ニーズDB:医師インタビュー
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下川 宏明 先生
東北大学病院
医学系研究科 循環器病態学 教授
循環器内科

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1.ご専門の分野について

専門は循環器内科である。主な対象疾患としては虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全がある。

実施頻度の高い手技は、治療としては冠動脈のカテーテルインタベーション(PCI)である。昨年の年間実施件数はPCI(ステント留置)が180件であった。2006年の122件から大きく増えた。次いで、アブレーションが100件強、植え込み型除細動器が28件(東北地方で最多)であった。両心室細動機療法(左心室と右心室の両方をペーシング)も多く、東北地方で最多である。
移植は、昨年は肺移植が2件、心臓移植が0件であった。補助人工心臓は3件であった。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
① MDCT
この10年の診断機器の大きな進歩のひとつはMDCTだろう。最近、イスラエルで開発されたCTは、心臓の表面に走っている太い冠動脈の狭窄病変をある程度確認できるくらいの精度があるようだ。このCTは、静脈注射で造影剤を投与する必要はあるものの、従来カテーテルを使用していた診断の一部を置き換える可能性があり、そうなれば、患者にとって、より低侵襲な診断方法になると考えられる(ただし、被爆の問題は残る)。
日本でのMDCTの導入は7~8年前からである。欧米はさらに先行していた。その後、64列CT、128列CTというように段階的に性能が向上してきた。
MDCTの性能が向上しても診断カテーテルを完全に置き換わることはないだろう。CTでは、石灰化病変では冠動脈の狭窄を評価できないし、冠微小血管などの詳細な情報も得られない。
② MRI
MRIもこの10年で大きく進歩した。MRIは、CTと比べて画像の精度が落ちるが、ある程度の冠動脈の評価は可能である。MRIは被爆がなく、各心室の動き、心筋の線維化の状態、心筋の微細構造などの情報を得られる点で優れている。昨年の米国心臓協会(AHA)の年次学術集会では、MRIの画像がCTと遜色ない水準に到達したという発表もあった。
MRIの問題点は、金属が入っている患者に使用できないこと、細かい動きに追従できないこと、画像の構築に時間を要すること、などがあげられる。このあたりも、技術の進歩によりいずれ解決されるだろう。
③ 冠動脈造影
この10年で、冠動脈造影のほとんどがラジアルアプローチ(手首の橈骨動脈からカテーテルを挿入)になった。このアプローチは大腿動脈からカテーテルを挿入する方法に比べて患者の負担が少ない。4~5年前からは日帰りのカテーテル検査も普及しはじめ、患者のQOLの向上に貢献した。
日帰り検査ができるようになった背景には医療機器の進歩がある。細くて機能性の高いカテーテルが開発され、穿刺デバイスなども改良された。
(2)治療
① 薬剤溶出ステント(DES)B M S
最もインパクトがあったのは薬剤溶出ステント(Drug Eluting Stent:DES)の登場である。DESは、2004年8月にCypherステント が認可され、2007年5月にTAXUSステント が認可された。DESにより再狭窄の問題がほぼ克服されたことは、大きな進歩であった。
しかし、DESの使用頻度が増加するにつれ、DESの問題点 が明らかになってきた。現在は、一時期に比べてDESの使用が減少し、その分、ベアメタルステント(Bare Metal Stent:B M S)の使用が増加している。
DESとB M Sの使用割合は全国でばらつきがある。日本では9割以上DESを使う施設もあれば1割しか使わない施設もある。東北大学病院は3~4割程度である。患者1人ひとりの病状に応じて使い分けている。米国や欧州の現時点でのコンセンサスではDESとB M Sの比率はおよそ3対7とされている。
② アブレーション
頻脈性不整脈に対するアブレーション治療(高周波焼灼術)は日進月歩の進歩を続けてきた。対象疾患の範囲が広がり、病状に応じて対応できるようになった。
アブレーションは、最初は簡単な副伝導路を切ることから始まった。次に、心房粗動、発作性上室性頻拍症の治療が可能になった。数年前からは慢性心房細動の治療が開始され、この1~2年は、心室性の不整脈(心室性期外収縮や心室頻拍)などにも対象が広がっている。
③ 植え込み型除細動器(ICD)
植え込み型除細動器も進歩し、小型軽量化が進んでいる。また、患者の精神的負担のより少ない機能(電気ショックを用いずに頻拍以上のレートでペーシングして心室頻拍を抑制する)を備えた機種も登場している。従来から用いられている電気ショックは最も効率的に心室頻拍を除く方法だが、電気ショックそのものに不安を感じる患者は少なくなく、なかにはノイローゼのようになる患者もいるので、必要性に関する事前の十分な説明と患者の理解が重要である。
④ 両心室ペーシング(CRT)
両心室ペーシング(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)も非常に発達している。2007年には除細動機能を備えたCRTである、両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)が薬事法の承認を受けた。
CRT-Dは慢性心不全の患者に用いる。慢性心不全の患者は左右の心室の拍動がずれて効率が低下するので、CRT-Dで両心室の拍動を同期させてポンプ機能を高める。また、慢性心不全患者は重症の不整脈を起こしやすいので、除細動機能で対処する。CRT-Dを必要とする慢性心不全の患者は多いので、現在、急速に普及している。
⑤ 補助人工心臓
補助人工心臓はこの10年で患者のQOLに大きく貢献したとはいえないだろう。現在、日本で認可されている国産の補助人工心臓(東洋紡)は体外式の大型のもので、患者は外出することができず、QOLが高まらない。当院で補助人工心臓を使用している3名の患者は全員、国産の東洋紡型の装置を使用している。
一方、アメリカでは、完全体内埋め込み型の補助人工心臓が使用されている。日本でも治験が行われているが、早期の普及が待たれるところである。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)治療
① 薬剤溶出ステント(DES)
現在DESの表面に塗布されている薬剤は抗がん剤の一種であり、血管平滑筋の増殖を抑制するだけではなく血管内皮の再生まで抑制している。これが、遅発性血栓症の一因になっている。したがって、血管内皮の再生を抑制せずに平滑筋の増殖だけを抑制できるステントを開発できれば、遅発性血栓症の問題を解決できると考えられる。
② アブレーション
アブレーションの課題としては、まず、心外膜側に焦点がある心室性不整脈の問題があげられる。アブレーション治療は、不整脈のフォーカスかサーキットを高周波通電により焼き切ることで不整脈を治療する方法であるが、心臓の内側から心筋にアプローチするため、心筋の内側から約5mm程度までしか届かない。
また、焼き切る時の血栓の発生の問題もある。アブレーションは心臓の内側から心筋を何十か所も焼いていくが、その部位に血栓ができやすくなる。焼き切るのではなく、別の方法で処置できればと、現在、新たな治療法を開発している。
③ 除細動器・心臓再同期療法
夢のような話だが、体外式の小型除細動器ができれば、患者にとって最も好ましいのではないか。たとえば、体の表面のモニタリングシステムで心拍を監視し、重大な不整脈が生じたときに体外から除細動の処置を行える装置があればよい。自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)の機能を備えた心拍モニター装置である。
現在の植え込み型除細動器(ICD)は、患者の身体を切開して皮下に植え込み、電極の先端を常に心室に入れておかなければならず、感染症や血栓症のリスクが生じる。また、植え込み型の場合は電源の関係で約10年ごとに入れ換え手術が必要になるが、体外型であれば、簡単に気軽に取り換えられる。
(2)診断
超高齢化社会が進展することから、できるだけ患者の負担を軽減できるよう、侵襲度を低くし、究極的には、非侵襲性の診断技術を開発することが求められる。夢のような話だが、患者が寝ているだけで何の侵襲もなく冠動脈が映し出される装置がほしい。これに近いのはMRIかもしれない。超音波もめざましく進歩してきてはいるが冠動脈の全長がきれいに見える水準には至っておらず、血流がやっと見える水準である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)低出力の体外衝撃波治療のための装置
① 体外衝撃波治療の概要
心臓疾患を対象とする低侵襲な治療機器の実現が期待される。最も期待しているのは、現在我々が開発中の「低出力体外衝撃波治療」である。心筋の虚血部分に体外から物理的な衝撃波の刺激を与えることで、心臓の血管を効率よく新生させる治療法である。
低出力体外衝撃波治療は、現在、東北大学病院で研究中である。装置はスイスのメーカーと共同開発した。患者の胸に装置をあて心臓の患部に低出力の衝撃波を照射する装置である。麻酔は不要で、患者は覚醒状態で術者と会話しながら処置を受けられる。リアルタイムで心エコーの画像を確認しながら、治療を行う。
② 体外衝撃波治療のメリット
体外衝撃波による血管新生療法は非侵襲性の治療である。もともと患者の体内にある、まだ使い切っていない自己の血管新生システムを賦活化する方法であることから副作用もない。侵襲も副作用もないことから、繰り返し治療でき、将来は外来でも行える治療法になる可能性がある。
③ 臨床試験
現在、(1)狭心症、(2)急性心筋梗塞、(3)下肢閉塞性動脈硬化症の患者を対象に、臨床試験を実施中である。
重症狭心症を対象とした第一次の臨床試験では、9名の患者を対象とし、その多くは高齢者であった。これらの患者は、バイパス手術もPCIもできない、いわゆるノーオプションの重症狭心症で苦しんでいた患者である。たとえば、高齢で、糖尿病、高血圧、高脂血症を罹患し、さらに透析を受けているなど、動脈硬化リスクを複合的に抱え、抵抗力が弱く、体力も落ちた患者である。
臨床試験の結果、自覚症状が改善し、心筋シンチグラフィー評価した心筋血流が著明に改善した症例が認められるなど、有効性が認められた。また、副作用は全く認められなかった。
④ 分子生物学的アプローチと物理的刺激アプローチの比較
血管新生の方法として、分子生物学的アプローチと物理的刺激アプローチを比較すると、まず、分子生物学的アプローチは、血管新生に関する要因の1つ1つを個別に組み上げていくような方法である。しかし、体内の現象は、単一の細胞や遺伝子に司られていることは稀であることから、分子生物学的アプローチからの血管新生は必然的にハードルが高くなる。一方、物理的刺激アプローチは、まだ使い切っていない血管新生に関する複数の機構を活性化させる方法である。物理的刺激アプローチは、自己修復能力が残存しているような患者であれば、効果を期待できる。患者によって、残存する自己修復能力の状況は異なると考えられるが、これも薬剤等で修飾できると考えている。
(2)現状の機器ではできない問題点、この機器が必要とされる背景
心臓の血管新生の方法としては、細胞療法が期待されてはいるものの、患者の身体的負荷の問題や細胞の定着の問題などで実現は容易ではない。
現在、バイパス手術もPCIも受けられず苦しむ患者が多数存在する中で、より早期に実現できる治療方法が求められている。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)体外衝撃波治療の今後の方向性
低出力体外衝撃波治療は今後、作用機序の解明を進める。臨床試験を重ねて、血管新生の有用な選択肢となる治療方法としての確立が期待される。
今後の対象としては、補助人工心臓を装着した心不全患者を対象とすることも考えられる。患者によっては補助人工心臓を離脱できる程度の効果が期待される。
また、循環器領域だけではなく、肝硬変や脳梗塞など、他の領域への応用も期待される。
最終的に生き残る治療は、治療効果があり、患者の負担が少なく、繰り返し行える治療である。自分や家族が患者になった時に受けさせたいと思えるような治療である。
(2)わが国としての物理的刺激アプローチの育成
物理的刺激アプローチは、心血管の新生について、分子生物学的アプローチと同等の効果があり、早期の実現が期待できる技術である。日本発の治療技術でもある。
わが国として、分子生物学的アプローチとともに、このような技術も育ててもらいたい。この技術は日本が世界をリードしている技術でもあり、例えば、病院内に衝撃波治療センターといった拠点を整備できれば、急速に進展させられることが期待される。


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