ニーズDB:医師インタビュー
一覧 > 詳細 < 前へ  | 次へ >

中村 俊康 先生
慶應義塾大学病院
整形外科 講師 
整形外科

詳細はPDFこちら
1.ご専門の分野について

専門は整形外科、特に手首を対象としている。
疾患としては、TFCC損傷、舟状骨骨折等の外傷、変形性関節症、リウマチが対象となる。

頻度の高い手技としては手関節鏡手術があげられ、年間300件行っている。

手関節については画像診断により手術の適用と判断される場合は、手関節鏡手術がほぼ必須である。手関節鏡手術は手術時間が10~15分と短時間である。また、生理食塩水を流し込みながら(陽圧をかけながら)行われるので感染のリスクが低い。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
高感度MRIが登場し、TFCCの損傷箇所を詳細に確認できるようになった。

ii)診断機器としての手関節鏡
1.9mmの関節鏡が登場し、手首を構成する3つの関節(頭骨手根関節、手根中央関節、遠位橈尺関節)に関節鏡を使用できるようになり、より適切な診断が可能になった。

b)治療
i)治療機器としての関節鏡
1.9mmの関節鏡が登場し、関節鏡視下に的確にTFCCを縫合できるようになった。MRIの進歩によって診断水準が向上したが、そこに治療水準が追いつきつつある状況である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)診断
i)MRI
MRIは磁場強度(静磁場、傾斜磁場)の増強、およびコイルの改良による画像の向上が望まれる。また、画質の向上とともに、磁気シールド技術の向上も求められる。当院では来年度、3テスラMRIを導入予定である。

b)治療
i)手関節鏡
手関節鏡の問題点は、口径1.9mm未満の関節鏡では強度が不十分となる点、小口径になると視野が狭くなる点、硬性鏡は挿入経路によって動きが制限され見ることが難しい場所ができる点(先端が首を振れるようなものが望まれる)、斜視鏡では軸方向がみえにくくなる点、画像が平面状に提示され立体視ができない点などがあげられる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)組織学的診断が可能なMRI
組織学的診断が可能なMRIが望まれる。患部の組織学的診断(「臓器」より一段細かく、「細胞」より一段粗い粒度)を行いたい。MRIが組織学的診断に使えるようになると、整形外科にとどまらず、腫瘍の質的な診断にも活用できるだろう。

ii)組織学的診断が可能なMRI
ポータブルな小型MRIが望まれる。手首や膝(最も需要が高い)を撮影できるガントリを備え、一般的な椅子と同程度の装置サイズで、速やかに撮影できるものが望ましい。手首に限定すればさらに小型化できるかもしれない。将来的には手首専用の安価なMRIがほしい。

b)治療
i)手首用の人工関節
手首用の人工関節が望まれる。海外では手首用の人工関節が使用されているが、日本ではまだ使用できない。じつは最近日本で開発された手首用の人工関節は新規の医療機器ということで治験を求められ、その対応ができないまま4年後に海外で同様の製品が開発されたという経緯がある。新規の医療機器であり輸入するにも治験が必要になることから、現在も輸入すらされていない。手首用の人工関節を使用できないので、苦肉の策として、関節を別の場所につくるなどの手技で代替しているが、患者のQOLを考えれば、よいことではない。

ii)手関節鏡手術のためのナビゲーションシステム
手関節鏡手術のためのナビゲーションシステムが望まれる。手関節鏡とナビゲーションシステムのハイブリッドによる手術に期待したい。手関節鏡から組織表面に関する視覚情報と触覚情報を得て、ナビゲーションシステムから解剖学的な画像情報を得ることによって、より的確な診断と治療が可能になるだろう。
また、ナビゲーションシステムによって術者の被曝を軽減できる可能性もある。たとえば骨折の手術をしているとき、関節鏡によって関節面は確認できるが、軸が傾いているかはわからずX線透視装置を使いながら確認する。このとき、X線透視装置によって医師が被曝する。ナビゲーションシステムで解剖学的情報を得られれば、X線透視装置の使用を減らせる可能性がある。手関節領域のナビゲーションシステムはまだ開発されていない。

iii)ロボティックサージェリ
ロボティックサージェリが望まれる。ユーザーフレンドリで送達したい場所に内視鏡スコープを運べるものがほしい。将来的に、ロボティックサージェリの応用で、遠隔手術が可能になれば、札幌や金沢でも東京と同じ手術を受けられるようになる。技術の伝達において人が移動するのは非効率である。遠隔手術が実現すれば効率化するだろう。触覚が伝達され、自分の操作が正しく伝えられ、時間がかからないなら、実現の可能性もあるだろう。

iv)再生医療
iPS細胞による再生医療には期待している。ただし、再生医療が実用化されるまでに、やれることはいくつもある。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業等との共同研究には積極的に応じたい。今は景気もよくないので、企業は積極的になれない面もあるだろう。医療側は企業がどのようなことができるのかわかっていないし、企業側も臨床側が何をほしがっているのかわかっていないだろう。企業の商品企画や研究開発の担当者と臨床医とが直接意見交換する場があればよいと思うが、そのような場はなかなかない。
小口径関節鏡の市場は、今はそれほど大きくないが、今後は拡大するだろう。国内メーカーは市場の拡大可能性をあまり意識できていないようである。整形外科では今後、若手医師を中心に指関節をはじめとする小さな関節に関節鏡の適用が広げられていくことは間違いなく、その過程で小口径関節鏡の市場が拡大する。若手医師の世代はテレビゲーム世代であり、関節鏡手術に対する抵抗がなく、関節鏡手術の修得を希望する者も多い。
小口径関節鏡の現状としては、既存の関節鏡により可能になる手技を研究し、確立しようとしているところである。まだ販売台数が少数のためメーカーは積極的な投資に踏み切れない状況である。今後、手技が確立されれば販売台数が増加し、次の投資に踏み込むだろう。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
低侵襲医療の安全性と効果を高めるために、医師がトレーニングを行える拠点として「低侵襲医療トレーニングセンター」が必要である。

<トレーニングセンターの必要性・背景>
低侵襲医療の医療水準を高め、低侵襲医療の恩恵を患者がより確実に受けられるようにするべきである。
現在は医師が海外に自費留学してトレーニングを積み、技術を修得して日本に伝えているが、国家として国内でのトレーニング体制を整備するべきである。海外から医療技術を導入するための留学についても、国として何らかのサポート体制を構築するべきであろう。これまでは医師の自助努力で医療水準が保たれてきた。
以前のように実際の患者の治療の中で技術を伝えることが難しくなってきたことからも、このようなトレーニングセンターが必要である。患者は熟練医が執刀すると思っており、トレーニングのために経験の浅い医師に執刀させるということが難しくなってきている。
小さな関節など整形外科の新領域では技術を教えられる医師が少なく、トレーニングの機会が不足していることからも、トレーニングセンターが必要である。整形外科領域の中で主要な膝関節や股関節については専門の医師が大勢いるので技術の伝承をしやすい。しかし、膝関節についても本来はトレーニングセンターがあるべきである。

<トレーニングセンターの仕組み>
具体的な仕組みとしては、特殊な手技を要する低侵襲医療について、トレーニングセンターで技術を修得した医師に対して資格が付与され、資格をもつ医師だけが実施を許可される。さらに、一定期間(たとえば5年)ごとに資格更新のための実技講習の受講が義務づけられる。
トレーニングセンターでは人間の遺体が使用される。人間のように高度な筋・骨格系を有する動物は存在しないため、手首のような関節についてトレーニングを行うためには人間の遺体が必要である。チンパンジーでも不完全な手首しかもたない。ただし、現在は医師のトレーニング目的で遺体を使うことができないため、解剖法等の関連法の改正が必要となる。医師のトレーニング目的については死体損壊罪にあたると解釈される場合もあり、解剖学の医師が学生を相手に解剖を行うことしかゆるされない。海外では死体の売買が許されているが、日本にはなじまない。日本では今後も献体に頼るしかなく、それを踏まえたうえで医師は技術を伝える努力をしなければならない。
トレーニングセンターは国内に4箇所(たとえば、北海道、九州、東京、大阪)、設置できればよいのではないか。フランスでは2箇所設置されている。
メーカーにとっては、自分達の開発した機器を安全に使用してもらい確実に治療成績をあげてもらえることで、無用の事故を避けられ、適正に売れる市場が形成される。

ii)医療機器の許認可体制について
現在の医療機器の許認可には非合理な点があり、許認可体制を含めた見直しが必要である。診療科ごとに、臨床経験の豊富な現役医師が医療機器の許認可を行う組織に権限をもって関与し、医療機器の許認可を決めてくるような仕組みが必要だろう。保険の審査に協力する医師がいるのだから、医療機器の許認可に協力をする医師もいるはずである。医師の不正が疑われるなら、不正防止のための監査体制を構築すればよい。
現状の許認可体制では、たとえば人工膝関節や人工股関節で使用されている材料で人工手首関節を開発した場合であっても、「新規」の医療機器として治験を求められる。適用する部位は違っても使い方は同様であり、従来使われている材料とまったく同じ材料を使用しているにも関わらず、治験を求められるのは不合理といわざるをえない。材料の安全性が確認されていることは重要であるが、デザインに関しては臨床の中で淘汰される。本当に問題があれば再置換をすることも可能である。
なお医師主導治験については費用面に問題がある。当院でも症例はたくさんあるが治験を行う費用がない。治験費用を国が負担するなどのサポートが必要である。そうしなければ、日本発で、日本人に合った、新しい医療機器が開発されない。

iii)医療従事者の被曝について
医療従事者の被曝の問題については議論がなされるべきである。学会では議論されていない。むしろ、小さな皮切で透視下に手術することが推奨され、医療従事者が被曝する機会が増えている。患者のキズを小さくしようとする行動が医師の被曝量を増やしているのである。
自身の場合、骨折の手術において被曝している。指の爪の一部が肥厚し、一部が薄くなっているが、これは術中の被曝が原因の可能性がある。また、エビデンスこそ提示されていないが高齢の整形外科医に皮膚がんが多いという話もある。医師の被曝は自己犠牲である。患者のために「しょうがない」と思いながら行われている。整形外科と脳外科は放射線を浴びる2大外科である。


MINIMALLY INVASIVE Medical Technologies

シーズDB
  先進企業情報
  重要論文情報

ニーズDB
  医師インタビュー
  臨床医Web調査
  患者Web調査
  過去の臨床側アンケート

リスクDB
  市販前プロセス情報
  市販後安全情報
  PL裁判判例情報

  

低侵襲医療技術探索研究会
  アーカイブ   

リンク
  学会
  大学/研究機関
  クラスター/COEプロジェクト
  行政/団体
  その他

メールマガジン