ニーズDB:医師インタビュー
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谷内 一彦 先生
東北大学大学院医学系研究科
機能薬理学分野教授
臨床薬理学

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1.ご専門の分野について

専門は薬理学と臨床薬理学である。個体全体を対象とした非侵襲的イメージング法に関心があり、特に分子イメージングを研究している。




2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)診断
① MRI
核磁気共鳴断層撮像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)は使用される磁場強度が高まり、解像度が向上した。
また、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)が脳血流測定による脳機能イメージング研究の主流になってきた。

② PET
陽電子放射断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET)のがん検診は非常にインパクトがある。東北大の松澤大樹先生が最初に提案した。現在、PET検診センターは全国に約150箇所以上ある。PET検診センターが増えて普及してきた結果、がんのPET検診は患者の奪い合いになっている。欧米ではいわゆるPET検診センターはないので、日本独自のシステムと言える。
FDGデリバリーができたことで、PETカメラだけでもPET検査を行えるようになった。大学病院ではがんに関して保険が適用されてからPETが多数設置された。

③ NIRS
近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy:NIRS)はさらなる発展性がある。

④ 分子イメージング
診療機器の中では、非侵襲的な分子イメージング法が進歩している。イメージング装置は、工学と化学の発展による複合的な要因で進歩した。
PETによる分子イメージングによる検査はマイクロドーズであり、検査自体に有害事象が少なく比較的安全である。正しく診断できない場合もあるが、重篤な有害事象は起きにくいといった特徴をきちんと説明すれば、患者さんの理解を得られやすい。

2)治療
① 粒子線治療
治療に関係する医療機器では粒子線治療が進歩しており、大きなインパクトになりつつある。粒子線治療は約10年以上前に放射線医学総合研究所(放医研)が研究をスタートした。全国の臨床現場で本格的に粒子線治療を行うようになったのは約4~5年前。従来のがんの治療は放射線治療、手術、化学療法であった。手術と化学療法は保険が適用され、放射線治療もほとんど適用されているが、粒子線治療は保険が適用されていない。化学療法は1か月に約1,000万円使う場合もあり、非常に高額の薬剤を投与する。粒子線治療は約300~500万円といわれている。化学療法は保険が適用されるが、粒子線治療は保険が適用されないため、患者負担はほぼ同額である。
粒子線治療にはいろいろなタイプがある。プロトンによる粒子線治療は約50~70億円。炭素-12による設備は約200億円。炭素-12とプロトンの違いは、まだ十分に研究されていない。効果は炭素-12の方が良いということになっている。一方で、プロトンの方が実用的という意見もある。コンピュータ制御で照射部位を厳密にする方法が保険診療で認められている。
粒子線治療は高額な医療費がかかるため、患者の期待も大きく、治療がうまくいかなかったときの対応が難しい。簡単に手術でとれるものに対して粒子線治療は通常実施しない。粒子線治療は手術が難しい場合や化学療法で出血する場合など、特殊な患者さんに対して行うものである。重要臓器の近くで行うため、少し位置がずれただけで、ものすごい副作用になってくる。今後医療訴訟が増える可能性があり、このリスク対応が課題である。
粒子線治療は企業が関わったことで体制がしっかりしてきた。企業がノウハウを一般化してどこでもできるようになった。高度医療技術は企業が関わらないと進展しない。国内メーカーを育てることが重要である。日本のメーカーが関わることではじめて開発の余地があり、さらに広がっていく。
医療は直接にリスクと関係してくる。今後企業の事業リスクをどのように分散させるかが課題である。

② 人工心臓
人工心臓も発展性が高い。とくに磁気浮上型の人工心臓はよい。リニアモーター式は血栓ができにくい。人工心臓も技術的に先行しているのは国内メーカーである。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)診断
① MRI
既存の機器としては、MRIは成熟していると思う。ただし、分子イメージング関係では改良できるところもある。

② PET
最近の機器はハイブリッド式になっている。PET-CTはPET単体よりも被曝量が大きい。被曝が大きいことによって健康人には使いにくくなっている。PET検診は健常者が利用するものである。外資系メーカーは被曝も考慮したほうがよい。
外資系メーカーは日本独自の検診システムに合ったPETカメラを開発していない。被曝量の少ないPET-MRを考えている外資メーカーはある。
PET-MRは形態に関する情報をMRから得て吸収補正できる。PETは必ず吸収補正を加える必要がある。PET-CTはCTのデータを使って吸収補正し、中にある放射能がどれだけ減衰するかということを推定してPET部分の画像を再構成する。PETに関しては高分解度化という方向性と、メンテナンス費用を軽減する方向性がある。
PETは臥位で撮ることで患者に精神的なストレスがかかる。患者に合わせた自由度のある形で撮影部分を携行できるPETカメラが出てくる可能性がある。光電子増倍管(photo multiplier)は重い。半導体を用いると大きな装置を使う必要がなく、小さな部屋があればどこでもできる可能性が出てきた。アイソトープは管理区域がないとできないが、そのエリアに病室を作れば病室でも使える。
半導体を使うと加工が簡単にできる。将来、PETは半導体化していくと思う。

③ 疾患特異的な機器
疾患特異的な機器としてマンモグラフィーがある。島津製作所がワコールと一緒に開発している装置は、疾患部のそばに直接当てるものである。この形で行うと解像度(分解能)と感度が上がる。現在、PETの解像度は数ミリであるが、臓器特異型にすると1ミリ以下になる。それでもFDGやその他のトレーサーは必要。PET検診の一部に解像度の高いマンモグラフィー検診を組み合わせる方向性が出ている。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)診断
① PET
PETは検出器を使う。PETカメラで最も重要な光電子増倍管は、浜松ホトニクスの市場規模が大きい。
光電子増倍管は調整が難しく壊れやすい。このためPETカメラはメンテナンス費用がかかる。動物のPETカメラでも年間約1,000万円。人体用のPETカメラもGE、シーメンス製はメンテナンス費用だけで年間約1,000万円。島津製作所製PETカメラの維持費用は少し安い。外国製品はメンテナンス費用が高い。
半導体にするとメンテナンス費用がかからず、壊れないものができるのではないかと思い、東北大学工学部石井教授は我々と共同研究で半導体の小動物用PETを作っている。新しい素子を使うので次世代型PETという。デバイスとしては将来への発展性がある。

② アミロイドイメージング
アミロイドイメージングとがん検診を合わせた形でのアルツハイマーの超早期診断を考えている。アルツハイマー病は異常蛋白がたまる。細胞外にはアミロイドAβ(アミロイドエーベータ)が、細胞の中にはタウ蛋白(Tau protein)が出現してくる。それを認識するプローブを使って分子イメージングを行う。このようなトレーサーを使ったアミロイドイメージングの実用化が近くなってきた。Pittsburgh Compound-B(PIB)というトレーサーはGEの特許。これは世界中でずいぶん使われており、論文の数も増えてきた。フッ素体もGEの特許。そのほか米国のベンチャー企業が独自のプローブでFDAの認可を目指して米国内で臨床試験を活発に行っている。これらを使用した場合は外国企業に特許使用料を払う必要がある。我々は外国企業の特許ではなく、日本の特許で同様のプローブができないかということで研究してきた。日本独自のがん検診システムにアルツハイマー病のアミロイドイメージングを組み合わせるというのが私の考えである。我々のプローブを用いて国立長寿医療センターと東京都老人総合研究所と共同ですでに約100症例以上行っている。
将来、アミロイドイメージングを脳ドックに使うことを考えている。最近、FDGを用いてアルツハイマー診断をする所もある。FDGだけでは十分でないため、アミロイドイメージングとFDG-PETを合わせたらどうかと提案している。実際にFDGとアミロイドイメージングのROC曲線(receiver operating characteristic curve・受信者動作特性曲線)により感度と特異度を調べると、FDGよりもアミロイドイメージングのほうが感度・特異度とも高い。両方合わせると非常に診断がつきやすいため、2つを合わせることを提案している。
アルツハイマー病はこれから増えていくと思う。アミロイドイメージングとFDGを合わせると、がん検診と脳ドックを同時にできる。このシステムを作るとPET検診がさらに活発になり、高度医療診断がますます発展する。PETがん検診で国内の関連医療産業が非常に活性化した。PETがん検診は、保険診療とは別であり、新しい産業の創出という意味ではまだ将来性があると思っている。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① PET
PETカメラに関しては、FDGだけではなく、他のプローブを使って診断する必要性がある。がん患者だけではなく、アルツハイマー病など患者数の多いところにもPETの適用を広げるとますます産業の規模が大きくなっていくと思う。そこは保険診療でなくてもよい。日本は独自のPET検診システムがあり自由診療で十分である。

② オーダーメイドPET診断
オーダーメイドPET診断を提唱している。合成装置を小さくして、最終的にマイクロ化・チップ化する。本来、PETのトレーサー合成はマイクロスケール合成。研究ではマイクロリアクターの開発が進められている。使用しているのは微量であり合成装置のスペースがもったいない。もう少しコンパクトな装置で効率的な合成ができるとよい。難しい問題はあるが、開発競争によって少しずつ進歩している。

③ 先端的な治療のリスク管理
先端的な治療には相応のリスクがあり、患者への対応には十分に気をつける必要がある。リスク管理は日本が非常に苦手とする分野である。医療機器の開発に取り組む企業は、医療訴訟の結果でインセンティブをそがれる可能性がある。
有用な装置を開発しても期待どおりにいくとは限らない。そこにPL法や薬事の話が入ってくると事業リスクのために企業は積極的に取り組めない問題点がある。また高額な医療費が必要になったときに、現在の健康保険制度ではない別の枠組みを作り、高額な医療費に対して民間の保険を整備していく必要がある。
診断に関しては、決して100%ではないということを十分に患者に理解していただくことが重要。高度な診断は治療と結びつける必要がある。高度で先端的な診断には治験を組み入れ安くすることが必要。
先端的な診断を受けたときにも何らかの形で公的な臨床試験が組めるようにしておけばエビデンスもとれる。たとえば、先端的なイメージング法や診断を行っているところに治験を集中させ、バイオマーカーとして積極的に使っていくという体制が必要である。現状の治験は、最先端科学を使っていない場合がある。

④ 医療機器メーカーの開発体制
医療機器メーカーのノウハウは基本的に医療以外でも使える。今まで医療に関係していない日本の企業にも高度医療システムの開発に参入してほしい。医療の特殊な状況を考える必要はあるが、そのノウハウは将来別のところにも転用できる。
医療は医薬品に代表されるようにグローバルスタンダード。日本の医療機器企業は国内に留まる傾向がある。医療機器は日本国内市場規模が大きいわけではない。医療機器はグローバルで使えないと収益はあがらない。日本の中で国際展開できる企業は多くない。特に医療関係の日本のベンチャーは大変難しいのが実情である。

⑤ 大学の教育体制
工学系は医学利用についてあまり熱意が高くない場合があるが、将来性があることを理解してほしい。医療機器メーカーは多くの工学系学生を採用する。学生は在学中に医療と関係のない教授の指導を受けている場合もある。医療を理解できる教授が工学部にいると世の中は変わると思う。企業に入って初めて医療現場を理解し、医療機器開発をするのでは時間がかかり、企業にとっても効率が悪い。大学にいるときから、医療の特殊な面を理解する学生を育てることが重要である。
大学は研究科が分かれており、研究科横断的なシステムを作る必要がある。研究科横断的な境界領域は大学内や学会での評価は厳しいが、社会や企業は必要としている。


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