1)治療
① 定位放射線治療
定位放射線治療は、小さな病変に対して細くしたビームを多方向から集束させて照射する治療法である。ピンポイント照射とも俗称される。最初に開発された機器はガンマナイフであり、0.5mm という高精度で脳腫瘍あるいは脳動静脈奇形などの脳血管障害に使用される。
従来は、放射線をゆっくりと照射する治療が基本であったが、選択した病変に照射する精度が高くなり、病変を1発で仕留めることができるようになった。その結果、治療効果が向上し、明らかに手術件数が減少している。また、副作用の減少、治療期間の短縮化、医療費削減にも貢献している。
定位放射線治療は、近年、脳以外の体幹部、特に早期の肺がんに対して応用が進んでいる。肺がんについては、4~5年前から保険診療が適用され、日常診療でも行われている。
② 強度変調放射線治療
強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)は、複雑な形状にある病変に対しても選択性に照射を行える革新的なソフトの開発により、数多くの腫瘍に対して応用出来る革新的な技術である。
IMRTは先進医療の実績が認められて、2008年4月には前立腺がん、頭頸部がん、脳腫瘍に対して保険診療が認められた。この他の疾患については、先進医療として行える状況である。
■既存の医療機器の改良すべき点について
3.実現が望まれる新規の医療機器について
1)治療
① 4次元放射線治療
放射線治療には、照射対象の動きに対応できる技術が求められている。たとえば、呼吸移動や蠕動運動などに対して的確に照射できる技術である。今まで3次元までは展開できたが、これからは時間軸も加えた4次元治療が可能な放射線治療機器が重要になる。この技術の実現により、肺がん、肝臓がん、膵がんなどの治療が困難ながんに対して定位放射線治療あるいは強度変調放射線治療が可能となる。
4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について
① 行政の方針について
行政は医療機器に関しての現状調査を繰り返しているだけで、アクションプランを実行していない。医療分野における医療機器は福祉機器も含めると2兆円産業であり、経済効果においてもその重要性が認識され始めたところである。
② 厚生労働科学研究費ついて
医療機器開発に関する研究開発費は、各研究に対する支給額が少なく、予算の増額が必要である。評価体制の改善が求められる。
医工連携などが実体化し、人材育成のモチベーションが高まっている。このモチベーションを持続できるよう、成果が期待できる分野に対しては、継続的な支援を講じることが重要である。よい評価を得られた研究については、インセンティブを支給するような仕組みがあるとよい。
③ 大学の教育体制について
医療機器開発には多岐に渡る分野の技術が必要である。大学は学際的な研究に対応できる人材を育てなければならない。日本の大学組織は縦割りになっており、工学部や医学部などを連携させた組織づくりが難しい。大学に医工学部をつくることが必要だと思う。
工学部に加えて理学部の参画が革新的医療機器の創出に必要である。新しいものを原理から考えていくには物理や数学などの理学系の研究者を巻き込むことが重要である。日本では優秀な学生は医学部に集中する傾向があり、理学系で能力を発揮できるような人材まで流入してしまう。これは、医療機器開発においては良くない状況である。一方、中国やインドでは優秀な人材は工学系に進む。理学工学系の優秀な人材を日本に集められるようにすることも重要である。