(1)ポンプバイパス手術に使われる小物(手術周辺機器)
この10年で診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器としては、オフポンプに使われる機器がある。主な機器としては、スタビライザー、ポジショナー、ブロアーなどがあげられる。
① スタビライザー
スタビライザー(吻合部固定器具)は、冠動脈の吻合部を固定し、術野を安定させる機器である。拍動する心臓の1~2mmの小血管を吻合することは非常に困難だからである。
吸引式のスタビライザーが開発されたことでオフポンプの施行数が増えた。東京女子医科大学でもスタビライザーが開発される前は、オフポンプは1~2割だったが、現在は6割を占めている。
② ハートポジショナー
ハートポジショナーは、端的には、スタビライザーを大きくした装置である。心臓の先端部分を吸着して持ち上げ、心臓の裏側を展開するなど、術者からみた心臓の位置や角度を自由に変えられる器具である。
③ ブロアー
ブロアーは、手術中の出血に対して、無血視野を確保するための機器である。2000年ごろに血液を吹き飛ばす方式のブロアーが登場した。この方式は、従来の吸引型に比べて、患者と機器との距離を確保できるため手術の邪魔にならないこと、広範囲の血液を吹き飛ばせるため視野を確保できることなどの利点がある。また、吹き飛ばした血液は吸引して体に戻すことができる。
■既存の医療機器の改良すべき点について
既存の医療機器の延長線上には特にインパクトのあるものはない。新しい発想が必要である。
(1)治療
① 自動吻合装置
よくいわれるのは、バイパスの大動脈と静脈とを自動的に縫合する機器のような、末梢側を自動縫合する機器の開発である。内胸動脈と冠動脈の自動吻合装置は現在、研究開発や治験は行われているが実用化には至っていない。
自動吻合装置を実現するためには、手縫いより吻合の質が平均的に高いこと、開胸手術を行わない手術(ロボット手術など)で使用できるなどの特徴が求められるだろう。
ただし、自動吻合装置を用いた内視鏡手術やロボット手術の普及は、縫合経験の少ない医師を生むなど、医療の劣化を招くという負の側面もあるのではないか。
(2)予防・診断・予後
① マルチスライスCT
マルチスライスCTは、診断・スクリーニングにかなりの貢献をした。冠動脈造影に比べて、患者は寝ているだけでよく、入院する必要もないなど低侵襲医療機器のひとつである。マルチスライスCTの登場で疾患の発見率は高くなっただろう。
日本のバイパス手術は近年減少傾向にある。マルチスライスCTでバイパスの症例が増えたわけではないが、内科的治療は増加しただろう。また、術後の確認造影でマルチスライスCTを使う施設もでてきた。しかし、マルチスライスCTが冠動脈造影に完全にとって代わるとは考えられない。
② 造影剤
マルチスライスCTや冠動脈造影には造影剤の注入が必要である。最近では腎臓が悪く、かつ虚血性心疾患やCHD(慢性心疾患)の患者が増えていることから、少量で同じ造影効果を得られる造影剤や、腎機能が悪い人にも負担が少ない造影剤の開発が期待される。