ニーズDB:医師インタビュー
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掛地 吉弘 先生
九州大学大学院
消化器・総合外科准教授
消化器外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は、消化器外科である。がんについては、食道がん、胃がん、大腸がんの診療を多く行っている。それぞれのがんの患者数は、全国的な統計データと同様の傾向で、大腸がんと胃がんが多い。

手術件数は、胃がんと大腸がんがそれぞれ年間60例程度である。
昔は胃がんが100例以上、大腸がんのうち大学病院で手術・処置するのは30例程度だった。生活習慣の変化に伴い、患者数が変わってきている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)診断
① 内視鏡
消化器の診断の分野では内視鏡の発展が著しい。
通常の内視鏡は10倍くらいまでしか拡大できないが、最近開発の進んだ拡大内視鏡は100倍程度まで拡大できるため、がん組織の血管構築まで見ることができる。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① 腹腔鏡手術
腹腔鏡手術は、日本全国で実施されている。腹腔鏡手術用の鉗子類などが開発されているが、人間の手と比べて動きに制限があり、人間の手と同じように手術するのは無理で練習と工夫が必要である。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)診断
① 細胞レベルで診断できる内視鏡
細胞レベルまで観察することを目指した拡大内視鏡、共焦点内視鏡の研究が進んでいる。拡大内視鏡は、昭和大学の井上晴洋氏がオリンパス社との共同で開発を進めている。
当院は、ペンタックス社との共同で共焦点内視鏡(レーザー・スキャニング・コンフォーカル・マイクロスコープ:LCM)を開発しており、臨床研究の段階まで進んでいる。LCMは胃カメラの先に顕微鏡をつけたような機器で、1000倍近くまで拡大でき、細胞レベルの観察が可能である。
こうした内視鏡では、正常細胞とがん細胞の区別を視覚で判断できるが、客観的な判断基準も必要である。将来的には、画像をコンピュータで分析し、統計処理をして、がんの診断ができるのではないかと考えている。たとえば、細胞の核の面積を計測し、大きさに有意な差があるかどうかを評価する方法などである。
現在の確定診断では、内視鏡検査をしてがんの可能性のある組織を生検採取して病理診断を行い、約1週間後にがんか否かの判断がなされる。悪性と診断されて治療が必要であればもう一度内視鏡検査・治療を受けることになる。内視鏡で観察したその場でがん細胞と診断できれば、すぐに治療に移れるので、時間と経費の節約につながる。

2)治療
① 画像技術の高度化
手術中に患者から得られる様々な画像情報が3次元化されるようになれば、シミュレーションやナビゲーション技術が発展すると考えられる。たとえば術前に撮影したCTの画像を使って、表面から見えない奥の部分の解剖(血管などの走行)の画像情報を重ね合わせれば、術中のナビゲーションに利用できる。
放射線科の医師は、2次元のCT画像をみて頭の中で画像を3次元に構築できるが、全ての医師がそれをできるわけではない。技術面で補って、誰がみてもわかるような3次元の画像を構築できる機器が開発されると有益である。

② 手術支援ロボット
世界的にはロボット手術は増加していくだろう。米国を中心に普及している「da Vinci」は、主に泌尿器科の前立腺摘出手術、心臓外科領域のバイパス手術などで使われている。大腸などの手術の場合には、機器の設定位置を大きく変えなければならないので、小回りが効く腹腔鏡鉗子による手術の方が簡便である。一方、手術する範囲がある程度決まっていて緻密な作業が必要な場合は、ロボット手術が向いている。胆嚢胆石症の手術では、通常は腹腔鏡で十分だが、総胆管結石症など縫合まで含めた細かい作業が必要な場合は、ロボット手術の方が簡単に行える。
既存の腹腔用の鉗子では動作が大きく制限されることが課題である。今後、人間の手以上に動き、人間の手にはある生理的な震えが無いロボット鉗子を使ってのロボット手術が普及する可能性が拡がる。ロボット手術はロボットが勝手に手術をするのではなく、術者である人間(外科医)の手の動きを患者さんの体の中でそのまま再現して行う手術であり、あくまでも手術をするのは外科医である。
「da Vinci」は小型化や、鉗子を取り付けられる腕が3本から4本に増えたりバージョンアップされている。基本的な構造に大きな変化はない。工学系の技術を利用して、現モデルを超えて後に続く技術が開発されることが期待される。
腹腔鏡手術で使用する鉗子などの器具は、ある程度開発しつくされた感がある。ロボット手術のような新しい発想の機器が出てくることが望まれる。

③ トレーニング技術
腹腔鏡の手術の熟練のためには、時間と手間がかかる。腹腔鏡手術などのトレーニング技術に対する要望は高い。簡単な模擬的装置を用いたリアルなトレーニングと並行して、コンピュータ画面上の拡張現実感などを活用したバーチャルなトレーニングも効果があると期待される。
従来は、開腹手術を学んだ後に腹腔鏡の手術を習得していたが、最近では開腹手術を学ぶ機会が減少している。腹腔鏡独自のトレーニングや、腹腔鏡手術を学んだ後に開腹手術を習得することもあり得る。手術の経験が少なくなっている現状では、様々なトレーニング方法の開発は手術機会の減少を補完して技術を習得するのに効果的である。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① ロボット手術
腹腔鏡の鉗子を使った場合と、手術用ロボットの鉗子を使った場合とでは、手術用ロボットの方がはるかに短い時間で一定の技術レベルに達することが分かっている。
将来的には、ロボット手術の装置が発達して、手軽に使えるようになるとよい。

② 医療機器の許認可、開発支援等
現在のところ、医療機器の許認可や開発支援等に関しては、政府機関が十分に役割を果たしているとはいえない状況である。少しずつでも改善されていくことを望む。

③ 研究開発
日本は工学系などの優れた技術を持っているにも関わらず、製品化につなげる流れが悪く、実現性が低い。日本の技術要素を組み合わせて、欧米のメーカーが製品化してしまう状況を改善すべきである。
研究機関で実際に工学系の開発研究をしているのは教授と院生だけという状況が多い。学生は数年で替わり、系統立てて作り上げていく組織体制が人手不足になりがちである。


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