ニーズDB:医師インタビュー
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伊達 勲 先生
岡山大学大学院
神経病態外科学(脳神経外科) 教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は脳神経外科である。
脳血管領域のうち、実施頻度の高い手技は動脈瘤のクリッピングである。
伊達教授は、首の動脈付近を切開して動脈瘤の付近までチューブを挿入し、瘤内の血液を吸引して大きな動脈瘤をへこませてからクリッピングを行う「サクションデコンプレッション」という手技を実施しており、これを学会で発表している。脳神経外科医の生涯教育と科学的研究による脳神経外科学の進歩のための学会「日本脳神経外科コングレス 」の会長(第29回)を務めている。

岡山大学脳神経外科における手術件数は約450件である。その内訳は、脳の血管内手術が約100件、開頭による脳血管の手術(瘤のクリッピングなど)が約100件、脳腫瘍が約100件、脊椎関係の手術が約50件、その他の手術である。血管内手術の約9割は脳血管と関連した疾患を対象としている。そのほか、腫瘍の治療のために腫瘍周辺の血流を止める等の手術がある。動脈瘤については、約半数が血管内治療、半数が開頭手術により治療している。岡山大学では、全国平均よりもやもや病の患者の割合が高く、年間で10件程度実施している。首の血管狭窄についてはCEA(頚動脈内膜剥離術)とCAS(頚動脈ステント留置術)のいずれかにより、血管内を広げる手術をしている。高齢者の患者が多いため、侵襲性の低いCASの件数が増えている。その他では硬膜動静脈瘻(Dural AVF)(動脈と静脈にシャントができる疾患)の血管内治療を年間20例ほど実施している。
パーキンソン病に対するDBS(脳深部刺激療法)を含めた定位脳手術を50件ほど扱っている。このほか、ナビゲーション技術やEndo Arm(後述)、覚醒下手術など、新しい手技・技術を積極的に導入している。
また、脳神経血管内治療学会の指導医が2人、専門医が1人いることがこの教室の特徴で、全国の病院で比較しても血管内治療を多く実施している。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)硬性鏡;Endo Arm(オリンパス製)
硬性鏡とは特殊な内視鏡で、狭い術野の中で手術顕微鏡では見えない部分を観察し、術野に死角を生じないようにすることができる。ミリ単位の誤差なしに使用者の意図した位置で正確に止めることができる。動作の制限も少なく、人間の手のように使用することができる。顕微鏡のモニターに視野外表示としてMRIの画像を表示する機能が追加されているものもある。そうした機器では、顕微鏡の術野外に内視鏡やMRIの映像を切り替えて映すことができる。
(2)軟性鏡
軟性鏡は内視鏡の本体が樹脂でできているため可動性を有する。多くは内部にグラスファイバーを有するファイバースコープとも呼ばれる。穿頭術を行い、硬膜を切開して脳に細い管を差し込んでいき、病変部を観察した後、内視鏡の側孔より鉗子やバルーンカテーテルや血液を凝固止血させるための道具類を挿入し、病変部を切り取ったり、穴をあけたり、広げたりといった手技を行う。最近はビデオスコープが開発されたことにより、先端に取り付けられたCCDカメラにより術野の画像を撮影できる。画質はかなり向上している。
(3)クリップ
クリッピングは未破裂の動脈瘤や状態の良いくも膜下出血を起こした動脈瘤に対して頻繁に行われる手術である。サイズの大きな動脈瘤の場合、クリッピングの際に動脈を巻き込んでしまうリスクを含んでいる。動脈を誤って止めてしまうと、その先の脳組織に血液が届かなくなり、脳機能にダメージを受ける。それを回避するため動脈を通す窓があいたクリップ、リング付きのクリップ、動脈の種類にあわせてカーブしているクリップなど様々な形状、大きさのクリップが開発されている。
(4)脳深部刺激療法用電気発生器
脳深部刺激療法とは、パーキンソン病の患者に、症状を引き起こしている視床下核に電気刺激をすることで震戦を抑える治療法。システムが針を連動させてターゲットの場所に針を入れ電気刺激を行うことで症状が軽くなる。なおこれは対症療法であり、病気の進行を止めるわけではない。
頭部に2箇所穴を開けて電極を設置する。視床下核をみつけるために穴を開けた場所に電極を挿入して細胞の活動を捉える。視床下核(STM)に入ると細胞の活性が高くなるため、その場所に電極を挿入する。それを脳の両側に挿入する。
この治療を施された患者は自ら電極のスイッチを入れることで体の振るえを抑えることができる。スイッチをいれてから時間がたつと動きやすくなる。その間電極の間では電気がながれたままとなっている。
(5)覚醒下手術における麻酔深度の表示
覚醒下手術とは患者が意識のある状態で脳の手術を行うこと。患者と会話をしたりしながら患者がどの程度覚醒しているかを確認する。5年~7年ほど前から出始めてきた手術。麻酔の発達と、麻酔の深度が数字で現れるようになったために可能となった。麻酔の深度には個人差があるものの術者にとってはかなりの目安となる。
こうした技術の発展に伴い声帯にチューブに通さなくてもよい挿管が開発されている。声帯に置くだけなので患者の負担を軽くすることができる
(6)インド・シアニン・グリーン
術中にICG(インド・シアニン・グリーン)という蛍光色素を静脈注射すると、血流がある動脈が白く光る。それにより血流があるかどうかを顕微鏡で確認できる。臨床応用はすでにされていて日本で承認されるかどうか微妙なラインにある。
(7)サイバーナイフ
サイバーナイフはシステムが自動的に照射位置を補正することができる。そのため患者が動いても照射位置が動かないため患者の頭部を固定する必要がない。技術が実用化されてからまだ7~8年といったところである。



■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)ナビゲーション
手術中にMRIの診断画像を確認できないことが課題である。通常、前日に撮影、登録したMRI画像を用いて手術を行っているが、手術中のブレインシフトによってナビゲーションの精度が下がる。これを防ぐために患者の脳の撮影前に位置決めのためのチューブを4本程度挿入しておき、大体の輪郭を把握している。
術中エコーを用いたリアルタイムナビゲーションとは前日に登録したMRI画像と手術日に撮影できるエコー画像を組み合わせる技術。MRI画像に比べ、エコーは手術日に撮影できるというメリットがあるが、画像の解像度はMRI画像と比較して低い。
使用における問題点としては、術中にエコーを撮影している間に腫瘍は縮小していくために前日に撮影したMRI画像と術中エコー図との間にずれが生じることがある。そこで腫瘍の特徴的な位置にマーキングをすることで、腫瘍がどの程度縮小したかを判断する。エコーの画像の解像度が低いために単独では腫瘍の概要をつかむのは難しいため、MRI画像と併せて判断する。この両画像を総合した判断は術者に任されている。
(2)深部刺激療法用電気発生器
このシステムには(1)小型化、(2)電池が切れてしまうこと、(3)体内に電極を挿入することで感染をおこす患者がいることが改善点として挙げられる。小型化については、現在の技術を照らし合わせると電気発生器をもっと小さくすることが可能であると考えられる。メーカーに競争相手がいないために改良が進まず現在の大きさとなっている。メーカーが2社以上になれば、サイズが5分の1くらいになるのではないかと考えられる。
電池がの寿命の問題により、定期的(約5年おき)に電池を入れ替える必要がある。無線など外部から充電することができる装置があれば半永久的に使用できる。
(3)内視鏡
内視鏡の改善点としては(1)小型・軟性化、(2)画質の向上、(2)視野角の拡大が求められる。サイズに関しては、現在の内視鏡は隙間から入れるが、一定の太さを確保しなければならない。最終的には脳の隙間から入っていける太さ、軟らかさが理想である。
(4)コイル
コイルの改善点は動脈瘤に完全に収まるようになることである。コイル塞栓術に使用されるコイルの問題点は動脈瘤を完全に塞ぐことができずに一部隙間を残してしまい、血流が流れ込んでしまうことがある。そこで現在では様々なコイルが開発されている。例としては、慈恵医大の村山先生により、コイル自体の膨張によって動脈瘤を塞ぐコイルが開発されている。その他にも動脈瘤の内壁に引っかかるコイルや、糊のようなものを動脈瘤に入れるなどのアイデアが議論されている。
(5)術中MRI
術中MRIの改善点は(1)画質の向上、(2)サイズの縮小化、(3)リアルタイムで画像が表示されること、(4)撮像範囲の拡大が求められている。サイズは手で動かせて、収納しやすい程度が理想である。撮像範囲も現在のものでは手術中は依然として制限を感じてしまう。またよりリアルタイム性が実現するとよい。例えば、スイッチを踏んだら画像が表示されて現在の状態が確認できる程度。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムのリアルタイム性を追求できればよい。つまり手術中の作業をとめることなくMRI画像を撮影することができるとよい。MRIの場合であれば、手術中に手術室ごと患者をリアルタイムで撮影することができる技術などである。レントゲン撮影なら可能かもしれないが侵襲が気になるところである。赤外線や温度など無侵襲で人間の体を透過した後のものが撮影できるとよい。
(2)簡単なバイパス
サイズの大きい動脈瘤の治療において困難な処置は、自然な血流を保ったまま動脈瘤を縮めることである。この治療における一番のリスクは親動脈の血流が止まってしまうことである。そこで血管に針状のバイパスを簡単に作ることができれば手術に集中できる。
(3)電気刺激
深部刺激療法用の電極を体内に入れることなく電気刺激ができるとよい。体内に電極を入れると感染してしまう患者がいるため、体外に取り付けた装置から脳内の特定の場所を電気刺激できるようになるとよい。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)再生医療の方向性
ES細胞の見通しは厳しいという印象を受けているが、iPS細胞に関しては患者自身の生体由来の神経幹細胞を使う手法であり、有望と考えている。神経分化した状態に近いため安全であると考えられる。
一方パーキンソン病の治療に関してはそう簡単にはいかないのではないかと考えている。
脳梗塞の治療はどの治療法に効果があったかわからない、言い換えると何をしても効果がある可能性がある。tPAの効果はかなりあったのではないかと考えられる。ただ、脳梗塞で脳神経にダメージを受けてしまった場合、それを治すのはリハビリや、リハビリに由来する神経網の再生だろう。基底核にダメージを受けた患者の場合には再生医療が有効な可能性が高いのではないか。


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