ニーズDB:医師インタビュー
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伊関 洋 先生、村垣 善浩 先生
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
先端工学外科学分野 教授(伊関先生)、講師(村垣先生)
脳神経外科

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1.ご専門の分野について

(伊関先生)もともとの専門は機能的脳神経外科である。現在は、情報誘導による精密診断治療のための低侵襲医療機器やロボット手術の研究開発を専門に行っている。精密誘導診断治療により、悪性脳腫瘍の5年生存率を日本一にした。

(村垣先生)
脳神経外科全般。精密診断治療やロボット手術を臨床で行っている。

実施頻度の高い手技は、腰椎穿刺、脳血管撮影、中心静脈の穿刺などである。
手術としては、脳腫瘍の摘出、脳動脈瘤のクリッピング、脳出血の血腫除去、頭蓋内出血などの外傷や定位脳手術などがある。
悪性脳腫瘍の手術数は、日本最多である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)治療
① オープンMRI
診療成績の向上に最も寄与したのは、術中MRIである。手術中に核磁気共鳴断層撮像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)をリアルタイムで撮影できる「インテリジェント手術室」が治療に大きく貢献した。
術前画像を用いるナビゲーションも成績の向上には寄与したが、術中のブレーンシフト(脳の位置がずれる)に対応できないことが問題だった。術中MRIの画像を用いて情報をリフレッシュすることで、この問題も改善できた。
MRIは、画像の再構成技術や傾斜磁場のかけ方、コイルなどの改良により画質が向上した。
術中MRIは1995年にハーバードの関連病院が0.5テスラのダブルドーナツ型の機器を導入したのを皮切りに、1997年にシーメンス社が0.2テスラの超電導磁石を用いたオープン型の開口部のある機器を開発した。私たちは2000年に永久磁石を用いた日立メディコ製のオープンMRIを導入し、肝臓の治療を始めた。現在まで700例近く実施している。この数字は日本で一番多い。
オープンMRIの導入により摘出率とともに生存率が上がった。従来との比較は難しいが、ここ8年の生存率は上昇している。同じように術中MRIを導入した名古屋大学でも、画像で確認できる腫瘍の摘出率が70%程度から94%まで上がった。
われわれは腫瘍摘出率の計測ソフトを開発し、オープンMRIの効果を定量的に評価している。画像上腫瘍に対して1.5mmずつのスライスで、摘出前後の体積を比較し、摘出率を計測している。現在は、評価基準が国内で標準化されていないため、全国共通の評価が難しい。新しい機器やシステムを開発していくうえでは評価系が最も重要である。評価系に対する議論は不十分であり、検討が必要である。

② 覚醒下手術
脳波を確認しながら覚醒度を定量化できるBISモニターや覚醒深度を調節できるプロポフォールという新しい麻酔剤が開発されたことにより、覚醒下手術が普及した。
覚醒下手術は、米国では1990年代に脳腫瘍で応用され、日本には1990年代半ばに入ってきた。その後、診療成績を積み上げて安全性が確認され、低侵襲な治療として普及した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① オープンMRI
診断用のコイルはさまざまなものがあるが、手術用のコイルはまだ部位や目的に合わせて改良する余地がある。
システムや撮像方法も改良の余地がある。低磁場にはゆがみやノイズが少ないなどの利点があり、造影剤を改良することで、低磁場のままで精度の高い撮像が可能になるだろう。短時間で高画質の映像を撮ることにエネルギーを注ぐだけでなく、必要な情報を取り出すために技術を最適化した形で用いることが必要である。
日本の開発はリスク回避型になっているので、診断技術に比べて治療技術の開発が遅れている。診断で発見された疾病を治療できなければ不十分であり、治療技術は重要である。
診断機器と治療機器を別々に開発することには限界がある。これからの医療機器開発は、診断と治療とが一体になったものが主流となるだろう。術中MRIはその一例である。診断機器の開発は、治療を前提に考えなければならない。

② HIFU
高密度焦点式超音波療法(High-Intensity Focused Ultrasound:HIFU)は、乳がん、子宮筋腫、前立腺がんに対して実用化されている。
やけどなどのクリアしなければならない問題があるので、改善してあらゆる部位のがんに対する非侵襲治療を実現したい。開発の際は、先端医療開発特区(スーパー特区)の利用を考えている。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)治療
① 光線力学的療法
悪性脳腫瘍に対する半導体レーザーを使用した光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)の医師主導治験の承認を申請する予定である。これは腫瘍に集中的に取り込まれる薬剤にレーザーを照射すると腫瘍細胞が死滅する現象を利用した治療方法であり、薬剤と医療機器を組み合わせた「コンバインドデバイス」のよい例である。これからの医療機器開発はコンバインドデバイスが主流になっていくだろう。

② 医療機器と診断薬を組み合わせる技術
薬剤溶出ステントのようなもののほか、造影剤などの診断薬を医療機器と組み合わせる技術も発展するだろう。

③ レーザー治療装置
悪性脳腫瘍を300μ単位で蒸散し、熱変性の問題を解消するレーザー治療装置を開発している。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① 動物研究
厚生労働省と農林水産省に確認をしたところ、がんになったイヌなどのペットに対して新しい医療機器を使用することについて、現在の法律でも認められることがわかった。
動物に対して治験を行うことで人の治験の前に機器を改善することができる。飼い主から第三者的な視点で評価を得ることができる。イヌならドッグイヤーといわれるように、1年生存率で人の5年生存率を評価できる。
イヌやネコは人間に比べてサイズが小さいので、小型軽量化の面では、人間に用いる機器よりも高度な技術が必要という点でも意義がある。
動物の治験の結果をフィードバックすることで、その後の人の治験数が減少すればコストも時間も削減でき、企業のモチベーションは高まるだろう。獣医療技術もビジネスも発展する。

② リスク管理
医療技術には未知の不具合の問題がある。不具合が起きた場合には、既存の技術に置き換えることで、安全性はある程度担保される。リスクの存在を認め、リスクをマネジメントすることで安全性を高めることが重要である。
リスク管理の手法として臨床現場では術中MRIなどを用いて手術の行程を可視化し、詳細なプロセスマネジメントに努める必要がある。それによりリスクを回避できるし、回避できなかったときでも最善を尽くしたことが説明できる。
国民はリスクに対して拒否反応を示すのではなく、その存在を認める必要がある。国民の医療リスクに対する理解が得られず、医師に対する訴訟のリスクが高まれば、医師不足に歯止めをかけることはできない。

③ 研究開発
医療機器開発で重要なことは、将来を見越して既存の技術と明らかに差別化でき有用性があると考えられる技術を育てることである。新しい機器の評価を標準治療に使用される既存の機器の治療成果と比べても意味がない。医療機器は「臨床現場で使用されながらたゆまぬ研究開発によって改良されていく」ということを忘れてはならない。
国民や審査機構もリスク・アンド・ベネフィット・バランスに対する意識を高める必要があり、こうした意識をもって、安全性に対して評価をするべきである。

④ 新規の医療機器
新規の医療機器は既存の機器よりも未知のリスクが大きい。新規の医療機器については、リスク対策として市販後調査を実施して改良を行った場合に、過剰な手続きを負担せずに変更できるよう薬事法を弾力的に運用してはどうか。
新規の医療機器は新しい形の評価系が必要になるので、開発の段階から独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの審査側が関わってくるようにしてはどうか。そうすれば時間もコストも削減できる。
医師主導治験とスーパー特区、疾患動物の評価系のそれぞれのシステムを組み合わせれば機器の開発がスムースになるシステムができる。これは企業・患者・開発者・PMDAのすべてにとってのリスクの低減である。

⑤ 日本の組織体質
医療問題が起きた場合に、個人攻撃して担当者を変更するだけでは知識や経験は蓄積されない。審査機関をはじめとする組織には、知識や経験を共有化できるシステムが必要である。
米国では、米国食品医薬品局(Food and Drug Administraion:FDA)の職員は法規制で保護され、訴えられることはない。訴訟は企業が受ける。FDAの職員は訴訟のリスクのために萎縮することなく、国のためによい医療機器を米国発で出そうというモチベーションをもって、初期段階から開発者に関わり、信用に基づいて審査を通している。
日本では薬事法や臨床研究指針が改正され、ますます医療機器の認可を通すのが難しくなった。硬直化していく現状を打開する策が求められている。

⑥ 研究開発費に関する法令順守(コンプライアンス)
現在の研究開発費に関するコンプライアンス重視の方向性は行き過ぎである。そのために研究現場では余分な事務処理を負担させられている。
国は、生産性が犠牲になることがない最低限のレベルまで、コンプライアンスの要求を下げるべきである。

⑦ 医療機器産業発展のための人材輩出促進
日本は必要以上に作業を海外に任せることをやめ、人材を育て、産業を育てるという視点から国内の体制をつくり直すべきだろう。
治験の部分を海外で行っていては日本で人材が育たない。医療機器の国産化推進のためには認可のハードルを下げ、大学病院で治験を行えるようにする必要がある。大学病院、がんセンターや循環器病センターは従来の体質を変え、患者のための最先端医療を研究していく必要がある。
FDAの場合、職員はFDAにとどまらず、ベンチャーの薬事担当者などにキャリアアップしていくので、民間と政府機構を橋渡しする役割になる。日本では天下り規制が叫ばれているが、民間と政府機構との橋渡し役を健全に輩出できるシステムが必要である。
人材の確保と適切なマッチングがなされれば、厳しい審査基準と日本企業の技術力をあわせて国産の安全で高品質な医療機器が実現し、世界で受け入れられるようになるだろう。


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