(3)薬物療法
薬物治療の改善・進歩は患者のQOL、予防の改善に大きく寄与した。代表的な薬では、スタチンと抗血小板薬があげられる。これらに関しては大規模臨床試験による定量的な情報がある。
① スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
スタチンはコレステロール降下薬である。スタチン系のコレステロール降下薬は多種あるが、いずれも大規模臨床試験で実績がある。コレステロール降下治療において、病気がおきる発生率を抑える「一次予防」、再発を予防する「二次予防」両方の予防効果が、いくつかの研究で実証されている。
② 抗血小板薬
抗血小板薬はこの10年の発見ではないが、アスピリン潰瘍の副作用が軽減され、患者のQOLに貢献した医薬品である。抗血小板薬は、血小板の働きを抑える薬である。血小板は血液を固める働きをするため、動脈硬化が進んでいる場合、狭心症を発症する危険がある。抗血小板薬を服用することで、血栓ができるのを防ぐことができる。代表的な抗血小板薬としてはシロスタゾール、チクロビジンなどがあげられる。さらに副作用が少ないチクロピジン系の抗血小板薬のクロピドグレル、アルガトロンバンなどが新たに開発された。日本では認可されていないが欧米ではGP Ⅱb/Ⅲa 阻害剤(GP 2b/3a inhibitors) が既に使用され始め、予後が改善したと報告されている。
■既存の医療機器の改良すべき点について
(1)ステント
① 改良すべき点
現在使われているステントの問題点として、ステントの素材が指摘されている。金属がむきだしのステントが血管内にあると、血液が常に被曝され、血栓ができやすくなる。そのため患者は、血栓を防ぐ抗血小板薬を長期間、飲み続ける必要がある。
今後期待されるステントは、十分な強度をもち、生体吸収されるステントの開発である。
DESが患部に薬を塗り血管内腔を拡張した後、血液中に溶けて体外に排出されるステントが最も理想的だが、現在の技術ではまだ実現できないだろう。現在利用されている技術では、例えば、手術に使用する糸は生体に吸収されるが強度が足りない。人工骨は強度の点では十分かつ生体に吸収される素材ではあるが、柔軟性がないため心臓の表面の冠動脈には不適切である。現存のいずれの素材も血液中に溶けてなくなるのではなく、組織で白血球に貪食されているために、同部位に炎症が起きていることになり、厳密には吸収されているわけではない。
また、早期に内皮細胞をつくり、ステントがむき出しにならない状態を作る技術も報告されている。ストラット表面の血管内皮前駆細胞(endothelial. progenitor cell:EPC)が血液中のEPCを捕捉し、ステントの内皮下を促進するこの方法は技術、コストの両面で現実的である。しかし、実験は現在足踏み状態である。
ステント以外では、DCA(Directional Coronary Atherecto:方向性冠動脈粥腫切除術)で動脈硬化部分を削る方法もあるが、高速回転によるやけなど、かえって生体の傷がひどくなるため施行は減少している。
井垣医療設計(現京都医療設計)と玉井先生が整形外科で使用されるプレートに近い性質のステントを共同で開発した。しかし、硬い骨には吸収されるプレートも柔らかい冠動脈には吸収されないなどの問題点があり、実用化には至っていない。
② 今後の展開
バルーンカテーテルやステントを用いた血管形成術では、今後飛躍的に進歩することはないと考えられる。
この分野の医療機器の改良と術者の技能が向上することで、一時的に再狭窄率は減るかもしれないが、新たな技術を適用する病変が増えれば、結果的に再狭窄率が大きく変わることはないだろう。
(2)マルチスライスCT
① 改良すべき点
マルチスライスCTの改良が望まれている点は、マルチスライスCT自体と画像処理を行うCPUの両方の性能の向上である。マルチスライスCT自体については、検出素子の列の増加、列間隔の短縮、回転速度の改良、およびガントリの回転速度の改良である。
画像処理については、膨大な画像データの処理である。撮影時に着目した疾病以外にも異常を発見できる可能性があり、コンピュータにより自動で探索できるとよいだろう。
ステントが留置された血管も撮影できるようになるとよいだろう。現在は、血管内にステントがあると放射線が透過しづらく、内部を撮影できない。金属部分の隙間から放射線が入るよう細かく撮影すれば血管内の状態を撮影できるかもしれない。
② 今後の展開
今後、マルチスライスCTは現在の64列からさらに128、256列へと検出器の列が増えるだろう。ドイツでは既に324列があり、1回転しなくてもCTの撮影が可能になっている。
CPUの進歩次第ではあるが、10~15年後は、心臓カテーテル検査ではなく、マルチスライスCTによる診断が一般的になると考えられる。CTで見えにくい病変(例えば石灰化が強い病気など)はスクリーニング的にCT撮影し、その後カテーテル検査を行うようになるのではないか。