ニーズDB:医師インタビュー
一覧 > 詳細 < 前へ  | 次へ >

澤 芳樹 先生、松山 晃文 先生
大阪大学
大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科 診療科長(澤先生)、医学部附属病院 未来医療センター 准教授(松山先生)
心臓血管外科(澤先生)、循環器内科(松山先生)

詳細はPDFこちら
1.ご専門の分野について

澤先生の専門は心臓血管外科である。専門とする主な疾患は、冠動脈弁膜症、大血管、心不全、先天性心疾患などで、心臓血管外科の治療を幅広く行っている。
松山先生は循環器内科医であり、現在の専門は再生医療や医療機器である。現在は、臨床現場から離れて後方支援に専念しており、企業や大学の共同研究における知財の管理、薬事のアドバイス、在宅医療機器の操作性向上のためのアドバイスなどを行っている。

大阪大学全体としての心臓外科手術件数は年間約400件である。弁膜症の手術件数は年間70症例、冠動脈の手術件数は年間80症例、先天性の手術件数は年間約60症例、大動脈の手術件数は年間約150症例、心不全の手術件数は年間約50症例(うち人工心臓移植は6症例、肺移植が2症例)である。残りがその他の症例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
① マルチスライスCT
64列CTが開発されたことで撮影の速度が短縮され、心電図同期や呼吸同期が可能になった。これは心臓血管領域の診断においてもっとも画期的な進歩である。
今後、CTがカテーテル診断を代替する可能性もある。たとえばカテーテル診断が出来ない病院であっても、CTで同等の診断ができれば、患者を循環器内科医の拠点病院へ紹介する必要があるかどうかを判断できるようになる。これは今後、国の行政施策を変える可能性もある。また、カテーテルでは動脈に穴を開けるため、血が止まらなくなるリスクがあるが、CTであれば血管穿刺のリスクがないことも強みである。
② 3次元画像構築技術
CTなどで撮影された画像情報を3次元画像に再構築する技術の進展により、心臓のどの領域に問題があるのかを視覚的に把握できるようになり、治療しやすくなった。これまでは、医師が2次元画像を頭の中で3次元的に組み立てる必要があった。例えば、3次元画像を見ながらCABGができるようになったことは大きなメリットである。
(2)治療
① 冠動脈バイパス術
冠動脈バイパス術では、オフキャブ(心拍動下冠状動脈バイパス手術)のためのデバイスが充実した。
② 冠動脈ステント
内科領域ではステントが大きく発展した。薬剤溶出ステント(DES)は画期的だが、中長期成績に問題がある。
③ ステントグラフト
動脈瘤治療において、ステントグラフトはきわめて画期的な技術である。ステントグラフトを使った動脈瘤の治療件数は急増している。
④ 補助人工心臓
人工心臓そのものは進歩しているものの、わが国においては画期的な進歩はない。わが国では埋め込み型の補助人工心臓はまだ使用できない。海外では、植え込み型の補助人工心臓が使用され、患者のQOL向上に貢献してきた。補助人工心臓はブリッジングの位置づけではあるものの、技術的にはターミナルユースに近い水準に達している。
日本発の埋め込み型補助人工心臓としては株式会社サンメディカル技術研究所の「エヴァハート」、テルモ社の「DuraHeart」が開発されている。DuraHeartは欧州で臨床試験が行われている。エヴァハートは東京女子医科大学で臨床試験が行われている。テルモが開発した無拍動型の補助人工心臓は軸受がなく熱が発生しないので非常に画期的である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

① 冠動脈ステント
ステントは再狭窄の問題がある。DESは治癒成績に問題がある。早期の血管内皮化により再狭窄を抑制するといった発想が必要である。
将来的に、生体吸収性で十分の強度のステントがされれば、小児に使用できる。
② 人工血管
人工血管に関する課題は、小児の「成長」という課題が置き去りにされていることである。大人の場合には血管の形はほとんど変わらないため、非吸収性ゴアテックスのような人工血管を使用してもよいが、小児の先天性疾患の治療にあたっては、その後の体の成長に伴いサイズが大きくなっていくため、吸収性の人工血管が必要とされる。このような点から、今後は生体吸収性の人工血管の進展が望まれる。
③ 人工心臓
人工心臓関係では、内部のコーティングの技術はかなり進歩している。ブリッジングとは言いながら、もうターミナルユースに近いところまで来ている。その究極の形がテルモが開発したもので、軸受けがなく、熱も発生しないので、非常に画期的である。
④ 人工弁
わが国では新規の人工弁が承認されていない。現在のところ、純粋な人工物の人工弁よりは、動物の牛の心膜などを使って弁を形成したほうが治療成績はよいが、拒絶反応などが課題である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

① 経皮的な弁置換術
今後、ステントグラフトと弁置換を組み合わせた、経皮的な弁置換術が進展するだろう。経皮的な弁置換術のデバイスはエドワーズライフサイエンス社が開発を進めている。
大動脈弁閉鎖症の患者では、高齢で開胸に耐えられない患者は手術の適用にならなかったが、経皮的な弁置換術デバイスが開発されれば85歳程度まで治療できる可能性がある。今後、大阪大学では経皮的な弁置換術に取り組みたいと考えている。
② 心不全治療のための人工皮膜型デバイス
心筋を覆うように装着し、電気をかけると収縮するような人工皮膜型のデバイスがあるとよいのではないか。弛緩と収縮を繰り返しながら心臓を外部から拍動させる。心筋シートや補助人工心臓と併用することで、心機能の補助と回復を行う。外部からの給電が不要であることが理想である。
③ 遠隔診断技術
医師不足の問題への対応と、へき地医療の問題を考え合わせると、医者の数が少なくてもきちんとした診断出来るシステムが必要である。また、専門でなくても診断できるような診断サポートのシステムが必要である。例えば、循環器内科の専門医ではなくても、心臓のデータを出せて、へき地の診療所ではCTなどの画像を国立循環器病センターなどに送り、専門医が診て返答するといったシステムは出てくると思われる。
ただし、遠隔診断技術に民間企業が取り組む場合、個人情報の漏洩リスクと、患者の個人情報を取り扱うことによる医療法への抵触という2点の問題があり、開発が進んでいない。大学病院や国立循環器病センターが実施するのであれば、法的な問題は解決できるのではないか。将来的には、大阪大学病院で取り組みたいと考えている。
④ ロボット手術
既存のロボット手術は、人間の手の代替という域を出ていない。自動で動くといった、もっと実用的なものを目指すべきである。
⑤ 再生医療
心臓移植を代替する水準まで再生医療が進展することを期待する。
⑥ 電磁気による脳神経系疾患・精神疾患の治療
脳神経領域では今後、慢性頭涌やうつ病の患者の脳にMRIなどの電磁気を当て、脳の中で電流を発生させ、うつ病や慢性頭痛を治療するといった技術が出てくるのではないか。
(2)在宅医療機器
在宅の医療機器の場合は、24時間体制でそれをサポートする人員配置が必要である。課題としては、家族のサポートが重要になるため、家族に過剰な負担をかけない機器という観点も必要になる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)外科と内科の連携
循環器領域の診断・治療技術の低侵襲性を向上させるには、外科医と内科医がそれぞれに取り組むのではなく、連携すべきである。低侵襲化すればするほど、心臓血管外科と循環器内科の境界はあいまいになるため、循環器科として一緒に取り組むことになるだろう。目指すべき方向性を念頭におき、新たな融合領域に発展していくべきである。
(2)デバイスと教育システムのパッケージの開発
外科系の医療機器など、患者にとってリスクが高い機器は、機器を扱える医師や施設が限られてくる。新たな機器開発を安全に広く普及させるためには、医療機器を開発する際に教育システムとパッケージにする必要がある。教育システムとしては、医療機器の操作を習得するためのトレーニングシステムが考えられる。たとえば教育システムで80点以上取れたら患者に使える、といった仕組みができれば、治療成績を向上させられ、リスクを回避できる。内視鏡の場合、教育システムが後から開発されたが、医療機器の開発段階からパッケージされているべきである。
国策として、教育システムまでのパッケージングを進め、その部分まで広く知的財産権をおさえる。特に海外では、教育システムを備えたデバイスとそうでないデバイスとを比べた場合、教育システムを備え安心できるデバイスが選択されるだろう。このような付加価値が必要である。
(3)国産の医療機器の開発
ステント、ペースメーカーを、国産で、安価に製造することが非常に重要である。保険財政の関係上は安価であることが重要である。
(4)治療機器の開発への重点化
低侵襲の医療機器の実現化を目指した国の政策パッケージを考えると、診断機器より治療機器を中心に進めるほうがよいだろう。
日本の技術力で画期的な治療機器を開発できれば、現在は欧米からの輸入超過にある治療機器の輸出入バランスを逆転させられるだろう。
米国で治療機器が開発される背景には、治療機器のよいアイディアがあればすぐにスピンオフしてベンチャー企業を起業し、機器開発を進めるような環境があるからである。
(5)医療機器の承認・審査
審査会が少なすぎるため、審査会を増やしてほしい。FDAに比べて、わが国は2桁少ない。
また、医療機器の一部を変更しただけで最初から治験をしないといけないために、なかなか新しいものが製品化されず、進歩が見られない。例えば、口径を32~34mmに大きくするだけでも、全く新しい製品として取り扱われる。
(6)臨床現場の研究者の志向
治療機器の開発が進まない背景には、わが国の研究現場の研究者の志向の問題がある。細胞を培養して実験をするような基礎研究は、臨床研究に比べて早く研究を進められるため、臨床研究よりも基礎研究が選択されやすい。
また、治療技術の研究には非常に大きな労力がかかるため、診断技術の研究が選択されやすい。診断治療の研究では血液を収集・分析した実験でも論文になるが、治療機器の研究では大人数で数年がかりで研究してやっと論文を1本出せるかどうかであるため、治療機器の開発は選ばれにくい。
(7)治療機器のリスクに対する日本企業の姿勢
日本発の治療機器が開発されない背景には、日本がゼロリスクを求める国であることが影響している。ある企業がペースメーカーを開発しようとしたときに原材料メーカーがリスクを恐れて部品を提供しなかったことがある。医療機器の不具合の責任は最終製品を組み立てた企業にあり、原材料メーカーには責任が及ばないが、この事例ではPL法の解釈に誤りがあり、開発を進められなくなった。


MINIMALLY INVASIVE Medical Technologies

シーズDB
  先進企業情報
  重要論文情報

ニーズDB
  医師インタビュー
  臨床医Web調査
  患者Web調査
  過去の臨床側アンケート

リスクDB
  市販前プロセス情報
  市販後安全情報
  PL裁判判例情報

  

低侵襲医療技術探索研究会
  アーカイブ   

リンク
  学会
  大学/研究機関
  クラスター/COEプロジェクト
  行政/団体
  その他

メールマガジン