ニーズDB:医師インタビュー
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坂井 信幸 先生
神戸市立医療センター中央市民病院
脳神経外科 部長
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は脳血管外科である。主な疾患は、脳動脈瘤が最も多く、次いで頚動脈狭窄症となっている。その他は、脳動脈瘤(250症例)、頚動脈(100症例)、急性の脳血管閉塞症、硬膜動静脈瘻などである。神戸市立医療センター中央市民病院における昨年の手術症例数は1,000症例、脳血管関連の手術はそのうちの約300件であった。

実施頻度の高い手技は、脳動脈瘤クリッピング術、脳動脈瘤コイル塞栓術、頚動脈ステント留置術である。これらの手術症例数は年間350症例である。また、同病院は脳卒中センターであるため、脳梗塞やくも膜下出血(70症例)も扱う。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)Guglielmi detachable coil(GDC)
この10年で診療成績の向上に大いに貢献した医療機器は、Guglielmi detachable coil(GDC)(離脱型コイル)である。日本では1997年にGDCによる脳動脈瘤の治療が可能となった。
また、GDCのほかにステントやバルーンを用いた手術の導入により、脳動脈瘤の治療方法が血管内治療へと移行した。
(2)頚動脈ステント留置術
頚動脈ステント留置術は、1997年から同病院で実施されている。
脳梗塞を防止するためのフィルターが2008年4月から保険適用となる。遠位塞栓防止機材が開発されたことにより、脳動脈瘤クリッピング術、脳動脈瘤コイル塞栓術、頚動脈ステント留置術といった治療法が行えるようになった。
(3)診断機器
Digital Subtraction Angiography(DSA)では、画像をデジタル処理し、骨などの陰影を除去することにより、血管のみを観察できる。この技術は20年前にはすでに完成していた。約9年前には回転血管撮影が導入されたことにより、血管の立体画像を構築できるようになった。約3年前にはエックス線検出器としてフラットディテクタが採用されるようになった。コンピュータの能力が幾何学級数的に向上したことにより、脳血管領域の診断機器は格段に進歩した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)診断機器
診療対象となる脳血管のサイズは50μ(20分の1㎜)である。現在の検出器では150μが限界である。エックス線血管造影撮影装置で、50μの血管を検出できるようにしてほしい。血管造影装置のクオリティによっては100~200μの前脈絡動脈の画像をとらえることができない。非常に細い血管であっても、時として人命を大きく左右することがある。手術前に画像で確認できれば、術者はおおよその見当を付けて手術を行える。手術の成功率に大きく関わる問題である。
画像診断により、動脈瘤に癒着した血管の剥離が容易なのかどうかを判断できるようにしてほしい。この判断が可能となれば、手術の難易度やそれに伴う危険性を科学的に理解することができる。手術前に血管を詳細に観察することができれば、手術の成功率が向上する。
血管壁の質的な診断をできるようにしてほしい。超音波装置やMRI、CTに限らず、分子イメージング、光診断などその手法は問わない。現在、プラーク(動脈硬化巣)の質的な診断はMRIやCTによって行われているが、決定版がまだない。
医療の目的は人々が健康で長生きできるようにすることである。血管の性状やプラークの性状・性質などを単に把握するだけでなく、何らかの病気を診断するための指標を得られるような診断技術の開発を求めている。仮に臨床医の求めるような診断技術が開発されれば、臨床医がその有用性を検証する必要がある。
(2)カテーテル
ガイドワイヤーやステント、バルーンなどがあるが、非常に細く、そして血管のなかをより自由に、安全に通るものがほしい。
たとえば、脳腫瘍の手術は非常に難しく、手術後も患者が回復するかどうか分からない。しかし、より細いカテーテルが開発されれば、脳腫瘍の栄養血管に細い管を挿入し、栄養血管を塞栓することにより、治療を行うことも可能である。つまり、手術を行わずに、血管内治療によって脳腫瘍を治療できるようになる。ただし、栄養血管は非常に複雑であり、時には強い角度で曲がっている。また、非常に重要な神経の真横に位置していることもある。そのため、脳腫瘍につながる栄養血管は塞栓するが、神経につながる血管はそのまま残すなど、自由に操作できるカテーテルが必要となる。
現状では、頭蓋底部腫瘍の栄養血管は細いため、カテーテル治療の対象となっていない。
① ナビゲーション
経験の浅い臨床医であっても、安全にカテーテル治療を行えるような機器がほしい。そして、バルーンやカテーテルなどの治療機器や診断機器が目的地まで届くようにしたい。たとえば、画像をなぞることにより、カテーテルが自動的に目的地まで行く。
すでにマグネットナビゲーションが存在するが、実用化には至っていない。自走式カテーテルについても開発計画が立ち上がっているが、実用化していない。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)医療機器全般
現在、治療できない疾患は数多く存在する。その疾患の数だけ実用化が求められる医療機器はある。
また、たとえばなぜ脳動脈瘤ができるのか、いつできるのか、破裂するのかなどが分からない。治療にはリスクが伴うため、手術が必要だと判断された場合のみ手術を行うことが望ましい。こうした判断を可能とする診断機器の開発が求められる。仮に手術が必要である場合は現在の医療技術を駆使し、現在の医療技術では困難な場合は新しい医療技術を開発しなければならない。
(2)治療支援のための医療機器
ステントやコイルなどの異物を血管に留置した場合、血栓が形成され、それが脳血管に詰まる。再狭窄を予防することを目的として、ドラッグエリューティング(薬剤溶出型)ステントが発売されたが、ステント内血栓症の問題が起きている。脳血管障害の二次予防では、一般的に抗血小板剤の投与が行われている。しかし、その効果は個々人で異なる。また、その効果を瞬時に測定する方法が日本には存在しない。activated clotting time(ACT:活性凝固時間)を測定しているが、抗凝固状態の測定だけでなく、血球の働きを抑制しているかを知りたい。米国では抗血小板活性を測定するための機器が販売されているが、米国でもその信憑性に疑問を持っている者がいるため輸入されないようだ。抗血小板活性を測定するための診断機器を開発し、販売すれば、非常に売れるだろう。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器市場について
カテーテル市場に新規参入することは可能である。実際に、ベンチャー企業が坂井先生にカテーテルを持ってくることはある。ベンチャー企業は優れた技術を持っているが、米国や日本の医療機器の承認システムではベンチャー企業が生き残ることは難しい。独創的かつ大きな収益の見込める製品を生み出し続けることは困難であるため、ベンチャー企業はプロトタイプまで開発した後に大企業にそれを買い取ってもらう。製薬会社の例からも分かるように、研究開発や承認取得などビジネス化するまでの一連のプロセスに莫大なコストがかかる。しかし、大型医薬品は成功すれば1,000億円の収益が見込まれるため、研究資金も10億円単位となる。一方、医療機器はヒット商品であっても1億円単位の収益である。ただし、市場が小さいことから、米国ではスモールカンパニーが成功することもある。日本もビジネスチャンスが生まれるような国になれば、ダイナミズムが生まれるかもしれない。

(2)日本社会の意識改革
病気は本来的に危険を有している。また、医療も不確実なものである。不確実性を持った医療が裏目に出た際に日本国民や日本社会、マスコミがどのように対応すべきかを検討しなければならない。後々不具合が生じた際に、現在のように情緒的に行動しているようでは未知の技術に挑戦しようという試みを阻害することになる。多くの医師は社会や患者のために奮闘している。高い志を持たなければ優れた医療機器は生まれない。そうした志を持って開発した医療機器に後々不具合が生じても、特定の人物を犯人に仕立て上げることは望ましくない。そうした背景・経緯で開発された医療機器で生じた事象に対して、理解のある文化を育てる必要がある。
肝臓がん治療で使用されているマクロカテーテル(米国のTarget Therapeutics社が1987年に開発)は当初、脳血管領域を対象に開発され、1988年には日本に導入された。パルマッツーシャッツ・ステントは、世界では日本が初めて承認した。薬害エイズ事件が起きるまではこうしたことは珍しくなかった。薬害エイズ事件の際に厚生労働省の官僚を逮捕したことにより、承認に対して及び腰になったのではないか。
医療分野に限らず、誰もが努力した結果生じてしまったことについて、犯人探しをするようでは優れた製品は生まれない。誰もが安心して挑戦できる社会を作ってもらいたい。

(3)血管内治療について
血管内治療はいずれあらゆる領域にも応用されるようになる。米国のTarget Therapeutics社が1987年に開発したマクロカテーテルの極細のものについては、日本で開発された。肝臓がんの治療には、もう少し太いマイクロカテーテルを使用しても良かったため、若干太いマイクロカテーテルがその後開発された。肝臓がんの患者数が非常に多く、非常が大きかったこともあり、脳血管領域よりもマイクロカテーテルの使用が広がった。


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