ニーズDB:医師インタビュー
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大内 憲明 先生、武田 元博 先生
東北大学大学院医学系研究科
外科病態学講座腫瘍外科学分野 教授(大内先生)、 准教授(武田先生)
腫瘍外科

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1.ご専門の分野について

専門は一般外科である。
主な対象疾患は乳がんである。

実施頻度の高い手技は外科手術、エコーなどの画像診断、組織の病理診断、免疫診断である。平成19年度は手術だけで年間100例以上実施している。平成20年度はさらに増えている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)診断
① マンモグラフィ
乳がんの診断ではマンモグラフィが貢献した。わが国が乳がん検診にマンモグラフィを導入してから、乳がんの診療レベルが格段に進歩した。制度面では、2000年からは50歳以上の女性のマンモグラフィ検診が定められ、2004年からは40歳以上の原則マンモグラフィ検診が定められた。
マンモグラフィが診療に普及した背景としては、技術的な進歩もさることながら、検診におけるマンモグラフィの有効性を明らかにして検診への導入を可能にしたことが大きい。
国内でマンモグラフィの有効性評価がはじめられた頃、世界的にはすでにマンモグラフィによる乳がん検診は標準となっていた。国内の臨床現場でもその有効性が理解されていたものの、日本人女性にマンモグラフィが適していることを明らかにするエビデンスがなかった。そこから10年で有用性を証明して、次の10年で乳がん検診への導入を実現した。
私たちの研究グループは、この間、宮城マンモグラフィ・トライアルを実施するなど、厚生省(現厚生労働省)がん研究助成金による研究班等を率いて国のマンモグラフィ導入に大きく貢献した。
その結果、乳がん診療は格段に進歩し、微小の乳がんや前がん病変など、従来は臨床現場で見つけることのできなかった乳がんを早期の段階で発見できるようになった。

② 超音波診断装置
超音波診断装置の進歩も著しい。技術的な進歩はもちろんだが、数年前から本格的に研究が開始された。超音波診断装置による乳がん検診の有効性についてはエビデンスとして死亡率の低下を示す必要があるが、現在のところ、世界的にみてそのエビデンスが存在しない。
そこで、現在、厚生労働省の「戦略的アウトカム研究」において「がん戦略研究リーダー」を務めており、その課題のひとつとして「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(J-START、http://www.j-start.org/)」を行っている。これは日本で初めての大規模ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)である。対象は40歳代の一般の女性で、マンモグラフィに超音波を加える群(介入群)と加えない群(非介入群)とで比較する。必要な参加者数は片群で5万人、両群で10万人である。プライマリーエンドポイントは感度・特異度、セカンドエンドポイントは累積進行乳がん罹患率である。
試験の結果が出るまでには長期間を要する。たとえば2年に1度乳がん検診を受けるとすれば、がんの検出感度・特異度(がんをがんと正しく判断したか、見逃しはなかったか)を明らかにするためには2年かかる。死亡率については最終的には10年以上追跡する必要がある。ただし、乳がんは発見された時の進行度からおおよその死亡率を推計することもできる。
乳がん検診は対象者が数百万あるいは数千万人にのぼり市場規模が非常に大きい。

なお、超音波機器は乳がん検診にとどまらず、対象となる臓器を広げ、治療や診断を超えて健康な人を対象としたがん検診・がん予防に使える可能性がある。がん検診の対象者は数千万人規模である。超音波機器はナノテクノロジーと同じように日本がリードしている。J-STARTは超音波検査機器の研究インフラ整備でもあり、いろいろな意味でこれから発展することが期待されている。

2)治療
① 分子標的治療
乳がんの分子標的治療はハーセプチン(詳しくはトラスツズマブという)という抗がん剤により大きく変わった。抗がん剤は全身投与であり、がん細胞にも効くが、正常細胞、特に骨髄細胞を殺してしまうため骨髄抑制は避けられない。ハーセプチンは、悪性の乳がん特有のHER-2蛋白を過剰発現している細胞を標的にして攻撃する。
1985年頃にHER-2を標的とする単クローン抗体ハーセプチンの原型ができ、それから約10年かけて、マウス抗体からキメラ化して現在はヒト型になっている。1990年代後半から予後不良の乳がん患者を対象にハーセプチンによる治療が始まった。
ハーセプチンを主とした分子標的治療が乳がん治療で成功したことをきっかけにして、肺がんや大腸がんなどいろいろながんに分子標的治療薬の応用範囲が広がった。たとえば、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:EGFR)など、標的遺伝子は数多く存在する。標的遺伝子の抗体を作ることは可能であり、量産できれば治療に使える。世界中で、分子標的と抗体作成、臨床試験の取り組みが進んでいる。
問題はコストが高すぎることである。研究開発費に加え生成過程もコストがかかる。ハーセプチンは多量投与が必要で、1回投与で約8万円かかる。特に進行・再発の乳がんの場合は毎週投与となり、月に約30~40万円、年間で約400万円かかる。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① ターゲットスペシフィックな分子標的治療
がんの薬剤療法は「ターゲットスペシフィック」が必要である。私たちは、分子レベルでの細胞の可視化(分子イメージング)により、分子標的薬剤の作用を明らかにし、遺伝子や受容体に基づき患者に最も適した薬剤を選定できるようにするための研究に力を注いでいる。患者に適した薬だけを使うことができれば、抗がん剤の副作用が軽減され、不必要な医療費も不要になる。がん医療は高額医療との戦いでもある。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)治療
① ナノデバイスによる分子標的治療
実現が望まれる新規の医療機器としては、がんの薬剤療法を対象にした「ナノデバイス」があげられる。腫瘍細胞に薬剤を特異的に蓄積させて副作用を軽減させるものが望まれる。すでに臨床試験に入っているものもある。
私たちは、100ナノメートル以下の球形の高分子ミセルの中に抗がん剤を内包させ、正常血管に比べて腫瘍血管の構築が粗いことを利用して、腫瘍血管から特異的に高分子ミセルを透過させる技術を研究している。ナノミセルはメカニカルなものではないが、いくつかの機能を持った構造体ということで「ナノデバイス」と表現できる。この方法については、大量に使ったときに生じる障害、長期的な安全性、高分子ミセルの代謝経路などについて明らかにしなければならない。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 技術体制的指標に基づく研究開発の推進(精度管理)
医療機器の研究開発は「技術体制的指標」を考慮して推進する必要がある。技術体制的指標とは、マンモグラフィを例にあげると、マンモグラフィの技術そのもの、マンモグラフィを使用する医師・コメディカル、画像を読影する医師という3つの要素がある。この技術体制的指標が整わなければ臨床には普及しない。技術的開発の推進だけでなく、技術体制的指標を相対的に高めていくことを「精度管理」という。
マンモグラフィの乳がん検診への導入については、1995年から技術体制的指標を考慮して全国的に組織して推進した。約10年の期間をかけ2004年に全面導入に至った。そのときに新しい基準を満たしたマンモグラフィの機器が日本全国で3,000台導入された。また、撮影講習会、読影講習会を受講して試験をパスした医師・コメディカルは、それぞれ1万名を超えている。

② 国内での臨床試験の推進
国内の医療機器産業を育てるには国内での臨床試験が必須である。海外で臨床試験を行った場合、海外の企業に技術を取られることがある。ナノのカプセルも臨床試験は英国、米国などすべて海外である。日本の技術を米国の国民が最初に享受する構造である。日本製の薬剤や診断技術が臨床で使用されるころには、周辺技術を含めて巨大企業に取られることもあり、結果として国益を失っているといえる。
日本の省庁は、国内で完結できるような研究開発体制を考えてほしい。正しい認識を持った強力なリーダーが必要である。リーダーがビジョンを持って国の医療の在り方と方向性について強力に推進するイニシアティブを持たないと先に進まない。
日本国民は、臨床試験の大切さと、アジアと欧米とは違うという認識を持つ必要がある。乳がんになる年齢はアジアと欧米とでは異なる。欧米は高齢者に多く、アジアの場合には40代~50代の働き盛りが多い。必然的に民族の差が出てくる。日本人に適した、かつ、科学的根拠を有するがん医療の実現が望まれる。


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