ニーズDB:医師インタビュー
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手取屋 岳夫 先生
昭和大学病院
心臓血管外科 教授
心臓血管外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は心臓血管外科である。専門とする主な疾患は、虚血性心疾患、狭心症、心筋梗塞などで、これに対するバイパス手術、心不全になった後の外科的治療を行っている。次に多い疾患は、大動脈弁、僧帽弁を中心とした弁膜症、大動脈疾患(大動脈瘤、急性大動脈解離など)に準ずる疾患である。末梢血管関連では、腹部大動脈瘤や、それ以外の閉塞性動脈硬化症、それに準ずる疾患などである。

実施頻度の高い手技は、人工心肺を使った心臓の手術が年間約160~200症例、血管疾患が年間約150例である。手取屋教授が昭和大学医学部附属病院と他院で直接関与している手術は、年間220~230症例、多い時で270~280症例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断技術
① 超音波診断技術
この10年で、特に心臓超音波診断技術のクオリティが向上している。機器としての成熟度が高まったとともに、この技術をよく使う臨床医のスキルが上がり、診断精度も向上した。最近の機器では、心臓の中の形態の描出、3D画像の描出ができるようになっている。僧帽弁や大動脈弁の治療の際は、エコーの画像から治療方針を検討できる。数値化された情報が得られることや、データに再現性があることが当該機器を使うことのメリットである。これまでは「中等度」といったあいまいな指標だったが、最近の機器では「何cc」といった明確な数値が示されるため、とくに重症度の判定が容易である。
ただし、心臓超音波診断技術に対する意識は、医療施設によってかなり温度差がある。
② CT
CTは、3D画像の構築や画像精度において近年めざましく発展した。例えば、胸腹部大動脈瘤の診断・治療では「アダムキービッツ動脈」の描出が必要であるが、こうした脊髄領域の動脈描出もできるようになってきたことは、かなりの進歩である。
また、この2~3年で、栄養動脈が脊髄のどの範囲に栄養を供給しているかを、形態的に、ある程度把握できるようになってきた。栄養動脈の描出の確度が、まだ完全には保障されていないことが今後の課題である。また、現在の技術レベルでは、形態上の特徴と実際の機能とを完全にはひも付けられておらず、手術の際にどういった保護が必要かを検討するための手法も確立されていない。したがって、こうした画像情報が手術成績に直接的に影響しているとはいいがたい。
(2)治療
① カテーテル
冠動脈疾患の治療において、カテーテルは重要な医療機器のひとつである。カテーテル治療で使われる機器については、カテーテルの精度や、画像のクオリティが向上した。
② 人工心肺や人工心肺
手術に使われる機器については、人工心肺や人工心肺といった周辺機器のクオリティがこの10~20年で非常に向上した。
③ ラジオ波焼灼器
不整脈治療のために行われるメイズ手術では、ラジオ波焼灼器が用いられる。ラジオ波のパワーで、心臓の刺激伝導系を確実に焼灼できる。これまでは冷凍凝固技術のみであったため、手技の選択肢が広がった。ラジオ波焼灼器が適用される疾患の患者数は多いため、医療機器メーカーが積極的に製品化を進めているようである。
なお、日本では、ラジオ波焼灼器は電気メスの一種として認可されている。また、ラジオ波の他、マイクロウェーブや超音波などでも同様の焼灼器が開発されているが、日本では認可されていないのではないか。
④ 手術支援ロボット
手術支援ロボット「da Vinci」は、手術を安全かつ簡単に実施するための道具としてデザインされている。特別な手技に対して特別な手段を提供するものではない、その意味では、たとえば、これまで手が震えて手術の難しかった医師が震えずに手術できる、人の手では縫合の難しい部位をロボットの活用により縫合できる、といった目的も有すると考えている。ヨーロッパ、米国、アジア各国ではすでに臨床現場で活用されている。
「da Vinci」の利用に適しているのは、胸腔内、腹腔内、肝臓の深い部分、骨盤、婦人科領域、前立腺などの部位である。これらの部位については、「da Vinci」の利用により非常に安全に手術を実施でき、画像なども確立されている。
⑤ スタビライザー、シャント
冠動脈バイパス手術では、心臓を動かしたままで手術するための補助的な装置、例えばスタビライザーやシャントなどは、製品の品質が安定し、非常に使いやすくなった。10年前はほとんどの例で心臓を止めて手術を行っていたが、手技が確立され、ほとんどの症例で心臓を動かしたままで手術できるようになった。こうした機器の発展により、それなりのスキルを身につけていれば、誰にでもきちんと手術ができるようになってきた。
⑥ 電気メス
超音波メスなどが心臓領域の手術でよく使われるようになった。これは医療機器自体が良くなった面もあるが、臨床現場が機器の適用方法の検討を推進した結果、手技のクオリティが保たれるようになり、使いやすくなったことが影響している。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)人工弁
人工弁については、世界の市場には様々なクオリティの製品が市販されている。しかし日本では、世界で使われている人工弁のごく一部しか使用できないという問題がある。日本で使えるインプラントは、世界の製品動向から最小で3年、最大では10~15年は遅れている。
(2)人工臓器
この10~20年で、世界では様々な埋め込み型の補助人工心臓が開発されてきたが、日本ではいずれも使用できない。こうした状況の中では、日本の医師は既存機器の問題点の検討すらできない。もう少し根本的な部分を改善する必要がある。
植込み型ペースメーカについてみると、日本で使われているペースメーカは国外で使われている機器の1~2世代前の機種である。
(3)スタビライザー、シャント
スタビライザーやシャントのマーケットは安定してきたが、今後さらに、良い製品の開発を期待する。
(4)人工材料
たとえば冠動脈バイパス手術は、すでに死亡率が低い手術となっている。これをより安全にするには、素材の生体親和性を高める等が必要である。
(5)ロボット手術
冠動脈バイパス手術は、すでに死亡率が低い手術となっているが、これをより安全にするためには、ロボットの導入などがひとつの方法として考えられる。
日本では、マスコミの報道等によって、手術支援ロボット「da Vinci」は一部の特別な医師のための道具という誤った印象が根付き、薬事承認が遅れるという弊害が生じている。日本には4台の「da Vinci」が導入されているが、薬事承認されていないため、すべてドクターズライセンスで輸入されている。さらに、「da Vinci」を使った手術が混合診療にあたるという議論が生じ、患者の治療に使いにくくなっている。日本に導入されたda Vinciは世界で使われている機種の3世代前のもので、世界ではもっと高機能な最新機器で手術が行われている。
da Vinciは、手術を上手くできない医師がより簡単で安全に手術できることを目的として開発された機器だが、この効果についての科学的考証や、学会が機器の普及に関与するといった動きは今のところない。
(6)電気メス
電気メスのパワーが体に直接伝わらないといった、新しい操作ができる機器が開発されると興味深い。たとえば、新しいパワーソースの開発をすることが必要となるだろう。こうした開発には、異分野の技術者や、臨床家等の連携が必要である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)人間工学に配慮した医療機器
現在、臨床現場で使用されている機器について、手の動きなどを踏まえて人間工学的に正しい構造になっているかを評価してもらい、評価結果を踏まえた機器の改良・開発が行われると興味深い。改良すべき点を、医療機器の専門家や人間工学の人たちとの連携で開発していけることが望ましい。
(2)再生医療
再生医療を心臓血管系の治療に活用できると良い。血管系は、ステントなど低侵襲の技術開発が進んでいる領域である。今後、開発された再生医療技術を臨床現場がスムーズに使えるようになることが望ましい。
(3)トレーニングシステム
将来的に、マイクロサージェリーを実施できる医師が減ることへの懸念から、実際の手術の映像を実体験できるようなトレーニングマシーン、シミュレーション機器は、今後必要になるだろう。若手の医師がこうしたシステムで練習しておくことで、初めての手術がより安全になるという点で、必要性が高い。一方で、治療技術がどのように発展するかによって、トレーニングシステムの必要性は変わる。現在は開胸せずにできる手術はまだ限られているが、完全に人工心肺を使用せずにできる手術が増えると、外科的治療のトレーニングの必要性は下がるかもしれない。その場に応じたニーズを、状況をよく見て判断する必要がある。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

血管内治療の一部として、大動脈弁、僧帽弁で、今までのように人工心肺を使わないデバイスはすでに開発されている。欧米では、実際に臨床応用がされているため、これらを日本でもできるだけ早く、試すことができるようになることが望ましい。

(1)医療機器の薬事承認のしくみについて
日本では医療機器の認可に時間がかかり、世界で使われている最新の機器を使えない状況にある。
嘆願のために役所に行くと、様々な診療科の医療機器をひとりの役人が担当している等の状況を目にする。医師ですら他の診療科の機器の評価が難しいため、役人がこうした機器の評価をすることのハードルが高くなるのは当然である。認可の仕組みや考え方を見直す必要がある。
このままでは、日本は、先進国でありながら、アジア諸国のなかでも遅れをとり続けることになる。
(2)医療機器の開発のあり方
現在の臨床現場に、ある程度の医療機器はそろっている。したがって、現在は診断・治療時に医療費の負担が大きなものを比較的リーズナブルに使えるようするための開発や、開発したものをいち早くフィードバックするといったシステムづくりが重要である。
医療機器メーカは、よい治療を行うためにはどうすればよいかという視点で、医療関係者を意識するだけでなく、その先にいる患者に対して何ができるかを考え、先を見据えた開発に取り組むべきである。
たとえば低侵襲で傷が少なくなれば、感染の危険性は低くなり、それが医師のスキルアップにもつながる。これをさらにブラッシュアップしていけば、患者にとって良くなることは間違いない。
(3)医療機器に関わるネガティブデータについて
たとえばステントグラフトが実際に使われる症例のうち、手術を行うのが危ないために、血管内治療を採用するケースでは、併発している他の疾患等の関係で適用が狭くなっていることが多い。例えば85歳で瘤が破裂するかもしれないが、呼吸機能も悪いために手術は危険だという場合、この患者にステントを留置することが本当に妥当かの判断が難しい。医療安全と表裏一体の決断を下す必要がある。
難しい症例に取り組み、ネガティブデータも含めてデータを出すことは非常に重要である。しかし、ネガティブデータは医療機器メーカーにとって非常にリスクが高く、臨床家にとっても慎重な対応が求められるデータ収集になるという問題がある。ネガティブデータの収集にはマイナス面もあるが、医療機器の改善につながるという観点から、きちんとしたバックアップ体制を構築しておく必要がある。


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