発見した場合、その異常が器質的な病気 によるものなのか、あるいは機能的な病気ないし反応性に脳に影響が出たのかなど、を判断することも必要になる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)医療機器全般
すべての機器について「安全」、「確実」、「低侵襲」であることが求められる。また、すべての医師がトレーニングを受ければ、ある一定以上のクオリティを持った治療が可能となるようなものが必要である。こうした機器が必要とされる背景には、近年、経験の浅い外科医に十分な手術などの手技のトレーニングを積ませることが難しくなっていることもある。
(2)脳腫瘍関連の治療
脳腫瘍は悪性と良性に分けられる。良性の場合でも頭蓋底腫瘍や間脳・脳下垂体腺腫などを障害なく全摘出術することは必ずしも容易ではない。悪性や良性にかかわらず、低侵襲での治療法の確立が望まれる。
(3)手術支援システム
ナビゲーションシステムやモニターなどの手術支援システムの小型化およびマルチモーダル化が求められる。
(4)ロボティクスサージェリー
ロボティクサージェリーの進展が期待される。ロボティクサージェリーの実現化により、手術時の患者への感染リスクを軽減できるし、より正確な治療も可能となるかもしれない。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器全般
誰もが超音波等を用いて、様々な情報を非侵襲的に得たいと考えている。しかし医療機器は輸入品が多いこともあり、非常に高価である。また診療報酬に反映されないため、病院経営の観点からは導入メリットが少ない。低価格かつ低侵襲の医療機器の登場が望まれる。そのためには、国産の医療機器を開発しなければならない。欧米に対抗できるだけの技術力があるにもかかわらず、政治的あるいは経済的理由から開発に消極的にならざるを得ないことが大きな問題と思われる。

(1)行政の対応
少子高齢化が急速に進む日本では、これまで適切な医療費規模に関する議論がなされてこなかった。国は、医療にどのくらいの予算を割くべきなのか、どのような医療・福祉を目指しているのかなど、医療全体について真剣に議論する必要がある。
厚生労働省には、医療機器の審査や保険適用の迅速化が求められる。脳神経外科学会の保険委員会では、脳神経外科に関する保険点数の改訂や新設を主に外科系学会社会保険委員会連合(外保連)を通じて厚生労働省に働きかけている。
厚生労働省は、先進医療と保険診療の調整を図るために、最新の医療先進技術を先進医療として認定している。しかし先進医療として認定されるための手続きが煩雑であること、認定範囲が限定的であることなどが問題である。臨床での効果が未知数である遺伝子治療や再生医療だけでなく、すでに実施している治療法に必要な最新の器具や機器を自由に使えるようにしてもらいたい。なおかつ低価格で使えるようにしてもらいたい。
(2)保険診療
医療機器の審査の迅速化が難しい背景の1つに保険診療がある。日本ではすべての国民がいずれかの保険に加入することになっている(国民皆保険)。そのため、新しい医療機器を導入する際、その経済的メリットの判断が難しくなることが多い。
治療法がある程度確立している一般的な疾患については保険診療とし、最先端の治療については混合診療が望ましいかもしれない。日本人の多くは、医療費は無料、あるいは安くて当然という意識を持っているが、最先端の医療については自己負担も仕方ないのかもしれない。
現在包括医療制度により、医療機関が保険者に請求できる診療報酬の額は病気の種類や入院日数などによりあらかじめ決まっている。しかし医療機関の種類や各患者の背景や重病度、年齢などが異なる場合であっても、診療報酬が同額では大きな問題が生じる。いずれにしても、始めに総医療費の総枠抑制ありきの議論では、配分を適宜変更するだけとなってしまい、将来を見据えたより根本的な検討が必要と考える。


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