(2)治療
① コイル塞栓術
脳動脈瘤のコイル塞栓術はこの10年で進歩した。現在、日本で使用できるものはプラチナ製のコイルのみである。欧米では、プラチナにPGLAという生分解性ポリマーがコーティングされたコイルや、プラチナ表面にハイドロジェルという膨潤ジェルがコーティングされたコイルなど、さまざまな材質や形状のコイルが認可されている。これらのコイルは日本では認可されておらず、動物実験等で使用されるのみである。
コイルの使用本数は、大きいこぶだったら30~40本使うことがある。小さいこぶなら5本程度使用する。
② ステント留置術
世界的には頭蓋内ステントが導入され、患者のQOL向上に貢献している。頭蓋内ステントは、欧州で4種類、米国で2種類が認可されている。ほとんどのステントがナイチノールという金属でできている。日本でも胆管や下肢のステントとして、ナイチノールステントが認可されているが、脳治療に関してはまだ認可されていない。頚動脈に関しては、平成19年の4月に医療材料として承認され保険収載された。
③ 開頭手術におけるナビゲーション技術
開頭手術ナビゲーション。深部の脳腫瘍切除術などで、現在の術野の画像に術前または術中に撮影したCT画像をフュージョンさせることで、手術用器具等の位置を確認しやすくなった。
(1)日本発で世界標準となるような脳領域の治療デバイスの実現に向けて
脳領域の治療デバイスについては、日本発で世界標準となった製品は皆無である。治療デバイスの実現を本気で考えるのなら大学への研究開発費の配分方法や、企業との協力の仕方などを改めて考える必要があるのではないか。
① 研究者
医療機器の研究開発においては、ビジネスモデルを考えてデザインしなければならない。たとえば、装置販売に加えて消耗品販売を期待できるような装置であることが望ましい。
人材育成が課題である。日本には医療機器の研究から製品化までの全工程を経験し、成功したことのある人材が少ない。成功体験のある人材が皆無だから適切な研究開発ができない。FDAや薬事法の許認可のプロセスや求められる試験結果、製品販売ルートや継続的な利益確保の手段まで考慮して医療機器をデザインできる人材がどれだけいるか。
② 国
国の科学研究費も運用面の課題がある。たとえば、米国のNIHの競争的資金でトップテンに入り億単位の研究費がつくような研究課題が、日本ではまったく評価されないようなことも起きている。研究課題を適切に審査できる人材を育成しなければならない。
また、論文ではなく臨床応用をゴールとするような成果主義の導入も必要である。現在は臨床応用できなくてもペナルティは生じない。
日本の治験の審査にも課題がある。世界の標準的な試験方法を採用せず、国内の少数の研究者だけしか行っていないような試験方法で試験を求めることがあるようだ。また、過去に毒性試験が行われ毒性は問題ないと判断された材料が含まれていた場合に、改めて毒性試験の結果の提出が求められることもあるようだ。
③ 民間企業
日本の民間企業の技術者には以前のように、世界に誇れる技術水準を取り戻してもらいたい。現在はブランドイメージの関係で生産拠点として日本が選択されているが、現実的には他のアジアの国で作成された製品も日本製と同程度以上の品質に感じられることもある。