ニーズDB:医師インタビュー
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村山 雄一 先生
東京慈恵会医科大学附属病院
脳血管内治療部 診療部長
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は脳神経外科である。専門とする主な疾患・部位は、脳動脈瘤、くも膜下出血である。

実施頻度の高い手技は、脳動脈瘤の塞栓術である。脳動脈瘤の患者は年間360人程度で、塞栓術は年間約130症例実施している。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
血管撮影装置が登場し進歩したことで、患者のQOLにおおいに貢献した。
レントゲン透視によるフラットパネル型の血管撮影装置である。当院の装置は、レントゲン透視による血管画像とCT画像とをそれぞれ表示することができる。
また、コンピューターシミュレーションで、脳動脈瘤のサイズの計測や破裂リスクの診断も進展し、処置の必要性を判断することが可能になりつつある。

(2)治療
① コイル塞栓術
脳動脈瘤のコイル塞栓術はこの10年で進歩した。現在、日本で使用できるものはプラチナ製のコイルのみである。欧米では、プラチナにPGLAという生分解性ポリマーがコーティングされたコイルや、プラチナ表面にハイドロジェルという膨潤ジェルがコーティングされたコイルなど、さまざまな材質や形状のコイルが認可されている。これらのコイルは日本では認可されておらず、動物実験等で使用されるのみである。
コイルの使用本数は、大きいこぶだったら30~40本使うことがある。小さいこぶなら5本程度使用する。
② ステント留置術
世界的には頭蓋内ステントが導入され、患者のQOL向上に貢献している。頭蓋内ステントは、欧州で4種類、米国で2種類が認可されている。ほとんどのステントがナイチノールという金属でできている。日本でも胆管や下肢のステントとして、ナイチノールステントが認可されているが、脳治療に関してはまだ認可されていない。頚動脈に関しては、平成19年の4月に医療材料として承認され保険収載された。
③ 開頭手術におけるナビゲーション技術
開頭手術ナビゲーション。深部の脳腫瘍切除術などで、現在の術野の画像に術前または術中に撮影したCT画像をフュージョンさせることで、手術用器具等の位置を確認しやすくなった。


■既存の医療機器の改良すべき点について

現在、欧米で認可されている高機能なコイルやステントを日本でも使用できるようにすることが重要である。欧米では現在日本で使用されているコイルやステントに改良が加えられた製品が使用されている。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)血流の制御によってこぶを消失させる頭蓋内ステント
血流の制御によって瘤を消失させる頭蓋内ステントの開発が期待される。流体力学を応用した治療コンセプトである。脳動脈瘤は流速の早い場所に成長する。したがって、脳動脈瘤周囲の血流によって動脈瘤の成長を制御できる。
このような新しい治療デバイスができれば、治療のリスクを低下させられるし、患者の適用範囲が広がり、ほとんどの脳動脈瘤が治せるようになる。現在の日本での脳動脈瘤の治療方法は、開頭手術が8割、血管内治療が2割といわれている。しかしながら、どちらの方法も適用できない患者もいる。現在、例えば、大きな動脈瘤(2~3cmを超えるもの)はコイル塞栓をしても圧迫症状がなくならない。こうした患者の場合は、脳血管内の血流を変えて瘤内部への血液流入を止め、脳動脈瘤を縮小させる必要がある。
脳動脈瘤の治療方法としては、機械的にふさぐ方法、そこに機能をもたせて創傷治癒を進める方法、流れを変える方法という3つの方法が考えられる。現在日本で行われているのは機械的にふさぐ方法のみである。
将来的には脳動脈瘤の7~8割が血管内治療で治療できると考えている。

(2)脳動脈瘤の破裂リスクの評価シミュレーション装置
画像処理により、脳動脈瘤の破裂リスクを評価できる装置が必要である。

(3)脳血管内治療のナビゲーションシステム
GPSのようなナビゲーションにより脳血管内治療を行うシステムが考えられる。たとえば、仮想血管(患者の血管を仮想空間上に構築したもの)を用いて、患者の血管とカテーテルとの位置関係をリアルタイムで確認できるシステムを構築することが考えられる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)日本発で世界標準となるような脳領域の治療デバイスの実現に向けて
脳領域の治療デバイスについては、日本発で世界標準となった製品は皆無である。治療デバイスの実現を本気で考えるのなら大学への研究開発費の配分方法や、企業との協力の仕方などを改めて考える必要があるのではないか。
① 研究者
医療機器の研究開発においては、ビジネスモデルを考えてデザインしなければならない。たとえば、装置販売に加えて消耗品販売を期待できるような装置であることが望ましい。
人材育成が課題である。日本には医療機器の研究から製品化までの全工程を経験し、成功したことのある人材が少ない。成功体験のある人材が皆無だから適切な研究開発ができない。FDAや薬事法の許認可のプロセスや求められる試験結果、製品販売ルートや継続的な利益確保の手段まで考慮して医療機器をデザインできる人材がどれだけいるか。
② 国
国の科学研究費も運用面の課題がある。たとえば、米国のNIHの競争的資金でトップテンに入り億単位の研究費がつくような研究課題が、日本ではまったく評価されないようなことも起きている。研究課題を適切に審査できる人材を育成しなければならない。
また、論文ではなく臨床応用をゴールとするような成果主義の導入も必要である。現在は臨床応用できなくてもペナルティは生じない。
日本の治験の審査にも課題がある。世界の標準的な試験方法を採用せず、国内の少数の研究者だけしか行っていないような試験方法で試験を求めることがあるようだ。また、過去に毒性試験が行われ毒性は問題ないと判断された材料が含まれていた場合に、改めて毒性試験の結果の提出が求められることもあるようだ。
③ 民間企業
日本の民間企業の技術者には以前のように、世界に誇れる技術水準を取り戻してもらいたい。現在はブランドイメージの関係で生産拠点として日本が選択されているが、現実的には他のアジアの国で作成された製品も日本製と同程度以上の品質に感じられることもある。

(2)治療と診断の融合
治療と診断とは、明確に区分せず一体として考えるべきである。従来は治療と診断の両者を明確に区分して扱う考え方が一般的であったが、現在は治療しながらリアルタイムで診断をするような形態が実現してきている。


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