ニーズDB:医師インタビュー
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松原 正明 先生
日産厚生会玉川病院
股関節センター長・整形外科部長
整形外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科である。
疾病としては、主として成人の股関節の疾患、具体的には、変形性股関節症、大腿骨頭壊死を対象としている。

人工関節置換術・再置換術を年間390例行っている。内訳は変形性股関節症300例、大腿骨頭壊死10例、再置換80例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
磁気の強度が0.5Tから3Tまで上がり、精度が向上した。

ii)PETによる感染症検査
多くの患者が恩恵を受けるには至っていないが、PETによる感染症検査が行われるようになり、関節の感染に関してより適切な治療を行えるようになった。保険では認められていない。当院では年間約40例に実施している。放射性同位元素は通常の腫瘍の検査と同じものを使用している。横浜市立大学では、骨に特化したNaF-PETの研究を行っており、こちらはより検出精度が高い。

iii)術中PCRによる感染症検査
最近、PCRによる術中の感染症検査が横浜市立大学で開発された。術後の感染症発症のリスクが軽減されると期待される。術中にMRSAやMRSEなどの有無を調べ、保菌していればその対応が行われ、保菌していなければ通常の手技が行われる。これまで、感染症の保菌の有無に関するデータは得られなかった。当院も導入する予定である。検査時間は1時間弱であり、その時間の短縮が望まれる。

b)治療
i)人工関節
人工関節の材料が強度や精度の面で進歩している。

ii)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムが一般的に使用されるようになった。難しい症例に有用であり、自身では全手術の1割(約40例)に行っている。また、若手の教育ツールとしても有用である。手間はかかるが適切にナビゲーションシステムを使用すれば、経験の浅い医師でもある程度の精度を出すことができる。

iii)3Dテンプレート
どの人工物が骨にぴったりはまるかをコンピュータ上で判断できる3Dテンプレートが使われるようになってきた。インプラントを適切に選択できることで手術の精度が向上した。熟練した医師ですら3Dテンプレートを使用したことで精度が向上したという。テンプレートシステムはナビゲーションシステムの術前計画部分だけを抽出したようなシステムだが、ナビゲーションシステムに比べて人工物の網羅性が高く多数の企業の製品に対応している。また、価格もナビゲーションシステムの10分の1である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)診断
i)深部の軟部組織をより詳細に撮影できるMRI
深部の軟部組織をより詳細に撮影できるMRIが望まれる。浅い領域は十分だが深部領域は3Tでも不足である。体幹に近い領域では、軟骨の変形や変性が十分に撮影できるとはいえない。

b)治療
i)骨以外の組織に対応したナビゲーションシステム
骨以外の組織(血管、神経、筋肉等)に対応したナビゲーションシステムが望まれる。現在のナビゲーションシステムでは骨以外の組織に対応しておらず、経験の浅い医師が適切なルートをとれない可能性がある。

ii)軟部祖機への影響を考慮できる3Dテンプレートシステム
軟部祖機(血管、神経、筋肉)への影響を考慮できる3Dテンプレートシステムが望まれる。現在のテンプレートシステムは骨を中心にしているため、人工物を挿入した場合の周囲の軟部組織の緊張等の影響が表現されない。

iii)ロボティックシステム
ロボティックシステムは、ナビゲーション的機能について軟部組織の対応を含め精度を向上させるとともに、患者の身体を確実に固定して仮想空間と現実空間の座標の重ね合わせの精度を向上させることが重要である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)治療
i)遠隔ロボティックス手術システム
遠隔ロボティックス手術システムが望まれる。ロボティックス手術、ナビゲーション手術、遠隔手術を融合させたシステムで、熟練した医師が遠隔地の患者に対して高品質な手術を行うことができ、さらには、経験の浅い医師でも高品質な手術をシステマティックに行えるようなシステムである。東京慈恵会医科大学の鈴木直樹先生が取り組まれている海外との遠隔手術がさらに発展したようなものである。
遠隔ロボット手術システムの第一の目的は熟練医が遠隔地の患者を手術することだが、手術データから熟練医の技術や思考プロセスを解析し、熟練医の技で術者をサポートするシステムの開発につながることに期待したい。

ii)磨耗しない人工関節
磨耗しない人工関節が望まれる。人工関節が磨耗しないなら、人工関節をしっかり固定できれば高い手術成績を得られるようになる。自身でも超伝導を応用して金属同士が接しない人工関節を研究したことがある。

iii)運動時の撮影が可能な画像診断システム
運動時の撮影が可能な画像診断システムが望まれる。現在のCTやMRIは患者静止時の撮影しかできない。歩いている(走っている)患者を撮影でき、骨、筋肉、血管、神経がすべて表示されて、緊張している部分や痛みのある部分がはっきり確認できるようなシステムがあると理想である。こうしたシステムは、もっとコンピュータが進歩しないと実現できない。コンピュータが進歩するということは医師にとって、そういう意味がある。

iv)再生医療
将来性を見込めば再生医療分野(軟骨や骨)が期待される。ただし、コストが問題になるだろう。安価な再生医療が実現するまでは、やはり、簡便・安価で安定した成績が得られる人工材料による医療が重要である。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業等との共同研究については積極的に応じている。ものづくり面では4社、教育面では2社と共同研究している。教育については医師のトレーニング方法を共同開発している。
共同研究にあたっては、企業が臨床医に期待すること、企業が応えられること(応えられないこと)をはっきりと伝えていただくことが重要である。臨床医は困っているからアイディアが生まれる。それに対して応えられるかどうかをはっきりと言っていただくことが重要である。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)医療機器の許認可について
医療機器の許認可システムの見直しが求められる。人工関節が完成してから許認可を得るまでに4年を要した経験がある。まず、やりとりに2年を費やし、そのうえで治験を要求された。すでに国内で許認可された他の医療機器で使用されている金属材料について、改めて実験を求められるのは非効率である。海外の試験データも認められない。
案としては、許可制にして、医療機器の臨床応用を円滑にし、その一方で企業に全責任をゆだねることを明確にすることも考えられる。企業は自衛のために慎重に市場化するようになると思うが、それでも現在よりは臨床応用が円滑になるだろう。

ii)治療成績の開示について
わが国の医療水準の向上と患者の病院選択のために、失敗例も含めて病院から治療成績が開示されることが重要である。たとえば、公的な機関により各病院の治療成績データが公表され、治療成績を開示する施設は診療報酬上の優遇を受けられるような仕組みが考えられる。病院側の自己申請だけでは不正の可能性を否定できないため、査察を行う必要もある。熟練した医師であれば、査察を行うことは可能である。悪質な医師を特定するなど、社会に提供される医療レベルをコントロールすることも医師の仕事である。

iii)医療のオーダーメイド化
医療のスタンダード化は進んでいるが、今後は医療のオーダーメイド化が重要である。スタンダード化は「やり手側(医師側)」において進められてきた。今後は「受け手側(患者側)」をグループ化して、それぞれのグループに対する医療のスタンダード化を進めれば、受け手側とやり手側の双方を満足するシステムになるだろう。


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