ニーズDB:医師インタビュー
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松本 守雄 先生
慶應義塾大学
医学部 整形外科 准教授
整形外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科、特に脊椎外科である。
主な対象疾患は、腰椎疾患(脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア等)、脊柱変形(脊椎側弯症、脊柱後弯症等)である。

脊椎の手術は年間210~220例行っている。主な内訳は、腰椎疾患120例、脊柱変形70例などである。椎間板ヘルニアと一部の脊柱管狭窄症に対して内視鏡手術を行っている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
MRIは解像度が向上した。

ii)CT
CTは詳細な画像を高速に撮影できるようになった。細かい病変まで描出できるようになった。

b)治療
i)内視鏡手術器具
内視鏡手術器具が進歩した。光学技術の進歩により画像がよくなったことで安全で効果的に内視鏡手術を行えるようになった。ハイビジョンの内視鏡が普及し、フルハイビジョンの内視鏡も登場した。
また、周辺機器も進歩した。エアドリルが改良され、超音波骨メスが登場した。

ii)脊柱変形の矯正具
椎弓根スクリューの使い勝手が向上し、手術時間の短縮や治療成績の向上に貢献した。

iii)術中ナビゲーション
術中ナビゲーションが登場し、難しい症例など役立つケースもある。難しい症例で正しい位置にスクリューを入れるときなどに役立つ。

iv)人工骨
ハイドロキシアパタイト(HA)は、固まりやすさの面などハンドリングがよくなった。
日本は海外のように銀行骨(バンクボーン)を使用できない。こうした背景からも、人工骨を発展させることは重要である。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)内視鏡
内視鏡は解像度の向上と立体視が望まれる。解像度は向上したものの顕微鏡に比べると不足感がある。また、立体視ができない。
改良されるたびに高価になるが低コスト化が望まれる。内視鏡手術でも肉眼による手術でも診療報酬は同じである。

ii)脊柱矯正具
脊柱矯正具の素材の改良が望まれる。現在、国内で使用されている矯正具の素材は6アルミ4バナジウムのチタン合金だが、ハンドリングしにくく毒性の心配もある。
海外ではコバルト・クロム合金の矯正具も使用されている。コバルト・クロム合金は強度に優れ、矯正具がダウンサイジングされている。ロッドの径は細径化可能で、スクリューヘッドのサイズも小型化可能である。患者にとって術後腰部の違和感が軽減されるだろう。

iii)エアドリル
エアドリルは発熱と神経損傷リスクの点で改良が望まれる。エアドリルは脊椎外科に必須の器具である。バーを回転させて骨を削る機構だが摩擦熱が生じるため冷却しながら使う。削り過ぎによる神経損傷のリスクがある。
現在のエアドリルは原始的である。人類が月に行く時代なのだから、そろそろエアドリルも根本的な原理の転換による進化があってもよいだろう。

iv)超音波骨メス
超音波骨メスは発熱と時間の点で改良が望まれる。超音波骨メスはエアドリルに比べて安全性は高いが切削に時間がかかる。手術時間の延長を回避しようとすると、神経の際を削る瞬間など、限定的にしか使用できない。発熱があることはエアドリルと同じである。

v)ナビゲーション
ナビゲーションは、価格やレジストレーション時間の点で改良が望まれる。ナビゲーションは保険点数が少ないため、システムの価格がもう少し安くならなければ採算が合わない。またレジストレーションに時間がかかるため、毎回使用する気にはならない。このあたりは改良されなければならない。精度については、レジストレーションをしっかりやらなければ1~2mmの誤差が生じてしまう。脊椎の手術では1~2mmの誤差は致命的となる。

vi)人工骨
人工骨は強度と生体親和性の点で改良が必要である。脊椎には大きな加重がかかるため強度が必要である。また、生体親和性が高く、骨誘導能を備えた人工骨が望まれる。
人工骨はわが国にとって絶対に必要なものであり、もっと力が注がれるべきである。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)側弯症の遺伝子診断技術
側弯症の遺伝子診断技術が望まれる。側弯症は遺伝の影響が指摘されており思春期に発症する患者が多い。遺伝子診断により進行性の側弯症を早期にスクリーニングし、脊椎の曲がりが少ない段階で治療できれば、患者の負担軽減、医療費の抑制に効果的である。遺伝子診断を活用した治療はテーラーメイド医療(個人に合わせた医療)のひとつといえる。

ii)痛みを可視化できる画像診断法
痛みを可視化できる画像診断法が望まれる。

b)治療
i)安全に骨を削る機械
安全に骨を削る機械が望まれる。例えば、水の力で金属やコンクリートを削る技術を応用すればよい機器ができるのではないか。水を使うため発熱を抑えられる。医師側にニーズはあると思う。

ii)動く状態で矯正できる脊椎矯正具
動く状態で矯正できる脊椎矯正具が望まれる。側弯症の治療では、脊椎をまっすぐにして固定するが、動く状態が脊椎の本来の姿であり、動く状態で矯正できることが理想である。現在使われている金属に変わる素材を用いるなど、開発が期待される。

iii)椎間板を回復させる技術
椎間板を回復させる技術が望まれる。現在は椎間板の機能を回復させる方法がない。人工椎間板はおそらく難しく、薬剤を含め、バイオテクノロジーによるなんらかの技術開発が必要である。

iv)脊髄や軟骨の再生医療
脊髄や軟骨の再生医療が望まれる。脊髄や軟骨の損傷によって生活に支障をきたす人は多い。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業との共同研究については積極的である。現在も共同研究を行っている。
臨床側のアイディアをできるだけ早く製品に結び付けていただけるとありがたい。また、製品化され売上があがったときには利益の一部を研究費として大学に還元していただけると、次の研究開発にもつながり、とてもありがたい。
日本の企業は医療機器に対してもう少し積極的に投資をするべきである。医師とよく意見交換をして製品化し、海外市場に展開するなど、医療機器事業の活性化に期待したい。日本の企業は、家電製品等で世界一の技術をもちながら、なぜ医療機器では遅れをとるのか不思議に感じている。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)ロコモティブシンドロームへの対応
高齢化の進展に伴い高齢者の筋骨格系の疾患の重要性が高まっている。加齢を主要因として筋骨格系機能の低下につながる状態を「ロコモティブシンドローム」といい、啓発と予防が推進されている。医療機器開発の方向性としてロコモティブシンドロームへの対応が重要であろう。骨粗しょう症による骨折の予防医療はトピックスのひとつである。

ii)患者に対する低侵襲医療の正しい知識の啓発
患者に対して、低侵襲医療の正しい知識を啓発することが必要である。患者にとっては低侵襲医療は魅力的であり、ホームページ等で内視鏡手術を調べて来院する患者も少なくない。しかし、切開が小さいから低侵襲というわけではなく、切開をともなっても安全・確実な手術を受けたほうが長期的にみて低侵襲となることは多く、こうした知識を啓発することが必要である。

iii)トレーニングシステムの整備
医師が内視鏡手術を行うためにはスキルがいる。医師のスキルを高めるためにトレーニングシステムが必要である。
国内でのトレーニングでは豚などの動物の使用は認められているものの、遺体(キャダバー)を使用することは正式には認められていない。死体損壊罪に抵触する可能性も指摘されている。動物と人間との解剖学的な違いから動物では十分なトレーニングができないため、キャダバートレーニングの法的根拠の確立に期待している。ここ1~2年でキャダバートレーニングの議論が特に活発になってきた。キャダバートレーニングの運営主体は大学など公的な主体に限定されるべきで、営利の主体では問題がある。
キャダバートレーニングを実現できないのであれば、触感を含め人体を精密に模倣したシミュレータを開発する必要があるだろう。
内視鏡手術の適切な普及のために、トレーニングシステムの整備に関して国からのバックアップの充実が期待される。

iv)内視鏡手術に対する診療報酬
診療報酬をみると、内視鏡手術は患者にとって負担が軽減され医師にとっては高い緊張の中で行われる手術であるにも関わらず、従来の手術と同じ点数となっている。内視鏡手術の普及のためには診療報酬の面でも国からのバックアップが期待される。

v)医師の放射線被曝の軽減
医師の放射線被曝の軽減が期待される。放射線被曝は医師にとって大きなストレスである。医師が毎日被曝して寿命を縮めていることは、いいことだとは思わない。エビデンスはないが米国では医師の甲状腺がんの発生率が注目されている。医師の放射線被曝を軽減する方法としては、X線透過装置を使用しない手技を選択することやナビゲーションシステムを活用することが考えられる。


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