ニーズDB:医師インタビュー
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大家 基嗣 先生
慶應義塾大学医学部
泌尿器科学教授
泌尿器科

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1.ご専門の分野について

専門分野は泌尿器科である。
対象とする主な臓器は、腎臓、膀胱、前立腺、精巣、副腎などである。

当院の泌尿器科で診療を行っている主な疾患は、上記の部位の腫瘍、排尿障害(前立腺肥大、女性の尿失禁など)、腎不全・腎移植、内分泌系疾患(副腎)、ED、男性不妊症などである。患者数がもっとも多いのは排尿障害である。外来患者では、結石や膀胱炎などの疾患が多い。
主ながんと年間の新規患者数はそれぞれ、前立腺がん(約200人)、腎臓がん(約80人)、膀胱がん(約40人)、精巣がん(5名程度)である。
泌尿器系のがんの治療としては、主に手術を行っており、進行状況によって放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせている。前立腺がんについては、手術、放射線外部照射、小線源治療など、選択肢が豊富である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)治療
① 腹部鏡手術デバイス
この10年間で飛躍的に進歩した。腹部鏡の解像度や使い勝手が向上しただけでなく、腹部鏡手術時に用いる超音波メスやシーリングデバイスの開発も進み、手術時間の短縮、患者の予後の改善などにつながっている。
当院では、腹腔鏡を用いる手術を年間200件実施しており、全国ではトップクラスである。これだけの件数の手術を実施できるようになったのは、機器の発展によるところも大きい。

② TURis(TUR in saline)
前立腺肥大の治療として行われている、経尿道的切除術(Transurethral Resection:TUR)のための電気メスが改善された。
従来の電気メスは「モノポーラ式」である。電極の一つがアクティブ電極(メス先電極)で、体外に設置する対極板がもう一つの電極で、2つの電極の間に電流が流れることでアクティブ電極側に電気メス作用が起こる。電気メスの使用時の還流液としては、患者の体のためには生理食塩水が望ましいが、モノポーラの場合には機器のシステム構成上使えないため、等張液の「デキストラン」が使われている。しかし、デキストランが体内に長時間流れ込むことによる、低ナトリウム血症やTUR症候群などの合併症の発症リスクがある。
その後開発された「バイポーラ式」の電気メスを切除鏡に応用し、TURが可能になった。灌流液として生理的食塩水が使用できるため、TUR症候群を廻避できる。
対極板を体外に設置する必要はなく電流が体に流れない。還流液として生理食塩水を用いることができるシステム構造になったため、上記の合併症の発症リスクは低減された。また、従来の電気メスに比べ、切れ味が高くなった。

③ 尿失禁治療技術の向上
女性の尿失禁の治療法、TOT(Trans-Obturator Tape)、TVT(Tension-free Vaginal Tape)、TVM(Tension-free Vaginal Mesh)のための治療デバイスが開発された。これにより、低侵襲で尿失禁あるいは骨盤臓器脱の手術ができるようになり、治療成績が向上した。

④ 腎移植関係の進歩
免疫抑制剤の開発が進み、ABO型ミスマッチでも移植ができるようになった。

⑤ ED治療の進歩
3種類の治療薬、「バイアグラ」、「レビトラ」、「シアリス」が開発されたことが、当該領域の飛躍的な進歩である。

⑥ 尿失禁治療薬の進歩
過活動膀胱の治療については、抗コリン薬による治療が進歩した。


■既存の医療機器の改良すべき点について




3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)診断
① 蛍光の膀胱鏡
診断については、今後、細胞レベルでがんを検出する技術などが重要になるだろう。
たとえば、蛍光色素でがんを染色し、膀胱鏡を挿入してがん細胞を検出するなどである。この技術については、現在研究開発が進められている。

② 細胞レベルでがんを診断する技術
乳がんでもっとも開発が進んでいる診断法として、CTC(Circulating Tumor Cell)検査がある。これは、血液中に循環しているがん細胞を検出し、その細胞数を数えることでがんの予後を予測する方法である。低侵襲でがんの予後を診断でき、その後の治療方針の検討・決定に役立つというメリットがある。
泌尿器領域においても、今後、こうしたがんの予後を診断するための技術開発が進むだろう。

③ 骨髄中のがん細胞を検出する方法
前立腺がんや乳がんは、骨転移しやすいという特徴がある。骨転移の前段階として骨髄での転移が起きていると考えられるため、これを検出できれば、早期治療が可能となる。既存の方法で骨髄中のがん細胞を検査するには、骨髄穿刺により骨髄を採取しなければならないが、これは患者にとって身体的な負荷が高い。もし分子イメージングなどによって、低侵襲に骨髄中のがん細胞を検出し、治療を開始できれば、進行性の前立腺がんや乳がんの治療成績の向上、患者QOLの向上におおいに貢献するだろう。

2)治療
泌尿器領域では、治療機器についてはある程度の完成レベルにまで達していると感じており、日常診療では特に困っていることはない。ただし、海外の動向などをみると、以下の課題がある。
① 前立腺の治療
前立腺がんのロボティックサージェリーは、わが国では遅れている。米国では前立腺の手術の際、ロボティックサージェリーが積極的に行われている。
小線源治療は2003年に日本で開始され、普及しつつある。しかし、欧米に比べてわが国の臨床現場には十分な環境が整えられていない。海外ではさまざまな小線源治療機器・技術が臨床現場に導入されているが、日本では導入が進んでおらず、機器の種類、オプションなどが不足している。

② 腎臓の治療
腎臓がんの分子標的薬の臨床適用が海外に比べて遅れている。わが国では2剤が認可されているのみである。

③ 精巣、膀胱の治療
特になし


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 超早期診断技術の開発
医療機器の分野では、分子イメージングの開発が期待されている。ミクロレベルのがん転移を、きわめて早期に診断できるようになれば、それに対する治療法の開発がさらに進み、診断・技術のレベル、精度が底上げされるだろう。

② 医療機器の承認について
医療機器や医薬品の承認のスピードは現在も遅いと感じる。海外ですでに承認されている医療機器・医薬品の日本への導入を、もっと迅速化してほしい。

③ 異分野連携の推進
新規の医療機器の開発のためには、異分野の連携が必要である。
臨床家は現場での診療行為がかなり忙しいため、こうした動きを先導することは難しい。しかし、異分野の方々からいくつかの具体的なアイディア等を提示してもらえれば、それに対する評価を臨床側の立場から行うことは可能である。
製薬会社などは、医薬品開発が進んだ段階で臨床家にアプローチするケースが多いが、もっと早期の開発段階から、臨床家との連携を行ってはどうか。


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