ニーズDB:医師インタビュー
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大久保 俊彦 先生
西横浜国際総合病院
関節外科センター センター長
整形外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科である。主に、変形性股関節症、膝関節症を対象としている。

実施頻度の高い手技としては、人工股関節置換術を年130例、人工膝関節置換術(O脚が90%、X脚が10%)を年60例行っている。

人工膝関節の良さの認識の浸やQOL向上を求める高齢者の増加などを背景に、人工膝関節置換術を希望する患者が急速に増えている。体感では毎年3割増えている。当院では、ベッドと医師を増やさない限り、これ以上の患者に対応することは難しい状況となっている。人工膝関節適応例の治療に、少なくとも年間100例は対応できる体制が必要と考えている。
また、当院では望まれる患者のQOLを高め、できるだけ多くの患者を治療できるよう、両足同時手術も積極的に行っている。両足同時手術の症例数は年間10例程度であるがこれも増加の一途である。膝はターニケットによって止血できるため両足を同時に手術しても患者の身体的負担は少ない。また、術後までセルセーバーも使用し、術後出血の回収血輸血を行っている。さらに、患者にとっては入院期間は片側例とほとんど変わらず、手術が1度で済むためQOLが向上する。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)治療
i)人工股関節
<ポリッシュタイプのセメントステム>
2~3年前にポリッシュタイプのセメントステムを使用できるようになった。ポリッシュタイプのセメントステムは、従来のセメントステムと異なり、セメントとステムとを固定しない。発想の転換である。固定しないことで、骨、セメント、ステムの3つの力学的特性の違いによる歪の影響を受けにくい。摩擦を生まないことで骨とステムの固着がよい。仮に感染した場合にも抜去しやすく、再置換も容易である。当院では好成績で約200例のうちルースニングの問題の起きた症例はないが再置換例に術後6ヶ月以上で、2例の深部感染を認め、抜去し洗浄後再置換した。但し、日本はセメントレスステムが主流である。
<大型の骨頭>
大型骨頭の人工股関節が登場した。従来は22~26mmであったが、36~56mmが登場した。骨頭の接触面積が増えたことで、動きが安定し、インピンジメントも軽減した。また、表面積を大きくすると摩擦係数が大きくなると考えられたが、実際には関節液の作用によって、表面積を大きくしたにも関わらず摩擦係数は小さくなった。
<金属のソケットと骨頭の組み合わせ>
ソケットと骨頭の両方が金属の人工股関節が発達、進歩した。金属同士の組み合わせのため磨耗がなく、磨耗による耐久性の低下の問題が軽減された。金属アレルギーの問題が残されている。
<テーパー構造のステム>
テーパー構造のステムを有した人工股関節が登場した。大腿骨髄腔の骨を温存でき、頚部の前捻を軽減させることができるステムである。骨構造が脆弱な症例には使いがたいという欠点もある。
<ヘッド、ライナーを交換できるステム>
ヘッドやライナーの種類を交換できる人工股関節が登場した。同じステム、ソケットでさまざまな種類のヘッドを付けられる。再置換するときに、大きさや素材を変えることが可能になった。

ii)人工膝関節の深屈曲と、膝靭帯のバランス計測装置
人工膝関節の可能な屈曲角度が改善され、140度以上となるに従い、膝靭帯のバランスは重要であり、計測装置が登場した。90°屈曲時の膝靭帯のバランスの計測値に基づき、深屈曲時の靭帯のゆるみの問題を積極的に解決できるようになった。

iii)セルセーバー
セルセーバー(術中に出血した血液を回収し、患者の体に戻す装置)の精度が向上し、患者の負担が軽減した。

iv)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムが登場し、より正確な手術を目指し、あるいはトレーニングツールとしても有用となっている。
ただし、手術前のセッティングが時間が掛かる、センサーが反応しにくい事がある、機器のコストが高いなどの問題点があり、当院でナビゲーションシステムを導入したことがあるが、術前と術中に手間と時間がかかりすぎることが問題なため現在使用していない。また、人工膝関節の手術ではターニケットを使用するが手術時間が90分を超えると阻血性の痺れと痛みが生じやすく、ナビゲーションシステム使用後の患者はシビレや痛みの愁訴は増した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)3Dテンプレート
PACS等の医療情報システムと連携性のよい3Dテンプレートが期待される。操作がシンプルで、時間がかからないことが重要である。何センチのインプラントが入るのかを即座に判断できるものでなければならない。現在、当院と企業2社の体制で共同開発を進めている。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)治療
i)低侵襲手術のためのナビゲーションシステム
低侵襲手術のためのナビゲーションシステムが期待される。現在よりセットアップは簡便であり、より正確なセンサーを持ち、スピーディな2D、3Dの解剖情報が得られ、術中、術後の関節の動態状況も分かり、機能評価できる機器への改良が望まれる。そのためナビゲーションにより、筋肉等の損傷を最小限に抑えた精度の高い手術が可能になるだろう。

ii)表面置換のための材料や機械
表面置換のための材料や機械の進歩が望まれる。損傷した関節の表面を置換できる材料や機械があれば有用である。若者の関節破壊に対する手立てがないためであるが、現存する表面置換機器は良好で安定した臨床成績を出すには改良が必要と考えられる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業との共同研究には積極的である。改良研究が中心となる。基礎研究については、意欲はあるものの、一般病院勤務では研究に専念できる環境が必要である。
企業との共同研究にあたっては方向性の明確化と認識の共有が重要である。試作とディスカッションを重ねる中で企業側の認識が深められていく。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)小切開を強調した「低侵襲手術」について
人工関節手術のアプローチに一石を投じ、安易に進入せず、十分な術前計画を立てるのに貢献した話題である。ただし、小切開を強調した「低侵襲手術」には疑問である。定番の手技であればまず失敗しない症例であるにも拘らず、小切開にて進入し、かえって多くの侵襲(術後トレンデレンブルグ兆候の残存)や合併症を生じさせた例もある。また、術後の関節可動域が悪い症例も多い。痛みは取れたが、靴下履き、爪切り、しゃがみ込みなど困難でADLに支障をきたす例が散見される。これは、MISとの事で、早期退院にて十分な術後リハビリがなされていないことも拍車をかけている可能性がある。米国ではほとんど取り上げられなくなった話題であるが、無用のラーニングカーブを生じさせるのであれば、行われるべきではない。


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