1)診断
① マンモトーム
マンモトームは1990年代の終わりから単体で国内の臨床現場で使用され始めた。マンモグラフィのシステムとセットになって、約5~6年前から臨床で使用されるようになった。
従来は細い針を用いていたものを、太い針で吸引しながら組織を取ってくるようになり、微小で難しい病変の病理診断に貢献した。最近はマンモグラフィ検診の際に、小さな石灰化の段階で初期の乳がんが発見される症例が多いが、それをステレオガイド下のマンモトームで診断できるようになった。
乳がんの場合、低侵襲の意味は2通りあると考えている。1つ目は、普通の意味の低侵襲な診療である。2つ目は、乳房をきれいな形で残せるなどの美容的な意味である。マンモトームは両方の意味において低侵襲である。
2)治療
① センチネルリンパ節生検に使用するガンマプローブ
センチネルリンパ節生検は、1991~1992年頃にアメリカで始まり、1998年にイタリアから多くの症例が報告され、そのころ日本国内でも実施が検討され始めた。
センチネルリンパ節生検の際に、乳房にセンチネルリンパ節を同定するための放射性同位元素(RI)を体内に入れる。このRIをトレーサーとして追いかけるガンマプローブが、乳がんの手術を大きく変えたと考えている。ガンマプローブを使用したセンチネルリンパ節生検は10年程度前から行っている。
従来は腋窩のリンパ節を全部摘出しなければならなかった。そのために上肢の浮腫やしびれなどの後遺症が約10%の患者に出ていた。しかしセンチネルリンパ節生検のみですむようになると、後遺症はほとんどなくなった。
② 内視鏡
内視鏡手術は14年程度前から行っている。
■既存の医療機器の改良すべき点について
1)診断
① MRIガイド下のマンモトーム
核磁気共鳴断層撮像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)ガイド下のマンモトームは、すでに海外では臨床で使用されている。日本でも今年には薬事申請を通過するとの話である。MRIでは、超音波でもマンモグラフィでも映し出せないがんが映し出される場合がある。海外で使用されている機器が承認されれば、日本国内でも、こうした腫瘍を診断することができるようになる。
② プローブ
腫瘍が転移しているリンパ節を見分けることができるようなプローブが開発されることが望まれる。現在のガンマプローブでは、RIが流れていたリンパ節にがんがあるかどうかはわからず、組織を採取して病理検査をする必要がある。これに関しては、PETプローブへの期待が高まっている。PETプローブは、現在使用しているガンマプローブでは発見できないがんをみつけられる可能性がある。今のところ、よい成績が出たという報告はあがっていない。
2)治療
① 内視鏡
現在は、乳腺の内視鏡治療のために、一般用の大きな内視鏡を使用しているので、持ちにくく、操作性もよくない。術野確保や操作性の向上のために、乳腺専用の少し小型の簡単な機器が安く作れるとよい。手元の装置は15センチ程度まで小さくなることが望ましい。
形成外科の手術でも、体腔鏡を用いた手術が増えているので、乳腺以外でも形成外科の分野でも利用が広がる可能性がある。小さな切開で手術できる可能性が高まると、見た目の意味での低侵襲な治療が実現する。
② ラジオ波焼灼機器
乳腺用のラジオ波(Radio Frequency:RF)焼灼機器の開発が進み、あわせて適切な使用方法が研究される必要がある。ラジオ波照射による治療法は、すでに国内でも実験的に使用され始めている。現在は肝臓に使用するものを代用しているが、やけどをした事例がいくつか報告されている。
肝臓用の装置は、電磁波の出る幅は2cm程度だが、乳腺の場合は患者さんによって小さい薄い乳腺の場合もあるので、もっと幅の短いものが必要とされる場合がある。また、複数本で焼くことのできるものが開発されるとよいだろう。
日本人女性では、欧米人にくらべて乳房の小さいことが多く、あおむけになった際に乳房が薄くなり、腫瘍が皮膚や筋肉に近くなることが多い。このようながんをうまく焼けるような針が開発されると良い。
③ クライオサージェリー
組織を凍らせるクライオサージェリーは、治療範囲にあわせて温度管理ができるもの、あるいはモニタリングできるようなシステムが望まれる。そのようなシステムが開発され、安全性が高まれば対象になる患者は増加するだろう。
1)診断
① インドシアニングリーン(Indocyanine Green:ICG)
国内の施設すべてがRIを使えるわけではない。RIを使えない施設では、センチネルリンパ節生検の際に色素を投与するが、色素のみを使用する場合は見落としが出やすい。
ICGという近赤外線を当てると発光する色素があり、ICGの流れている様子をモニターに映像化する機器は、すでに開発されている。しかし、汎用製品として作られているので、センチネルに特化されていない。
色素は体表からの距離が深くなるとその存在を捕らえにくい。現在では、皮膚の数ミリ下の色素まで画像化できるようだが、使用する赤外線の波長を工夫したり受光感度を上げれば、もう少し体の深いところの色素が捕らえられるようになるのではないか。
私たちは、センチネルリンパ節に対する感度を上げたビデオカメラやプローブの開発を考えていた。
ICGに関する開発は、RIを使えない施設で精度の高いセンチネルリンパ節生検を実施するための解決策になる可能性がある。ICGはRIより安価であるし、海外においてもRIが使えない地域まで利用が広がることも考えられる。
2)治療
① RF照射のためのシミュレータ
超音波やコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography:CT)で腫瘍の3次元形状を作り、シミュレーションができる機器があるとよい。いびつな形をしている腫瘍を完全に焼くにはどの方向からどこまで針を刺して、どれだけの出力で焼くとどの範囲が焼けるかということがシミュレーションできれば非常に安全である。
超音波は3D画像をリアルタイムで取れるようになったが、針を刺していくには何らかのガイドを必要としている状況である。手術室にオープンMRやオープンCTが入ってきたので、ある程度シミュレーションをしてから方向を決めて刺し、もう一度CTで撮影して必要な出力や適切な針の位置などの指示が出せるようになるとよい。
4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について
① 医工の技術と企業のマッチング
医療機器のアイディアがあっても、それに対してどのメーカーが興味を示してくるのかわからないため、企業のデータベースを作ることが望まれる。
企業や工学系の研究者も技術は持っているが、それがどのような製品に結びつくのかわからないのが現状である。医学系、工学系、企業間で意見や情報の交換ができる場があれば開発が進むのではないだろうか。
② 薬事申請について
薬事申請を通過するのが厳しくなったのは悪いことではない。しかし、薬事申請をしたことがない企業でも申請をスムーズにできるようなシステムや指導する組織があれば、一般の中小企業も自分たちの技術を医療分野に活かしやすくなるのではないか。特に臨床実験が厳しくなったので、動物実験から臨床実験へのステップでわかりやすく指導してもらえるような組織があるとよい。
③ 患者側のニーズの重要性
従来のように、医師から一方的に押し付ける治療ではなく、患者側のニーズからスタートする治療を実現するために、患者のニーズを考え、吸い上げていく必要がある。