須田 康文 先生 慶應義塾大学病院 整形外科 講師 整形外科
1.ご専門の分野について 専門は整形外科、特に膝と足を専門としている。 主な対象疾患は外反母趾、変形性膝関節症、変形性足関節症、扁平足である。 実施頻度の高い手技は外反母趾の手術で年間120例行っている。 2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について ■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器 a)診断 i)皮膚灌流圧測定機器 皮膚灌流圧(skin perfusion pressure: SPP)測定機器が国内で使用されるようになった。糖尿病足病変では血流障害を伴うことが多いが、SPP測定を行うことで下肢の血流を評価でき、下肢の切断高位など手術のストラテジーを適切に決定できる。 b)治療 i)超音波骨折治療器 超音波骨折治療器が登場した。遷延治癒等の難治性骨折の治療に貢献している。 ii)関節鏡手術器具 関節鏡手術器具の改良が進んだ。前十字靱帯再建術などにおいて、手術手技をより正確にかつ容易に行えるようになった。 iii)人工膝関節置換術の低侵襲手術器具 人工膝関節置換術の低侵襲手術器具の改良が進み、小さな皮切から骨切り等を行いやすくなった。 iv)ナビゲーションシステム ナビゲーションシステムが登場し、CTやレントゲン透視画像をもとに人工膝関節を正しく設置しやすくなった。 ■既存の医療機器の改良すべき点について a)治療 i)足関節鏡手術器具 足関節鏡手術器具のバリエーションの充実が望まれる。膝関節や手関節と同程度のバリエーションがあるとよい。現在は膝関節用、手関節用の器具を使用しているが、膝関節用では大きすぎ、手関節用では小さすぎる。 ii)骨用のこぎり 骨用のこぎりの歯のサイズの充実が望まれる。足用の特殊サイズの歯がほしい。 iii)足の人工関節 足の人工関節が望まれる。足の人工関節は日本で使用される機会が少ない。足の人工関節置換術について、これまでは国内では良好な成績が得られにくいという理由から、その開発、使用が欧米諸国に比べて遅れている。よりよい人工関節を開発する機会があれば成績を向上させられると期待される。 iv)人工骨材料 破損した骨組織を最低限の小さな皮切で補修できる人工骨材料が望まれる。 v)吸収性材料 吸収性材料の生体親和性と強度の改良が望まれる。吸収性材料によるスクリューや針金等は免疫機構の過剰反応によって骨が融解し、骨に欠損を生じるケースがある。また、材料の強度が十分でなく、力をかけたときにスクリューの頭部が脱落することがある。 3.実現が望まれる新規の医療機器について a)診断 i)正側2枚のX線画像から3次元像を生成する技術 正側2枚のX線画像から3次元像を生成する技術が望まれる。レントゲンのような簡便さで、足関節の複雑な立体構造を画像化できる技術がほしい。2次元画像をもとに3次元的な解釈をサポートする技術である。正側を同時に撮影しなくても3次元画像化できたり、遠近等の位置関係が色で区分されたりするとよい。CTは簡便ではない。レントゲンならすぐ撮影できる。足の関節は複雑で、例えば踵(かかと)の骨(踵骨)とその上の距骨はねじれ合いながら動くが、2次元画像ではこうした形態を把握することが難しい。 ii)感染範囲を特定できる技術(試薬) 骨に感染症が発生した場合に、細菌感染の範囲を色で特定できる技術(試薬)が望まれる。現在は感染範囲の特定は肉眼で行われているが、骨が過剰に削られている可能性がある。また、本来除去すべき病巣を看過している可能性もある。必要かつ十分な骨切除範囲(汚染部位)が決定されれば、骨感染症(骨髄炎)の治療成績は向上すると期待される。 iii)人工材料に対するアレルギー診断技術 人工材料に対するアレルギーを事前に診断できるとよい。診断方法は簡便であることが重要である。金属アレルギーについてはパッチテストが行われているが、パッチテストの結果と実際のアレルギー反応とが異なるケースがある。 b)治療 i)長期成績を維持できる軟骨再生技術 長期成績を維持できる軟骨再生技術が望まれる。再生軟骨は作れるものの、現在は長期成績に問題があるようである。 ii)自家組織に置き換わる人工靭帯 自家組織に置き換わる人工靭帯が望まれる。人工靭帯は最終的に自己融解してよいが、人工靭帯の表面および深部に自家組織の靭帯の成長を誘発する必要がある。現在の靭帯再建術では自家の腱が採取されるが、自家組織を犠牲にしないためには人工靭帯が必要である。 iii)医師のX線被曝を軽減する技術 医師のX線被曝を軽減する技術が望まれる。整形外科医は頻繁にレントゲンをとるが、撮影のために医師が患者の姿勢を支えるケースでは患者とともに医師の手や顔などが被曝しており、被曝の軽減が望まれる。年間に行っている120例の手術のほとんどでレントゲンを撮影している。 方策としては、例えば、ポータブル・小型・低線量のレントゲン、X線照射範囲を限定する技術、医師の代わりに患者姿勢を保持する技術などが考えられる。ただし、短時間でセッティングでき、操作が簡便でなければならない。 4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について 【企業との共同研究について】 企業等との共同研究には積極的に応じたい。 研究テーマに応じて素材メーカー、機械メーカーなど企業と連携したい。 本当の意味で患者にとってよい機器を考え、コストや汎用性の面には妥協せずに研究を進めたい。 【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】 i)低侵襲手術手技に対する診療報酬上の評価について 低侵襲手術手技に対する診療報酬上の評価が望まれる。低侵襲手術は患者のQOLを向上させるが、小さな皮切で体の奥を想定しながらの手術手技は医師にとっては難度が高い。医師が低侵襲手術手技を習得するインセンティブを向上させるために診療報酬上の評価が望まれる。ただし、単に難しいから評価するのではなく、「患者のために真に必要か」を評価したうえで、診療報酬上の評価をする必要がある。 ii)足の外科領域の機器開発について 足の外科領域の機器開発は他の部位に比べて遅れており、手術器具を中心に機器開発の進展が望まれる。足の外科領域の機器開発が遅れた背景の1つは治療できる医師が少ないことであろう。足の外科は扱う骨の数が豊富であるにも関わらず、教科書でも系統立てて表現されてこなかった。また、患者の訴えも多岐にわたり、熟練した医師でなければ患者の満足度を高めることが難しいという特徴もある。足の外科領域の疾患や治療方法の概念は他の部位と共通している。
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