ニーズDB:医師インタビュー
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星野 明穂 先生
川口工業総合病院
病院長
関節外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科、特に膝関節外科である。
疾患としては、膝の変形性関節症と関節リウマチを対象としている。

実施頻度の高い手技は人工関節置換術であり年間120例行っている。
当院ではスポーツ医学に力を入れている。靭帯や半月板、肩の手術を多数行っており、靭帯の手術は年間100例を超える。Jリーグの浦和レッズと大宮アルティージャのメディカルサポートを担当している。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
MRIはこの10年間ではたいした進歩は感じない。20年で区切ると進歩した。20年前に一般病院でもMRIを使えるようになり大きなインパクトがあった。当院では6年前に1.5Tの装置を導した。0.5Tから1.5Tになって画像は綺麗になり、高速化されたが、新たな所見を得られるほどのインパクトはなかった。

b)治療
i)関節鏡
膝の関節鏡は10年間ではたいした進歩は感じない。20年で区切ると進歩した。20年前に関節鏡による手術が行われるようになり、たとえば靭帯の手術では、従来20cm程度の切開を要したものが数mmの切開で可能になった。現在の原理では行き着くところまで来た感がある。多少モニタの性能があがるということはあるとは思うが、まったく別の原理による機器が登場しない限り画期的な変化は見込めないかもしれない。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)診断
i)高磁場で費用対効果に優れたMRI
高磁場のMRIに関心はある。研究用途では7TのMRIも稼動しているようで、画像を見てみたい。ただし費用対効果が重要である。画像上の進歩が3倍で費用が10倍なら導入されないだろう。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)治療
i)重症例にも使用できる再生軟骨
重症例にも使用できる再生軟骨が望まれる。軽度の症例を対象とした再生軟骨の研究はすでに臨床応用の段階にある。たとえば、東京医科歯科大学准教授の関矢先生による研究があげられる。これは膝の滑膜から軟骨細胞を培養する方法で、軽症例を対象に治験が始められている。軽症例が対象ではあるが、再生軟骨の臨床応用がはじまったことは大きな進歩といえる。再生軟骨がどの程度進歩するかは未知数だが、うまくいけば人工関節が不要になることもあるだろう。
現在のような金属とプラスチックによる構造の人工関節については、行き着くところまできた感があり、軟骨再生のような大きなブレイクスルーが期待される。

ii)十分な耐久性を備えた人工靭帯
十分な耐久性を備えた人工靭帯が望まれる。1980~1990年代にかけて人工靭帯の開発が活発に行われたが、耐久性の面で実用に足るものはなかった。現在の技術水準で研究しなおせば実用に足るものができるのではないか。そろそろ再挑戦してもいいのではないか。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業等との共同研究については積極的に応じたいが、現在は病院長業務のために時間を取ることが難しい。当院の若手医師には共同研究の機会を与えたいと考えている。自分のアイディアを製品にしたいと考えている若手医師は多いだろう。研究期間についてはこだわらない。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)企業による医療機器開発について
国内の大手医療機器メーカーは海外市場の獲得を前提に、研究開発に取り組むことが重要である。海外で販売する実力があるにも関わらず足元の国内市場の規模だけをみて、開発に踏み切れなくなる事例をいくつもみてきた。医療は産業である。グローバルな視点で市場を考えれば十分に利益を期待できる。このような考え方で、しっかりと研究開発体制を整え、研究開発に取り組むことが大切である。欧米の企業と共同研究をしたときのことだが、彼らはしっかりとした開発体制を整えており、10人程度の開発ドクターがアイディアを提供するとすぐに試作品ができあがり、PDCAサイクルがどんどんまわることに関心したことがある。

ii)医療機器の承認の円滑化について
医療機器に関する薬事法上の承認の円滑化が必要である。現在は承認を受けるために2~3年を要する。また、従来から使用されている材料を使用し、デザイン上の軽微な変更でも山のように書類の提出を求められるのは理不尽ではないか。

iii)診療報酬の見直しについて
診療報酬については医療提供者側の努力が報われるよう見直してもらいたい。日本の医療費総額はOECD諸国で下位であり、医師数も少ない。それにもかかわらずWHOの医療ランキングで1位である。低医療費で世界一を達成できる理由は、医療従事者の献身によるものにほかならない。
診療報酬は、低侵襲医療の特性を考慮するべきである。低侵襲医療は高度な技術を要するが、患者の回復が早く入院期間が短くなるために診療報酬が減少してしまう。人工関節置換術では患者が約4週間入院しないと収支が見合わない。低侵襲医療が進展して1~2週間で多くの患者が退院するようになると病院が赤字になってしまう。このような診療報酬体系は低侵襲医療を進展しにくくするのではないか。

iv)大学の役割について
大学は先進的な医療の研究を行う拠点であるべきである。臨床に関していえば大学は必ずしも特殊な存在とはいえなくなってきている。

v)膝の最小侵襲手術(MIS)について
最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery:MIS)は膝に関しては、必ずしも利点が多くはない。傷が小さくなることはよいことだが、その一方で、手術時間が長くなり不正確な手術を増やすことになった。失敗例も多くなった。自動車にたとえれば、乗用車しか運転したことのない人がF1マシンを運転するようなもので、当然、運転しきれない。そもそも日本におけるMISは、臨床側からでなく企業側から提案されて導入された経緯がある。企業側から「こんなに傷の小さな手術ができます」とMISが提案され、錬度の低い医師も含めて多くの医師が行うようになった。
MISを行った場合に従来法に比べて手術時間がどれだけ長くなるかについては医師の錬度による。海外のデータでは56分長くなるという報告もある。自身では、従来法による平均手術時間が80分、MISでは100分であった。従来法で110分程度を要する医師がMISを行うと180分くらいになる可能性もある。
MISは従来法で十分にトレーニングを積んだ医師により行われなければならない。従来法を平均90分で行える技量を求めたい。
※MISのトレーニングのための機器や施設を整備する意味ではない。

vi)患者によるインターネット上の情報の活用について
低侵襲医療に限ったことではないが、患者はインターネット等で収集した情報に過度に振り回されるないようにするべきであろう。病気に対する不安もあって多くの情報を集めようとするものだが、インターネット上には正しい情報とそうでない情報とがある。正しくない情報に振り回されて病院をはしごするようなことは患者にとってよいことではない。

vii)治験に対する患者協力費について
治験については、治験コーディネータの活躍で円滑に進めやすくなった。しかし、治験に協力した患者に支払われる金額が少なすぎる。業界内での申し合わせで患者に支払う額を抑えているとも聞くが、患者の協力費が圧倒的に少ないことは問題である。治験では、未知の重大な副作用が生じる可能性があり、そのリスクは患者が負っている。


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