ニーズDB:医師インタビュー
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平山 篤志 先生
日本大学医学部附病院
内科学系 循環器内科学分野 主任教授
循環器内科

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1.ご専門の分野について

専門領域は循環器病の中の虚血性心疾患である。

日本大学医学部附属板橋病院の循環器内科で実施頻度の多い手技はPCI(カテーテルインターベンション)である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)治療
① カテーテルインターベンション
急性心筋梗塞に対する再灌流療法の中で、この10年で患者のQOL向上等に貢献したのは、カテーテルインターベンションである。特に、ステントの発展がめざましい。
虚血性心疾患のターミナルにおいて、生命予後に大きく影響するのは急性心筋梗塞である。ステントが生命予後の改善にどの程度役立っているかは、もう少し検証が必要である。
(2)診断
① 超音波内視鏡(IVUS)、血管内視鏡
心臓血管領域の診断において最も進歩したのは、超音波内視鏡や血管内視鏡である。血管内の性状を血管内から撮影した画像が得られるようになり、心筋梗塞を起こしやすいプラークの状態が診断可能になった。解像度は100μm程度である。
血管内視鏡は、直径が約0.75ミリで、中に約6,000本のファイバーが入っている。血管の中にガイドカテーテルを入れ、これに沿わせながら血管内視鏡を挿入し、生理食塩水でレンズ付近の赤血球を洗い流しながら血管内壁を撮影する。
今後、CTよりも精度が10倍高いOCT(光干渉利用断層画像システム:Optical Coherence Tomography)が登場する。これは、IVUS(血管内超音波)と血管内視鏡の中間的存在になるだろう。より高精度な医療機器が登場することで、詳細な診断が可能になる。ただし、血管内視鏡もIVUSもOCTも、血管の中にカテーテルを入れなければならず、患者にとって侵襲的な手技である。
② CT、MRI
CTは、冠動脈造影を代替する程度にまで診断能力が向上した。ただし、撮影時に被爆することと、造影剤を必要とすることから、完全に非侵襲とは言えない。CTの空間解像度は500μmで、IVUS等の精度とは5倍の差がある。今後10年間でCTの精度が5倍改良されれば、CTが今のIVUSを代替する可能性はある。また、CTとトレッドミルのみでバイパス手術の要否を決断できるようになるかもしれない。
MRIの空間解像度は1mm程度にまで高精度化した。循環器領域では、現状の解像度ではまだ不十分だが、MRIはCTよりも侵襲性が低いため、今後10年間の開発次第では、MRIがもっとも代表的な診断方法になる可能性はある。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)ステント
① 再狭窄や血栓症の予防
ステントの第一の課題は、再狭窄や血栓症をなくすことである。
DESは再狭窄の問題はカバーしている。しかし、これまでベアメタルステントで十分だった患者にDESを入れることや、DESを入れることによって別のリスクを増やしうること等の是非を問い直す必要がある。
また、DESを一度留置すると長期間抗血小板薬を飲み続ける必要があり、患者にとっての負担となっている。侵襲性の低下のために、抗血栓薬を入れる方法や、EPC(Endothelial Progenitor Cell)をとらえる薬を使う方法などが試みられているが、発想そのものを変える必要があるかもしれない。
② ステント留置箇所の血管内皮の増殖性の維持
ステント留置箇所の血管内皮の増殖性を抑制しない、もしくは血管内機能を正常に保つことが課題となっている。
薬剤溶出型ステント(DES)には現在、平滑筋細胞の増殖を抑制させるシロリムスやパクリタキセルが使用されているが、ステント留置後に皮膜が十分にできないために血栓ができることが懸念されている。塗布する薬の改善が使い勝手の改善につながると期待されている。ただし、実際には様々な要素が絡んでいるため、薬を変えただけでは解決しない可能性もある。
③ ステントの硬さ・形状
ステントの形状については、血管が屈曲した部位であっても、留置時に形状記憶合金のように撮影した形のとおりに入れられるなど、造型機能の付加が求められている。現在のステントは、留置した際に疾患部位前後の正常な血管の形まで変えてしまう。一方で、ある程度の張力がなければ病変部位の血管は縮んでしまう。この相矛盾するものをどこで折り合いをつけるかが問題である。
ステントは硬ければ硬いほど丈夫になるが、硬いステントは曲げにくいため血管の屈曲の大きい部位には留置しにくい。今のステントにはシース がつけられており、留置しやすいよう配慮されているが、構造が複雑になるといった問題がある。
④ 異物としての残存
理想的なのは、生体吸収性材料を用いたステントである。生体吸収性のステントは血管内に異物を残さないため、こうした発想は、今後のステント開発の方向性として存在し続けるだろう。今は、いったんステントを留置すると、その部位に別の疾病が発症してもステントがあるためにバイパス手術ができないなど、ステントが将来の治療を制限している。
(2)超音波内視鏡・血管内視鏡
① 臨床データの蓄積
目下の課題は、超音波内視鏡や血管内視鏡で見つけた不安定プラークの治療に関する臨床データを蓄積し、EBM(Evidence-based medicine、根拠に基づいた医療)につなげることである。今後10年間で治療方法が確立されれば、心筋梗塞を激減できる可能性がある。
② 操作性・柔軟性の改良
超音波内視鏡や血管内視鏡をもっとハンドリングしやすくなるよう、改良する必要がある。今は、患者の血管の中にデバイスを挿入するプロセスで医師の熟練を要する。
血管壁をさまざまな方向から見たいため、血管の形に沿わせながらも、カメラが回転できるような機械の改良が必要である。
現在は、血管の走向に沿って直線状のものを入れているため、曲がった部分は直線状に伸ばして見ることになり、血管をそのままの状態で見ていない。これを解決するには機器の小型化や弾力性の向上が必要だが、やわらかすぎても操作性が悪化するため、素材の選択が難しい。
血管は、心臓の拍動に伴い血管径や位置、形状等が変化するため、拍動に合わせた撮影ツールが必要である。
③ 不安定プラークの検出
現在は、血管内視鏡で撮影された血管内のプラークを色によって判断しているが、色だけでは情報が不十分である。特定の波長の光を照射する、マーカー物質を流すなどによって、たんぱく質を染めることができるとよい。いかに簡便に患者をスクリーニングして、不安定プラークを見つけるかが、しばらくは開発ターゲットになるだろう。
(3)DCA
DCAは臨床現場ではあまり使われていない。今後は臨床現場からなくなるだろう。
(4)カテーテルアブレーション
カテーテルの低価格化と薬事承認の迅速化を望む。現在米国で使用されている高機能な機種の焼灼器を臨床に導入できれば、より安全な治療が可能になる。例えば、マッピングしながら焼灼できる機種や、冷凍したあとに焼灼する機種などである。日本にはこうした高機能のカテーテルが導入されておらず、一世代以上前のものが使われている。
(5)CT・MRI
CTの性能については、狭窄度が実際よりも強く見えることがあるなど、診断の正確さにいっそうの改良が求められる。外科の領域では、まだCTの診断能力に対して不安を感じており、冠動脈造影とCTの侵襲は同程度と捉えられている。
CTやMRIでは、現在、主に形態画像を描出している。今後は、バルネラブルプラーク(破裂しやすい病変)を検出できるようになること、不安定プラークに特異的なたんぱく質を用いた分子マーカーを活用して質や機能の情報を抽出できること等が求められる。
不安定プラークの中ではマクロファージ や、T細胞 などによる炎症が起きているといわれている。炎症が非常に強いところでプラークが破れていたり、不安定なプラークがある場合に特異的なたんぱく質の量が上がっていたりする状況を、色解析ソフトを使って識別できるようになるといい。例えば、マクロファージは鉄を貧食するため、マクロファージが貧食しやすいものを血液の中に入れれば、マクロファージが貧食した鉄が溜まり、血管のプラークが濃く見えるはずである。この方法であればMRIで抽出できる可能性がある。
(6)血管内ロードマップの作成
血管内の疾患部位は、カテーテルによる冠動脈造影で血管の位置を確認しながら判断している。カテーテルの先端から約1~2ミリの範囲が見えるが、場所を特定するには非常に大まかな指標であり、機械の改良が望まれる。
(7)ペースメーカー
ペースメーカーの課題は、低価格化とリード線からの解放である。リード線がはずれたり、折れたりするといったリスクがあり、患者の負担になっている。将来的にはリード線ではなく、発信器によるシグナル操作が可能になれば余分な線が不要になる。また発信機による操作はリード線に起因する感染症の削減にもつながる。この実現可能性は大いにあると考える。
(8)ICD
ICDについては、現在のものよりもサイズを小さくすることが求められている。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)血管径の広い部分で起こりうる急性心筋梗塞の診断・治療
これまで急性心筋梗塞は、血管の動脈硬化が悪化して血管が狭くなった部分から起こると考えられていた。しかし最近、血管の広い部分でも起こることが分かってきた。よって、血管の狭い部分を治療しても患者の予後の改善にはつながらない。
血管の広い部分で、かつ心筋梗塞を発症しうる部分の診断・治療手法の開発が必要とされている。
(2)血管内の性状に応じた治療技術
血管内視鏡で血管内を撮影すると、プラークが破れて黄色く見える箇所や血小板が付着して光って見える箇所などがあり、非常に複雑である。今後は、血管内視鏡でこうした病変を診ながら、血管内の症状に応じた治療を行うことが必要である。
これまでの診断技術では、血管の狭いところは同じ症状にしか見えていなかったが、IVUSや血管内視鏡によって、その性状を今までより詳しく見られるようになってきた。診断技術と病変ごとの適用判断力を向上させることは、より低侵襲な医療機器の開発につながる。
(3)治療機能をもつ血管内視鏡
将来的には、血管内の不安定プラークを発見した際にそのまま治療を行えるよう、血管内視鏡に治療機能が付加されることが望ましい。血管内視鏡に治療機能を付加するメリットは、血管内の様子を見ながら治療ができること、診断と治療が一度で済むため侵襲が少ないことである。
血管内視鏡では、冠動脈造影で判断の難しい、血管が狭窄していない場所にできたプラークの診断が期待されている。ただし現在のところ、血管の広い部分にできたプラークの治療は難しい。血管に幅がある箇所へのステント留置は困難であり、血管全体に処置を施すことや、薬による治療も安全性が保障されていないためである。
例えば、血管内視鏡で血管内壁を見ながらプラークを吸引する、プラークの破れた部分をシーリングするなどの操作ができるようになれば、治療方法が大きく変わるだろう。
治療の成果は長期的に経過を観察しなければわからない。血管内視鏡による治療と、ステント留置、または投薬による治療を1年後、2年後、5年後、6年後で、それぞれの予後を観察する必要がある。
(4)心筋梗塞のリスク診断
患者の視点では、「心筋梗塞を起こすリスクのある人」を発見することが求められている。従来の手法では「心筋梗塞のリスク」まではわからない。
リスク診断には、CTによるスクリーニング、血液検査によるスクリーニング、その他の画像診断(非侵襲的、侵襲的的)などの手法が考えられる。
(5)複数の疾患が重複した患者を診断できる技術
数種類の疾患を併せ持つ患者なども安心して受けられるような診断機器の開発が求められる。心筋梗塞についてはトレッドミルや超音波検査をもとに診断するため、たとえば糖尿病と高脂血症を併発した患者であっても、血管内に狭窄がなければ異常があるとはみなされないのが現状である。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)血管内視鏡の開発
血管内視鏡は日本が世界に発信できる唯一の機械である。海外の臨床家も興味を示している。しかし、日本社会には5~10年後に焦点を当てた開発や、世界のマーケットへの進出に対する積極性がない。また、現在のところ、血管内視鏡の使用頻度はIVUSの1,000~100分の1程度で、普及しているとはいいがたい。
米国へ進出するためにはFDAの認可が必要だが、侵襲的な診断機器の場合、治療にも使える、あるいは治療方法の判断に使えるなど、病態の把握以外にもメリットがなければ認可されないだろう。血管内視鏡はCTや他の診断機器のように繰り返し使うことができないため、コストパフォーマンスの課題もある。
まずは、国内で開発してデータを蓄積し、画像や機能性の改良や、付加的な機能開発を進める必要がある。
(2)学会の役割
新しい治療法の開発においては、その分野の学会が積極的に動いていくべきである。しかし、ひとつの学会がすべてを指導、管理することは難しいため、他の学会との連携により、互いに率直な意見を寄せたり、注意を促せたりするような関係を築くことが必要だろう。学会の主体的な動きにより、学会と医者の倫理性を保っていることについても強調すべきである。
臨床現場にとっての医療機器開発の問題点は、病院や医師にリスクだけがかかり、金銭的なバックアップがないことである。臨床現場はリスクを恐れて開発をやめてしまいがちである。学会や医師会がこの問題をもっと大きい声で訴え、臨床研究開発の支援を増やすよう働きかけていかなければならない。

日本企業の多くが、新規の医療機器の開発に消極的なため、わが国での民間企業と臨床現場との共同開発は困難である。
この背景には、(1)民間企業は短期的な視点でマーケットを拡大することに重点をおきがちである、(2)治験までたどり着いても厚生労働省から認可が下りないため商品化できない、などの問題がある。
また、厚生労働省や医師にはリスクを背負って新たな医療機器を導入しようとしない保守的な傾向がある。これにはマスコミなどが新規の医療機器や医療品が成功しなかった事例を非常に批判的に報道することも影響している。
現状のままでは、長期的視点のもとで巨額の投資をしている欧米企業には太刀打ちできない。


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