ニーズDB:医師インタビュー
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山口 利仁 先生
東京手の外科・スポーツ医学研究所 高月整形外科病院
理事長
手の外科

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1.ご専門の分野について

専門は手の外科である。
肩関節から指関節までを対象とし、特に母指CM関節症や腱損傷の治療が専門である。

実施頻度の高い手技は、関節形成術、靭帯形成術、手指再接着術、人工関節置換術である。手術件数は年間1,500例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

a)診断
i)MRI、CT
MRI、CTは低価格化が進展した。画像処理については大きな進化を感じないが、価格が低下したことは、すばらしい進化である。一般病院を含めて広く普及し、多くの人が最先端の診断技術を享受できるようになった。

b)治療
i)関節鏡手術
侵襲の少ない手術が各関節で可能となった。


■既存の医療機器の改良すべき点について

a)治療
i)上肢の人工関節(肩、肘、手関節)
上肢の人工関節(肩、肘、手関節)の改良に期待したい。製品は開発されているものの、関節機能の再現性、耐久性、安定性、使い勝手などの面で改良が必要である。この分野は伸びシロが大きい。
例えば母指CM関節の人工関節については自身でも開発に携わっている。母指CM関節は、母指の付け根の関節で、サルから人間に劇的に進化した部分である。現在、米国企業による製品などがあるが、母子CM関節の複雑な機能を再現するには至っていない。

ii)関節鏡手術のための治療機器
関節鏡手術のための治療機器の改良が望まれる。関節鏡は診断機器としては非常に優れているが、治療機器が追いついていない。現在の関節鏡では「切除する」または「縫う」ことしかできない。関節鏡では、「(無いところに)造る」、「形を変える」、「変形したものをもとの形に戻す」など、製作・創造する手技ができない。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

a)治療
i)採取腱の先端部に装着可能なガイドワイヤー
採取腱の先端部に装着可能なガイドワイヤーが望まれる。指の靭帯再建では、指関節の2つの骨に穴(骨孔)を開け、手首から採取した腱(2mm経)を骨孔から8の字に通して骨同士をつなぐ。これに10分程度の時間を要する。靭帯再建術のネックである。腱は細い繊維の束であり、非常に通しにくい。もし、腱の先端を束ねられるアタッチメントがついているガイドワイヤーがあれば、非常に通しやすくなるだろう。慣れれば20秒くらいまで短縮できる可能性がある。

ii)鏡視下腱剥離術用の器具
鏡視下腱剥離術用の器具が望まれる。腱と腱鞘とが癒着した症例に対して内視鏡下に腱を剥離する器具がほしい。現在は、大きく展開して腱を剥離するため手術も時間もかかり、創が治癒するのも遅く、リハビリに長期間かかってしまう。

iii)術中に使える清潔な組織保存液
術中に使える清潔な組織保存液が望まれる。移植のために採取した腱、神経、血管等の組織が外気の影響で変性することを防ぐため、今以上の組織保存液ができれば、治療成績が向上するだろう。採取組織は外気にさらすとみるみるうちに乾燥して変性する。現在の腱移植術等では組織変性を防ぐための特別の技術は用いられていないため、短時間で手術を終えることが重要となっている。従って経験の浅い医師は組織を採取してから移植するまでに時間をかけすぎてしまい、組織変性を生じさせ、よい手術結果を得られないことになる。じつは腱はイカと成分が似ていて、サキイカが水を含んだようなものである。こうした性質は組織保存液の開発のヒントになるのではないか。

iv)発育軟骨の再生医療
発育軟骨の再生医療が望まれる。iPS細胞やES細胞の技術に期待している。発育期の少年の発育軟骨や関節軟骨を修復できれば、多くのスポーツ選手が救われる。極端な話をすれば、イチロー、松坂、松井のような選手が今の3倍は現れるだろう。現在の野球のシステムではエースで4番の選手をいかに見つけるかが重視されているが、そのような有望な選手が酷使されることで、発育軟骨が磨耗・損傷してしまい中学校以後野球を続けられなくなることも少なくない。もし半年程度の治療と休養で発育軟骨を再生させることができれば、超一流の選手が育つ可能性が高まる。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

【企業との共同研究について】
医療の進歩のために企業との共同研究には積極的であり、現在は4社と共同研究しているが、どの会社も熱心に協力してくれている。
共同研究テーマとしては特に腱と腱鞘との癒着を鏡視下に剥離する技術について、共同研究できる企業を探している。

【筋骨格系疾患の診断・治療の方向性について】
i)低侵襲医療について
低侵襲でできる範囲とできない範囲とを明確にすることが重要である。手術野を大きく開けるべき状態のときは開けてしっかり治療することの大切さを啓発するべきである。関節鏡手術は数ミリの創3箇所程度で治療するが、根治しないために何度も手術を受けるケースもある。特にスポーツ選手は、内視鏡手術を好み、関節を開けることに強い抵抗感を示す傾向がある。

ii)患者が医療機関を選択するための仕組みについて
患者が医療機関を選択するための仕組みの整備が必要である。患者がよい医師に巡り会うためには、医療機関の情報が必要だが、医療機関の水準または医師の技術レベルを調べる方法が確立されていない。インターネットでは正しい情報とそうでない情報とが混ざりあっている。
解決策の一つは、保険会社の情報を活用することが考えられる。保険会社は、各医療機関の主傷病、治療内容、転帰、後遺症(障害等級)などのデータを保有している。すなわち1回の手術できちんと治療し入院期間も短く、通院回数も少なく後遺症もないのがベストの医者である。すなわち、保険会社にとって一病名あたりの、手術、入院、通院、後遺障害の給付金がもっとも少ない医師が最良の医師である。これは、患者さんにとっても早い、うまい、安いベストの医者と言える。
こうした情報を活用して医療機関や医師をランキングし、第三者組織として情報公開すれば有用であろう。


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