ニーズDB:医師インタビュー
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片田 和広 先生
藤田保健衛生大学病院
放射線科部長
放射線科

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1.ご専門の分野について

専門は放射線診断学である。特に、脳や脊髄の画像診断などの神経放射線学を扱う。




2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)診断
① 画像診断機器
診療成績の向上に最も貢献した医療機器はコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography:CT)と言っても過言ではない。2000年頃に米国の医師に対して行われた調査では、過去25年間で最も診療に寄与した医療技術の1位はCTと核磁気共鳴断層撮像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)であった。画像診断によるステージングは、治療方針や予後の見通しを立てることに欠かせないからである。
現在の日本医療では、医療過誤は許されない。経験と勘を頼りに医療を行うのではなく、科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)が求められている。医療の多くの局面が画像診断に支えられているといえるだろう。
とくに現在、心臓疾患が医療費の4分の1を占めるが、心臓全体を一度に撮影可能な320列CTが開発されたことは極めてインパクトがあった。
320列のCTは4億円という高価格にも関わらず、2008年末までに80台近く導入されている。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、ジョンズ・ホプキンス大学、ブリガム&ウィメンズホスピタル(ハーバード大学の市中病院)、ドイツのフンボルト大学、オーストリアのグラーツ大学など、超一流の研究機関に導入されており、新しい診断方法や病理の解明につながる可能性がある。日本製の機器がこれらの機関で採用されることは、今までにはなかったことである。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)診断
① CT
(放射線被曝の軽減)
放射線被曝を減らしたい。CTの被曝量を極端に少なくし自然放射線程度まで減らすことができれば健診にも利用できる。疾病の予防の視点からもCTの低被曝化の意味は大きい。
(診断能の向上)
CTの診断能の向上の方向性としては「広範囲化」、「高分解能化」、「高速化」がある。
<広範囲化>
一回転の撮影範囲の広範囲化が期待される。広範囲化で組織全体の動きや造影剤の流れを観察できる。たとえば、現在最高性能のCTは320列の面検出器CT(Area Detector CT:ADCT)である。1回転分の撮影範囲は16cmで、脳や心臓、膵臓を一度で撮れる。さらに広範囲化を進め、肝臓や肺までを一回転で撮影できるようになることが期待される。
臓器全体を一回転で撮影した画像を経時観察することで、造影剤の流れる様子から疾病の状態をより詳細に診断できる可能性がある。たとえば、腫瘍は血流が多く造影剤の分布が周辺の正常組織とは異なるので、その動きからがんの種類や浸潤の範囲がわかる可能性がある。CT画像から形態だけでなく機能まで明らかになる可能性がある。
なお、従来のCTは、3~4cmの幅でぐるぐる回りながら断片的に撮影し、コンピュータで一枚につなぎ合わせていた。撮影時刻が少しずつずれた画像を結合させるため、全体の動きを捉える用途には不向きである。
<高分解能化>
ステージ診断のために高分解能化が期待される。たとえば、がんの浸潤の状況を正確に把握することが、予後の診断に重要である。
<高速化>
撮影速度の高速化が期待される。高速化できれば、体動の影響を更に低減できるし、より少量の造影剤でも診断目的を達成できる。造影剤による副作用が生じる確率も低くなり、安全性が高まる。
現在、臓器を撮影する装置では、1回転0.27秒で撮影できるものが最も速い。緊急時や常に動いている心臓、子どもに対しては、より短い時間で撮影できる技術が役に立つ。

<開発コストの問題>
ただし、CTの診断能向上のための開発にはコストを要する。CTの部品で最も高いものはコンピュータ、次いで検出器である。検出器を増やせば膨大なデータを処理しなければならない。現在の技術水準では、640列のCTを開発しようとすると、データ量とコストともに64列と比較して約40倍となり、装置の価格が1台20億円程度になるだろう。従来よりも処理能力が何千、あるいは何万倍も速いコンピュータが必要である。
CTの診断能の向上は、コストはかかるが開発を進めれば、既存の技術の延長線上で確実に実現できる。一方で現在よりも8倍細かい、あるいは3倍広い範囲を撮影できるMRIを実現するためには、ノーベル賞級の発明が必要である。

(造影剤)
より診断能が高く安全性の高い造影剤が期待される。


3.実現が望まれる新規の医療機器について




4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① ナショナルセキュリティとしての国産医療機器
ナショナルセキュリティを考えると、国内に強いメーカーを持つことは非常に大切なことである。国産医療機器がなければ海外企業の言い値で医療機器を購入することになり、そのために医療費は高騰する。心臓ペースメーカーやカテーテルは米国の何倍もの価格で買わされている。医療機器を海外優位の状況で価格付けさせてしまうと、それを回復するのは容易なことではない。
過去に黒字減らしのために国が行った医療機器政策は、多額の入超を引き起こした。日本の医療機器市場は5,000億円もの入超である。この状況を改善するために国がすべきことは、ナショナルセキュリティの観点から国産企業を有形無形でバックアップすることである。
国の状況に合わせた機器を国民に提供することが必要である。国によって疾病構造は異なる。たとえばインドでは心疾患が少ないので心臓に特化した高診断能のCTの必要性は少ないが、先進国では死因の第一位は心疾患であり、大手の医療機器メーカーは心疾患に特化したソフトやハードを組み込む。特定の疾患に特化したソフトウェアやハードウェアは装置の価格を押し上げる。国産医療機器がなければ国の状況に合わせた機器を導入することも難しくなる可能性がある。
なお、循環器系に使用できる最高性能のCTを作れる国は日本、アメリカ、ドイツ、オランダである。オランダのフィリップスは、イスラエルの技術を使っている。

② 企業の収益確保に配慮した共同研究
医療機器の開発においては医師の側から企業に歩み寄る必要がある。医師と企業との共同開発でしばしば生じる問題は、論文は書けたが企業は儲からないという問題である。これでは、技術が育っても市場が育たず、企業は開発を続けることができない。医師は企業が収益をあげられるよう積極的にマーケティングに参画し、機器が発売された際に臨床現場で受け入れられやすくするために市場をエデュケートしていく必要がある。

③ 医療機器開発のための人材育成
医療機器開発のためには、医療と工学の双方を理解できる人材が求められる。医療機器へのニーズを理解するためには医療機器の使用者であることが望ましいが、そのためには医師免許が必要であり、医師免許取得のハードルを考慮すれば、どちらかといえば工学の側から医療への理解を深めるよりも、医師の側から工学への理解を深めるほうがスムーズである。
たとえば、私のケースでは、日立製作所の国産第1号機のCTが名古屋保健衛生大学(当時)に導入されたときにオン・ザ・ジョブトレーニングでエンジニアから教育を受け、一緒に機器をつくりあげてきた。特定の分野でそういった経験やノウハウを活かして機器開発に関わる医師を育成していくことが重要である。

④ 医療機器開発医師を評価する仕組み
医療機器などの開発を行い、臨床現場への普及というかたちで医療に貢献した者に対して、論文にならない業績を評価するようなシステムが必要である。そうでなければ医学者が機器の開発に向かうことはなく、機器開発のための人材が育つことはない。
仮に、医学者が学問的業績のために、論文を発表するまで新しい機器を発表させないようにしたとすると、他社製品によって先行して市場が形成され、競争力が損なわれる。
私のケースでも、CTの開発競争のために論文で実績を作ることが難しかった。論文よりも講演で発表することで開発の状況を公知の事実とし、マーケットを作り、企業が開発を維持しやすい環境づくりに努めた。大学教授の立場では、過去20年間に26台の新型CTを開発して、全機種で収益を上げても、論文がなければ評価されない。

⑤ イノベーション創出のためのアイデアについて
医療機器の開発において重要なことは、優れたアイデアであり、アイデアにはエビデンスがない。それを切り捨てずに育てることが進歩につながる。
マーケット調査から導き出されるニーズは、平均的なユーザーの想像範囲内のものとなり、そこからはイノベーションは生まれてこないし、これに基づいて開発を行えば時代遅れの製品しか生まれてこない。


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