ニーズDB:医師インタビュー
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内田 毅 先生
関東労災病院
整形外科・脊椎外科 部長
脊椎外科

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1.ご専門の分野について

専門は脊椎外科である。
部位は頚椎、胸椎、腰椎が対象で、疾病としては腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、脊柱変形を中心に扱っている。

椎間板ヘルニアや狭窄症に対する低侵襲手術、腰椎すべり症や脊柱変形では比較的侵襲の高い手術を行っている。機器が進歩したことで、低侵襲手術について、従来法と比較しても遜色ない十分な手術ができるようになった。
当院の脊椎外科全体の手術件数は年間500例(内訳は除圧術関連が250例、腰椎固定術関連が150例、残りは頚椎その他の手術)である。自身では200~250例に関わっている。これまでに延べ2,500~3,000例の手術を行ってきた。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRIやCT
MRIやCTは10年前と比較して分解能が顕著に向上した。

b)治療
i)内視鏡、顕微鏡
内視鏡と顕微鏡の機能が向上した。内視鏡は3Dシステムなど画質が向上して、格段によく見えるようになった。顕微鏡は機能が向上して小さな傷でも自由に動かしながら見えるようになった。術中に「見えにくくなるかもしれない」という不安を感じることがなくなった。

ii)ドリル(エアトーム)
ドリルの機能が向上した。ドリルの回転を止めたいときに即停止させられるようになったことで、神経を傷つけるリスクが軽減された。

iii)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムは脊椎の変形を伴うような非常に高度な症例では有用である。補助的に用いることで精度を高められる。普通の手術での有効性は感じない。精度の高いナビゲーションによって、術中の放射線被曝を軽減させられる可能性がある。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)内視鏡、顕微鏡
内視鏡や顕微鏡は根本的なブレイクスルーが求められる。まだ進歩するとは考えられるものの、機械的な進歩はそろそろ限界に近づいていると感じる。これ以上の進歩は、考え方や原理を根本的に変えないと難しいのではないか。

ii)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムは、術前のセッティング、術中の調整が煩雑なので、この点の改良が望まれる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)「腰痛」の診断・治療方法
機器開発につながるかはわからないが、腰痛の診断・治療方法の確立を目指し、研究を進展させなければならない。腰痛は身近な病気だが、痛みの原因がわからず、また有効な治療方法のない症例が少なくない。

b)治療
i)術中イメージを代替する画期的なナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムが手軽なものとなり、イメージ(放射線を数秒照射して造影)の代わりに使用できれば、患者と医療従事者の双方の被曝が軽減されるので、非常にありがたい。現在はイメージを使って術中の状況を確認しているが、1回の手術で放射線の総照射時間は5~10分となる。患者だけでなく、半径1m以内の医療従事者も拡散した放射線によって被曝する可能性がある。特に術者は、体は避けられていても手を直接被曝する。可能であれば、被曝を軽減させたい。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業との共同研究は積極的である。過去に、脊椎固定具の開発で企業に協力し、製品化された例がある。欧米人向けの標準の脊椎固定具をベースに、アジア人向けで、かつ低侵襲手術にも対応できるものを開発した。
研究体制としては、有効な指示を出せる先生(できれば、臨床側と研究側から1名ずつ)が統括し、その下で多施設の医師が共同研究を行う体制が大切である。多くの医師に使われる機器であることが大切である。医師は自分なりの工夫を発想できるが、他の医師にも広く受け入れられるかどうかが難しい。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)疾病の種類やステージに特化した機器の開発
いろんな疾患に効果のある機器でなく、疾病の種類やステージに特化した機器も重要である。たとえば、軽度の椎間板ヘルニアの治療法として、椎間板の周囲に影響を与えない薬で圧迫している部分を溶かす方法も提案されている。この方法によって手術をする患者を減らすことができる。患者のためには、できるだけ手術をしない方向が好ましい。

ii)低侵襲手術に関する患者の啓発
低侵襲手術に関する患者の啓発が重要である。低侵襲であるという利点だけが強調され、不十分な情報で患者が自分の治療方法を選択するケースもある。低侵襲手術は患者の負担を軽くするが、治療成績は従来の治療方法と同等である。

iii)低侵襲手術の実施施設の拡大
低侵襲手術を大病院に限定させず、質を確保しつつ、中小病院を含めて広く実施できるようコントロールする仕組みも必要である。限られた施設に集中しすぎて手術待機期間が長くなると、結果的に患者が低侵襲手術を選択できなくなる。脊椎外科手術を必要とする疾患は、長期に待機できない。

iv)医療機器の価格と診療報酬点数とのバランス
医療機器の価格と診療報酬点数のバランスが取れておらず、低侵襲手術のための機器を購入しても採算を合わせることが難しい。低侵襲手術をしてもしなくても診療報酬点数が同じであるために、低侵襲手術は経済的に不利である。

v)脊椎外科における治療の標準化
脊椎外科における治療の標準化を推進することが重要である。学会の作成するガイドラインはあるものの、熟練した医師がそれぞれの方法で治療を行っている面も少なくない。多施設比較試験を通じて、ガイドラインを作成し、標準的な治療方法を普及させていくことが重要である。


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