ニーズDB:医師インタビュー
一覧 > 詳細 < 前へ  | 次へ >

小笠原 邦昭 先生
岩手医科大学
脳神経外科学講座 准教授
脳神経外科

詳細はPDFこちら
1.ご専門の分野について

専門分野は、脳血管外科特に、脳血管障害、脳循環代謝である。

実施頻度の高い手技は、脳動脈瘤の根治術、バイパス手術、頸動脈内膜剥離術である。脳動脈瘤手術の手術件数は年間約80症例、バイパス手術は年間約10症例、内膜剥離術は年間約40症例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)MRI
脳血管領域ではMRIが、最も診療成績患者のQOL向上に最も貢献している。MRIの磁場強度が高まったことで解像度が向上し、従来は不可能だった白質繊維の描出が可能となる等、診断の幅が広がった。また、従来は得られる画像が形態画像のみであったが、最近はファンクショナルMRIといった機能画像が撮影できるようになった。こうした背景から現在、脳血管領域ではMRIによる診断が一定の地位を築いている。
(2)SPECT(シングルフォトエミッションCT)
SPECTもMRIと同様、診療成績や患者のQOL向上に貢献している。脳血管領域でSPECTが重要な位置づけにある理由は、SPECTの画像で患者への手術適応を判断しているためである。SPECTから手術適応を決める判断材料となる情報を得られるようになったのは、この10年である。この進歩は、ハード開発ではなくソフト開発によるものである。ソフトの開発により、装置横断的・施設横断的に画像を比較でき、それに伴う判断基準の方法論も標準化が進んだ。これにより、全国で統一された基準で手術適応を決められるようになった。
手術適応の基準を定めたのが、1998年に立ち上げられ厚生労働省の支援で継続されている共同研究JET(Japanese EC-IC bypass trial)スタディである。たとえば、現在では、バイパス手術の際、SPECT検査結果がJETスタディで定められた一定の基準を満たさない限り、手術をしてはならないという規定が全国標準となっている。JETスタディの基準の普及には、DPCの導入も大きく影響している。診療報酬が包括払いで支払われるようになったことで、医療施設は不必要な検査や、治療行為を行わないよういっそう努力するようになった。手術の要否、治療方針の決定の判断材料にJETスタディの基準が用いられている。
(3)CT
CTアンギオについては、ソフトウェア、ハードウェアの両面で技術開発が進歩した。ハードウェア開発では、放射線被爆量が少なくなったことがもっとも大きな成果として挙げられる。さらに、解析ソフトの性能が向上したことで、被爆量が少ないにも関わらずMRIに匹敵するような画質を得ることができるようになった。現在の画像の質は、術者の要求に耐える状態である。場合によっては、今後MRIよりも高画質になることも考えられる。
(4)超音波診断装置・近赤外線装置
頚動脈内膜剥離術においては、超音波診断装置や近赤外線装置などにより、術中に起こる合併症をリアルタイムで察知し、対策を即座に立てることが可能となった。ハードウェアの機能が向上していること、モニタリングが容易になったことで、患者の危険な状態を即座に察知できるようになった。
(5)ナビゲーション技術・術中内視鏡
ナビゲーション技術と術中内視鏡は、手術支援技術としてこの10年で非常に発達してきた。
(6)クリップ
クリッピング術は、コイル留置術と比較して根治性が高い。また、長期的な視点でみても、クリップはコイルよりも材料の安全性が優れているため、比較的若年の患者にも使用できる。
上記の、長期的な視点でみた安全性が臨床データで確認されているのは、コバルトクロム合金のクリップである。岩手医科大学では、疾患が再発した患者から摘出されたクリップの分析を行い、10年間生体内に留置されても全く材質に劣化がないことを確認した。
チタンについては、10年以上の耐久性があるかどうかはまだ証明されていないが、安全性の高い材料と考えられている。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)ステント
ステントについては、現在の製品では信頼性が不十分であるため、脳血管外科においては、手術による治療の方が優れていると考えている。既存の脳血管領域のステントで薬事承認されているのは、脳血管外科領域では頚動脈用のステントのみである。頚動脈に対する手術は、開創により内膜剥離術が主であるため、侵襲性はさほど高くない。一方、現在のステントには、再狭窄、術中に血栓が飛ぶことなどの課題がある。
血栓が飛ぶことをガードするためのフィルターが厚生労働省によって許可されているが、安全性の面からみて不完全である。現在、厚生労働省は暫定的に3年間許可している段階であり、内膜剥離術が不可能という症例にのみ、熟練した医師が使用するべきという方針を打ち出している。
(2)CT, MRI
立体血管撮影CT(3DCTA)とMR血管撮影(MRA)の解像度は、脳血管撮影より劣っている。今後、3DCTAやMRAの画像で脳血管撮影と同程度の細い血管を認識できるようになることが望ましい。
診断の際は、全ての血管を描出したいのではなく、特に、太い血管から直接細い血管が出た「穿通枝」と呼ばれる部位の情報を必要としている。例えば、内頸動脈の前脈絡叢動脈という部位が詰まると手足の麻痺につながるため、臨床的に重要な位置づけにある。治療の際は、その血管と動脈瘤などとの関係を把握しておく必要がある。この際に議論の対象となるのは、穿通枝の様子である。また、脳底動脈瘤においては、MRAや3DCTAでは穿通枝が認識しにくいため、ここを鮮明に描出できるとよい。上記の2例のような場合には、カテーテルを用いた従来のアンギオが必要となる。患者の立場からするとこの方法は身体的な負担を伴う。血管撮影なしに上記の部位の様子がわかることが望ましい。
現在の日本ではCTのソフト開発がMRIのそれよりも盛んに行われている。CT開発においては世界でも日本が優位にあり、今後もその優位性を維持していくと考えられる。
(3)シミュレーション技術
既存の血管内手術をシミュレートするシステムは、実際に医師をトレーニングできるレベルには達していない。既存のシステムでできることは、血管の内腔写真を基に血管の曲がり具合、角度などを3Dで再現して表示することなどである。今後の開発により、臨床的な要求を満たすレベルのシステムは十分に実現可能であると考えられる。
(4)コイル
コイルについては、「コイルコンパクション」に起因する、耐久性、安全性の問題がある。これは、動脈瘤内のコイルが、縮小し動脈瘤の根元に血液が流れ込むことにより起こる。これらの課題を鑑みると、この治療の有用性に結論が出せるのは、10年ほどの時間が必要だろう。データによっては、完全否定される可能性もありうる。一方で、治療成績に差異がなければ侵襲性の面からコイル治療が選択される可能性もある。
コイルは、高齢者、特に70歳以上の患者に対する治療では問題ないと考えられる。一方で、若年層の患者の治療に関しては、何十年という長いスパンでの安全性を証明する必要があるため、注意が必要である。
(5)カテーテル
カテーテルに関しては、より細い血管まで到達できるような製品があれば便利である。ただし、血管内手術にこだわらず、治療方法を外科的手術に切り替えるという選択肢もあるため、現時点では絶対に細くなければならないというわけではない。
(6)ロボットサ-ジェリー
現在のところ、脳血管領域の患者の治療に、ロボットサージェリーを使用することについては否定的である。同じ疾患を抱えていても、まったく同じ症例は存在しえないため、パターン化することは難しい。従って、ロボットサージェリーはシミュレーションや、手術の練習としての役割にとどめるのが最適であると考えられる。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)トレーニングシステム
シミュレーションによるトレーニングシステムの開発が求められている理由として、脳外科技術の技能の継承問題がある。血管内手術が盛んになるにつれて、外科的手術に必要な技能を学べる機会は減る。一方で、血管内手術で治療できない難しい症例が必ず存在し、外科的治療が必要とされる。こうした状況を鑑み、マイクロサージェリー(開頭手術)を行える外科医の育成が急務となっている。
技能を学ぶための機会が減っていることを解決する手段のひとつとして、技能の継承に資するシミュレーションの開発が期待されている。シミュレーションのシステムは使用者本人が、仮想世界に入り実際に体験したように感じられることが望ましい。システム使用者が、手術する患者情報をコンピュータに入力することで、実際の手術と同じ体内構造を3Dで実現してほしい。実際の患者の組織画像や触感をもとに再現するとさらによい。
熟練した脳外科医は、術中の写真とMRIを見て、切開する場所や見えてくる組織などを頭の中でシミュレートして、手術に臨んでいる。頭の中のシミュレートは重要であるが、経験の浅い医師には難しい。従って、こうしたシステムで疑似体験させることが望ましい。
現在、日本では、遺体を用いて手術の練習をするという方法がとられている。しかし、法律上の問題から、遺体を扱えるのは解剖学教室の部屋のみという制約がある。将来的に、このような手術の練習をテクノロジーで実現してほしい。手術は、永久に残る手技であると考えている。
(2)術前に脳の機能を脳表面にマッピングする技術
開頭せずに、機能地図を脳の表面に描き(機能マッピング)、MRIによる頭部の写真に重ね合わせ、手術時にその情報を踏まえて手術を行うことができると非常に良い。経頭蓋的に脳を刺激する技術と、刺激している場所と脳の地図とを一致させるための技術が少なくとも必要である。
現在、個人の脳の機能を脳表面にマッピングするよい方法がない。脳腫瘍の手術では、後遺症の回避のため、言語野と腫瘍部位の位置関係などを把握する必要がある。現在は、一般的な脳の解剖図と患者の頭部画像をみて、腫瘍が言語中枢の近くにありそうかを推測している。脳の機能分布には個人差があるため、fMRIによる撮影も行われるが、左右の脳のどちらか等、おおまかなことしか分からない。よって、脳腫瘍の手術の際には、アウェイクサージェリー(覚醒下手術)が行われ、電気刺激による言語野のマッピングがまず行われる。これは患者に負担が掛かること、様々な専門性のスタッフの関与が必要であるために、非常に大変な手術である。機能マッピングの際は、神経心理士や神経内科の専門医が同席して評価を行う必要がある。機能地図が術前に分かると、アウェイクサージェリーが不要となり、患者と医療スタッフの負担軽減につながる。実現可能性については分からない。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)マイクロサージェリー技術の継承
近年、血管内治療が流行しており、多くの医師の意識が血管内治療に向いている。このままでは10年後には手術や、マイクロサージェリーを行うことができる医師が現在の半分以下になる。これは、医療の質の低下につながりかねない問題であるため、血管内治療技術の開発よりも技術継承のためのシミュレーションシステムの開発を進めることが重要であると考えている。
(2)開発に直接かかわる予定
臨床医の立場から、造影剤(放射線同位体)関連のメーカーや、SRECTのメーカーにアドバイスを行っている。シミュレーションには現在のところ携わっていない。
メーカーや大学研究機関からの技術開発関連の相談があれば喜んで応じる。
岩手医科大学では、放射線科の佐々木真理准教授が、複数の医療機器メーカーとMRI、CTなどの共同開発を行っている。その他、企業から持ち込まれたアイデアに対するアドバイスなどを行っている。


MINIMALLY INVASIVE Medical Technologies

シーズDB
  先進企業情報
  重要論文情報

ニーズDB
  医師インタビュー
  臨床医Web調査
  患者Web調査
  過去の臨床側アンケート

リスクDB
  市販前プロセス情報
  市販後安全情報
  PL裁判判例情報

  

低侵襲医療技術探索研究会
  アーカイブ   

リンク
  学会
  大学/研究機関
  クラスター/COEプロジェクト
  行政/団体
  その他

メールマガジン