ニーズDB:医師インタビュー
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勝呂 徹 先生
東邦大学
整形外科教授 診療部長
関節外科

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1.ご専門の分野について

専門分野は関節外科である。関節外科のメインテーマは「機能再建」で、人工関節に関わる手技等が主である。一連のものとしてリウマチの手術を一緒に実施している。
機能再建に関連する取り組みとして、日本人にあわせた人工関節の開発、リウマチの独特の病態にあわせた機能再建などがあげられる。さらに、社会的なニーズにあわせて、手術をせずに治療する保存療法なども当院では比較的多く実施している。

関節外科では機能再建術の実施件数がもっとも多い。高齢社会を迎えたわが国の実情から、人工関節置換術のうちもっとも件数の多い部位は膝であり、次いで股関節である。最近は、指、肘、足などの人工関節へのニーズも高まってきた。
当院の年間の実施件数は、膝が250件、股関節が80~90件。その他の関節(指、肘、足)で50件程度である。
対象となる患者は、おもに高齢者とリウマチ患者である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

i)整形外科領域全体の動向
整形外科領域の全体の動向としては、医療材料と手術支援システムがめざましく向上した。これに医療技術を加えた3つによって、当該領域の診断・治療の質が進歩した。
ii)人工関節
わが国では現在、整形外科領域では、人工関節がもっとも必要とされている。
従来は、人工関節への置換によって関節の痛みが除かれ、患者が歩けるようになれば治療の目的は果たされていた。しかし近年、生きていくために最低必要なものを確保するだけではなく、さらに高次なニーズが高まってきている。たとえば、海外旅行に行きたい、ハイキングをしたい、ゴルフをしたい、クロスカントリーをしたい、といったニーズが手術を受ける背景にあり、患者が社会的なノーマライゼーションをもとめるようになってきた。また、リウマチでは、生物学的製剤の導入によりノーマライズされる確率が高くなり、機能再建へのニーズが従来よりも強く求められるようになってきた。臨床現場では現在、こうしたノーマライゼーションへのニーズに応えるための取り組みが進められている。
iii)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムは、熟練医と経験の浅い医師とのスキルの差を埋め、経験が浅くても熟練医同様の質を確保するためのツールとして発展してきた。人工関節を理想的な位置へ設置できるため、診療成績の向上につながる。
当院ではナビゲーションシステムを5年ほど前から導入した。
iv)超音波骨折治療療法
骨癒合の際、何らかの環境変化があると骨の再生が促進されるという特徴を活用した治療法である。対象となる症状は、偽関節(骨が癒合せず、関節のようにグラグラ動く状態)や遷延治癒(骨癒合に時間がかかる状態)などである。生体には本来、骨癒合能が備わっているが、これが停滞あるいは失われているときに超音波をあて、骨癒合をアシストするのが当該技術である。
7~8年前にわが国での臨床応用がはじまり、近年、臨床でだいぶ使われるようになってきた。当院の整形外科で適応になる患者は1割程度である。使うとだいたい予定通りの成果が得られている。瞬時に癒合するほどの画期的さはないが、患者の負担軽減にはつながっており、アシスト技術としては優れている。


■既存の医療機器の改良すべき点について

i)靭帯の人工材料
人工関節のしなやかな動きに対するニーズが高まっているが、関節内の靭帯に使える良い材料が不足している。既存のものよりも良いインプラントが開発されれば、人工関節治療がより良くなるだろう。
関節内靭帯を再建する利点は、たとえばテントをはるときに、支えのひもが多いほどテントが安定するのと同様である。
ii)メタルアレルギー
整形外科ではメタルをたくさん使用しており、日本人に特有のメタルアレルギーが発生している。しかし、日本の医療機器界ではこの検討がなされていない。
人工膝関節については、単一的にコバルト合金が使われている。人工膝関節を入れると、コバルト合金のアレルギーが14~15%程度生じる。この値は、コバルトに対するアレルギーと、合金中に含まれるニッケルに対するアレルギーの合計値である。手術後の炎症反応の予防のため、手術前のアレルギーテストが必須である。
今後は、医療界としてこの問題に取り組まなければならない。わが国にはチタンの鋳造技術とセラミック技術があるため、これを応用した技術がいくつか出てきている。
なお、人工股関節については骨セメントを使わない方向にあるため、金属材料がチタンにシフトしている。
iii)ナビゲーション技術
手術時間が長くなる点と装置の価格が高い点が課題である。
患者の位置決め(レジストレーション)に手間がかかり、このプロセスで手術時間が20分は長くなる。一方、熟練医はナビゲーションを使わずに5分程度で手術できる。
位置決めの際は、手術の対象となる関節だけでなく、その周辺の骨関節についても回転中心や摺動面等を確認し、アラインメントを作る必要がある。ナビゲーション技術がもっと高度化して、自動的に位置決めができれば、手術がスピードアップできる。
日本整形外科学会が全国の約2,400箇所の病院を対象に2005年に実施した調査によると、手術時間が延びると感染率が上がる傾向がみられた。早期感染が0.5%。遅発性感染が0.86%である。この結果から、手術時間の短縮は低侵襲医療のために重要といえる。
また、ナビゲーション装置は2億円以上と高額であり、容易には導入できない。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

i)ロボットサージャリー
将来的には、整形外科手術がロボットサージャリーで行われることになるだろう。ロボットがインプラントを入れるための最小の傷を開け、最小のワーキングスペースの中でロボットがインプラントを正確に設置してくれるといったものである。これが実現すれば、組織の障害が少なく、設置が確実で、医師の負担も小さい、理想的な低侵襲医療となるだろう。現在のところ、ロボット手術の技術はそこまで発展していない。
ロボット手術機器の開発にあたっては、整形外科が硬組織を扱う分野であることを十分に考慮する必要がある。硬組織を切るプロセスがあり、機能的に動きのあるところを正しく設置しなければ機能そのものに影響してしまうといった点が、技術開発上注意の必要な点である。
ii)関節内靭帯組織を再建できる人工関節
日本人向けの人工関節は1985年に初めて開発されたが、市場が海外製品に席捲されており、普及しなかった。2000年に第二世代の製品が開発された。第二世代では、日本人に求められる、可動域が広くしなやかに動く人工関節が開発された。
第三世代の人工関節は考案中である。現在は関節内靭帯の前十字靱帯を犠牲にして手術が行われているため、関節内靭帯組織の再建を考えたインプラントが実現できると良い。これが実現すれば、人工関節でもしっかりと走れるようになる。
iii)関節内靭帯の人工材料
現在は、関節内靭帯として使える良い材料がない。
人工靭帯がいくつか製品化されているが、一定期間を過ぎると切れてしまう等、いずれも臨床のニーズに耐える製品にはなっていない。
再生医療での実現はまだ難しい領域であるため、人工材料による機能再建に資する材料開発を望む。
iv)筋力を生体内からアシストするための技術
高齢者は筋肉そのものの筋力が落ちているため、いくらエクセサイズしても回復が難しい。これを解決するため、筋組織のパワーを増すための技術があると良い。たとえば生体内に加えられるアシスト技術などである。
体外式のパワーアシスト技術は開発されているが、これは日常生活の邪魔になる。また、体内式であっても、既存の埋め込み型人工心臓のような大掛かりなものではないものが望ましい。
v)サイボーグ化
サイボーグ化の技術をもっと発展させられるとよい。サイボーグ化は、ロボット技術の発展を足がかりに出てくるものだろう。10~20年後には実現するのではないか。
前段階として、ない足に力を入れると動く義足、といった技術が考えられる。わが国はこういった分野にもっと力を入れると良いのではないか。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)再生医療
筋骨格系の分野の医療機器として今後必要とされているのは、脊髄と軟骨の再生医療である。
軟骨については培養軟骨細胞を用いた治療の可能性が見えてきた。培養細胞をただ注入するのではなく、力学的付加を軽減するための外科的治療を組み合わせるなど、全体を捉えた治療を検討していく必要がある。
脊髄損傷における再生医療については、動物実験でかなりの成果が得られているが、臨床応用は当面先だろう。
ii)欧米製品から国産品へのシフト
筋骨格系のインプラントについては、欧米製品から国産品にシフトすべきである。
欧米人と日本人とで骨格構造が異なるにも関わらず、現在は欧米人仕様の関節が日本人に適用されている。また、欧米製品では、関節の動きが日本人のライフスタイルに合っていない。こうした課題を国産品で解決すべきである。
iii)低侵襲医療の考え方について
低侵襲医療には2つの考え方があるが、それぞれを別のものとして捉えるべきである。
ひとつが「テーラーメイドサージカルメソッド」である。これは、その人に合った必要最小限の侵襲で行う手術である。臨床現場では基本的に、このスタンスで取り組んでいる。
もうひとつが小刺切の手術で、世の中ではこれを低侵襲医療と捉える傾向がある。しかし、皮膚の切り傷の大きさは皮膚に関する侵襲であって、手術全体が低侵襲とはいわない。
内視鏡手術と整形外科では大きな違いがある。整形外科手術で一定の大きさのインプラントを入れるためには、これが確実に入るセッティングが必要である。
整形外科領域の近年の傾向として、それぞれの患者に施す手術のうちもっとも侵襲の少ない方法が専門家によって検討され、選択されるようになってきた。
たとえば太った人は大きく切ってインプラントを挿入しなければならないが、やせた人は切る量が少なくて済む。こうした個人の違いを踏まえたテーラーメイドな操作が必要で、画一的な手術にはなりえない。こうした考え方が医師側にも広まっている。
iv)センター化と医師の待遇見直し
医療技術の飛躍的な向上のためには、米国のようなセンター化による経験・知識の蓄積が必要である。わが国ではセンター化の仕組みがないため、年間の実施件数が数例の病院が多く、技術が向上しない。
この関連で、日本の医師の待遇についても見直しが必要である。日本では、高度なスキルを有する医師の優遇措置がなく、医師そのものの社会的地位も下がっていることから、目指せるものがなくなってきている。このままで低侵襲医療ができなくなる。
一方、米国にはボード制度があり、ボードの取得により社会的地位を向上させ、医師が自立していくといったキャリアプロセスがある。


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