ニーズDB:医師インタビュー
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北野 正剛 先生
大分大学医学部
第一外科 教授
消化器外科

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1.ご専門の分野について

専門は消化器外科である。

実施頻度の高い手技は、内視鏡外科である。特に胃がん、大腸がんが多い。
年間実施件数は、胃がんが100例、大腸がんが110例である。現在は、胃がんが4人に1人程度、大腸がんはほとんどが腹腔鏡手術になっている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)治療
① 内視鏡
消化器の分野であれば腹腔鏡の視野が広くなり、明るくなって解像度が上がった。解像度が上がり見やすくなったので、術者も疲れなくなり、距離感がつかみやすくなった。またハイビジョンの場合は映像に立体感がある。よってさらに安全な手術ができるようになった。
また、機器の向上と術者の技術の向上の両方の要因により時間が短縮されてきた。また私が関わった日本内視鏡外科学会のアンケートを解析すると合併症は年々、減少している。それには腹腔鏡の改良とともに新しい鉗子の開発が影響を与えている。
日本内視鏡外科学会(JSES)の第9回全国アンケート調査で、胃がん手術例における腹腔鏡下手術の割合は、2001~2002年の9.8%(1,298/13,235)から、2006~2007年の24.5%(4,765/19,436)に増加した。
腹腔鏡補助下幽門側胃切除術 (Laparoscopy-Assisted Distal Gastrectomy:LADG)における術後合併症率は、2001~2002年の15.5%(1,630例)から、2006~2007年の8.2%(6,615例)に減少した。
LADGにおける術中偶発症と開腹移行率は、2001~2002年は偶発症2.94%、開腹移行2.27%であったが、2006~2007年は偶発症1.69%、開腹移行1.30%と減少している。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① 内視鏡
カメラの口径はもっと細い方が良い。今は5mmのものがあり、通常の胆のうの組織をとる場合であれば5mmでも良いが、さらに侵襲の少ない手術を行うためには2mm程度のものがあると良い。それくらいであれば痛みもなく傷跡もほとんど残らないだろう。
また、3Dの画像が得られると良い。今は平面画像でもハイビジョンのおかげで立体感は取りやすくなったが、術者が肉眼で見るように映像が得られると術野の確保がしやすい。

② 鉗子類
内視鏡外科の鉗子は把持力が強く、先端の形状が多様で、より洗練されたものがあると良い。

③ 電気凝固装置
血管を結ぶことなくきれいに切れるようになったが、さらに短時間で血管が切れるものが望ましい。現在では10秒程度かかっているが、瞬時にできると良い。また、口径が5mm程度あるので2mm程度まで縮小されると良い。より迅速な血管凝固が実現すれば開腹術においても結紮に取って代わるだろう。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)治療
① 脂肪の中にある血管を可視化できる機器
脂肪の中は血管がどこを走っているのかわからないので、脂肪を剥離せずに熱や音などを利用して血管の走っているところを画像で映し出す機器があると良い。私はオリンパスと共同で開発を続けていたが、まだ製品化はしていない。周辺機器の技術が進歩すれば実現も難しくないと考えている。

② 体腔内で組み立てられる機器
現在では機器は外から入れているが、体表にあけた小さな入り口からある程度分解された状態の機器を作って入れ、体内で組み立てて使えるものがあると低侵襲な治療が実現するのではないか。組み立てるとカメラになる、あるいはカメラの画像を無線で電送できるような機器も考えられる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 医療機器開発の研究促進
産学協同でアイディアを出し合って、もっと緻密に話し合いができる機会があると良い。今でもそのような場は用意されているのだろうが、医療現場は余裕がなかなかないのでもう少し人的余裕が必要なのではないかと考えている。医療機器開発のための研究を促進するには医療費をしかるべき水準まで上げ、病院が安定して経営できる状況を作らなければ、研究費用も人的・時間的余裕もないというのが現状である。ある程度の余裕を持てるような時間的・あるいは資金的なバックアップがほしい。
医療機器は治療の進歩にとってはなくてはならないものである。技術の進歩は結局のところ患者の方に還元される。特に私の専門の内視鏡外科には機器の進歩が欠かせないだろう。

② 大規模臨床試験の重要性
医療機器の有用性を明らかにするための大規模臨床試験(Randomized Controlled Trial:RCT)が重要である。
例えば私が班長をしている厚生労働省の研究班では、進行大腸がんに対する腹腔鏡下手術と開腹術の根治性に関するRCTを2002年から準備を始めて、2004年12月から登録をスタートした。目標症例数は1,050例であり、2009年3月で登録終了の予定である。これにより大腸がんに対する腹腔鏡下手術の有用性が明らかにされ、治療選択をする上で重要なエビデンスが確立されるものと考えている。今後の医療はこのようなRCTにより、治療のエビデンスを確立していくことが重要である。


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