山本 勇夫 先生 横浜市立大学付属病院 脳神経外科 教授 脳神経外科
1.ご専門の分野について 脳腫瘍、脳血管障害、脊髄・脊椎疾患や機能的脳神経外科(てんかん、パーキンソン病など)などを主に扱っている。 なお、横浜市立大学には、福浦の横浜市立大学附属病院と、浦舟の市民総合医療センターの2箇所の拠点があり、当脳神経外科はこの2箇所を一体化した形で運営してきた。福浦は慢性期(脳腫瘍、脊髄・脊椎疾患、パーキンソン病など)の患者が多く、浦舟には高度救命救急センターがあるため、急性期(脳梗塞、脳出血、外傷など)の患者が多いという形で、機能分担している。また、ガンマナイフ治療については、横浜労災病院、茅ヶ崎徳洲会病院等、小児の脳外科については、神奈川県立こども医療センターと連携している。 脳血管障害の主な手技としては、頚動脈狭窄に対する内膜剥離術やステント留置術、動脈瘤に対するクリッピング術とコイル塞栓術などのほか、脳動静奇形に対するマイクロサージャリー、塞栓術、ガンマナイフ治療なども行っている。 2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について ■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器 (1)マイクロサージャリー 40年ほど前に脳神経外科領域に顕微鏡手術が導入された。その後の発展により、マイクロサージャリーによる脳神経外科疾患の治療成績は著しく向上しほぼ完成した治療法といえる。 (2)血管内治療 血管内治療のためのカテーテル、コイル、ステントなどは、この10年でもっとも進歩した領域で、血管内治療による手術件数は、国内外で急増している。 これらの発展には材料技術の開発が大きく貢献している。将来的には、ナノテクノロジーの活用などにより、さらに微細な血管に対する治療ができるようになるだろう。 (3)コンピュータテクノロジー コンピュータテクノロジーを利用した診断・治療技術は飛躍的に発展した。ここでいうコンピュータテクノロジーを用いた医療機器とは、CT、MRI、MRA、CTA(三次元脳血管造影)、神経内視鏡、ナビゲーションシステムやガンマナイフ、サイバーナイフ、ノバリスなどの定位放射線治療装置などである。 ■既存の医療機器の改良すべき点について (1)脳動脈瘤クリッピング術 従来に比べ、クリップの種類はかなり増えた。ただし、必要に応じて、その場でクリップの形を変えられるようにできればより確実なクリッピングが可能となる。 (2)ステント留置術 頚動脈のみならず、頭蓋内血管でも応用できるさらに微細なステントの開発が望まれる。 (3)カテーテル 現在の技術では、微細な血管や屈曲部位などへ自由にカテーテルの先端を移動させることが難しい。一方で、カテーテルの柔軟性を追求すると、ワイヤーがとぐろを巻いてしまい、挿入が難しくなるなど種々の問題点がある。 (4)放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど) ガンマナイフが治療できる疾患は、頭蓋内の腫瘍や動静脈奇形で、3cm以下の病変が治療対象となり、それ以上の大きさのものには対応できない。 放射線治療は低侵襲だが、治療効果が表れるまでに1~2年の期間(潜伏期)を要する。従って動静脈奇形の場合、潜伏期に出血を起こすといった危険性もある。 脳神経外科では、頭部から脊髄までの部位を守備範囲としているが、脊髄については、ガンマナイフは使用できない。 ガンマナイフが日本に導入されてから、約15年が経過した。近年治療から長期間経過した後の合併症(放射線治療による副作用など)が散見されるようになり、定位放射線治療を再検討する時期に来ていると言える。 最近ではサイバーナイフ、ノバリスが導入されたが、これらの治療効果については今後さらに長期追跡する必要がある。 (5)ロボット手術 脳外科領域では、ロボット手術は現在のところまだ実験段階である。しかし血管縫合など比較的単純な手技への応用は今後期待できる。 (6)手術器具全体 一般的な手術器具についても、操作性や手術範囲の向上等に資する、形状や現状の素材サイズの調整のしやすさ、器具の種類の多様性の向上等に改良の余地がある。 3.実現が望まれる新規の医療機器について (1)カテーテルのナビゲーションシステム 内視鏡等を用いて、ミクロレベルの細さの血管にまで自動的に誘導してくれる、ナビゲーションシステムが実現すれば、脳血管障害のかなりの症例を血管内手術で治療できるようになり、開頭手術をせずに済む。 現在、臨床現場では、手動でカテーテルを操作しながら、数ミリの太さの血管についてステント留置やコイル塞栓を行っている。今後、1mm以下の微細血管内での治療を想定すると、手動で目的地まで到達させることは困難である。したがって、血管内治療の適用範囲を拡大させるためには、チューブの材質や太さ等の改良だけでなく、ナビゲーション技術の向上が必要不可欠である。 (2)術中リアルタイム画像(超音波など) 術中にリアルタイムで病変を観察できるようなシステムがほしい。現在オープンMRIは限られた施設でのみしか実施できない。脳は頭蓋を開けると形が変化する(ブレインシフト)ため、術前の画像と、術中の実際の状態とでズレが生じる。従ってリアルタイムのナビゲーションを用いればより低侵襲の手術が可能となる。 近年、超音波画像の精度が飛躍的に向上している。術中リアルタイム画像を得るためのひとつの方法として、超音波が期待できる。 (3)手術顕微鏡の高度化 現在使用している手術顕微鏡では一部分しか観察することができない。術野をさまざまな角度から見られるようにするため従来の手術顕微鏡と内視鏡の画像とを組み合わせたようなものがほしい。 4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について (1)ナノテクノロジー ナノテクノロジーに注目している。現在、ドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System)の実用化が現実味を帯び始めている。これが可能となれば、薬剤を選択的に病変部に到達させることが可能となる。 カテーテルやモレキュラーサージェリー(分子手術)で使用される機器についてもナノテクノロジーを利用した開発が求められる。 (2)研究助成 研究助成が不十分であるため、基礎研究のみならず、医療機器の開発は立ち遅れている。
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