ニーズDB:医師インタビュー
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三好 俊一郎 先生
慶應義塾大学医学部附属病院
循環器内科
循環器内科

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1.ご専門の分野について

臨床分野では不整脈の血管内治療(心臓電気生理)を主に行っている。
基礎研究については間葉系の細胞を用いた心臓血管系の再生医療に取り組んでいる。不整脈の新しい治療法に関する基礎的な研究にも若干取り組んでいる。

実施頻度の高い手技は、臨床分野では心臓電気生理学的検査、カテーテルアブレーション、経食道エコーに付随する超音波検査などである。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)エコー検査
エコー検査の精度が高まった。その要因として、心臓超音波検査機器のメモリーの増設や画像の解像度の向上等がある。画像の解像度については、イメージプロセシングの技術が非常に向上している。また、リアルタイムの動画として診断画像を見ることができるため、診断の効率も向上している。ただし、使い勝手については、以前から使用している者にとっては余分な機能が多くなったように感じる。
(2)心不全のための治療薬
Evidence Based Medicine(EBM)を積極的に日本に導入しようとする動きにより、例えばβブロッカー(β遮断薬)やアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)といった、10年前は禁忌とされていた薬剤が、心不全治療に使用できるようになってきた。
(3)心臓の補助デバイス
埋め込み型除細動器(ICD)や両心室ペーシング技術についても、最新の治療法の導入に伴い、最新の医療機器の導入速度が徐々に改善されてきた。心臓の補助デバイスの導入は、患者の症状を改善する上で非常に重要である。厚生労働省は以前に比べ、認可のスピードを速めているが、まだ十分とは言えない。
ICDやペースメーカーは、小型化され、バッテリーの寿命や機能面での改善が見られる。また、従来のペースメーカーは除脈時のバックアップ機能のみであったが、最近では収縮を補助したり、死に至るような突然の不整脈を予防したりする機能が追加されている。


■既存の医療機器の改良すべき点について

既存の医療機器の改良すべき点は多い。
(1)経食道エコー
経食道エコーについてはプローブの小型化が求められる。
(2)カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションは、コントロールが難しいため、カテーテルの材質や操作性の向上が求められる。
心臓の壁が厚い患者や複雑な不整脈の患者については、カテーテルアブレーションを成功させることが難しい。そうした課題を解決するためには、エネルギーの照射範囲を広げる、あるいは照射精度の向上を図る必要がある。
カテーテルアブレーションは、レントゲンの透視下で電極カテーテルを心臓の様々な場所に移動させる必要があるため、長時間になると被爆量が多くなり、治療が困難となることもある。そのため、被爆時間の短縮化が図れるような技術が求められる。
(3)診断機器
CTやMRIの技術進歩は目覚しい。ただし、空間解像度については、CTやMRIの原理上の限界点に近づいていると考えられることから、さらなる技術進歩の実現は難しい可能性がある。
10年前に比べると、診断機器の精度は非常に良くなっている。例えば、採血検査はオートメーション化が進んでいる。今後は検査データを迅速に得られて、患者データと正確に適合させるための技術が重要となる。
(4)電子カルテシステム
特に循環器領域では自動診断技術と電子カルテ化に対するニーズがある。
電子カルテについては、既存のリソースを利用する場合には、PDF化が最も容易である。カルテの書き方は医師によって異なり、例えば、文字情報だけでなく、フローチャートのように視覚的に理解しやすいように書かれている場合もある。カルテの書き方を統一していかなければならないが、医師の使い勝手が良いように改良を加えていくことが望ましい。特に入力デバイスの開発が重要である。医師が患者を診断しながらコンピュータに診断内容を入力することは不可能である。音声入力ができることが望ましいが、現時点の技術レベルではそうしたデバイスの開発は現実的ではない。
(5)オーダリングシステム
慶應義塾大学病院では平成4年時点で既にオーダリングシステムを導入していた。ただし、旧式のシステムであるため、入出力できる情報の自由度が低い。
オーダリングシステムは各医療機関によって仕様等が異なるが、最近はWindowsベースになってきているため、医師等が自分の机のPCからオーダーできる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)低侵襲の細胞移植のためのツール
再生医療の最終目標は臓器(心臓)を人工的に作ることだが、実際には難しいため、まずは心臓に細胞等を直接移植するような器具の開発から始めるべきである。さらには、低侵襲の細胞移植のためのツール開発が再生医療のターニングポイントとなるため、その開発が望まれる。
Biosense Webster Israel が開発したNOGA Cardiac Navigation System(以下、ノガシステム)では、低侵襲治療による細胞移植が可能である。心臓血管領域細胞治療はノガシステムなしでは行えない。日本では基礎研究用としてノガシステムを承認している。しかし、ノガシステムは現在、新規に購入することができないため、新たな研究施設が再生医療分野に参入することが難しい。旧バージョンのノガシステムは製造が中止されており、最新バージョンのノガシステムについては、FDAへの申請が中止されているためである。この理由のひとつとして、米国が再生医療に関わる機器を他国へ販売することに慎重になっている可能性がある。再生医療分野の研究開発競争が過熱気味であるため、ある程度の政策的なコントロールは必要かもしれないが、カテーテルベースでの細胞治療器具の市場は非常に閉鎖的である。
細胞移植に関するもうひとつの課題として、心臓近傍でカテーテルから移植用細胞を出しても、拍動によって細胞が体内の各所に流れていってしまう点が挙げられる。例えば間葉系の細胞は大きいため、末梢血管に詰まると塞栓症状を引き起こす。細胞が全身に流れ、脳血管で詰まれば脳梗塞を引き起こす。ただし、このような事例報告はあまり耳にしないため、大きな問題にはならないかもしれない。最も重要な課題は、注射器で注入した細胞が標的とすべき疾患部位の外に漏れ出す危険性である。これを最小限に食い止めることが治療効果向上のための鍵となる。
(2)コンピュータ支援診断(CAD)
自動診断技術については、ソフトウェア開発の際に医師の診断ノウハウを踏まえたアルゴリズムが重要となり、そのための調査を誰に依頼するかなど多くの問題が生じる。また、学会を通さずに議論を進めても、学会の承認を得られず現場での利用が進まない。学会主導で進めた場合、すべての企業が足並みを揃えて研究開発を行わなければならず、企業の独自性を打ち出すことが難しいなどの課題がある。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)再生医療の動向
現在、細胞治療や幹細胞治療の動向は混沌としているため、いっそうの研究が求められる分野である。現在のところ、再生医療技術により、実際に心臓の構造を作り出せるような段階には達していない。いずれはそうした治療法の開発が求められるが、現段階では十分な基礎的なデータ蓄積されていない。
現在の再生医療技術では、幹細胞や間葉系の細胞のうち心臓となる細胞の割合が非常に少ないため、医師はその段階で研究を断念してしまう。細胞を効率よく移植したり、構造を効率よく構築するための研究など、次のプロセスにまで目が向いていない。また、医師も臨床に近い研究に従事した方がインパクトが強いことから基礎研究に関心を示さない。特に海外ではその傾向が強い。
心臓血管系の治療に再生医療が導入されるには少なくとも10年はかかるだろう。すでに導入され始めてはいるが、その効果は低く、移植方法も確立されていない。つまりスタンダードが全くない。


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