ニーズDB:医師インタビュー
一覧 > 詳細 < 前へ  | 次へ >

野本 聡 先生
済生会横浜市東部病院
リウマチ科 部長
整形外科

詳細はPDFこちら
1.ご専門の分野について

診療科は整形外科、専門分野は膝関節外科である。
主な対象疾患は、変形性膝関節症、関節リウマチ、膝関節のスポーツ外傷や障害(具体的には膝半月板損傷、前十字靭帯損傷等)、さらに膝関節や膝周辺外傷として骨折治療にも携わっている。

実施頻度の高い手技としては、人工膝関節置換術(年間140例)、関節鏡視下手術(年間90例:内訳は半月板縫合・切除術50例、靭帯形成術20例など)、小侵襲手技による難治骨折治療(年間10例)があげられる。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI、3次元CT
MRI、3次元CTが進歩した。いずれも非侵襲的な装置である。MRIは骨のみならず軟部組織の外傷や疾患の診断を可能にした。3次元CTは骨を3次元的に評価可能にし、複雑骨折や関節内骨折の治療におおいに貢献した。

ii)超音波診断装置
骨関節の診断に超音波診断装置が盛んに使用されるようになった。たとえば、膝関節の滑膜の超音波画像から、骨に病態が現れる以前の関節リウマチの初期診断が行われている。小関節も対象となり、専用プローブも使用されている。この1~2年で学会発表されるようになった。

b)治療
i)関節鏡視下手術器具
関節鏡視下手術器具が進歩した。膝関節のみならず多くの関節の外傷や疾患の診断や治療に応用されるようになった。手術侵襲が小さいことから、特にスポーツ選手の術後早期復帰に大いに貢献している。

ii)小侵襲での人工関節置換術を可能にする手術器具
小侵襲での人工関節置換術を可能にする手術器具が進歩した。小型だが正確な骨切を行うことができるカッティングガイドにより手術侵襲が小さくなり、術後早期のリハビリテーション、早期退院を可能ならしめ、患者のQOLの向上におおいに貢献した。

iii)コンピュータナビゲーションシステム
低侵襲手術は手術創が小さく術野が狭いため、手術の正確性を従来の方法程度に維持することがむずかしい。この欠点を補うためのコンピュータナビゲーションシステムが進歩した。

iv)低出力超音波治療
骨折治療に対する低出力超音波治療が進歩した。低出力超音波治療は偽関節等に対して外部から低出力超音波を照射し、非侵襲的に骨癒合を促進させる技術である。現在は、新鮮骨折にも応用され骨癒合までの期間短縮を実現している。スポーツ選手の早期復帰にも貢献している。たとえば、ワールドカップ開幕1か月前に骨折した有な名サッカー選手がこの治療を受けて出場が絶望視されたワールドカップの試合に出場できたという例もあがっている。

v)骨輸送関連技術
骨輸送関連技術が進歩した。重度の外傷や疾患により骨の一部を失ってしまった患者に対して、従来は自家または同種骨移植手術により救済してきたが、最近では、骨を取り除いた部分に正常な骨を動かしながら骨をつくる「骨輸送」という方法が発達してきた。

vi)テイラースペイシャルフレイム(Taylor spatial frame)
変形治癒(骨折治療後に変形を残す)などの難治骨折に対する治療機器として、テイラースペイシャルフレイム(Taylor spatial frame)という創外固定具が登場した。創外固定器の6本のバーをコンピュータが計算した数値どおりに1日に少しずつ動かすことで、小さな侵襲で、従来の方法では矯正困難であった難しい変形も治療できるようになり、治療成績におおいに貢献した。

vii)人工骨
人工骨の発達は目を見張るものがあった。ハイドロキシアパタイトなどの体内にそのまま残る材料だけでなく、人間の骨に置き換わっていく材料が開発され、進歩した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)診断
i)超音波診断装置
超音波診断装置の画質の向上が望まれる。超音波診断装置は患者に対して非侵襲であり医療従事者がX線を浴びることもないが、画像の解釈が必ずしも容易とは言えない。もう少し分かりやすい画像を得られるようになれば、もっと普及するだろう。

ii)MRI
MRIは撮影時間の短縮が望まれる。検査を受けるまでの待機期間が長いことが問題である。

b)治療
i)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムの改良が望まれる。現在の問題点は、セッティングに時間を要するために手術時間が延長すること、高額であるために一般病院への普及が遅れていること、手技が煩雑なために業者の立会いが必要になることなどが挙げられる。
すでに実用化が始まっているが、骨折の手術などの場合にもX線透視装置による画像を見ながらではなくナビゲーションシステム上に再構成された仮想的な画像をみながら手術を行えば、医療従事はX線被曝を軽減できるという大きな利点を得ることができる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)骨と軟部組織を同時に3次元画像化する技術
骨と軟部組織を同時に3次元画像化する技術が望まれる。現在、骨は3次元CTによって軟部組織はMRIによって優れた画像を得ることができるが、将来は骨も軟部組織も同時に3次元画像として再構成できる画像診断技術が期待される。3次元画像上により、実際に手術をしているようなシミュレーションを行えれば、診断にも手術にもおおいに役立つであろう。

b)治療
i)医師のX線被曝を防げるX線透視装置
医師のX線被曝を防げるX線透視装置が望まれる。現在、低侵襲な手術を行うためにX線透視装置が使われているが、その結果、医療従事者が長時間X線を浴びている。X線被曝を最小限にする技術が望まれるところである。

ii)人工軟骨、人工半月板、人工靭帯
人工軟骨、人工半月板、人工靭帯の臨床応用が望まれる。人工靭帯は以前、臨床応用されたが、長期耐久性の問題から普及には至らなかった。

iii)再生医療
骨組織の再生医療が望まれる。運動等による負荷(メカニカルストレス)に対する強度が求められるため、再生医療と人工材料とのコラボレーションが必要になるだろう。人工材料である程度の強度を確保し、そこに再生医療の応用による自家組織を誘導する。こうした考え方は昔からあるが、なかなか実現しなかった。ようやく人工材料も再生医療も発達し、いよいよ実現のときが近づいていると感じる。

iv)ロボット手術
ロボット手術が望まれる。手技の習熟のためにトレーニングが必要であることは人間の宿命だが、ロボットの活用によって、医師の経験や勘に依存せず一定レベル以上の手術を行えることが望まれる。究極の低侵襲手術を受けられる時代が到来するかもしれない。
ただし、ロボット手術が普及するとしてもそれは遠い将来のことであり、それまでは医師のトレーニングの精度を高める仕組みの整備に重点が置かれるべきである。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
(共同研究の意向)
臨床で忙しくはあるが機器開発には関心があり、協力は惜しまないつもりである。
(共同研究の実績)
米国ユタ大学と共同開発された人工膝関節の最小侵襲手術バージョンについて、企業と共同開発を行い国内で製品化した経験がある。現在は米国でも逆輸入され使用されている。現在もなお改良が必要な点が存在する。
当時、「最小侵襲機器の開発」と「ナビゲーションシステムに対応した機器の開発」という2つの方向性があったが、最小侵襲機器の開発の方向で開発を進めた。
(共同研究のあり方)
臨床医がアイディアを提供し、企業が試作品を速やかに開発するというテンポのよい開発が進められることは重要である。研究期間については「タイムリーな開発を行う意味で、製品化時期を逸しない程度のスピードが必要である。また、複数の開発ドクターに意見を求め、意見を共有しながら開発を進める方法も好ましい。企業側からも新しいアイディアをどんどん情報提供していただけるとありがたい。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)低侵襲医療に対する理解の促進
低侵襲医療に対する理解の促進が重要である。低侵襲医療は魅力のある言葉だが、誇大広告は控え、低侵襲医療が安全性の高い医療であるとは限らないことを併せて啓発していくことが重要である。低侵襲の追求は重要だが、診断においては病態の実態を把握するための情報が欠落してはならないし、治療においては危険な合併症を引き起こすようなことがあってはならない。低侵襲医療の追求と同時に安全性が追求されなければならない。

ii)医師がトレーニングを行える仕組みづくり
低侵襲医療の安全性をより向上させるために、医師がトレーニングを行える仕組みづくりが急務である。現在は、医師は実際の患者に対する手術を通じて技術を修得しているが、安全性の観点からは改善の余地がある。
具体的な仕組みとしては、たとえば手術トレーニングセンターを普及させることが考えられる。トレーニングセンターが整備されれば、医師の手術技術の習得、向上に貢献することは言うまでもないが、手術の安全性の向上、技術修得までの期間の短縮なども期待できる。トレーニングセンターでは動物だけでなく新鮮死体によるトレーニングを行えることが重要である。ただし現在の法解釈では、死体損壊罪(刑法190条)に抵触する可能性があることからトレーニングのために新鮮死体を用いることはできない。こうした背景を鑑み、新鮮死体によるトレーニングを行うためのNPOが設立されるなど実現に向けた動きはあるものの、実現の目処は立っていない。
トレーニングセンターの運営主体については、必ずしも国である必要はなく、大学が中心となり、大学での「教育」の一環として大学所属の医師を対象としたトレーニングを行うことも考えられる。


MINIMALLY INVASIVE Medical Technologies

シーズDB
  先進企業情報
  重要論文情報

ニーズDB
  医師インタビュー
  臨床医Web調査
  患者Web調査
  過去の臨床側アンケート

リスクDB
  市販前プロセス情報
  市販後安全情報
  PL裁判判例情報

  

低侵襲医療技術探索研究会
  アーカイブ   

リンク
  学会
  大学/研究機関
  クラスター/COEプロジェクト
  行政/団体
  その他

メールマガジン