ニーズDB:医師インタビュー
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小野 稔 先生
東京大学医学部附属病院
心臓外科 臓器移植医療部 講師
心臓血管外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は心臓外科、特に成人心疾患である。具体的には虚血性心疾患、弁膜症、心不全をきたす疾患(心筋症など)を扱っている。成人心疾患チームの年間手術数は、それぞれ約80人、約70人、約20人である(2007年)。

実施頻度の高い手技は、虚血性心疾患では冠動脈のバイパス手術が主であり、その他には虚血性僧帽弁閉鎖不全症、心室瘤の治療を行っている。弁膜症については弁置換及び弁形成術、心不全については心臓移植、人工心臓の植込み及び離脱を行っている。心臓移植は昨年2件実施した(日本全体で10件)


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)治療
① 補助人工心臓
埋め込み型の補助人工心臓は、世界的にみると画期的な進歩を遂げ、心不全患者のQOLの向上に大いに貢献した。
15年前に欧米で第1世代の補助人工心臓が登場した。拍動型である。日本人の体格には合わないサイズだった。機械的な故障、血栓症、感染症等により、予後は芳しくなかった。
1990年代後半に第2世代の補助人工心臓が登場した。無拍動型である。第1世代の数分の1程度まで小型化が進み、適用対象者が拡大するとともに感染症のリスクが軽減した。
21世紀に入って第3世代の補助人工心臓が登場した。プロペラの軸受のない磁気浮上型ポンプである。接触面での発熱がなく血栓が形成されにくい。摩擦による部品の消耗が抑えられるため装置の寿命が長くなる。第3世代である「デュラハート(DuraHaert)」 は2007年に欧州でCEマークを取得し、販売が開始されている。
米国では、「ハートメイト2」が、小型であること、埋め込みが容易であることから市場でのシェアを伸ばしている。
埋め込み型の補助人工心臓に関して日本は遅れている。ようやく第2世代の補助人工心臓「エバハート 」の治験が行われているところである。
② スタビライザ
バイパス手術ではスタビライザが大きく進歩した。人工心肺を用いないオフポンプ冠動脈バイパス術の普及に貢献した。10年前のスタビライザは心臓を押さえ込むことで固定する方式だったが、1999年~2000年頃から、心臓の表面を吸着して固定する方式になった。
また、スタビライザのアーム部分のフレキシビリティが大幅に改善され、アームの形を自由に変えられるようになった。
③ 人工弁
弁膜症では人工弁が進歩した。弁口面積(血液の通る口の面積)の大きな機器が開発され、心臓への負担の軽減に貢献した。10年前と比較して弁口面積が1.6~1.7倍になった。
また、人工弁の抗血栓性が向上した。原材料の素材は変わらない。血栓ができやすい箇所は、リーフレットの軸をはめるピポットである。この部分の構造の改良が進められた。
(2)診断
① 心エコー
心エコーが進歩した。具体的には、画像の解像度の向上、3次元エコーの登場、血流動態の評価機能の実現、ドプラー機能の飛躍的な向上などがあげられる。また、血流動態の他にも心筋の動きの位相も観察できるようになった。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)補助人工心臓
補助人工心臓は、永久植込み治療(DT: destination therapy)をめざし、さらなる小型化、動作の安定性の向上、抗血栓性の向上が求められる。DTが可能となれば心不全治療の選択肢が増えることになる。心臓移植の代替療法となるかもしれない。10年以内にはDTでの使用が実現すると思われる。
補助人工心臓を使用する場合は、抗凝固剤(ワーファリン)、抗血小板薬(アスピリン)を服用しなければならない。これについては今後も変わらない。抗凝固療法に伴う合併症もある。抗血栓性が改善され、人工弁と同程度の抗血栓療法でよくなればDTの実現が近づくだろう。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)カテーテルによる弁置換
カテーテルによる弁置換が今後5~10年で実現化すると思われる。これは、人工弁をステントのように折りたたみ、カテーテルを使用して人工弁を患部に挿入する手技である。現在、欧米で臨床治験が行われている。
(2)自動血管吻合器
内径1.5~2mmの細口径の血管に使用できる自動吻合器の実現が期待される。自動血管吻合器の性能は徐々に向上しているが、手縫いの方が吻合の質が高いため、日本では自動血管吻合器の使用例は少ない。バイパス手術では血液の流れを保つことが重要となるが、自動吻合器を使用した場合、術者の手による吻合に比べ、血液が詰まってしまうことが多かった。
米国のベンチャー企業が昨年開発した自動血管吻合器が性能がよいということで、注目している(2007年11月の米国心臓病学会(AHA)で発表された)。現在、米国でIDE(Institutional device exemption:施設限定使用)が行われている。データ収集の結果、自動血管吻合器による吻合の質が、平均的な外科医によるものよりも高ければ、早いスピードで普及することになるだろう。
(3)新しいコンセプトのロボット手術システム
より低侵襲な治療を実現するために新しいコンセプトのロボット手術システムの実現が期待される。
心臓外科分野におけるロボットシステムに求められる機能は、(1)縫う(吻合)、(2)切る、(3)視野展開(医師が見たいところ映し出す)の3機能である。「縫う」については従来からある程度可能だが、視野展開を上手く行うシステムはない。ダビンチでは内視鏡を使用しているが、内視鏡は曇りに弱い。内視鏡の課題については10年前から指摘されており、改良も加えられているがまだ十分でない。曇りのない内視鏡システムの開発が求められる。また、限られた空間内で自由にアームを動かせるアーティキュレーションの技術が必要である。このような開発は、工学的には十分に実現可能である。
現在、経済産業省の主導で、循環器領域・脳神経領域および消化器領域を対象とした新しいロボット手術システムのプロジェクト(5年間)が開始されている。

(小野先生はこうしたシステムに関して企業への共同開発に協力的であり、助言の経験が豊富である。世界的にヒットした商品もある。)


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)「ユーザフレンドリー」かつ「リユーザブル」な医療機器の開発
この10年で医療機器は大幅に改善・改良された。しかし、完璧な医療機器はまだ存在しないため、今後も同じ方向性で改善・改良を進めてもらいたい。
企業には「ユーザフレンドリー(ペイシェントフレンドリー)」かつ「リユーザブル」な製品を開発してもらいたい。近年、ディスポーザブル(使い捨て)製品が増えているが、「リユーザブル」という観点から地球に優しい製品開発を行ってもらいたい。
(2)新規の医療機器に関する早期の臨床応用の仕組みの整備
欧米の臨床治験で優れた成績が出た新規の医療機器については、特定機能病院など施設を限定し、日本での臨床治験を行わずに臨床現場で使用できるようになるとよい。臨床現場で人種差を考慮して使用すればよい。市販後の全例調査は必要である。厚生労働省は、合併症等の責任問題もあり、許認可に慎重で、許認可のスピードが非常に遅い。
現在、厚生労働省は「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」を開催するなどして、こうした状況を改善しようとしている。同検討会では、ハートメイトXVE、デュラハート、ジャービック2000、エバハートの4種類の補助人工心臓が認められた。また、これらの補助人工心臓の臨床治験を行う場合、従来の治験症例数よりも大幅に少ない症例数とし、市販後調査の比重を増やすという措置がとられることとなった。こうした対応は評価できる。
(3)大学における持続可能な研究開発体制の確保
大学は研究開発プロジェクトの継続性、持続性を確保し、プロジェクト全体に対しての責任感をもっと持つ必要がある。大学での研究開発は大学院生が担うことが多いが、ある程度まで研究が進んだところでそれ以上進まなくなる。その要因は、研究が進んだ頃、つまり学位や業績として十分になった頃に、研究を担当していた大学院生が研究室を出てしまい、後継者を確保できないからである。
(4)研究開発における企業の姿勢
米国ではMGH(Massachusetts General Hospital)が中心となってロボットシステムの研究開発が進められているが、パテント等の企業秘密を提供しないことから研究チームの間で研究上必要な情報が流通しないといった弊害が生じている。企業の多くは自分の手の内を見せず、相手の出方を探るという姿勢を取る。企業独自の技術や権利を主張するのではなく、国家プロジェクトの推進上必要な情報は積極的に出す必要がある。米国では、建設的な発言を積み上げられるよう、プロジェクトの参加者間での合意形成をしつつある。
(5)臨床現場から工学側へのニーズ情報の提供
臨床現場は、臨床現場の実情とニーズを、開発側に対して常にフィードバックすることが求められる。工学的な観点のみで開発しても臨床現場では使えない。
(6)ベンチャー企業の育成
研究開発の最後段階として、ベンチャーをもう少し立ち上げやすい環境をつくる必要がある。日本の補助人工心臓の開発は世界でもトップクラスである。製品としては既に2機種あり、市場に出ても問題のない製品が2~3機種ある。こうした機器は、欧米ではベンチャー企業によって事業化が進められるが、日本ではベンチャーの規制が厳しいため難しい。資金面でも潤沢な資金を確保することが難しい。商品化及び起業化がより容易でなければならない。ベンチャーを起業するための仕組みの整備が求められる。多くの大企業は事業リスクを考慮するため、大企業に技術が吸収されてしまうと積極的に事業化されない。


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