ニーズDB:医師インタビュー
一覧 > 詳細 < 前へ  | 次へ >

龍 順之助 先生
日本大学
大学院総合科学研究科教授・医学部整形外科教授
関節外科

詳細はPDFこちら
1.ご専門の分野について

関節疾患の外来及び関節外科を専門としている。
主な疾患としては、変形性関節症と関節リウマチを対象としており、症例数の比率は4:1である。

手技としては人工膝関節置換術と人工股関節置換術が多く、2008年度の実績は、それぞれ450関節、100関節である。

(日大式人工関節)
人工関節は当院で開発した「日大式人工関節」(FNK型人工関節)を使用している。特徴は、日本人に適したサイズを選択できること、よく曲がること(屈曲の範囲が広い)、正確な手術をしやすいこと、骨を温存しやすいこと(極力、薄い構造としている)である。
また、シンプルな設計を目指し、手術で使用する器具を減らしたことも特徴的である。海外の製品は工学的な観点から手術器具の種類を増やす傾向があるため、選択肢は増すものの手術室の空間が機材で圧迫されるという欠点もある。

(両膝同時手術)
特徴的な術式としては「両膝同時手術」を実施している。両膝同時手術は、両膝の人工関節置換が必要な患者のうち約8割が適用となり、そのメリットは、手術が1回で済むため麻酔等の回数の面で患者負担が軽減されること、医療費が約10万点(約100万円)軽減されること、手術室等の医療資源を有効に活用できることなどが挙げられる。一方で合併症も指摘されており、慎重な適用判断のうえで、経験豊富な医師とコメディカルの体制の整った施設で実施される必要がある。両股関節も両側同時手術を行っている。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)抗CCP抗体を用いた関節リウマチの検査
5~6年前から、関節リウマチに特異的かつ高感度で反応する抗CCP抗体という抗体を使用した血液検査が行われるようになり、リウマチの診断精度が飛躍的に向上した。

ii)MRIによる関節リウマチの早期診断
5~6年前から、関節リウマチの早期診断の有用な方法としてMRIが使用されるようになった。早期診断、早期治療の重要性が認識され、早期診断の方法としてMRIが注目された。また生物学的製剤による治療により骨が変形する前に寛解(かんかい)させることが可能となりつつある。

b)治療
i)人工関節
人工膝関節と人工股関節は大きく進歩した。適正な人工関節が選択され、適正な手術が行われ、患者が術後の注意事項に従う前提において、70歳で人工関節置換術を受けた患者は、アクシデントがなければ一生交換が不要となる。10年前は、術後10~15年の人工膝関節と人工股関節の生存率(survival rate)は70~80%であった。現在は95%まで向上した。データは得られていないが、術後20年後でも生存率は80%以上と予測される。
材質、デザイン、手技の3つの観点で進歩した。材質については、ポリエチレンの改良により磨耗が減った。ポリエチレンが磨耗すると、磨耗粉が生じるが、これが骨を溶かす。磨耗粉が人工関節と骨との間に付着し、骨組織のマクロファージが磨耗粉を取り込むことで、骨組織が死滅する。
デザインについては、安定性が増して、デザインの不良による耐久性の劣化を抑えられるようになった。
手技については、多くの学会で議論され、大変手技が向上した。手術器具が改良されたという面もある。従来は10年しか耐久しない例があったが、20年以上耐久させられるようになってきた。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)人工関節
人工関節の改良すべき点は、正座のように大きな屈曲をしても耐久性が維持されるよう屈曲性を高め、ゴルフ、テニスはもとより野球やサッカーのように比較的激しい運動でストレスが加わっても耐久性が維持されるよう耐磨耗性を高めることである。
現在の人工関節でも日常生活の動作は不自由なく行えるようになるが、スポーツなど人工関節に大きな負荷のかかる運動は避けるよう患者に指導している。海外ではテニスのダブルスやカートつきのゴルフなど比較的負荷の小さなスポーツはしても構わないとする例もある。人工関節置換後の運動の影響については、まだ十分なエビデンスがない。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)診断
i)変形性関節症の痛みの原因を特定する技術
変形性関節症で痛みを伴う場合に、その痛みの原因を特定する技術が望まれる。現在、痛みの原因を客観的に判断できる手段はない。

ii)関節リウマチの発症因子を診断する技術
関節リウマチの発症因子(リスクファクター)を診断する技術が望まれる。現在、抗CCP抗体検査を用いて高感度で陽性判定は可能だが、関節リウマチが発生する以前に、関節リウマチの発症因子の有無を診断するための手段はない。現在、遺伝やウイルスの可能性が指摘されているものの、発症因子は究明されていない。

b)治療
i)術中モニタリングのための小型・簡便なレントゲン装置
術中のモニタリングのための小型で簡便なレントゲン装置が望まれる。人工関節置換術では、アライメント、正確な骨切り、靭帯のバランスの3点が重要だが、これらを術中に簡便に確認する方法が不足している。手術室(クリーンルーム)内で使用できるもので、小型で操作性がよく簡便なレントゲン装置があれば大変有用である。

ii)正確・簡便・安価な手術ナビゲーションシステム
提示される情報が正確で、簡便に操作でき、安価な手術ナビゲーションシステムが望まれる。現在も手術ナビゲーションシステムは存在するが、セッティングのために追加的な時間を要し、簡便とはいえない操作性である。価格も高く、限られた施設にしか導入されていない。自分が行っている手術が正しいかどうかを常に確認できることは、経験の浅い術者を中心に、きわめて有用である。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
企業との共同研究については積極的に応じている。企業の得意分野に応じてテーマを設定したい。
これまでに人工関節をナカシマプロペラと共同開発をしてきたが、ナカシマプロペラは金属加工の優れた技術を有している。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】


MINIMALLY INVASIVE Medical Technologies

シーズDB
  先進企業情報
  重要論文情報

ニーズDB
  医師インタビュー
  臨床医Web調査
  患者Web調査
  過去の臨床側アンケート

リスクDB
  市販前プロセス情報
  市販後安全情報
  PL裁判判例情報

  

低侵襲医療技術探索研究会
  アーカイブ   

リンク
  学会
  大学/研究機関
  クラスター/COEプロジェクト
  行政/団体
  その他

メールマガジン