ニーズDB:医師インタビュー
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佐瀬 一洋 先生
順天堂大学医学部附属順天堂医院
総合診療科 臨床薬理学 教授
循環器内科

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1.ご専門の分野について

専門は循環器内科領域で、臨床研究としては医療機器の国際共同治験の支援などを行っている。厚生労働科学研究の研究班等での検討や民間企業からの相談への対応などを含め、年間に数品目の医療機器の開発に関与している。
これまでに開発に関わった医療機器は、循環器疾患のデバイス(ステント、人工血管やICDなど)である。
最近は人工心臓の国内の治験や市販後調査などを支援している。人工心臓は移植医療や再生医療への橋渡しが期待されているが、世界的にも治験が難しい領域である。




2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

近年、薬よりも治療効果の高いデバイスが臨床現場に導入されるようになってきた。
海外の臨床試験によると、補助人工心臓により、1年で8割が亡くなっるような重症心不全患者で、生存率が約2倍に向上したという報告があった。
また、ICDにより、プラセボあるいは薬のみの場合と比較して、5年間で約22%も生存率が向上したという結果が報告されている。
薬剤溶出型ステントについては、従来のステントでは半年後に50%以上の再狭窄を起こす患者が3割ほどいたが、薬剤溶出型ステントを留置したグループではそれがゼロになった。現在、生存率を指標にした長期予後についても臨床研究が進められている。
上記の医療機器臨床試験結果はすべて、The New England Journal of Medicineで発表されている。


■既存の医療機器の改良すべき点について




3.実現が望まれる新規の医療機器について

痛みがとれる、苦しみがとれる、より長く生きられる、より良く生きられる等、患者の便益につながる医療機器が常に求められている。例えば、血栓症や感染症といった合併症が少なく、機械的不具合が発生しない人工心臓など。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)わが国が開発に取り組むべき医療機器
選択と集中という観点から、日本が世界に先駆けて経験する疾患領域に関わる機器については、戦略的に開発すべきである。例えば、わが国では、人口高齢化の進展に伴い、認知症、がん、血管病(循環器疾患)などがますます深刻になる。こうした疾患については、現時点で平均年齢の低い国ではそれほど深刻にとらえられていないため、わが国が先手を取る機会がある。
一方、疾患領域によっては、国際共同治験に参加したほうが有利な機器や、日本では症例登録が難しいもの(感染症の一部など)は日本のみで臨床試験を実施する意義は低い。
(2)質の高い臨床研究を実施する必要性
米国FDAでは、1994年にいわゆるTemple報告がまとめられ、医療機器の承認審査においても必要に応じて質の高い臨床試験を実施して適切な評価指標に対する統計的有意差を検討すべき、という流れが確立した。しかしながら、日本では質の高い臨床研究を支援する態勢が未整備であり、が少なく、臨床現場への導入に際しては保険償還の有無や納入価など、医療経済学的な評価が重視されることもまだまだ多い。質の高い臨床試験の結果を反映して、良い医療機器が保険償還や臨床現場への導入等で評価される仕組みにすれば、企業側にも良い医療機器を開発するインセンティブがわくと思われる。
こうした問題を解決するには、質の高い臨床研究を支援する体制の整備が急務である。前向きにデザインされたレジストリ研究により臨床現場でデータを蓄積したり、他の機器や医薬品等との比較対象試験(コントロールドトライアル)により医療機器の安全性・有効性を統計的に示すことにより、The New England Journal of Medicineのような国際的にも評価の高い医学雑誌に論文が発表されたり、The New York Timesが保険収載を支持する記事を発表したりした例もあり、質の高い臨床研究の実施が良い医療機器の普及につながることが期待されている。
医薬品でも、基礎研究段階で期待された安全性・有効性が、臨床研究の結果で覆されることがあり、したがって、臨床研究はますます重要になっている。最近の例では、善玉コレステロール(HDL)を増やす薬が開発中止された例がある。疫学研究から、悪玉コレステロール(LDL)が高い人は心臓発作のリスクが高く、逆にHDLが高い人はリスクが低いことが知られていた。また、スタチンというLDLを下げる薬剤は、臨床試験結果から心筋梗塞の一次予防、二次予防に有用であることが確認され、幅広く処方されている。そこで、更にHDLを上げる薬を開発すれば予後の改善が期待され、基礎研究や初期の臨床試験結果も良好であった。しかし、大規模比較対照臨床試験の結果、心血管イベントや死亡が増加するということがわかり、開発が打ち切られている。
(3)わが国の医療機器の薬事承認のしくみについて
日本では、診断用機器は国際競争力が高いものの、治療用機器は輸入に頼るものが多い。しかしながら、いわゆるデバイスラグ、すなわち海外で使われているものよりも数世代前の機種の医療機器が使われている状況が存在し、これは、わが国の患者にとっての不利益につながる。国策として、国民を守るための体制整備が必要である。
わが国では、薬事審査の仕組みや体制に問題があるとの皮相的な指摘もあるが、医療機器の審査を促進のためには、産官学の全てがスキルアップすることが重要であり、国際レベルの治験を多数実施して速やかにデータを出したり、優秀な人材が審査側や企業側で多数活躍するようにするなど、機器を使用する医師の側も参加意識をもつべきである。これまで、医師に対してそういった教育はなされていなかった。
佐瀬は1999年~2000年に医薬品医療機器審査センターで医薬品の審査に関わっていたが、当時は医療機器の審査部門に医師がいないため、そちらも手伝わなければならない状況であった。一方、米国FDAでは多数の医師が審査員として雇われており、評価の方法や体制整備について多くを学んだ。
(4)先を見据えた環境整備の必要性
医療機器の開発において最近話題になっているのは、併用薬の問題、および医薬品と医療機器のコンビネーションである。薬剤溶出型ステントに塗布される薬や、医療機器の利用に伴い服用する必要のある併用薬のなかには、日本で医薬品としては未承認のものがある。このことが理由で新しい医療機器の臨床評価に時間がかかる、日本国内の患者が不利益を被っていると考えられるケースがある。
日本は、薬事法の枠組みで医療機器と薬の両方を規制しているという特徴があり、ある意味では両者をバラバラに扱わなくても良いという利点があるかもしれない。しかしながら、薬剤溶出型ステントや、併用薬としての抗血小板薬の導入では、日本は他国から大きく遅れをとった。今後は医療機器や医薬品の開発動向を見据えながら、リアクティブに動くのではなく、プロアクティブに動く必要がある。
米国ではプロアクティブな取り組みとして、FDAで「クリティカルパスイニシアティブ」という枠組みがある。今後どのような医療機器が出てくるか、開発、治験、審査、市販後の各プロセスですべきことや想定される課題を前倒しで検討し、法整備等に反映している。日本でも、内閣府を中心として経済産業省、文部科学省、厚生労働省が連携するための「司令塔」を作る動きが進んでおり、その枠組みを活用して早い段階から承認審査を意識した研究が実施されることが望ましい。
(5)治験相談のあり方
日本でも、医療機器の治験相談が開始されたが、以前は申請資料が提出されて初めて試験を実施した理由、試験内容の確認等が行われており、効率が悪かった。更に、医療機器メーカーは数が多く規模も小さいため、「てにをは」の修正で膨大な時間を費やす品目もあり、貴重な審査資源が浪費されていた。
今後、治験相談の体制を充実する上で望ましいのは、開発のシーズ・ニーズ探しの段階から、基礎研究、臨床研究、市販後のどのプロセスでどんな問題があるか、どのプロセスでどう対応すべきかをクリティカルパス上で検討し、開発者にアドバイスを行う体制を整備することである。現在の日本には、まだ、これを検討する場がないが、HBD(Harmonization by Doing)のように日米共同で治験相談を実施する枠組みや、先端医療に関するスーパー特区のように早い段階からの治験相談を意識した体制整備が進みつつあり、これらに期待したい。
(6)医療機器の研究開発助成について
日本には、優秀な技術者や科学者おり、基礎医学や工学の分野では世界的にもその業績が評価されているにも関わらず、医療機器の分野では臨床評価や産業化が遅れている。
従来、文部科学省や厚生労働省、経済産業省等では、医療機器の研究開発を支援しているが、学術研究の成果が製品の開発研究事業として引き継がれない等の問題が指摘されており、次世代医療機器審査・開発ガイドライン作成検討会のように、省庁間の連携が模索されてきた。
また、わが国で医療機器の臨床開発の拠点を整備することが期待されているが、例えば冠動脈ステントを例にとれば治験で実際に大多数の症例を登録したのはナショナルセンターや大学病院ではなく、レジデントが集まる市中病院であった。その背景には、大学病院は心血管インターベンションの急速な発展という医療の変化への対応が遅れていたという歴史的な背景もある。一方で、現時点では国の臨床研究支援体制整備は主にナショナルセンターや国立病院、大学病院を中核・拠点としており、市中病院にはあまり届いていない。
今後、わが国として、医療機器の臨床評価がきちんとできるようにするためには、被験者を守るための制度を中心に、拠点整備、人材育成、開発支援体制を充実させ、利益相反に留意しつつ必要な資金を提供する必要がある。
特に、ヒトを対象とした臨床試験においては、開発者の姿勢が重要である。インパクトファクターのみに重きを置いた研究や、シーズがあるから誰かで試したいという姿勢ではなく、試験に参加する患者を保護しつつ、将来の患者にも成果が届くように、常に患者目線での開発に取り組むべきである。
(7)厚生労働省が目指すべき姿
FDAの審査官から聞いた話で印象的だったことは、以前、自らを「レギュラトリーオーソリティ」と称していたが、その後、「サイエンティフィックエージェンシー」と位置づけ、最近は「ヘルスケアエージェンシー」と位置づけている、というくだりである。昔は単に粗悪品の流通を規制する事業であったが、今は、ヘルスケア全体を見渡し、米国国民のベネフィットとリスクを見極める役割を担っている、という考えである。
薬事法を運用する厚生労働省も、「レギュラトリーオーソリティ」として始まった。その後、いわゆる薬害問題では産業振興(アクセル)と規制(ブレーキ)を同じ部門で実施することの難しさが指摘され、組織再編や体制整備が行われた結果、審査については医薬品医療機器総合機構(PMDA)に集約され、医師、エンジニア、生物統計家等の増員が進みつつある。今後、内閣府を司令塔とする省庁横断的システムを確立し、GHTF、HBDといった国際ハーモナイゼーションを推進することで、、ニーズをいち早く見出だし、シーズを掘り起こし、日本を医療機器の開発の場として発展させるとともに、将来的な患者のベネフィットに繋げて欲しい。
(8)外資系のデバイスメーカとの関係づくり
現在、国際共同開発は欧州(EU)がまず拠点になり、次いで米国、最後に日本という順番が半ば定着しており、外資系のデバイスメーカの中には、臨床開発部門を日本に置かず、輸入代理店として機能しているところがある。これでは、わが国の臨床現場が医療機器の開発から取り残されるだけでなく、わが国に医療機器開発のノウハウが蓄積せず、海外への依存度がさらに大きくなるという問題がある。
大手医療機器メーカには、わが国で営業を行う利点を株主に説明するだけでなく、臨床開発を実施する利点や実績を国民に説明してもらい、開発パートナーとしての拠点病院も研究開発投資を受け入れることで人を育成し、製品を育てるという意識を高くもつことで相互に利点を確認するという好循環を創出する必要がある。
大手医療機器メーカにこうしたインセンティブを理解してもらうためには、国レベルで治験や薬事承認等、各種開発環境を整備する必要がある。


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