ニーズDB:医師インタビュー
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垣添 忠生 先生
国立がんセンター
名誉総長
泌尿器科

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1.ご専門の分野について

専門領域は、泌尿器領域である。
対象とする主ながんは、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、精巣腫瘍などである。
前立腺がんの患者数がもっとも多く、増加傾向にある。
膀胱がんは再発を繰り返す傾向があることから、患者延べ数が多い。
腎臓がんは腹部CTや超音波検査で偶然発見されることが多い。患者数は世界的には増えている。
精巣腫瘍は、患者数は少ないが、10~30歳代と患者年齢が若いので、社会的に重要である。




2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)治療
① 前立腺がんの診断・治療
前立腺がんは、治療の選択肢が非常に多いがんである。
局所治療としては、手術と放射線治療が主である。放射線治療については、通常のリニアックによる外照射治療以外に、悪性度の低いがんに対してアイソトープを80~100本近く埋め込む方法(ブラキセラピー)や、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)などの技術が発展している。IMRTは、前立腺の中で特に放射線をあてたい部分に、強弱をつけて放射線を照射できる技術である。IMRTは非常に高度な放射線治療法であり、これを実践するには、放射線物理士という専門家の関与が必要である。したがって、日本ではIMRTを実施できる施設はあまり多くない。この他、特殊な治療法として、陽子線治療や重粒子線治療などがある。
手術については、昔からの開腹手術以外に、体腔鏡手術(腹腔鏡手術)がある。その他、da Vinci®に代表されるロボットサージェリーは、米国では非常に盛んに実施されている。だが、医療費の問題、機器の価格を考慮すると、これが将来にわたって定着するかは不明。
がんが全身化(リンパ節転移、骨転移が起こった状態)した場合、前立腺がんではホルモン療法が非常に有効である。男性ホルモンがあると悪化するがんであるため、男性ホルモンをブロックする治療法が採用されている。以前は女性ホルモンによる治療が行われていたが、心臓の合併症などが発症することが明らかになったため、採用されなくなってきた。徐放剤化した注射薬を1~3ヶ月に1回、注射するのみでよい。内服ホルモン剤も進歩した。

② 膀胱がんの診断・治療
表在性の膀胱がんについては内視鏡手術で病変部位を切除することによって治療を行う。外科的治療のあとに再発予防として免疫療法を併用するのが一般的である。免疫療法ではBCG(Bacille de Calmette et Guérin)が多く用いられる。表在性の50%程度が再発するのが膀胱がんの特徴である。表在性のがんが、再発を繰り返すうちに浸潤性の膀胱がんに変わることが10~15%ある。こうした再発の繰り返しは、患者のQOL上の大きな問題ともなっている。
病変部位が膀胱全体に広がってしまった場合、あるいは膀胱壁に浸潤した場合には、患者の命に関わるため、全摘出せざるをえない。膀胱を全摘出した場合には、人工的な排尿具(パウチ)を体表に装着して尿を排出し、たまった尿を捨てる方法がとられている。最近は、尿道にがんが再発しにくいこと、患者さんを選別することができるようになったため、尿道に病変がない場合には、患者の腸の一部を切り出して膀胱を再建する方法がとられている。これにより、自然排尿ができ、患者のQOLが高まった。近年、抗がん剤と放射線外照射の併用により膀胱を温存する手術も実施されるようになったが、治療成果については研究中である。
浸潤性のがんが進行すると全身に転移する。進行してしまうと抗がん剤治療が中心となる。このステージの治療については、この20年ほど、大きな進歩はない。

③ 腎臓がんの診断・治療
腎臓がんの診断や病期確定には、造影CTやMRIが使用される。
早期がんの場合には、外科的に部分切除する方法や、アブレーション、高密度焦点式超音波療法(High-Intensity Focused Ultrasound:HIFU)などによる治療が行われる。
腎臓は呼吸に伴い位置が動くため、位置情報の追尾が重要となる。
その他、クライオサージェリーが行われる。これは、病変部位まで針をさし、針の先端を通じて疾患部位を冷やすことでがん細胞を死滅させる方法であり、一定の効果を挙げている。
進行性の腎臓がんは、肺と骨へ転移しやすい。インターフェロンやIL-2療法はひとつの治療法だが、10~15%程度の患者にしか効果がみられないことが課題である。最近は分子標的薬が注目されているが、価格が高く、副作用があり、延命効果も限定されているといった課題がある。

④ 精巣がんの診断・治療
若年者に多く発病し、瞬く間に全身に広がる腫瘍。
全身に転移したケースについては、いまはシスプラチンを主剤とした多剤併用の化学療法が行われており、非常に高い効果を挙げている。精巣がんの部には放射線治療も行う。
シスプラチンを中心とする化学療法で転移巣を攻撃し、残ったがん病巣を手術によって切除するという手法によって、かつては2~3ヶ月で亡くなっていたような症状の患者を、85~90%ほどの割合で治せるようになった。化学療法と手術の組み合わせの有効性が実際に得られているという意味で、すべての進行固型がんのモデルと考えられる。
患者QOLのうち、生殖能力については徐々に回復するといわれている。しかし、将来子どもがほしい場合に備えて精子を凍結保存するといった対策をとることも選択肢の一つになってきた。

⑤ その他
分子標的薬で治癒が確認されているのは、慢性骨髄性白血病治療薬のグリベックである。
慢性骨髄性白血病は、BCL遺伝子とABL遺伝子の転座が原因となって発症する。
グリベックは、この転座により生じた変異たんぱく質を攻撃するため、疾患の原因を直接的にたたくことができ、非常に効果の高い治療法となっている。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① 経管腔的内視鏡手術(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery:NOTES)
対象疾患が非常に限定される治療法。いくつかの疾患に対しては、当該手法で実施可能と思われるが、非常に不自然なルートから実施する手術である。将来性がどの程度あるかはまだよく読めない。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)診断
① がん細胞の生存状況の判断
抗がん剤治療や放射線治療等を実施した後の縮小したがんの病巣が、再発の危険がない状態にまで弱らせられているのか、再発の危険のある生きた細胞が残っているのかを判断できる術が現在はない。ごく微量のシグナルを検出し、判断できる必要がある。解決手法のひとつとして、最近注目されている分子イメージングや、新しいPET検査などによる機能検査などが挙げられる。

② 肉眼視できないがんの広がりを術中に可視化する技術
肉眼視できないがんの広がりを術中に可視化する技術の実現が望まれている。

2)治療
① ペプチド療法
医療機器ではないが、ペプチド療法は今後のがん治療のブレークスルーになる可能性が期待されている。
ペプチド療法はヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)に基づいたペプチドを患者に投与し、細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte:CTL)を産生させることで体内の免疫能力を高め、CTLにがん細胞を攻撃させる方法である。
本来体内に備わった能力を活用しているため、薬物療法などに比べて副作用がなく侵襲性が低い。

② 放射線治療、HIFU
移動性のがん病巣を追尾する技術の進歩による放射線治療、HIFUなどの物理的手法の進歩が期待される。
すでに、一部のがん治療で効果が出始めている。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 医療機器の審査について
医薬品医療機器総合機構が設立され、医薬品の承認スピードは格段に向上した。一方、医療機器についてはあまり改善されていないと感じる。その理由は、承認に係る人員の数の不足や、承認に伴う責任問題に及び腰になることなどがあげられるのではないか。
最近は、何か問題が生じると、その製品を承認した担当者にまで遡って責任を追及される風潮がある。医療機器の承認体制をさらに強化することが、是非必要である。

② マスコミの報道体制
新薬や新医療機器に承認後の不具合が認められたときなど、マスコミの報道体制なども検討されるべきと思う。過剰な報道が、新しい医療機器開発に対する企業の意欲を削いでいる面があると思う。


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