ニーズDB:医師インタビュー
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谷 徹 先生
滋賀医科大学
外科学講座(消化器・乳腺一般外科)教授
消化器外科

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1.ご専門の分野について

専門は腹部外科、特に下部消化管である。他に、侵襲学、医療材料・ロボット等の医工学をあつかっている。

実施頻度の高い手技は開腹手術と磁気共鳴撮像下、肝臓凝固療法(Interventional MRI:IVMR)。開腹手術等が研究室で年間700件、IVMRは40~50件実施している。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)診断
① 画像診断機器
コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography:CT)、MR、陽電子放射断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET超音波)等のイメージング技術が発展し、診断が正確になった。
CTの発展は最も著しい。特に短時間での撮像が可能で、精度の高い画像が得られるようになった。MRの分解能も向上した。
超音波画像診断機器は造影剤の開発や分解能の向上により3次元の画像構成の精度が上がった。

2)治療
① オープンMRI
インパクトが大きかったのは、術中にモニターとして使用できるオープンMRの登場である。MRはイメージング技術により形体画像だけでなく代謝や温度などの機能の画像化が得られるようになった。つまりMRが対象とする物質とソフトを変えることで、生体表面だけでなく組織内部の温度の状態や走った後の筋肉の疲労度、乳酸の蓄積も画像化できる。
従来の画像診断はシミュレーションには高い威力を発揮するが、被曝があるので術中のモニターとしては使用できない。オープンMRの出現によりはじめて術前と同じ術中の画像がリアルタイムに手に入るようになった。症例には他の施設で施術が難しいと診断された複数回治療法の患者も含まれるが、この機器を用いたIVMRの結果は他の施設より5年生存率が20%程度高い。

MR下のIVMRでもドーム型MRや水平型MR装置下では、術中にピットイン・ピットアウトを繰り返す必要があり、リアルタイムではない。組織の状態や形態は手術の進行によって刻々変化していくため、リアルタイム画像を得られなければならない。
手術の進行をリアルタイムに確認できて、できるだけ小さな摘出範囲で、早く治療を行い、リスクを減らすことができれば低侵襲治療へとつながる。
以下に、開発が進んでいる技術をあわせて生体内構造透視画像モニター医療(手術)を実現したいと考えている。

② 術中に止血が不要なデバイス
私たちの開発したマイクロ波のデバイスは、組織を糸で結んで止血するのではなく、60℃以上で組織を変質させ固定する。固定して、組織を切り取ることのできる鑷子や鉗子も開発した。これらのデバイスは、ハサミや鉗子同様に使用することで出血が抑えられ、時間も短縮できるようになった。オープンMR下で使用できるエネルギーを使う手術具としては他にない。一般手術でもさらに利用が大幅に拡大すると考えられる。同様デバイスの世界では「リガシュア(LigaSure)」と「ハーモニック・スカルペル(Harmonic Scalpel)」との2つのデバイス類だけで年1,000億円程度のマーケットが存在すると言われている。
プロジェクターを見ながら操作できる位置センサー搭載マイクロ波デバイスを開発した。事前に撮影したCTやMRの画像と合わせて使用するナビゲーションソフトを搭載しており、手術の安全と時間短縮及び精度向上に貢献すると考えられる。


■既存の医療機器の改良すべき点について




3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)治療
① 外科手術用MR
外科手術用のMRを開発。
外科手術用の新しいコンセプトのロボット。

② 内視鏡治療
内視鏡治療は傷が小さいだけでなく、リアルタイムの情報を見ながら手術を行うことができるという意味で低侵襲治療への期待ができる。
傾斜磁場を利用したセンサーを用いて生体の位置と方向が明かな断面を画像化することのできるソフトを開発したので内視鏡と合わせて治療に使用したい。今後はオープンMRでリアルタイムに前述のマイクロ波デバイスを使用して位置を確認しながら手術を行うことを予定している。
この方法は経自然口内視鏡手術(Natural Orifice Translumlnal Endoscopic Surgery:NOTES)の先の世代に位置する。NOTESでは内視鏡自身の生体内位置や方向がモニターする考えがない。しかし我々のシステムでは前述のセンサーを、MR対応内視鏡に使用すればそれも可能になる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 基本的な方向性
基本的な方向性として、“患者にとってメリットがある機器である”事が必須である。また誰もが同じレベルの手術ができるようにすることである。
日本は医療機器の開発に対する大きく明確なターゲットがない。診断面の開発に偏っている。64列のCTのように術前情報しか提供できない機器は手術中にはあまり恩恵がない。
医療にITを活用できるようになったため、術者の経験を補うことができるよう手術のデータを医療機器のデジタル情報で蓄積し、必要に応じてフィードバック使用すべきである。

② 工学系との連携
医療機器開発において、工学系の分野には技術はあるがそれを患者のニーズと結びつけていない。臨床と連携して、技術を実際の医療機器開発まで育て、診療成績を見届ける体制又は覚悟が必要である。

③ 研究の評価システム
医療分野での問題は「製品にまで完成したプロジェクトが少ない」事につきる。この点を評価すれば全ての問題は解決する筈である。従来の公的な研究費の評価システムは委員の交代を含め見直す必要がある。
ある研究費の交付を一般公募で決めているが、募集の要件を精査すると、交付先が決まる程細かい条件が付いている場合がある。又、大型プロジェクトは種によってはどのレベルの大学と決まっていると言われている。それでは公募の意味がない。予算の交付が特定の研究室が行っている分野・研究に偏っており、多額の予算を国に還元できるかたちで使えているとは言いがたい。しかも支給時期が遅すぎる。
成果の評価も従来の人選では同じ結果となる。独立行政法人科学技術振興機構(JST)や経産省の産学連携コーディネーターのように研究を理解できる専門官が直接評価する必要がある。


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