ニーズDB:医師インタビュー
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宮地 茂 先生
名古屋大学医学部付属病院
脳神経外科学 准教授
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門領域は、脳血管障害および脊髄血管障害に対する血管内治療である。対象とする主な疾患は、脳血管障害(脳卒中を含む)で、具体的には、脳動脈瘤や脳血管狭窄、頚動脈狭窄症、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などである。この他、脳腫瘍、外傷に伴う血管障害の治療なども行っている。

手術実施件数が最も多い疾患は、脳動脈瘤、次いで頚動脈狭窄症である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断機器
① 血管撮影装置
造影能の向上により、高解像度のイメージや三次元情報の構築が可能となった。また、ロードマップ(血管地図)を作成することにより、多様な情報を得られるようになり、カテーテル治療時の目的地(病変部位)までのアクセスが向上した。
バイプレーンエックス線装置の導入により、1回の造影剤注入で同時に2方向からの撮影が可能となったため、診断時間が短縮した。
② CT、MRI
現在のCTやMRIは、画像精度が向上し、細かい病変や血管を鮮明に表示できるようになった。
MRIでは、特に脳内の情報に加えて、頸動脈壁のプラークの画像化によりプラークの性状(脂肪、線維成分、石灰化、出血など)まで把握できるようになった。これにより、患者の動脈硬化の状態を従来よりも詳細に診断できるようになった。
マルチスライスCTでは、時間軸を加えた四次元画像の構築が可能となった。また、撮影時間が5秒程度に短縮したことにより、撮影時に患者が息を止めて身動きをせずにいる負担が軽減した。
③ 血管内超音波診断装置(IVUS)
血管内超音波診断装置も、頸動脈狭窄部の血管壁やプラークの性状を評価できる。脂肪、線維性成分、石灰化、壊死性成分などを周波数分析により色分けして描出する。これをバーチャルヒストロジーという。血管内超音波はステント留置後の血管内情報の把握にも役立つ。
(2)治療機器
① カテーテル、ガイドワイヤー
カテーテルおよびガイドワイヤーの種類とバリエーションが増えた。また、カテーテルおよびガイドワイヤーの柔軟性、選択性が向上し、安全性が増したことにより、従来は到達しなかった場所にまで到達可能となった。
② 塞栓材料(コイルなど)
塞栓材料のなかで最も進歩したものはコイルである。以前は、1社が数種類のコイルを販売しているのみであったが、現在は6社のコイルが本邦で使用可能である。さらにコイルの種類(形状や柔軟性、長さなど)が多様化したことにより、病変部への多様なアプローチが可能となった。たとえばコイルでは、ウルトラソフトやエクストラソフトといった、きわめて柔軟なものがあり、十分な柔らかさが実現されている。
また、吸収性の素材や膨張する素材などが塗布されたバイオアクティブコイルが少しずつ本邦にも導入されてきている。
③ ステント
日本で使用可能な頚部頸動脈に対する治療用ステントのうち、1種類が本年4月に保険が適用された。フィルタープロテクションと併用で用いるが、非常な勢いで需要が増している。脳動脈狭窄用ステントについてはまだ認可されていない。
④ プロテクション技術
ステント留置術時に血栓遠位飛散を防ぐためのプロテクション技術は、手術時の合併症として大きな問題となる脳梗塞の発生を予防する。近年、このプロテクション技術の性能が向上し、手術時の合併症としての脳梗塞が発症しにくくなった。
プロテクションの方法は大きく2種類に分けられる。ひとつは、血栓の下流に洗濯ネットのような網(フィルター)を設置し、崩した血栓を回収する方法である。血栓のみが網にかかり、血液はフィルターを通り抜けるため、血流を止めずに治療が行える。ただし、目詰まりを起こしたり、網の容量以上の量の血栓が剥離された場合には、網から血栓がこぼれる危険がある。
もうひとつは、血栓の下流でバルーンを膨らませて血流を止め、手前にある血栓を吸引カテーテルで吸い込む方法である。こちらの場合には、血流を一時的に完全に止める必要があること、吸引カテーテルによる吸引が完全ではないことが懸念される。



■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)血管造影装置
血管造影装置には、患者を事前に撮影した画像で治療計画をたて、これに基づき患者を治療する「ロードマップ」の機能がある。ただし、現在のロードマップでは、治療時に患者の体の動きに同期・追随できないため、これを解決する必要がある。3次元的に表示する技術も開発されている。
(2)血管内超音波による血栓破砕
血管内超音波の技術を海外で普及させるには、診断機能だけでなく治療機能も搭載すべきという意見がある。しかし、脳血管領域で超音波を使ってプラークを破砕して再開通させると、破砕されたプラークが脳の末梢血管に詰まって脳梗塞を引き起こす危険性が高いため、破砕したプラークを安全に回収する方法を検討しなければならない。
(3)ステント
動脈瘤の口をカバーして、コイルが血管内へ逸脱しないようにする方法(ステント併用コイル塞栓術)は、本邦では専用のステントが認可されていないため、冠動脈用のステントを用いている。欧米で既に5年前より用いられている専用ステントの本邦での認可は来年以降と思われる。一方、瘤が外に非常に大きく張り出して神経を圧迫しているような症例では、コイルを詰めることで神経をさらに圧迫することが懸念される。こうした場合に、瘤の前後の正常な血管をブリッジして瘤を覆う形でステントを留置し、瘤にかかる血圧を緩和することで、瘤を徐々に小さくする方法が考えられる。欧米ではこうした用途のステントがすでに実用化されている。



3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)動脈瘤塞栓術のための液体塞栓材料
欧米では、脳動静脈奇形の塞栓術に用いる液体塞栓材料をバルーンによる血流調節下に瘤内へ注入する試みがされている。コイルとの併用もトライされており、コイル節約のためにも期待される。
(2)マイクロカテーテル
今後、さらに細いカテーテルが開発されると思われるが、カテーテルの材料にはなんらかのイノベーションが必要である。現在のカテーテル技術は、細さと操作性がトレードオフの関係にある。細くすると腰がなくなるため、屈曲の大きい箇所を何箇所か通過させると、身動きがとれなくなってしまう。一方、腰のある材料を用いると、細い血管を突き破る等の危険がある。こうした問題を解決するには、カテーテルが自ら屈曲するなど、自由自在に動かせるインテリジェントなカテーテルが必要である。
(3)塞栓子捕捉用ネット
欧米では、塞栓子を捕捉するためのコイル状のバスケット、またはネットが使用されている。これを塞栓子の遠位へもっていき、血栓を物理的にキャッチして引きもどし、回収するものである。日本にも近く導入が予定されている。
現在、脳の塞栓の治療にはtPAが用いられているが、再開通時の合併症として出血が最も問題となるが、上記のネットを用いればこの問題を改善させられる可能性がある。
(4)薬剤の効き具合や患者の体質を測定する技術
患者の血液から、薬剤の効き具合や、患者の体質(アレルギーなど)などを簡便かつ迅速に確認できる技術があると良い。欧米ではすでに、個々の患者の抗血小板作用などを測定できる装置が日常的に使用されているが、日本には輸入されておらず、利用できない。
この技術が必要とされるのは、脳外科ではたとえば、抗血小板剤(血小板の凝集を阻害する)や抗凝固剤(ペパリンなど)の投与時があげられる。抗血小板剤や抗凝固剤は血栓形成の予防のために使用されるが、患者の体質によってその効果に差が見られる。特にアスピリンは、全く効かない患者が約1割いると言われている。また、最近導入されたクロピドグレルも、常用量を摂取しても全く効かないことがある。
このほか、くも膜下出血発症時の合併症である脳血管攣縮の起こりやすさや、造影剤に対するアレルギーの有無などについても、測定のニーズがある。
患者の血液からこうした情報を確認できると、個々の患者の体質に適した治療方針の検討に役立つと考えられる。
(5)ロボティクス
脳神経外科領域におけるロボティクスの活用が期待される。ロボット自身が判断して手術を行うことまでは期待しないが、術者の指示に対して素早く対応できるロボットが必要である。信州大学では脳外科手術用のニューロボットの研究開発が進んでいる。腹部領域では、DaVinciなどによって腹腔鏡下手術におけるロボティクスの応用が実現されている。
また、カテーテル手術を行う際には術中にレントゲン撮影によって血管を写し出す必要があり、術者の被ばくが問題となる。したがって、ロボティクスによりカテーテルを遠隔で操作できる技術の実現が求められる。
愛知万国博覧会に出展された様なロボットには、まだ脳神経外科の手術に必要なμmオーダーの作業精度の技術はもっていないとのことであった。また、術者は血管の感触によって力加減を変えているため、ロボットでこれが再現できるよう、ロボット自身が血管の状態を判断し、把握した情報に基づき動くようにしなければならない。
(6)術者の感覚の蓄積・標準化とトレーニングのための技術
前述のロボティクスの実現のためには、術者が血管に触った際の感触を数値化・標準化する必要がある。その方法として、術者の感触を共有するための医療機器が必要となる。
標準化の進展はトレーニング技術の開発にもつながる。現在、外科領域では徒弟制度によって医療技術を習得せざるをえず、玄人や達人が主に医療機器を使いこなしているのが現状である。標準化やトレーニング技術の進展により、術者の技術レベルのばらつきの改善や、経験の浅い医師にも安全に手術を行える技術の教育、共有などにつながる。
(7)神経、血管再生医療
脳血管障害では、たとえば壊死した脳神経を万能細胞のような幹細胞によって再生させ、脳神経機能を回復させることは現在研究が進んでいる。脳の血管再生についても進んでいるが、過度になれば血管腫瘍のような状態になるリスクが懸念される。
血管内腔から細胞や遺伝子を導入しても、血流により疾患部位から流されてしまうため難しい。血管の外側に細胞等を置く方法のほうが確実ではあるが、いろいろバリアーが存在するために効果は不明である。
脳血管領域の再生医療は、皮膚や骨等、構造が単純で動きのない組織での研究が進んでから取り組むべきである。
(8)その他
リハビリテーションの関連では、サイボーグ技術に今後期待したい。手足、目、耳、のど(発声)などの機能回復の手段のひとつとして、非常に興味深い。



4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器全般
医療機器の開発に際してまず重要なことは、機器の安全性や有用性である。しかし、かなりの熟練を要するなど、使い方の難しい機器では普及しない。これまで熟練者に実施が限定されていた手技が、ある程度のトレーニングによって誰にでも実施できるようになるような機器ができると、非常に普及する。
現在、直感的に開発してほしいと思う医療機器は、すでに欧米で製品化・使用されているが、日本では使用できない状況にある。それ以上の機器を日本で開発するためには、日本の臨床現場が現段階での最新機器を使用できる状況になければ議論ができない。

(2)血管内超音波装置の普及状況
日本では欧米に比べ、頚動脈の血管内超音波検査が普及している。この背景には、頚動脈ステント留置術を担当する医師の専門領域が日本では主に脳神経外科だが、欧米では循環器内科であるという違いがある。脳神経外科では脳を扱うという特徴上、たとえ検査の種類が増えて手間や所要時間が増すとしても、術前に疾患部位についてできるだけ多くの情報を集め、慎重に手術を行おうとする傾向が強いことが、血管内超音波検査の普及率に影響しているかもしれない。さらに、日本と欧米の国民性の違いも影響している可能性がある。

(3)神経内視鏡
今の神経内視鏡は、顕微鏡の代替として術野を覗くために使用する機器、という位置づけを脱しきれていない。画面の情報だけでは距離感や方向感覚を把握することが難しいなど、使い方に熟練を要する。この難しさが事故の原因にもつながっているため、使い勝手を向上させ、事前にリスクを防止するための工夫が必要。
解決策のひとつは内視鏡画像の3次元化である。今の内視鏡画像は2次元で表示されているため、術野の深さに関する距離感が把握しづらいが、3次元化できれば距離感を把握しやすくなり、使い勝手の向上、さらには安全性の向上にもつながると考えられる。



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