(1)診断
① マルチスライスCT
64列CTが開発されたことで撮影の速度が短縮され、心電図同期や呼吸同期が可能になった。これは心臓血管領域の診断においてもっとも画期的な進歩である。
今後、CTがカテーテル診断を代替する可能性もある。たとえばカテーテル診断が出来ない病院であっても、CTで同等の診断ができれば、患者を循環器内科医の拠点病院へ紹介する必要があるかどうかを判断できるようになる。これは今後、国の行政施策を変える可能性もある。また、カテーテルでは動脈に穴を開けるため、血が止まらなくなるリスクがあるが、CTであれば血管穿刺のリスクがないことも強みである。
② 3次元画像構築技術
CTなどで撮影された画像情報を3次元画像に再構築する技術の進展により、心臓のどの領域に問題があるのかを視覚的に把握できるようになり、治療しやすくなった。これまでは、医師が2次元画像を頭の中で3次元的に組み立てる必要があった。例えば、3次元画像を見ながらCABGができるようになったことは大きなメリットである。
(2)治療
① 冠動脈バイパス術
冠動脈バイパス術では、オフキャブ(心拍動下冠状動脈バイパス手術)のためのデバイスが充実した。
② 冠動脈ステント
内科領域ではステントが大きく発展した。薬剤溶出ステント(DES)は画期的だが、中長期成績に問題がある。
③ ステントグラフト
動脈瘤治療において、ステントグラフトはきわめて画期的な技術である。ステントグラフトを使った動脈瘤の治療件数は急増している。
④ 補助人工心臓
人工心臓そのものは進歩しているものの、わが国においては画期的な進歩はない。わが国では埋め込み型の補助人工心臓はまだ使用できない。海外では、植え込み型の補助人工心臓が使用され、患者のQOL向上に貢献してきた。補助人工心臓はブリッジングの位置づけではあるものの、技術的にはターミナルユースに近い水準に達している。
日本発の埋め込み型補助人工心臓としては株式会社サンメディカル技術研究所の「エヴァハート」、テルモ社の「DuraHeart」が開発されている。DuraHeartは欧州で臨床試験が行われている。エヴァハートは東京女子医科大学で臨床試験が行われている。テルモが開発した無拍動型の補助人工心臓は軸受がなく熱が発生しないので非常に画期的である。
■既存の医療機器の改良すべき点について
① 冠動脈ステント
ステントは再狭窄の問題がある。DESは治癒成績に問題がある。早期の血管内皮化により再狭窄を抑制するといった発想が必要である。
将来的に、生体吸収性で十分の強度のステントがされれば、小児に使用できる。
② 人工血管
人工血管に関する課題は、小児の「成長」という課題が置き去りにされていることである。大人の場合には血管の形はほとんど変わらないため、非吸収性ゴアテックスのような人工血管を使用してもよいが、小児の先天性疾患の治療にあたっては、その後の体の成長に伴いサイズが大きくなっていくため、吸収性の人工血管が必要とされる。このような点から、今後は生体吸収性の人工血管の進展が望まれる。
③ 人工心臓
人工心臓関係では、内部のコーティングの技術はかなり進歩している。ブリッジングとは言いながら、もうターミナルユースに近いところまで来ている。その究極の形がテルモが開発したもので、軸受けがなく、熱も発生しないので、非常に画期的である。
④ 人工弁
わが国では新規の人工弁が承認されていない。現在のところ、純粋な人工物の人工弁よりは、動物の牛の心膜などを使って弁を形成したほうが治療成績はよいが、拒絶反応などが課題である。
3.実現が望まれる新規の医療機器について
① 経皮的な弁置換術
今後、ステントグラフトと弁置換を組み合わせた、経皮的な弁置換術が進展するだろう。経皮的な弁置換術のデバイスはエドワーズライフサイエンス社が開発を進めている。
大動脈弁閉鎖症の患者では、高齢で開胸に耐えられない患者は手術の適用にならなかったが、経皮的な弁置換術デバイスが開発されれば85歳程度まで治療できる可能性がある。今後、大阪大学では経皮的な弁置換術に取り組みたいと考えている。
② 心不全治療のための人工皮膜型デバイス
心筋を覆うように装着し、電気をかけると収縮するような人工皮膜型のデバイスがあるとよいのではないか。弛緩と収縮を繰り返しながら心臓を外部から拍動させる。心筋シートや補助人工心臓と併用することで、心機能の補助と回復を行う。外部からの給電が不要であることが理想である。
③ 遠隔診断技術
医師不足の問題への対応と、へき地医療の問題を考え合わせると、医者の数が少なくてもきちんとした診断出来るシステムが必要である。また、専門でなくても診断できるような診断サポートのシステムが必要である。例えば、循環器内科の専門医ではなくても、心臓のデータを出せて、へき地の診療所ではCTなどの画像を国立循環器病センターなどに送り、専門医が診て返答するといったシステムは出てくると思われる。
ただし、遠隔診断技術に民間企業が取り組む場合、個人情報の漏洩リスクと、患者の個人情報を取り扱うことによる医療法への抵触という2点の問題があり、開発が進んでいない。大学病院や国立循環器病センターが実施するのであれば、法的な問題は解決できるのではないか。将来的には、大阪大学病院で取り組みたいと考えている。
④ ロボット手術
既存のロボット手術は、人間の手の代替という域を出ていない。自動で動くといった、もっと実用的なものを目指すべきである。
⑤ 再生医療
心臓移植を代替する水準まで再生医療が進展することを期待する。
⑥ 電磁気による脳神経系疾患・精神疾患の治療
脳神経領域では今後、慢性頭涌やうつ病の患者の脳にMRIなどの電磁気を当て、脳の中で電流を発生させ、うつ病や慢性頭痛を治療するといった技術が出てくるのではないか。
(2)在宅医療機器
在宅の医療機器の場合は、24時間体制でそれをサポートする人員配置が必要である。課題としては、家族のサポートが重要になるため、家族に過剰な負担をかけない機器という観点も必要になる。