ニーズDB:医師インタビュー
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西田 博 先生
東京女子医科大学病院
心臓血管外科 講師
心臓血管外科

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1.ご専門の分野について

専門は心臓血管外科である。特に後天性心疾患、虚血性心疾患、補助循環を扱う。主な疾患は狭心症心筋梗塞、心不全、その他の後天性心疾患である。
冠動脈バイパス術とは、冠状動脈の狭窄部位の末梢に新しい血管をバイパスとして吻合する手技である。新しい血管としては内胸動脈、右の胃大網動脈、橈骨動脈、大伏在静脈などが使われる。
冠動脈バイパス術は、「オンポンプ(人工心肺装置を使用する)」と「オフポンプ(人工心肺装置を使用しない)」とに大別され、オンポンプはさらに、「オンポンプビーティング(心臓を止めない手技)」と「オンポンプアレスト(心臓を止める手技)」とに区分される。
患者への侵襲は、オフポンプ、オンポンプビーティング、オンポンプアレストの順で大きくなる。オフポンプは心機能が悪いケースでは適用できない。
日本冠動脈外科学会による全国の症例調査(回収率60%台)によれば、バイパス手術の実施比率は、オンポンプが4割、オフポンプが6割であり、オンポンプのうち、オンポンプビーティングが1割、オンポンプアレストが3割であった。東京女子医科大学での実施比率は全国平均とほぼ一致する。
日本胸部外科学会では、今年度の実施手技の症例調査(回収率95%以上)を、人工心肺装置を使用したバイパス術を「オンポンプビーティング」「オンポンプアレスト」の2項目に分けて実施数を集計する。調査の目的は、なぜ冠動脈バイパス術の3~4割が未だにオンポンプで行われているかを考察することである。それによってオンポンプが患者の病状や心機能に必要とされているのかどうか、オフポンプの施行をさらに増加させることが必要かどうかを明らかにできるのではないか。

実施頻度の高い手技は冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Graft:CABG)であり、当院での年間実施件数は50~100件である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)ポンプバイパス手術に使われる小物(手術周辺機器)
この10年で診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器としては、オフポンプに使われる機器がある。主な機器としては、スタビライザー、ポジショナー、ブロアーなどがあげられる。
① スタビライザー
スタビライザー(吻合部固定器具)は、冠動脈の吻合部を固定し、術野を安定させる機器である。拍動する心臓の1~2mmの小血管を吻合することは非常に困難だからである。
吸引式のスタビライザーが開発されたことでオフポンプの施行数が増えた。東京女子医科大学でもスタビライザーが開発される前は、オフポンプは1~2割だったが、現在は6割を占めている。
② ハートポジショナー
ハートポジショナーは、端的には、スタビライザーを大きくした装置である。心臓の先端部分を吸着して持ち上げ、心臓の裏側を展開するなど、術者からみた心臓の位置や角度を自由に変えられる器具である。
③ ブロアー
ブロアーは、手術中の出血に対して、無血視野を確保するための機器である。2000年ごろに血液を吹き飛ばす方式のブロアーが登場した。この方式は、従来の吸引型に比べて、患者と機器との距離を確保できるため手術の邪魔にならないこと、広範囲の血液を吹き飛ばせるため視野を確保できることなどの利点がある。また、吹き飛ばした血液は吸引して体に戻すことができる。


■既存の医療機器の改良すべき点について

既存の医療機器の延長線上には特にインパクトのあるものはない。新しい発想が必要である。
(1)治療
① 自動吻合装置
よくいわれるのは、バイパスの大動脈と静脈とを自動的に縫合する機器のような、末梢側を自動縫合する機器の開発である。内胸動脈と冠動脈の自動吻合装置は現在、研究開発や治験は行われているが実用化には至っていない。
自動吻合装置を実現するためには、手縫いより吻合の質が平均的に高いこと、開胸手術を行わない手術(ロボット手術など)で使用できるなどの特徴が求められるだろう。
ただし、自動吻合装置を用いた内視鏡手術やロボット手術の普及は、縫合経験の少ない医師を生むなど、医療の劣化を招くという負の側面もあるのではないか。

(2)予防・診断・予後
① マルチスライスCT
マルチスライスCTは、診断・スクリーニングにかなりの貢献をした。冠動脈造影に比べて、患者は寝ているだけでよく、入院する必要もないなど低侵襲医療機器のひとつである。マルチスライスCTの登場で疾患の発見率は高くなっただろう。
日本のバイパス手術は近年減少傾向にある。マルチスライスCTでバイパスの症例が増えたわけではないが、内科的治療は増加しただろう。また、術後の確認造影でマルチスライスCTを使う施設もでてきた。しかし、マルチスライスCTが冠動脈造影に完全にとって代わるとは考えられない。
② 造影剤
マルチスライスCTや冠動脈造影には造影剤の注入が必要である。最近では腎臓が悪く、かつ虚血性心疾患やCHD(慢性心疾患)の患者が増えていることから、少量で同じ造影効果を得られる造影剤や、腎機能が悪い人にも負担が少ない造影剤の開発が期待される。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)補助人工心臓
実用が望まれる新規の医療機器としては、テルモ、エバハートなどの補助人工心臓が注目されているのではないか。人工心臓には全置換型人工心臓と補助人工心臓がある。全置換型人工心臓は、自然心臓を切除し置換して埋め込まれ、左右の2つの血液ポンプによりポンプ機能を代行する。補助人工心臓は、自然心臓の近くに設置し、心臓ポンプ機能を代行する。患者の約90%は補助人工心臓で心臓機能を回復することができる。
現在、日本で使用できる補助人工心臓は体外設置型だけである。体外設置型の人工心臓は、体外に管が出る、ポータブルの機器を持ち歩く必要があるなどの問題がある。臓器移植と人工心臓のQOLの差を縮めるために完全埋め込み型の人工心臓の開発が望まれている。一方で、臓器移植はドナーが見つかりにくいという問題がある。
人工心臓を使用する患者の死亡原因は血栓による虚血や梗塞が多い。ポンプ周辺の血管から血栓が飛ぶこともあるため、ポンプから血栓が飛ぶ症状を解決するだけでは不十分である。
また医療経済の観点から、人工心臓の手術を行える施設基準を設け、施設を絞る必要があるのではないか。
世界的にみると、補助人工心臓の開発が進み、小型化・低価格化が可能になったことで、メーカーも参入しやすくなり、開発競争がおこっている。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)医療機器開発における連携
グローバル競争で海外の医療機器に対抗するために、企業間連携、産学連携の促進が必要である。日本企業間の連携なのか、日本企業と海外企業の連携なのか考える必要がある。

(2)日本の医療機器メーカーの海外展開
採算性の観点から、日本のメーカーは市場の小さな国内市場ではなく世界市場を目指さなくてはならない。日本の医療機器メーカーにはグローバル企業が少ない。日本企業の多くは日本国内を市場とするローカル企業である。

(3)事業リスクに対する企業の姿勢
臨床家と企業の共同開発は、大企業ほど人命に関わるような研究開発のリスクを避ける傾向にあり難しい。そのため、臨床家が臨床応用しようとする際に苦労するのは、薬事法上の問題だけではなく、メーカーの協力が得にくいという問題である。

(4)医療機器ベンチャーの育成
日本ではベンチャーが育ちにくいという問題もある。

(5)薬事法上の審査
日本では薬事法上の審査に時間がかかることが問題である。申請する業者のレベルに大きな問題があることは少なくない。

(6)医療機器開発における国家戦略
日本には医療機器開発について、国としての戦略がない。

(7)新規の医療技術の安全性確保と患者説明
術者の技術や周辺機器の性能は経験を積むことによって徐々に改善されている。しかし、新しい手技が登場すれば、全ての術者が初心者ということになる。医療技術の改善のためには経験を積むことは重要だが、経験が十分に蓄積できていないような場合にも安全性をどう確保するか、患者にどう説明するかが問題である。


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