ニーズDB:医師インタビュー
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福井 康之 先生
国際医療福祉大学三田病院 
整形外科 教授
整形外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科で、特に脊椎・脊髄疾患を対象にしている。部位としては頚椎、腰椎が多く、疾患名では頚椎症性脊髄症、頚椎後縦靱帯骨化症、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離すべり症、脊髄腫瘍などである。

実施頻度の高い手技は椎弓切除術、椎弓形成術、脊椎固定術である。平成20年度の脊椎手術件数は年間338件で、その内訳は椎弓切除術152件、脊椎固定術101件、椎弓形成術53件などである。手術方法としては頚椎前方固定術では顕微鏡手術を、腰椎椎間板ヘルニアには内視鏡手術を施行しているが、基本的にはopen surgeryを行っている。脳神経外科医と共同で脊椎脊髄センターを開設しており、脊髄腫瘍の症例も増加傾向である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
MRIは10年前に比べ画像の解像度が高まり診断精度が上がった。以前は診断が困難であった髄内腫瘍や脊髄空洞症なども鮮明に描出されるようになった。MRIの最大の長所は非侵襲性であること、短所は撮像時間が長いことである。

ii)脊髄誘発電位モニタリング
術中に脊髄に電気刺激を与え脊髄機能をモニタリングする方法である。脊髄や馬尾神経の神経機能を評価することによって、手術操作をコントロールし神経損傷を予防することが目的である。日本光電工業株式会社の機械を使用している。

b)治療
i)エアドリル
以前のエアドリルは刃の形状やトルク、振動などに問題があり神経損傷と紙一重であったが、現在は脊髄硬膜に接触しても重篤な神経損傷を発生しにくく改良されており、安全性が飛躍的に高まった。また最近は、掘削部位の冷却・洗浄のためドリル先端部から水を噴射できる製品も開発され、熱による神経損傷を防ぐことができ、かつ、術野を確保しやすく改良されている。エースクラップ社(AESCULAP)の製品を使用している。

ii)インプラント
脊椎インプラントはMRI撮影に問題のないチタン製素材が導入されてから飛躍的に種類が増え、患者や術式に適したインプラントが選択できるようになり利便性が向上した。また、椎間スペーサーにおいては、2009年8月にX線透過性を持つ素材、PEEK(polyethertherketone;ポリエーテルエーテルケトン)の薬事承認(Medtronic Sofamor Danek社やStryker社 etc)がおり、術後の骨癒合状態が非常に把握しやすくなった。
脊椎インプラントにより術後のリハビリは画期的に改善された。20年前の脊椎手術後、特に脊椎固定術後の安静期間は最低、2~4週間を要していたが、今では手術翌日から歩行訓練を開始できる。一方、インプラント使用による神経損傷や術後感染重篤化などのリスクもあるため、手術手技に習熟し手術時間の短縮に励むことはもちろん、糖尿病や生活習慣病を認める場合には術前コントロールを十分に行い感染予防に努めることが極めて重要である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)診断
i)MRI
撮影時間は現状でも最低20分程度を要しており、さらなる短縮が望まれる。また、閉所恐怖症の方には入りづらい構造となっているので、open MRIの普及が待たれる。
ii)脊髄誘発電位
近年の器械はノートブックの大きさであり、十分小型化されてきている。運動機能を正確に反映するモニタリング方法の開発が課題である。

b)治療
i)エアドリル
より小型化、軽量化が望まれる。また、ナビゲーションと連動して、神経や血管組織との距離を術者にfeedbackできるシステムが開発されれば、より安全性が高まると考える。

ii)インプラント
サイズのバリエーションは増加傾向にはあるが、欧米人に合わせた製品は基本的に日本人にはやや大きいため、Asian sizeのインプラントが望まれる。

iii)ナビゲーションシステム
Navigation Systemとは、術前のCTあるいはMRIを主体とする画像(イメージ)によりバーチャルリアリティーをコンピューター画面に作り出し、正確に手術操作を施行するための手術支援装置である。たとえば脊椎手術の場合、特にリスクを伴う頸椎部の椎弓根スクリュー(pedicle screw)において、術者が計画通り正確にスクリュー刺入するガイドとなる。Navigation手術を成功させるための基本は、術前に取得した画像と術中に扱っている実際の骨とを一致させることであるが、複雑な構造をした脊椎部では若干の誤差が生じることや術中基準点をとるために長時間を要することが大きな問題である。長時間手術は術後感染をはじめとして色々な合併症の要因となりうる。また、初期投資額が高額であり、かつ、ソフトの更新などの維持費も高く、価格面での改善が急務である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

内視鏡手術や顕微鏡手術を習得するためには、まずopen surgeryできちんとした解剖学的知識、局所だけでなく全体を見渡す知識や技術を習得する必要があるが、これは伝統的に先輩外科医の手術を実際に観て習得する、いわゆる職人としての鍛錬に委ねられてきた。一方、最近では患者側から術者の経験年数や経験手術数などを具体的に尋ねてくる場合が多く、若手医師のトレーニングに若干の障害が生じている。脊椎外科医が基本的手術手技を習得するための医療機器が是非、必要であると感じている。
なお、術中レントゲン透視装置は依然として器械が大きく取り回しに不便を生じており、技術革新による小型化と軽量化が必須であると考える。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)低侵襲医療について
手術の侵襲度は手術時間や出血量など総合的に判断しなければならないので、皮膚切開の大きさのみに注目して低侵襲医療と捉えることは危険である。最小低侵襲は手術を受けないことも含まれるのであるから、まず手術加療が必要な状態か否かをきちんと診断し、その上で術式を検討すべきと考える。従って、低侵襲手術だからと安易に手術を受けるのではなく、筋骨格系疾患の診断においては経験豊富な専門家によるセカンドオピニオンを活用することが極めて重要であると考える。

ii)再生医療について
手術により神経圧迫要因を解除できても神経組織の機能回復は現在の医学では達成できないため、その意味では脊髄再生医療の発展が道は極めて厳しいと思うが期待されるところである。また、脊椎固定術に取って代わる治療法としては椎間板の再生医療が将来的な方向性と考える。

iii)診療報酬について
日本の医療制度ではドクターフィーが認められておらず、高い技術の習得や過酷な労働はすべて医師の献身と情熱に支えられているのが現状である。医療崩壊はマスコミが報道する産科医療と小児医療だけでなく、リスクの高い脊椎外科医療にも及んでおり、医療技術者の技量を何らかの形で評価する診療報酬制度の導入が望まれる。


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