ニーズDB:医師インタビュー
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大瀬戸 清茂 先生
NTT東日本関東病院
ペインクリニック科部長
ペインクリニック

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1.ご専門の分野について

専門はペインクリニックである。当院であつかう疾患で最も多いのは腰痛、腰下肢痛、首・肩の痛み、慢性痛などである。また、カウザルギー(反射性交感神経症)、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、多汗症などもみている。

実施頻度の高い手技は、外来であれば硬膜外ブロックという腰の注射、神経根ブロックが多い。2006年は硬膜外ブロックを年間13,000例程度実施した。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

1)治療
① 画像診断機器のガイドとしての使用
レントゲン透視下の神経ブロックやエコーガイド下の機器が診療成績に貢献している。加えてX線透視とコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography:CT)を併用したガイド下で行う骨セメントなどがあげられる。
エコーは精度が向上し、針、血管、神経がはっきりと写るようになった。大きいブラウン管ではなく、液晶を利用したハンディタイプの普及により、どこにでも持ち運んで治療できるようになった。
浅いところ(体表からの距離の短いところ)であれば他の手法より簡便に筋肉も血管も見えるので、浅いところにある神経を見るのに適している。ただ、2~3mm程度の1スライスしか見ることができないので、針が映し出している面から少しでもずれると見えなくなってしまう。また、断面しか見ることができないので、注入した薬液がどこを流れているかわからないという問題もある。
レントゲン透視では血管を見ることができるので、安全性を増すためにエコーと合わせて用いることもある。
エコーのガイドは、麻酔領域では4~5年前から局所麻酔に、ペインクリニックでは2~3年前から神経ブロックなどに使用されている。しかし、ペインクリニックでは先進的な病院でしか使用されておらず、病院全体では3分の1程度の利用にとどまっている。それ以外はレントゲン透視下で施術されている。
透視の被曝の問題や超音波が断面しか見ることができないことを考えると、機器を使い分けることが重要である。

② 電気刺激療法
慢性痛に関しては、ペースメーカーのような機器を硬膜外に埋め込んだ電気刺激機器があげられる。カテーテルを硬膜外に2本入れ、その2つの電気刺激によって、痛みに対する治療の応用範囲が広まった。
従来の1本のままでは腰痛に効果がなかったが、この方法により効果が出せるようになった。さらに、同時に両足にも治療を施せるようになった。
カテーテルを2本挿入すると1本の場合の約1.5倍時間がかかるようになったが、臨床現場の知識の集積と治療精度の向上に貢献しており、患者からもこの治療を希望する声が多い。
高周波治療器は、この15年間で一定の温度を保ち一定の温度を超えると自動的に電源が切れるなどの調整機能や安全性、操作性が進歩した。基本設計はあまり変わっていない。私たちは高周波をピンポイントで発し、ほかの余分な周波数の影響を減らすことに成功したエルマン社の機器を導入したが、さらに余分な周波数がカットされ副作用の心配がなくなるとよい。
高周波治療器は、PMMAの骨セメントと組み合わせて治療に使用できるようになると、さらに診療成績に貢献するようになるだろう。

③ デコンプレッサ
経皮的椎間板摘出や髄核摘出にデコンプレッサを使用するようになった。韓国や米国では5~6年前から使用されている。
脊椎の圧力を減らすデコンプレッサは細い機器なのでより低侵襲な治療が行える。また、治療時間も2~3分と短時間ですむ。ただし、摘出する量が少ないので、即時的効果はそれほど期待できないという課題がある。


■既存の医療機器の改良すべき点について

1)治療
① 内視鏡
ブロック治療のガイドにレントゲンや超音波を使用しているが、今後は内視鏡の利用が期待される。神経の侵襲の問題があるので、既存の技術でブロック治療が行えるのは胸部の交感神経にとどまる。さらに細くて丸いものがあれば、利用が広がるのではないか。
ブロックの施術に使用するガイドは、従来のガイドなしの状態から、現在のX線、超音波、CT、核磁気共鳴断層撮像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)から内視鏡に移り変わっていくと考えられる。
高周波治療と神経ブロックに使用できるような内視鏡とをうまく組み合わせて、神経ブロックと高周波治療が同時に行えれば、新しい治療に発展していく可能性がある。この場合、内視鏡の直径はハイビジョンカメラであれば2mm程度に抑える必要がある。そのような内視鏡と高周波治療器、さらにガイドから薬液を注入して治療を行うことができれば、全身系や臓器にまで応用できる。ロボットのナビゲーションを使用することも考えられるが、保険の点数が高くないことを考えると利用は難しい。
椎間板摘出手術に使用している内視鏡は、直径が60mmである。少なくとも30mm程度、できれば3~4mm程度まで直径が狭まり、侵襲が抑えられるとよい。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

1)治療
① 骨セメントの素材
エビデンスが整えられ、海外で認可されている新しい素材が、国内でもすみやかに認可されるとよい。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

① ペインクリニック
英国では、緩和ケアが進んでいる。米国でも2000年から2010年は「痛みの10年」といわれ、慢性痛などで労働損失が数兆円規模にのぼるという推計も発表された。保険が適用されたことで、骨セメントなどペインクリニック分野の技術開発が進んでいる。
日本ではようやく社会的な認知が始まった程度であるが、1,000人あたりの有症率は、腰痛、肩こり、関節痛の順に多い。米国のように労働損失を推計すれば、日本でも痛みの治療に対する研究開発が盛んになるだろう。

② インフォームドコンセントの重要性
2000年代初頭は、患者には「最後まで意識を保ちたい、役に立ちたい、家族と暮らしたい」という希望が強くても、医師の治療方針ではそれらを重要視せず、寝たきりにしてしまう傾向があった。痛みは人によって千差万別であり、心理的な面も関係するので、患者の状況に応じた治療が求められている。現状では、痛みの治療に関して患者と医師のミスマッチが起こっており、医師は治療方針に関してインフォームドコンセントを確実にとることが必要である。そして、できるだけ多くの選択肢から適切な治療を選び、施すことが患者のQOL向上につながる。

③ 先進医療
医療機器開発の発展のためには、ある程度の混合診療を認める必要があるだろう。
高度先進医療の技術料は少ない。病院では、技術のある一部の医師が診療を早くこなし、経験の少ない若い医師の分も稼いで経営を支えているという実態がある。それは若い医師の教育のためにはよくないことである。
だからといって韓国のように技術料を付加すれば患者の負担が増えるので、一概によいとはいえない。韓国では、新しい機器を導入するのが早い。内視鏡であれば年間7,000~8,000件をビジネスとしてこなす病院も出てきている。機器の導入が早ければ治療も早く確立されてくる。医療がビジネスになってはいけないと思うので、医療側と国民とでどう分担していくかを考える必要がある。
臨床現場に新しい機器が入らないことは、開発を妨げる最も重大な問題だと考えている。国内で開発した新しい機器を取り入れていかなければ、企業でも開発資金を回収できず、開発が進まない。日本では新しい機器を開発しても認可が下りにくい。それでは性能がよい機器をつくっても世界に打って出ることはできない。
開発を促進するためには、倫理委員会が整った病院で、倫理委員会の管理下において、臨床現場で医療機器を使用できるようにするなど、対応していく必要があるだろう。
国民皆保険は資本主義の競争原理とは別の理屈、いわば社会主義で動いている。それは医療にとっては必要なことだが、医療機器の開発にとっては障害にもなる。


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