ニーズDB:医師インタビュー
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小柳 貴裕 先生
川崎市立井田病院
整形外科 部長
整形外科

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1.ご専門の分野について

専門は整形外科である。対象部位は脊椎が多く、四肢も対象としている。(公的な立場では専門性を主張しづらい)

実施頻度の高い手技は脊椎手術である。これまでに指導を含め1,500~2,000例実施した。

内視鏡手術は腹側進入、背側進入併せて90例ほど経験した。最近は顕微鏡手術を選択している。内視鏡手術を経験したことで、小切開で顕微鏡手術を行えるようになった。顕微鏡手術の切開は、従来は5~6cmであったが現在は約2.5cmである。内視鏡手術の切開が約1.8cmであることを考えれば遜色ない。前方も従来の半分以下の皮切で可能となった。内視鏡の画像をイメージしながら進めるので、必要性の乏しい部分を切開しなくなったからだ。顕微鏡手術の切開規模が小さくなったことで、年齢を重ねるにつれより安全性と確実性の高い顕微鏡手術を選択するようになった。内視鏡手術は、術野が二次元像であることや操作が難しいことなどから難渋することもあったが、創は小さく、特に若年女子には喜ばれた。内視鏡手術は症例を選べば極めて付加価値の高いものと今でも考えている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI
MRIとCTの画像の解像度は飛躍的に高まった。MRIについては神経根(脊柱管から神経が外に出るところ)まで観察できるようになった。頚椎を撮像してもアーチファクトがほとんどなくなった。技師の撮影スキルが向上したことも要因の1つである。また侵襲の大きい下肢の血管造影も、患者様にストレスをかけることなくMRIを使って短時間で把握できるようになった。

ii)CT
CTについてはマルチスライスCTの登場により、極めて短時間で各方向から観察できるし、骨のとげまでよく見えるようになった。3次元画像はより立体的にかつ鮮明に情報が得られるようになった。血栓などの塞栓もCTで確認できるようになった。

b)治療
i)ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムは人工膝関節置換術で有用である。まったく誤差が生じないわけではないが正確な手術を行いやすくなった。慣れるまでには少し時間がかかる。最初はキャリブレーションに30分程度の時間がかかったが、10分程度まで短縮された。膝の場合は10分の追加的な手術時間は許容される。
脊椎手術では誤差が致命的なので時間のかかる分ナビゲーションシステムは少なくとも当初は有用ではなかった。
ナビゲーションシステムは最小侵襲手術(MIS)における術者の負荷軽減に貢献するだろう。一般に、最小侵襲手術手技が(MIS)が進歩すればするほど助手が大変になる。術野を確保するために助手が組織をひっぱって広げている。見えないところを見せてくれるという点でナビゲーションが生きてくる。

ii)イメージインテンシファイア
イメージインテンシファイアの画像が非常にきれいになった。従来はレントゲンに比べてずっと解像度が低かったが、現在はびっくりするほど観察しやすくなった。間違いをするリスクが減り、ずいぶん楽になった。画像技術の進歩が治療成績の向上に大いに貢献している。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)ナビゲーションシステム
ナビゲーション画面上でリアルタイムに術具(ドリル、ボーンソー、リーマー等)が描出されるシステムが望まれる。より円滑に正確に手術を行えるようになる。
キャリブレーションのためのアンテナの小型化が望まれる。たとえば人工股関節では骨盤にアンテナを立てる必要があるなど侵襲が大きい。
誤差を限りなくゼロに近づけたシステムが望まれる。どうしても計算上の誤差が生じてしまう。このため脊椎では当初安全な情報は得られなかった。脊椎では1mmのズレが致命的になる可能性があるからであった。撮像されたCTの像との誤差には手術体位とCT撮像体位の違いが大きく関与していると思われた。この辺の誤差の軽減にはさらなるアイデアが必要だろう。

ii)イメージインテンシファイア
イメージインテンシファイアによる術者への被曝を軽減する技術が望まれる。手術中は防護服を着用するが、手に直接放射線を浴びる。特に骨折の手技では骨の方向づけのためにイメージインテンシファイアを使う手技が多く、多くの医師が手を被曝している。低線量化、散逸低減の改良が行われていると思われるが、いっそうの進歩に期待したい。正直被爆負担に応じた保証が医療従事者になされていないように感じてきた。被爆量の低減化に寄与する機種が望まれる。機種の優劣における差別化戦略として今後重要だろう。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)PEDのスコープを活用した脊柱管外の診断・治療技術
経皮的内視鏡腰椎椎間板ヘルニア摘出術(PED)のスコープを活用した脊柱管外の診断・治療技術が望まれる。出沢先生の開発されたPEDは、脊柱管外の病変(Far-out syndrome)の診断・治療に生かされる可能性がある。過去70年、脊柱管内が注目されてきたが、脊柱管内の手術をしてもよくならない症例では脊柱管外に原因がある可能性がある。脊柱管外の病変の診断・治療によって治療成績はより向上するだろう。

b)治療
i)前十字靭帯と軟骨の再生医療
靭帯と軟骨の再生医療が可能となればすばらしい。人工材料や手技がさまざまに工夫されてきたが、まだ完璧な手法が実現したとは言い難いのではないか。自家組織を移植するという代償がさけられない1回限りの方法でなく、再生的な治療法が確立されればすばらしい。特にスポーツ選手から切望されている。

ii)生体親和性の高い人工骨
生体親和性の高い人工骨が望まれる。自家骨でなければなかなか生着しない。現在、リン酸三カルシウム(Tricalcium phosphate:TCP)やハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite:HA)はあるが、伝導能だけでなく骨誘導能があり、より自家骨に近い性質を有する人工骨が望まれる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
立場上制約を受ける医師を除けば、企業等との共同研究には積極的に応じたいと考えている医師がほとんどだろう。多くの臨床医は企業等と共同で医療機器を開発したいと考えているだろう。バイアスのない費用対効果のセンスが医師にも求められるだろう。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)国による医療機器の開発支援について
大学の研究に対して成果を問いすぎることなく、しっかりと研究に取り組める環境にするべきである。また、医療機器産業を育成するため補助金等を含めた公的な支援も必要なのではないか。医療研究における仕分け作業など景気が回復すれば直ちに考え直す必要がある。早々に研究開発費の回収が見通せない状況なら、企業は新規開発プロジェクトを立ち上げづらくなり、結果医療の進歩は停滞するだろう。今後現実問題として、専門の医療機関に特定の症例が集中する傾向が強まれば、症例が分散した状況に比べて医療機器の販売台数が減少するなどメーカー同士の厳しい低価格競争を余儀なくされ採算が悪化する可能性もあるのではないか。

ii)臨床研究に対する患者側の協力について
患者は臨床研究に対してもう少し協力的であってもよい。そのようにならなければ日本人が日本人に適した医療を受けるには時間がかかるだろう。臨床研究への積極的協力がもっと評価されるような風潮にならない限り日本が新薬開発などのリードすることはできないだろう。臨床研究への協力については、当然ながら適切なインフォームドコンセントが前提となるが、自発的に臨床研究に参加していただく土壌、風潮を作るにはもっと国民が心身共に余裕を持てる状況にならない限り困難だろう。

iii)高額医療機器の導入に伴うバイアス回避について
高額医療機器の導入にあたっては、採算をとるために当該機器を必要以上に使用するといった恣意的なバイアスを生じさせないよう注意が必要である。健全な投資回収には診療報酬の見直しや混合診療の是認化など、付加価値分の対価が適正に保証されるべきだろう。


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