ニーズDB:医師インタビュー
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藤本 司 先生
昭和大学藤が丘病院
脳神経外科 教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門領域は脳神経外科であり、主な疾患は、脳腫瘍、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、もやもや病、脳梗塞(血管狭窄、閉塞)などである。

実施頻度の高い手技は、腫瘍摘出術、動脈瘤のネッククリッピング、血管吻合術、RDP(Reversed durapexia)、頚動脈内膜剥離術である。腫瘍摘出術は、開頭手術を中心としているが、実際の治療ではガンマナイフや血管内治療を併用している。RDPは約15年前から行っている。頚動脈内膜剥離術はステント治療に置き換わる傾向にある。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断技術
① MRI、MRA
近年のマルチスライス化の進展によって、検出器が1回転する間に複数枚の断層画像を得られるようになったことから、撮影が高速化し、画像精度が向上した。
MRIの第一の特徴は断層像(形態画像)を得られることだが、撮影方法の工夫やソフトウエアの開発が進み、fMRI、diffusion MRI、テンソル画像(tractography)、MRA、3D-MRA、MRSといった機能画像、脳表面画像、立体画像などが得られるようになった。
② CT、3D-CTA
CTについてもマルチスライス化が進んだ。これにより、高精度の画像情報が得られるようになり、血管、頭蓋内構造物を立体的に見られるようになった。撮影した画像は患者への説明にも役立っている。
③ DSA、3D-DSA、Stereo DSA
DSA(digital subtraction angiography、デジタル減算血管造影法)の技術も近年向上した。以前は角度を変えながら何度も撮影する必要があったが、今では3次元、4次元での撮影が簡単にできるようになり、血管を立体的に表示できるようになった。また、撮影時間の短縮化、被爆量の抑制が実現した。
④ SPECT、PET
SPECTにより脳血流量と同時に血管予備能を調べることが可能となった。ただし、血管予備能の正常値は患者の状態や施設、技師によって差があるため、判断が難しいことに注意が必要である。
PETについてはサイクロトロンが必要となるため、その普及は限定的である。
⑤ 超音波診断装置(Echo、TCD 、CFI )
超音波診断装置は侵襲がなく、実時間性に、動的な情報を得ることができることがメリットである。近年、画質が非常に改善されており、形態的変化、血行動態の把握、微小栓子の検出などの診断だけでなく、手術の際にも使用されている。
(2)治療
① 手術顕微鏡
手術顕微鏡は、マイクロサージャリーに必須の機器である。
学会で手術顕微鏡の有用性が議論されるようになったのは1970年代前半頃である。当時は、ベテランの医師ほど手術顕微鏡を敬遠する傾向にあったが、現在では一般的かつ必要不可欠の機器として普及している。
現在の手術顕微鏡は、操作性に優れ、光量、拡大率、焦点距離等の調整が可能である。また、手術顕微鏡には術者への負担を軽減するような改良が加えられており、楽な姿勢で、手や足を使って顕微鏡を自由に操作できる。医師にとって手術顕微鏡を用いて手術を行うことには少しも抵抗はなく、むしろ顕微鏡を用いて、明るい術野で、拡大して、安全かつ正確な手術をできることは極めて重要なことであり、不可欠であると感じている。
② CUSA(Cavitron ultrasonic surgical aspirator:外科的超音波吸引器)
腫瘍の切除面を見ながら、大きい血管を残しつつ腫瘍のみを切除し、同時に切除した組織を吸引できる装置である。少ない出血で腫瘍を切除できることが特徴である。特に腫瘍の境界が不明瞭な場合はCUSAが有用である。ただし、硬い組織など組織によっては破壊・吸引の調節が難しいことがある。
③ Contact Laser
YAGレ?ザーを用いたContact Laserは、止血能、切開能に優れている。Contact Laserは、メスやピンセットと同じような感覚で使用できるが、反射光防御のためのメガネをかけるなど使用上の注意点がある。しかしながら、Contact Laserの熟練者は、その有用性を高く評価している。
従来の炭酸ガスレーザーは、強いエネルギーを照射し腫瘍を蒸発させるが、少し太めの血管から出血させてしまうとなかなか止血できないという問題があった。また、炭酸ガスレーザーは、光ファイバーを使ってレーザー光を伝送することができないため、ビーム伝送には反射ミラーを使わなくてはならず操作性が悪かったが、近年使用されているYAGレーザーは光ファイバーを使ってレーザー光を伝送できるため Contact Laser の形で用いることができる。
④ PAL(高周波メス)
PALは、高周波エネルギーを利用した手術機器で、メスの先端部を当てると高熱で患部が蒸発・気化することを利用して切開・切除する事が出来、止血効果が高い。
2代目のPALの開発には、聖マリアンナ医科大学脳神経外科の橋本卓雄教授が関わっている。3代目の開発についても話が持ち上がったものの、残念ながら頓挫した。
⑤ ガンマナイフ(定位的放射線治療システム)
ガンマナイフは、脳神経外科領域の治療においても非常に広く使用されている。ターゲ
ットを定め確実な照射が可能であり、主に脳腫瘍や脳動静脈奇形の治療に用いている。
⑥ サイバーナイフ(定位放射線照射治療システム)
サイバーナイフ は比較的新しいシステムであり、ガンマナイフと同様にターゲットの確実な照射が可能である。自由度が高い特徴が有り、横浜サイバーナイフセンター(院長:佐藤健吾氏)などサイバーナイフセンターが増えてきつつある。
⑦ 血管内手術(IVS)
現在、血管や動脈瘤の閉塞、閉塞箇所や狭窄箇所の拡張などで血管内手術が行われている。IVSは今後、さらに発達普及すると考えられる。
⑧ 内視鏡手術
手術用の内視鏡は飛躍的に進歩した。脳神経領域では、脳腫瘍、脳出血などの手術に用いられている。
⑨ 定位脳手術
定位脳手術は、頭蓋内の深部の一点に正確に電極を刺入し、凝固したり、刺激したりして不随意運動などを治療する方法である。脳の中心部にある第3脳室をもとに基準点を決め、そこからの距離で目標を定める。手術の際は、患者の頭部に手術用のフレームを装着してから脳のCTを撮影し、患者の脳のマップを作成して行う。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)血管撮影装置
血管病変の診断には、まずMRAや3D-CTAなど低侵襲の方法が用いられることが多いが、より細かく見たり、手術の場合にはDSAが行われている。これはカテーテルを脳血管の根元まで挿入し造影剤を注入して撮影する方法である。この方法では動脈硬化のある血管の中にカテーテルを送り込まなければならずある程度のリスクを伴う。疾患部位まで管を入れずに点滴などによって描画に十分な造影剤を投与でき、脳血管を鮮明に表示できるようになればより理想的な血管造影法となる可能性があり、今後の開発が期待される。
(2)CUSA
CUSAで切除した組織の病理診断等を手術中に連動して行えるようになると、その結果を手術に反映させながら行うことができるようになる。洗浄と吸引の微調整やバランスで切除能が大きくかわり、これらの改良で出血量を減らし、切除面をより見やすくできると思われる。ハンドピースをより小型化、軽量化し、先端に取り付けたチップの形も多様なものを用意する必要がある。
(3)PAL
止血効果を既存のPALよりもさらに効率的に行うことができればより有用なものとなる。小型のCUSAを開発し、CUSAで破壊しながら、必要に応じて止血を効果的にできる「CUSA-PAL」ともいうべき手術器機ができることを期待する。
(4)血管内手術
血管内手術の際に破壊された血栓の回収をより確実に出来るようになれば、カテーテルを挿入し、レーザーや超音波等で血栓を蒸散させたり、細かく壊したりして、より確実で効果的な血行再建ができると思われる。既存の医療機器で、崩した血栓を網で回収するものがあるが、こうした方法では回収が不十分であるため、もっと新たな発想が必要であろう。
また、動脈瘤の塞栓術では、コイルなどを粗につめるのみで、それが核になり適当な血栓が入り口まで生じ、そこに周囲からの内皮細胞が覆うようになれば、理想的な手術法になると思われる。
(5)MRI
現在のMRIの課題は、術中のモニタリングが難しいこと、既存の装置は大掛かりであるためもっと小型化する必要があることなどである。
(6)CT
MRI同様、現在のCTの課題は、術中のモニタリングが難しいこと、既存の装置は大掛かりであるためもっと小型化する必要があることなどである。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)持続超音波ガイド下手術
脳腫瘍の手術の際、術野から超音波を当てると最初は良好な画像を得られるが、手術開始後は術野の組織片、血液、空気などで間もなく画像が乱れて役にたたなくなるうえ、手術と同じ骨窓から行うので同時にはできず、肝心な場面でも超音波画像をみながら手術することは出来ない。この両者を解決するために、持続的超音波ガイド下手術を行っている。これは、術野の反対側に小さな穴を開け、そこから超音波モニタリングをしながら同時に超音波画像下で手術をする方法である。この方法だと、手術の最後まで良好な超音波画像下で手術を安全に行うことが出来る。
この方法をさらに改善するためには、超音波プローブの小型化、3次元プローブの小型化が必要であり、画像の解像度のさらなる向上が期待される。血管の描出も著明に改善されてきており、GE社が開発しているB flowでは、血管が鮮明に、より実像に近くなってきているが、現段階では浅い箇所でしか見えないことが課題である。
超音波用の造影剤として、長時間のモニタリングができ、かつ安全に使用できる造影剤が開発されれば、超音波による術中モニタリングは飛躍的に発展すると思われる。また、術中に超音波プローブの固定器の開発も必要である。
(2)HIFU(強力集束超音波)
HIFUは強力なエネルギーを持った超音波を一定の焦点に集めることによって、途中の組織に障害を与えることなく、脳腫瘍などを破壊する装置であるが、まだ脳腫瘍用のものは開発途上である。この技術と抗体をつけたバブルとを組み合わせて病巣を破壊させる方法なども検討されている。低侵襲で、かつ放射線も使用しないで威力を発揮することができる可能性があり、大いに期待される。
(3)超音波Bモード画像
経頭蓋的に、さらに鮮明な画像を得られる超音波診断装置の開発が求められる。
(4)経頭蓋ドプラ法
経頭蓋ドプラ法は、頭蓋骨の上から超音波を照射し、脳血管の血流速度を測定する検査法である。現在の経頭蓋ドプラ法の課題として、(1)頭蓋骨の透過性が不十分な例があること、(2)測定部位の確認が不十分などである。照射方向を軌道修正して、常に最適な観測ができる技術が望まれる。
(5)超音波血栓溶解療法
現在、超音波を照射することによって血栓を溶解させる技術の開発が進められている。経頭蓋的超音波照射と薬物による血栓溶解療法を組み合わせてより効果をあげようというものである。超音波による侵襲性の低い治療方法であるため、今後の発展が期待されている。
(6)マイクロバブルによる超音波治療
病巣の組織を抗原とし、それに対する抗体を作成し、これにマイクロバブルを結合させると病巣に集めることが可能となる。ここに超音波をあてて病巣の組織を選択的に破壊させることが可能となり、侵襲が少なく、効率よく治療を行える可能性があり、開発が期待される。
(7)血管新生刺激装置
硬膜の血管から虚血性の脳組織に血管を新生させ、誘導する手術方法(RDP:Reversed durapexia)を開発し、行っている。ここに、低エネルギーのレーザーや超音波を併用して血管新生を増強しうる可能性を検討している。低エネルギーレーザー、あるいは超音波で組織の活性化を期待できる。
(8)超音波断層撮影
CTやMRIに比べると超音波は侵襲が低いこと、簡便にできること、反復してできることなど多くの長所をもっている。すでに手術中の超音波断層像は可能になったが、経頭蓋的あるいは小さな骨窓を介して可能になれば有用性は高い。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器に求められること
医療機器には「低侵襲性」、「安全性」、「確実性」、「容易な操作性」が求められる。これらを評価するための指標が必要であろう。
(2)医学?工学の連携、産学連携
メディカルとエンジニアリングが医療機器の開発を目的としてよい連携をとってあたれることが大切である。メデイカル側は何が必要かを知っているし、エンジニアリング側は具体的に作成していくことができる、それが実際に有効かはメデイカル側がより判断でき、常にフィ?ドバックしあいながら真に役立つ医療器機の開発ができると考える。実際には双方の具体的な関心事が異なることがしばしばあることで、これを理解しあい、克服していかないとなかなか完成まで辿りつけない。
また、医療機器の研究開発には必然的にメーカーが関与して産学連携体制が組まれる。しかし、メーカーは利益を優先しているため、研究開発が軌道に乗っている場合でも採算が見込めなければすぐに撤退してしまう傾向がある。医療機器の開発には時間とコストがかかること、機器の製品化は人命に関わるリスクを伴うことも開発の壁となる。
こうした問題は容易には解決できないことではあるが乗り越えて行かなければならず、臨床医がもっと研究開発に関心を持ち、メーカーが開発に積極的かつ持続的に参加して行く必要がある。さらに、期待しうる開発には国の資金援助がさらに増えれば、研究開発や製品化が促進されると考える。
(3)ロボティックス
脳神経系の手術におけるロボティックスはまだ具体的に想像することが難しい。「da Vinci」は不測の事態に対応することができないのではないか。今後の発展を見守って行きたい。


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