1)治療
① 画像診断機器による術中ナビゲーションシステム
神経科に特化した領域では、MRなどの術中画像診断のナビゲーションシステムがこの10年間で最も発展した。術中の現在地をリアルタイムに把握でき、脳の深部の特定の位置へアプローチできるようになった。また、脳の基底核をミリ単位の正確さで治療できるようになった。
ナビゲーションシステムの発展により、これまでできなかった治療が可能となった。たとえば、定位脳手術は、ナビゲーション技術の向上とともに、手術の精度が大幅に向上した。脳深部刺激療法で電極を脳内に埋め込む際にも、ナビゲーションシステムが必要である。
② 術中生理学的モニタリング
定位脳手術の際、MRなどの形態画像による術中ナビゲーションを利用してターゲットを定めた後、神経の活動を計測して術中生理学的モニタリング画面に映し出し、施術する場所が機能面からみて正しいかどうかを、術中に確かめることができるようになった。
1)治療
① 化学物質による神経活動の調整
脳に薬をチューブから投与する外科的手法により、神経機能を調整する治療が大きく発展する可能性がある。投与する薬は、神経伝達物質や神経成長因子などが考えられる。
バクロフェンポンプやインシュリンポンプは、化学物質を投与するデバイスの実用化の一例である。
4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について
① 神経疾患治療の精神疾患治療への応用
1990年代のニューロサイエンスの発展により、精神活動が大脳の働きとして解明され、精神疾患のメカニズムも明らかになってきた。精神疾患の治療技術の開発は盛んになっている。前述のとおり、神経疾患の治療を目的としていたDBSが精神活動にも影響を与える可能性が明らかになったことから、今後、DBSの精神疾患の治療への応用が広がる可能性がある。
対象疾患の具体例としては、トゥレット症候群があげられる。運動機能と精神活動とに症状がみられる疾患で、DBSによる治療がその両方に効果をあげることがわかっている。
DBSを精神疾患の治療に利用することは、国外ですでに始まっている。欧州で最も先行しており、米国とわが国では遅れている。
わが国では、いくつかの大学病院で、倫理委員会での検討が行われている。ただし、日本では1970年代に行われていたロボトミーのマイナスイメージが原因で、脳外科学会が精神活動に対する外科的治療は行わないという決議をしている。その決議がまだ有効なため、当面は精神活動の外科的治療ができないことが課題である。
② 学会の役割向上
医学界の学会のレベルをもっと高める必要がある。現状の学会は、海外で発表されたことを追認すること以上の役割が果たせていない。その一因として、ひとつの医療現場の症例数が少なく、データが蓄積するのに時間がかかりすぎており、研究に適した規模になっていないことがあげられる。今後は改善の動きが促進され、センター化と専門化の動きが進んでいくだろう。
③ 医療機器の国産化の必要性
医療機器は国産化していく必要がある。内外価格差の問題は日本にとっては重大である。また、日本のユーザーの要望に応えた医療機器の開発のためも、国内メーカーが手がけたほうが機動性の高さが期待できる。
現在は、国内の医療機器の市場を海外メーカーが独占している。製品のトラブル発生率は決して低くはなく、品質にも改善の余地がある。しかし、海外の医療機器メーカーにとっては、日本は末端ユーザーにすぎず、日本のユーザーのクレームに対するリアクションが良くないという印象がある。