松下 隆 先生 帝京大学医学部附属病院 整形外科 主任教授 整形外科
1.ご専門の分野について 専門は整形外科である。対象は、骨折のうち特に後遺障害(難治骨折)である。具体的には、四肢(上肢、下肢)の偽関節(骨同士がつながらない)、変形治癒(骨が短くなったり、曲がったり、ねじれる)、骨髄炎(治療過程で感染)があげられる。新鮮な骨折を手術することはほとんどない。各地で講演をするたびに、その地域で5~10年治っていない骨折患者の紹介を受け治療している。 イリザロフ法を中心に、創外固定や創内固定を利用した治療を行っている。イリザロフ法(骨延長にかかわるもの)に限定すれば症例数は年間50~60件である。その他、難治骨折診を行っている。 日本の外傷治療の質向上のため「外傷センター」の全国設置に向けて頑張っている。海外では、緊急性の高さ、誰にでも起こる可能性、若年層に多いなどの特徴が注目され、例えば、ドイツでは半径50kmに1施設、外傷センターが設置されている。 2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について ■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器 a)診断 i)CT 3次元CTの能力は格段に向上した。短時間で綺麗な絵を取れるようになり、ハレーション領域(体内の金属異物によって乱れた画像領域)が減少し、金属が体内、体外にあっても撮影できる。 ii)骨切り後の治療方針検討システム(レントゲン画像によるもの) レントゲン画像を用いて、画面上で骨を切った後の治療方針を検討できるシステムが登場した。以前はレントゲン画像をトレーシングペーパーでトレースし、トレーシングペーパーを切り抜いて骨の配置イメージを摺り合わせていた。現在は、レントゲンによる2次元画像が用いられているが、5年以内にはCTによる3次元画像も用いたシステムも開発されるだろう。2次元画像のシステムは、帝京大学ではイスラエルの企業の製品を使用している。他には、徳島大学で使用している国産の製品もある。 b)治療 i)Taylor Spatial Frame(テイラー・スペイシャル・フレイム) Taylor Spatial Frame(テイラー・スペイシャル・フレイム)という創外固定が登場した。このフレームは、2つのリングが6本のストラットで接続された構造で、どのような変形でも治療することができる。6本のストラットの長さを日々変更することで治療後の状態へと近づけさせていく。ストラットの値はソフトウェアで計算する。患者の状態と目標とする状態(治療後の状態)を入力すると、6本のストラットの長さをどのように変更していけばよいかを計算してくれる。また、ソフトウェアのインタフェースが格段によくなった。大きなバージョンアップが2度あり、操作性が向上し、入力ミスを回避しやすくなった。 なお、このフレームの導入以前は、角度、ねじれ、ずれ、長さの順に4段階で変形を矯正していた。複数の変形を伴う症例やねじれが含まれる症例ではこのフレームが適している。 ii)ユニラテラル型創外固定具とTaylor Spatial Frameとの連携コネクタ ユニラテラル型創外固定具とTaylor Spatial Frameとの連携コネクタを開発した(松下教授による発明)。ユニラテラル型創外固定具で大きく単純延長し、その後Taylor Spatial Frameを用いて、骨を短縮させる方向に1~2日で一気に矯正する方法である。治療期間は同じだがかさ張るTaylor Spatial Frameをつける期間が短くなるため、患者のQOLが高まる。 iii)生体親和性の高い材料の固定具 固定具の材料が進歩した。現在、生体親和性の高いチタン合金が主流だが、この10年でバナジウムフリーの生体親和性がより高められたチタン合金が使用されるようになった。30年前はステンレスが主流だった。チタン合金はステンレスに比べてフレキシブルである。治療中の骨折部に形成された仮骨には少しひずみがあった方が仮骨の形成が促進される。骨を過度に強固に固定せず、新生組織に力が加わるようにしたほうが骨癒合が早い。ただし、理想の骨融合を起こす骨折部の固定条件、毎日どれだけのひずみを何回与えればよいかについては、まだ明らかになっていない。 海外では、この10年で、ステンレスの本体にハイドロキシアパタイトで表面コーティングされた創外固定用のピンが登場した。ステンレスの力学的強度とハイドロキシアパタイトの生体親和性を備えている。ピンを抜くときには、骨とピンとが強固に結合し過ぎると困るが、このピンはステンレスとハイドロキシアパタイトとの境界で剥がれてくれる。国内ではまだ使用されていないが、海外では標準的に使用されている。変形矯正では長期に固定するため、力学的強度と生体親和性を備えた、このようなピンが必要である。 ■既存の医療機器の改良すべき点について a)診断 i)骨切り後の治療方針検討システム(CT画像によるもの) CT画像を用いて、画面上で骨を切った後の治療方針を検討できるシステムが望まれる。現在、レントゲン画像を用いたシステムがあり、CT画像を用いた3次元シミュレーションのできるものも5年以内に登場すると思われる。 b)治療 i)画像診断装置とTaylor Spatial Frameとの連携システム 画像診断装置とTaylor Spatial Frameとの連携システムが望まれる。レントゲンやCTの画像を用いて、画面上で矯正のシミュレーションを行い、そのデータが直接Taylor Spatial Frameのシステムに転送されるシステムで、入力ミスが生じる可能性を排除される。 ii)Taylor Spatial Frameによる自動延長装置 Taylor Spatial Frameによる自動延長装置が求められる。現在は毎日、ストラットの長さを手動で変更しているが、自動的、連続的に変更できればより治療成績が向上するだろう。分割回数が多いほうが骨の組織形成がよくなることが知られている。バッテリーやモータが小型化・軽量化できれば、実現は可能と考えられる。バッテリーの充電間隔は1週間以上が望ましい。 3.実現が望まれる新規の医療機器について a)診断 i)骨折部の耐加重性を客観的に診断する技術 骨折部の耐加重性を客観的に診断する技術が望まれる。現在、骨折が直ったかどうかを客観的に判断する方法はなく、医師が経験と勘に頼って判断している。骨癒合は機械的強度の回復が重要であり、カルシウムの沈着だけでは評価できない。レントゲンではカルシウムの沈着しかわからない。現在、取り組まれている方法としては、acoustic emission法がある。この方法は創外固定具を外して少しずつ加重を加え、最初に「ミシッ」という音が聞こえたときの加重を基準に耐加重性を推定する方法であるが、創外固定法にしか使用できず十分な方法ではない。この方法はガスタンクの強度検査など工業界では広く用いられている方法と同じである。 b)治療 i)骨癒合の進展に応じて固定力を弱める固定具 骨癒合の進展に応じて固定力を弱める固定具が望まれる。骨の強度をセンシングしながら自分の強度を変える固定具があれば、理想的な骨癒合を得られるだろう。ストレスシールディングをすると骨の強度が損なわれるため、骨癒合が進めば固定具を弱めたほうがいいということが知られている。 ii)体内埋込型の自動延長装置(ねじれにも対応できるもの) 体内埋込型の自動延長装置が望まれる。体内埋込型であれば患者も医師も負担が軽減され、感染を限りなくゼロにできる。現在、体内に固定具を挿入してモータの動力やラチェット機構で単純延長するタイプのものは存在するが、ねじれにも対応できるものはない。 4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について 【企業との共同研究について】 共同研究の相手がいれば取り組みたい。骨折部の耐加重性を客観的に診断する技術、骨癒合の進展に応じて固定力を弱める固定具、Taylor Spatial Frameによる自動延長装置などは面白いテーマである。 【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
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