ニーズDB:医師インタビュー
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高橋 明 先生
東北大学病院
脳血管内治療科 教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は脳血管障害である。専門とする主な疾患は脳卒中である。

脳血管内治療全般に精通しているが、実施頻度の高い手技は、脳動脈瘤の塞栓治療、頸部頸動脈のステントである。このほか硬膜動静脈シャントの経静脈的塞栓療法や血管奇形の塞栓治療などもおこなう。
脳血管内治療は仙台地区でチームとして取り組んでいる。急性期の脳卒中治療は関連病院(広南病院、年間症例数約350)で主として行っており、その他この4月から仙台医療センターでも診療を開始した。血管内治療の実施件数は、東北大学病院と関連病院をあわせて年間約500症例となる。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
① 3次元の血管造影装置
3次元の血管撮影装置の登場で、医師の経験や勘によらず、短時間で、血管の状態を診断できるようになった。治療前の判断、治療計画、治療中の判断、治療後の評価などを短時間で確実に行えるようになった。
このほか、3次元ということで、動脈瘤、血管狭窄、動脈硬化などについて、病気の本質に迫ることができるようになった。例えば、動脈瘤について、コンピュータフリュードダイナミクス(CFD)等による血流解析とシミュレーションにより、動脈瘤の成長や破裂のリスクを評価し、それに応じて治療計画を立てることができるようになった。
適切に治療計画を立てられることで治療成績が向上している(臨床現場での実感がある)。
(2)治療
① 脳動脈瘤塞栓術(GDC)
脳動脈瘤塞栓術(Guglielmi detachable coil:GDC)は約10年前から広く使われるようになった。1997年に認可され保険収載された。現在では脳動脈瘤の約20%で開頭手術をせず血管内治療が行われるようになった。
GDCが導入されたことで、重症のくも膜下出血患者や合併症をもつ患者、高齢の患者など全身麻酔を伴う開頭手術に耐えられない患者を治療できるようになった。
GDCは、開頭手術に比べて、入院期間が短くなる、開頭手術後に伴う愁訴(頭痛など)が少ないといった点で、患者のQOLを明らかに向上させた。
② 頸部頸動脈ステント留置術(CAS)
頸部頸動脈ステント(Carotid artery stenting:CAS)はこの10年の間に登場した。従来は頸動脈を直接露出させ動脈硬化部分を摘出する手術である、頸動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy:CEA)が行われていたが、これを補完するかたちでCASが導入されている。抗凝固薬や抗血小板薬などの進歩もあり、CASの導入が進んだ。
日本は欧米に比べて急速にCASの導入が進んでおり、症例全体の半数近くがCASであるというデータもある。米国ではCASは全体の20%程度である。
CASも、GDCと同じく、患者の適用範囲を広げ、QOLを向上させている。
平成20年4月からは、脳の保護を行う治療デバイスによるステント術(遠位閉塞、近位閉塞、遠位閉塞フィルター)が保険適用になる。脳の保護とは、主として血管内治療を原因とする脳血管閉塞を防ぐことをいう。


■既存の医療機器の改良すべき点について

動脈瘤の塞栓術に関しては、現在の治療法はまだ不完全で、再発の問題が残っている。再発には、処置した破裂動脈瘤が再破裂する場合と未破裂動脈瘤が破裂する場合とがある。
GDCの再破裂リスクは、クリップ術に比べて遜色ないというデータが出つつあるが完全ではない。未破裂動脈瘤は、再出現や増大が問題だが、現在はこれをコントロールできていない。動脈瘤の発生と成長のメカニズムを明らかにする研究が必要である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)フローシミュレーションに基づくテーラーメイド型の動脈瘤治療デバイス
現在の治療では、「動脈瘤の内部を埋める」という発想だが、「動脈壁をつくる」という発想で、機器を開発することが考えられる。動脈瘤の発生の原因は血管壁にあると考えられるので、動脈壁をつくることが大切である。デバイスのイメージとしては、ステントのようなものをスカホールドとして補強をし、動脈瘤の状態によっては血管壁の修復を促進するための薬剤を併用(静脈注射、経口、薬剤溶出)するようなかたちかもしれない。
このためには、正確なフローシミュレーションが必要であり、そのシミュレーション結果によって個別的にデザインされると考えられる。動脈瘤の特性に応じてテーラーメイドされたデバイスである。最終的には3~4種の代表的な形態に収斂するかもしれない。原理的にはすべての動脈瘤に使えるだろう。
このデバイスのインパクトは、デバイスの簡便性や汎用性をいかに高められるか、足場としての強度を備えたうえでいかに小さく柔らかくできるかによるだろう。現在の方法と比べた圧倒的な利点は、手技が単純で、標準化が容易になることである。更にフローシミュレーションによる解析により事前に治療戦略を立てられることである。現在は手術中にコイルの使用量などを考えながら手術を行っている。
(2)ステント(特に脳保護機能を高めたデザインのステント)
ステントは心臓と同様に薬剤溶出性の流れが考えられる。また、脳保護の観点から、動脈硬化部分がステントと血管壁の間にトラップされるようなものが考えられる。現在は、ステントの網目(ステントストラット)が非常に大きいが、この網の目を小さくすることで、特別なプロテクションを設けなくても、脳血管閉塞の原因となる物質を血管内に漏らさないようにできるかもしれない。
(3)その他
将来的にはインターベンションが廃止されるほど薬剤療法や再生医療が進歩するかもしれない。
映画「ミクロの決死圏」さながらに、静脈注射でマイクロマシンを体内に入れ、磁場等で動脈瘤のある部位まで誘導し、患部でマイクロマシンによる診断や治療を行う時代もくるかもしれない。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器開発の牽引役となる企業の必要性
よくいわれることではあるが、日本の医療機器開発における課題は、医療機器開発を担うベンチャー企業が少ないことである。
米国において新たなデバイスを開発する牽引役となっているのは企業である。大学ではなく、企業活動が原動力となって、新しいデバイスが生み出される。一方、日本では、新たな医療機器のアイディアは、大学や病院など、企業ではないところから出されており、そのアイディアが製品化され世界に出ていくところまで結び付いていない。このあたりが日本発のテクノロジーが世界で通用しない原因のひとつではないか。
(2)医療機器の研究開発マネジメントを担える組織の必要性
大学や病院で生まれたアイディアや大学の研究成果を活用して、医療機器を具体的に設計し、研究開発をマネジメントできるような組織が必要である。


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