ニーズDB:医師インタビュー
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永田 泉 先生
長崎大学医学部・歯学部附属病院
脳神経外科 教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は、脳血管障害である。

実施頻度の高い手技は、動脈瘤のクリッピングや摘出手術、脳動静脈奇形(AVM)の摘出術、バイパス手術、頚動脈内膜剥離術、脳腫瘍摘出手術などである。この他、当院の脳神経外科としては、血管内治療も実施している。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)検査・診断
① CT
脳血管領域では、MDCTの発展が診療成績向上や患者QOL向上にもっとも貢献した。
血管は心拍に伴い拍動しているため、3次元のCT画像を描出するには撮影時の高速化が必要とされていた。64列の検出器で広い範囲を瞬間的に撮影することで3次元化画像が得られるようになり、血管造影の件数の大幅な削減につながった。
CTはMRIに比べ像がゆがまないことが強みだが、X線の吸収度の違いを画像化しているため、骨があると見づらく、空間解像度やSN比が悪いことなどが弱みである。
② MRI
近年、MRIの空間解像度が向上し、詳細な画像を描出できるようになったため、診断に使いやすくなった。
MRIはペースメーカー利用者には禁忌になるといった制約や、画像がゆがんでしまうことが今後の課題である。
現在のMRIは、プロトン分子の密度を画像化している。医療機器の開発者は、その情報を使って体内の何を見たいという目標を明らかにしておかなければ開発を進めにくい。
(2)治療
① 血管内治療
脳血管領域において、この10年で大きな発展がみられた。血管内手術の件数は全国的にかなり増加している。コイル塞栓術の実施件数は、5年前に比べると3倍ほどになっている。
② ラジオサージャリー
脳血管領域において、この10年で大きな発展がみられた。ここでいうラジオサージャリーとは、放射線を用いた手術機器(定位的放射線治療機器)の全般をいう。代表的な機器はガンマナイフである。体表に傷をつけずに深部の治療ができるため、低侵襲である。
2006年には強度変調放射線治療(IMRT)が先進医療として厚生労働省に認可され、今後の展開が期待されている。
③ 内視鏡
血管内治療やラジオサージャリーに次いで、発展がみられた。脳神経外科領域では、脳下垂体などの手術において、手術成績の向上等に大きく貢献した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)検査・診断
① SPECT
SPECTの課題は、解像度が不十分であること、血流しか測れないこと、デバイスの開発が進んでいないことなどである。また、PETと比較すると、特定の生理物質を放射性同位体で標識して検出できないことや、核種が限定されるといった点で劣っている。もう少しスペシフィックな検査が行えることが望ましい。
SPECTは、脳血管領域で手術の適用の判断材料として使われており、重要な位置づけにあるにも関わらず、この5~10年では機械的に最も進歩していない。核医学分野の機器ではSPECTが臨床現場にもっとも普及しているが、あまり増加していない。
② PET
PETの課題は、装置や試薬の価格が非常に高いため、日常的な検査には使えないことである。現段階のPETは診断技術の主流にはなり得ず、研究用の機器として位置づけられている。
PETは、機能診断に使われることが特徴で、SPECTよりも腫瘍の部位を詳細に把握できるなど特異性が高いことは強みである。技術的な発展はそれほどめざましくはないが、普及台数は増えている。
(2)処置・治療
① クリップ
クリップの製造・加工技術が必要とされている。既存のクリップの材料は主にチタンが使われているが、チタンは壊れやすく加工性が悪いため、プレス機を使った手作業により製造されている。製造技術上の問題を解決できれば、様々な形状のクリップを作ることができるようになる。クリップを自動的に切り出す機械や、グレードをつけられる機械は、実現可能であると思われる。
素材については、現在使われているコバルト系材料やチタン系材料の他に、もっとよい材料を開発してほしい。
既存のクリップのデザインについては、ヘッドが大きすぎるため改良の余地がある。ただし、ヘッドが小さすぎると取りはずしにくくなるため、大きさの調整には注意が必要である。既存製品には様々な形のクリップがあるが、選択肢が豊富とはいいがたい。性能的に滑らないものや、非常に固いもの、把持力が強いものなど、個々の動脈瘤によって求められる性質はケースバイケースである。したがって、一つのクリップを調整していろいろなことに使えるようにするか、種類を豊富にして選択肢を増やす必要がある。
② コイル
今のコイルでは大きい動脈瘤に対応できないことが課題である。コイルを入れたためにかえって動脈瘤が大きくなることがよくあるためである。また、あまり固いものを入れると瘤が破ける恐れがある。
既存のプラチナ製コイルに接着性や血栓性がないことも問題である。血栓性がなければ血栓による合併症は起こらないが、その反面で、瘤の中でコイルが動き回ると再増大の原因となる。コイルが瘤の中で動きまわるのを回避するため、挿入したらカチッと留まるような形状にするといった工夫が必要である。
③ 塞栓材料・接着剤
コイルが瘤の中にとどまるようアシストする材料や、コイルの後に入れる接着剤のような材料があるとよい。親血管にコイル等が逃げないよう、コイルと絡めて入れられる塞栓材料として用いる。
既存の塞栓材料にはまだあまりよいものがない。たとえば、既存の樹脂系の液体塞栓材料はあまり使い勝手が良くない。また、シアノクリレート系の接着剤(医療用のアロンアルファ)を塞栓材料として使うこともできるが、硬化速度が速すぎること、神経毒性があること、一部しか生体吸収されないため残留物により炎症・血管収縮・狭窄などが起こることが問題である。適当な粘度と硬化速度で固まるものが出てくると使いやすい。なお、瘤の中にうまく収まってくれるか、カテーテルの中をスムーズに通るかなどが問題である。
接着剤やコーティング剤などは、もう少しよいものを製品化してほしい。たとえば、動脈瘤のコーティング剤など、現状ではコーティング剤そのものがない。ある程度の強度があり、重合するまでに数分ぐらいの時間があり、たれない、といった特徴のある材料がほしい。以前はビオボンドという製品があり、使い勝手が良かったが、発売禁止になってしまった。
④ 人工血管
人工血管の開発が停滞している。径が4mm以下の人工血管を開発してもらいたい。既存の細い人工血管は閉塞しやすいため、細い血管をバイパスする際は橈骨動脈を採取して使わなければならならない。
⑤ 縫合材料・装置
人工血管の縫合材料をもう少し改良してほしい。マイクロレベルの縫合装置のようなものがあるとよい。今は、細い糸で吻合している。その他、リングやホチキスのようなものもあるが、あまりよいものがない。
縫合材料は、生体親和性があること、結んだところで切れないこと、鉗子で持ったときにも切れず、きちんと持てることが望ましい。既存の縫合材料は切れにくいが、伸びたり滑ったりして持ちにくく、機械結びがやりにくい。したがって、既存のものより切れにくく、金属の器具できちんとつかめるものが望ましい。
⑥ 縫合用の針
縫うときに通りがよく、曲がらない針が望ましい。日本製の縫合用の針はあまり質がよくないため、よい針を研究開発してほしい。
⑦ 手術顕微鏡
顕微鏡のレンズを光学レンズに頼っている限り、焦点深度や明るさ、コントラスト等に限界がある。既存の手術顕微鏡では、焦点を合わせるために焦点深度や焦点距離を動かしてピントを合わせているが、構造的に無理があり、機械としては不完全な状態にある。
将来的にはCCDカメラを使って立体視できるようにするのがベストである。少なくともCCDの方が人間の目よりも数倍は感度が良い。もう少し解像度が改善されれば、確実にCCDの方がより深い範囲を見られるようになる。さらに、暗いところでも術野が見えることが望ましい。CCDを用いる場合にはヘッドマウントディスプレイ等を装着する必要があるかもしれないが、術野がより見やすくなり、手術がしやすくなるならば、そうした装置を装着することに対する医療者の抵抗は少ないだろう。
なお、既存の顕微鏡や内視鏡には、視野内に診断画像などを重ねて表示するものや、視野外に付加的な情報を表示するためのモニタがついたものなどもあるが、表示された情報が邪魔であったり、操作が煩雑であったりする点が課題である。必要なときにだけ表示されればよい。
⑧ ステント
米国では脳血管へのステント留置が多数実施されているが、日本では脳血管用のステントが2008年4月にようやく認可されるため、まだ普及していない。今後、カバードステントも含めた各種ステントを普及させてほしい。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)骨切り技術
既存の技術よりも切りしろが小さく、骨の下の硬膜等を傷つけない骨切り技術がほしい。
現在、開頭手術の際は、糸鋸やドリルで頭蓋骨を切っているが、切りしろが大きいことや安全性の確保が課題となっている。一時はレーザーも使われていたが、現在は下火になっている。操作中に器具の先を何回もふき取る必要があり、骨を切り離したときにその下の硬膜や組織も焼けてしまうといった問題があった。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について




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